悪役令息(?)に転生したけど攻略対象のイケメンたちに××されるって嘘でしょ!?

紡月しおん

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本編

21.究極の選択ッッッ

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一枚は白紙の番契約書だった。
······て、これって兄貴の名前があるし兄貴のだよな···。


「後見人としての署名か?」

「それもありますが、こちらも見て頂けますか?」


あ、そっか。もう一枚あったんだ。
ん···俺からもう一枚の紙は少し遠くて見えないな。やや腰を上げてようやく見えた。·······コンイントドケ···って。

······兄貴結婚すんの??

父さんと母さんの喪に服すべきときに不謹慎ではないだろうか···。
兄貴が明るかったのも誰か心の支えになってくれるそんな人が居たからなのかな···。
そう考えるとまたぐるぐるしそうな気がした。
·······というか、その相手は誰なんだ?俺にベッタリの兄を落としたその相手、俺も不謹慎だが凄く気になる。


「·······成程。そういう事か」


納得と言う様子の伯父は兄と俺の顔を交互に見回し頷いた。




「律花を僕の番にし、後々は僕の妻にします」

にっこり。
へぇ···俺を番にしてお嫁さんに···········ん?


「あ、兄貴·······?」
「どうしたの?」
「お、俺らキョウダイだよ?」
「そうだよ?」


んんん?????


「·······ごめ、体調悪いのかな幻聴が···もう一回言って?」
「くす、僕のお嫁さんになってくれるよね?律花」
「·······幻聴じゃない!?」


兄貴······実の兄弟同士で番契約も結婚も出来ないって言うのに···本当は父さんと母さんのことで、こんな頭がおかしくになるくらい悩んでたんだな。それなのに俺は兄貴に甘えてばっかで···。

「·······俺、強くなるからなっ」
「?うん」

俺は兄貴の手を両手でガシッと掴んだ。
これからはもっと兄貴の言うこと聞くから。


「···燈夜殿、律花君は何か勘違いをしているのではないだろうか」
「はい、僕もそう思いますね。···律花、あそこの棚の一番右端にある赤い背表紙の絵本を持っておいで」


俺は言われるままに絵本を取りに行った。
·······赤い背表紙、あ、これか。

少しホコリを被ってたそれは昔何度も兄貴が読み聞かせしてくれた本だ。···流石に小さい時の記憶過ぎて内容は覚えてないけど。


「読み聞かせしてあげる」


·······は?


「いいから座ってよく聞いていて」



何を言ってるんだこの兄は·······高等科生にもなって絵本を···。
にこり。···あ、これ逆らったら駄目なやつ。

俺は静かに椅子に座った。
それを見て兄はペラペラと絵本をめくり語り出した。


 





「······分かった?」

読み聞かせ後、威圧的に聞いてくる兄。

ごめ、イケボに聞き惚れて内容頭に入ってこなかった。
···とか言ったら怒られるかな。


多分俺の解釈が合っていれば、その話は俗に言う『勇者と魔王の話』だった。絵本だからか曖昧な表現も多くてなんと言おうか、稚拙と言えばそれで終わりだが前世でよく聞いたことのある話だ。


「んー、その“五家”が五人の勇者の末裔ってのは分かった」


遥か昔の勇者と魔王の戦いの後、その戦いに勝利した勇者たちの一族がその五家と呼ばれるものということ。また戦いには勝ったものの深い眠りについた魔王が再び目覚めるときに対抗するため勇者の血筋は国によって保証されているということ。

·······だけど、それと兄貴と俺の結婚にどう繋がるのか分からん。


「五家というものがあると知れればそれで良いだろう。律花君は次男であるし、あまりこの手の話は聞かなかったのかもしれない」


フォローしてくれる伯父の優しさが心に染みる。
···兄よ、いい加減その顔は辞めてくれ···怖い。


「五家には幾つか婚姻について制約がある。家督を継ぐ前に子を儲けねばならぬし、その相手も勇者の血をより濃く残す為に成る可く分家筋から選ばねらばならない。とは言え近親間で子を儲けることは推奨されてはいない」

「うん。知ってる、知ってます。授業で習いました、兄弟とか親子間だと劣性遺伝が出やすいから、番契約も結婚も認められてないって」

「律花、推奨されていないだけだよ」

「異例があるのだ。先も言ったように五家の婚姻についての制約·······家督を継ぐ前に子を儲けねばならない、を美園は満たしていないからな」


······え、?待って、どういうこと?


「過去の記録だが、五家特有の家督継承の儀式をする前に子を得ていなかった者が儀式後配偶者を孕ませることなくこの世を去ったのだ。その例が殆どであったその後に、同じ境遇で自身の母親を孕ませた事例があってな。さらにその後兄弟間でもその例を見た······かなり昔の話ではあるがな」

「どうやら我々五家には特殊な繁殖条件があるようなのだ。解明されていない点も多いが、その条件外では異様な程にも繁殖能力が低い」

「つまり、家督継承の儀式をしていない僕は律花以外の男に孕ませる・孕まされる可能性が低いってこと。勿論それは律花も同じ。だから五家で特例の場合は近親間の婚姻が国から認められてるんだよ」

