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本編

33.距離縮まった?

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「···はぁ、いつまでそうしてるつもりだ」


あ···やば。ついぼんやりし過ぎた。
まさかあの豆大福親子が·······もとい、小豆親子が教会にいるなんて思ってなくて驚いた。···やはり俺は兄貴みたいに常に冷静には居られないらしい。


「···すみません、ご迷惑お掛けして──は!?」

「···煩い。近くで叫ぶなそれと寄るな」


え、ちょ、は?何で?
俺を助けてくれた···いやただ単にアイツらが煩わしかっただけなのかもしれないが、その依代様と呼ばれた人物······それは──。


「クロ·······さん?」
黒羽くろばだ。クロはスイレンが勝手に呼んでる略称だ」


ふん。鼻をツンと尖らせてそう言う姿はスイレンと一緒にいたクロさんで······え、てか何でここにいんの?神様じゃないの?

頭から足先まで···一言でいうならアラブの石油王のコスプレみたいな装いで、全身真っ白だし、さらにその服の上から白い布を被ってたから俺の所からは顔が見えなかった。
···やっぱりアラビアンなんだな。

依代様と言うのは『神の贄』とか『生贄様』とも呼ばれてる。
宮司さんとか···巫女さんと同じような役割だと聞いたが······。


「何か言いたいことがあれば口で言え。スイレンの庇護下でない今はお前の心の中なんて読めない。他人に頼ろうとする、お前の悪い癖だ」


む。 
前々から思っていたけどクロ···黒羽さんはちょっと言い方に棘が無いか?確かに俺が甘ったれなのは認めるが、もう少しやんわりと言ってくれても良いと思うんだけど···。


「···どうもすみませんでした」

「······不服そうだな」

「本当にすみませんでした!!」

「フン。·······所で、ここへは何しに来たんだ?俺は暇じゃない、お前に付き合ってる無い。用件を手短に早く言え」



むっかぁ···。自分で教会に来いとか何とか言ってたクセに···。


「今度は」
「あ?」

「今度はちゃんと教会に来ました!!」


これが俺の精一杯の抵抗だ。
むむむ、俺の事嫌いじゃないってのに何でここまで···そんなに臭いのか俺!?

悲しいかな。俺の身長じゃかなり見上げることになるその威圧感のある美しい顔に怖気づかないように睨みつける。あぁ、知ってるとも。こんなんハムスターの威嚇だってことくらいな!


「······くく、お前は阿呆だな」

「な」

「良いだろう、来い」


そう言って長い裾を翻して教会の祭壇へと向かっていく。
いや、その奥にある小部屋だ。俺がついてくるのも確認しないでスタスタと行ってしまう。くそっ、その足の長さハンデじゃ迷ってる暇さえないじゃないか!

俺は遅れないように一生懸命小走りでついて行く。
それでも縮まらないのは何故だ······!



「アイツらとは何があった」

「へ····?あ、あぁ······」


歩きながら(俺は若干小走りだけどな!)問いかけられた。
俺は返しに困る。···なんて説明すればいいかな。

昔·······初等科の時だ。以前、子爵の息子がセクハラ紛いの事してきて事件になった頃とほぼ同時期だったかな···。俺の最初の許嫁候補として当時伯爵家だったあの小豆親子が近づいてきたのが初めだ。家柄としても同格、やや性格に難があるがこちらに提示された条件は悪くない方だった。
だから両親ともそこまで気にしてなくて、俺の気持ち次第って所で·······発覚したのがその息子が俺のストーカーだったってこと。

被害としては登下校中に視線を感じたり、体育ホール用の上履きや水泳用の水着が無くなったり·······。そこまでは俺も···もしかしてイジメか?とか初等科だったし軽いイジメを想像してたんだけど、それも全てストーカーの仕業だった。

あとは初等科の時は給食があったんだが、その給食のパンが食べかけで出されたり、スープに明らかにスープじゃない液体が浮いてたり···現行犯で兄貴と楼透が捕まえてくれた時に言っていた。
まぁ、ストーカーはそいつだけじゃ無かったんだけど···その現行犯で捕まえた時の状況が実際に無理矢理俺を押し倒してた訳だから兄貴の琴線に触れた。

その後は何をどうやれば伯爵家を男爵位まで落とせるのか···多分領地の方でも色々と違法なことをやってたのだろうとは思うけど。


「·······まぁ、そんな感じで。最近は学園でも見かけなかったけど······あの様子じゃまた何かしてくるかもな」


やばい···想像したら鳥肌がぶわぁと·······。
初等科でさえよく思いついたなと思うストーカーの仕方してたんだから、高等科現在はどんな手を使ってくるのやら···ごめん、ここは兄貴に相談しよ。


「···だったら何故使わない」
「え?」
「コーネリアが送ると言っていただろう。馬鹿か?アレを使えばその臭いも和らぐだろう!何を考えてるか知らんがスイレンに余計な手間掛けさせるなよ···いいな」
「······は?···あ、そう!それ!」
「あぁ?」
「ステータスの見方が分からない。それを今日は聞きに来た」
「··········はぁ、阿呆だったか」 


····アホで悪かったな。


「俺の早とちりだったようだ。強く言って悪い」


··········そんな可哀想な子を見る目するな!!
態々立ち止まってそんなそう言うってのは人をおちょくってんのか!?喧嘩なら買ってや······ごめんなさい、今の体じゃ無理。絶対負ける自信しかない。

そりゃそうだ。先輩と体格がほぼ同じなんだから。
俺がチビなんじゃない。あんたらの図体がデカいだけだ!



「此処だ。散らかってはいるが、まぁ適当に座れ」

いつの間にか目的地に着いたらしい。
···て、ここ普通に部屋だよな?まさか黒羽さんの部屋か?

広くもなく、狭くもなく······中々に落ち着く部屋だな。中は確かに物は多いが、散らばってる訳ではなくきちんと綺麗に片付けられている。


「······えっと···じゃあ失礼します」

「上等な茶は無いが」

「あ、いやお構いなく」


余りチラチラと人の部屋を見ては失礼か。
近くにあった椅子に座って黒羽さんの様子を見る。


「···依代様だか何だか知らんが、俺はスイレンの贄としてここに居るわけじゃない。人族はいつも可笑しな事を言うがそのは勘違いするな」

──俺はスイレンに拾われたんだ。

──俺がスイレンに尽くしたいからここに居る。



黒羽さんが何を言いたいのかは分かった。俺がさっきのアイツらみたいにスイレンと黒羽さんの関係を神と生贄と言う従属的な意味で見るなと言いたいんだろう。


「分かってます。黒羽さんがスイレンの事を本当に好きなのは勘弁しろってくらい見せられてますから、ね!」


わざと嫌味ったらしく言ってみた。
眼前であんなにイチャイチャとされたら溜まったもんじゃない。これくらい可愛らしい反抗だと思わないか?



「···くく、俺の事は黒羽でいい。······お前が俺からスイレンを奪おうと言うものならお前の喉を掻き裂いてやる、覚えとけ」


······うわぁ。在らぬ疑いかけられてる。
スイレンは言わずもがな、男とどうなる気なんでないから安心して欲しい。

まぁ、でも少し黒羽と距離が近づいた?のかな···。




「スイレンは今、お前の声に応えることが出来ない」

「···ペナルティ、か?」

「···コーネリアの馬鹿がヘマした。クソ爺共にバレて主神に告げ口された。まぁ、実際にお前を逆行させたのはコーネリアだ。スイレンに罰は与えられない···まぁそのコーネリアを逃がした事については問われるかもしれないが」

「·······俺のせいか」

「あれはコーネリアの逃げ足が早かっただけの話だ。お前に非の一端が無いとも言いきれないがな。分かったなら、これ以上スイレンに負担を掛けるなよ」


·······うーん、なんか解せない点も多々あるけど。
実際にスイレンが付与してくれた加護に助けられた事も多分多い(?)から不満を言う気にもなれない。コーネリアと比べたら良い神様じゃないか?···まぁ比較対象が最低なんだが。


「分かった。それで···」

「···ステータスの確認の仕方だったな」

「そ、どうやってやるのか分かんなくて···黒羽分かる?」

「フン···俺を馬鹿にするか。いい度胸だ」


違う違う違う、と俺は両手をぶんぶん振った。
この世界ってステータスって言うステータスがないから、自分で見るってこと自体聞かないし、どうしても見たいなら役所かギルド本部に行かないとステ開示魔法陣が無いからあまり馴染みのないものだ。


「·······教えてやる」

「本当っ!?」

「あぁ。···先ずはこう右手の人差し指と中指を合わせて」


こう······か?


「他の指は曲げておけ。その指を額に当てろ」

「こう?」


俺は言われた通りにその指を額に当てる。
それを見て黒羽は軽く頷いた。
んんん?これって········。



········なんか某国民的アニメの必殺技っぽくないか??
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