さらに兄は続ける。

「·······これは血を絶やしてはいけない僕たちの為でもあるし、僕にとっても律花にとっても悪い話じゃないと思う。僕は律花を愛してるし、律花は極力独りで生きたいのだろう?だから律花が僕の子を産めばいい」



······何を、言って、、それは兄貴しか得しないだろ?
深紅に情炎の光を灯している兄の瞳、これが冗談で言っていることではないと馬鹿な俺でも察した。伯父がこの場にいなければ直ぐにでも兄に食われてしまいそうな引力がある。

·······つまり俺に選択権はないって、ことか。

ここで拒否して逃げようものなら悪いことになる気がする···。
でもこのまま流されたら俺の未来に自由はない。



···待て。これって今世紀最大のピンチじゃないのか?
俺の将来設計は攻略対象から逃げ切り、冒険者として自由自適なスローライフを送ること。兄貴と結婚したらきっともう逃げられなくなる······。


究極の選択ッッッ!!




「幸いな事にも·······失礼致しました。残念なことにも美園の分家筋は三代前の当主まで遡らなければならないほど血が薄くなっているのです」

「···という事なので伯父様。申し訳無いのですがご子息···従兄弟殿と律花の番契約の件ですが、正式にお断りさせて頂く方向で······」
 

···い、いつの間にか王手をかけられてる気が。
ど、どうする。·······逃げ道が見つからない。

父さんとか先代、先々代に隠し子とかいないのか?···駄目だ、父さんが言ってた話だとうちの当主はみんな一途で奥さん至上主義だったと···。その前に勇者の末裔だか何だか知らないけど養子制度とかないの?いや、聞いたことないわ。生まれてから五家って単語自体聞いたことはあっても意味までは頭に無かった俺。

俺の意思無視で進められる話。
伯爵令息である以上はいつかは政略結婚だとかの話はくると思っていたけど思ってたより早すぎる。ストーリーで美園律花自身について語られることは少なかったからこの展開は予想してなかった···っ。

どうする俺。


前は断崖絶壁だ。







「燈夜殿、すまないがその話···待ったをかけさせて貰おう」


思いもよらぬ伯父からの待ったという救いの手。
·······でもなんか嫌な予感がするんだが。




「息子にもチャンスを与えてやってはくれぬだろうか」

「·······チャンス、ですか」

「そのまま燈夜殿と律花君の婚姻を進めるとして、過去の記録は大分古い。今現在の風潮から外聞が悪いのも事実だ」


確かに兄弟でって聞いたことないし、周囲の人も近親婚の話題は蚊帳の外だ。近親姦が法律で罰刑ものである以上、五家であっても外聞が悪いことは本当だろう。


「それでは美園の血を絶せ、と?」

「それは違う。一時的に厳島と美園を統合してはどうかと提案させて貰おう。古来より勇者同士の血は反発すると言っていたが知らなかった事とは言え遥河の例がある。実際に君たちが良い例だろう、厳島と美園の血を引いているのだから」

「·······それは」

「どちらの選択にせよ、危険は程度を同じくしてあることに変わりはない。律花君が燈夜殿と共になれば美園の血を忌まう者も出るだろうし、劣性遺伝のような不安もあるがより濃い遺伝子を残せることは確かだろう。又龍玄と共になれば美園の本来の血は薄くなる確率が高いが後にその中でも特に美園の血を濃い者同士を縁組すれば再建の希望も出来る」


つまり?


「結局は親心になってしまうが、龍玄がそれを望んでいる以上···番相手候補の一人として律花君には視野に入れて貰いたい。遥河の血を引いているということは血筋も申し分ない、龍玄も少なからず君には好意を抱いている、私自身も悪い話ではないと思う。···勿論、結果を強制する訳では無い、どうしても龍玄とは無理だと君が判断したならば渡した契約書は仮の物だ、私の方から破棄出来る。息子については私から説得しよう」


伯父はやや照れたように言う。
兄貴と結婚して子供を産むか、先輩と結婚して子供を産むか。
·······究極の選択パート2ッッッ!!!!


兄は顎に手を当てて何やら考え込んでいるようだ。
眉間に深く皺がよっている。
···背後に黒いオーラが見えるのはきっと気のせいじゃないよな。

チッ·······って、え、今舌打ちした!?
兄貴とは伯父に聞こえないように小さく舌打ちしてにっこりと笑う。


「·······分かりました。では、先輩をここに呼びましょうか」

「···あぁ、これ以上は親であれど部外者である私が話すべきではないだろうからな。学園の方は午前のみだろう。これからゆっくり三人で話し合うといい、雪華」


そう言って自分の従者らしい人···雪華さんを呼ぶと先輩を連れてくるように伝える。···従者さん居たんだ、全然気づかなかった。そう言えば不知火さんもそういう存在隠蔽?みたいなの上手いんだよなぁ。


「それでは一度失礼する。···この近くに用事があってな、それが終わればこの後の話もゆっくり出来よう。数時間でまた戻るとは思うが何かあれば連絡をくれ」


あぁ、あとはお若い二人(三人)で······的な感じか?
そう言うと伯父は立ち上がる。兄は至って普通・・の様子で見送りに出る。その後に続く俺。


···このあと先輩来るんだよな?
そして究極の選択を迫られると──。


·············え、無理無理無理無理。
修羅場の予感しかしないの俺だけ!?
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