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本編

9.親バカ

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「りっちゃぁ~~~ん!!」

「おいこら、焔。まだ話は終わってねぇ!」

「律、おかえり」  



むぎゅぅゅぅうぅ~~~。
帰ってきて早々、玄関開けたら直ぐ父さんに抱きつかれた。
···く、苦し···筋肉で海水浴出来るんじゃ···?マジ溺れる。

「おいこら、律が苦しそうだろがバカっ」
「はるぅ···嫉妬かい?もう何年経っても可愛いなぁ。大丈夫だよぉ~俺の本命は遥河だけ♡··········んで、今晩どうだい?」
「黙れ。変態が」

頭2つ分に近いほどかなりの身長差があると言うのに首根っこを掴まれ、引きずられてって、足蹴にされる我が父は生まれた時から変わらずの美貌をお持ちの美中年。さらに言うと胸板の厚い筋肉で覆われた体格の良い言うなれば漢!!だ。オールバックの燃えるような赤髪に男らしくも整った顔立ちはまさにイケおじ。仕事も国家魔法士とこの世界のエリート。·······この変態が無ければ完璧なんだが。母さんが時々可哀想になってくる。思春期の息子たちの前で夜のお誘いは頼むから辞めてくれ。


「律花、連絡せずに済まなかった。本当は仕事だったんだが、焔が急に律の入学式に行くと言い出してな·······その、いつも家に居てやれないし、俺も、お前の成長した姿を見たかったし」


そう言う母さんは息子の俺が言うのもなんだがめちゃくちゃ美人だ。淡い菫色のショートボブ、深い藍色の瞳は大きく、齢42ともなるのにまるで詐欺だ。両親共々20代と言われても頷けるのは身内贔屓では無いだろう。その大きな瞳を申し訳無さそうにして俺の様子を伺い彷徨わせる姿は性格のギャップもあってハチャメチャだ。くそ可愛いぞ、母上よ。

そんな両親から生まれた俺はと言うと···。
ゲーム内での美園律花は襟足の長いレイヤーショートボブでブリーチも入ってて、制服のネクタイもめちゃ緩くそこから見える鎖骨に銀のネックレス、細い指には同じ装飾の指輪が数個······可愛いけど、きゃっぴきゃぴのヤンチャ系ビッチだった訳だ。
性格的には友だちに誘われて行った合コンで猫被って『あのぅ、私ぃ~お料理得意なんですぅ』とか何とかアピールしまくって、最後には誘ってくれた友達を貶すタイプ。本人に悪気はないが、自らの為に知らず知らずのうちに他人を蹴落としてたタイプだった。

元婚約者曰く、美園律花のモブレ二次創作は大変に人気だったらしい。猫被りビッチがモブに監禁されて元の口の悪い本性を出すけど結局快楽堕ちってパターンがベタだと熱弁していた。リアルに友達で居たら一緒にいるとイラつくが嫌いでも嫌いになれない、とも言っていたな。それでも俺は好きになれないタイプだが。

そんなこんなで俺はイメチェンを試みた。
髪型は坊ちゃん刈り·······所謂ところマッシュボブで律花の髪質なのか短くしたら髪がふわふわと爆発した為、耳の後ろで大きめな髪留めを2つも使い何とか抑えている。そしてなんと言っても学校に行く時はこの四角いメガネだ。ふふん、少しは真面目に見えるだろう。

きっと俺の容姿はどちらかと言うと母似なんだろう。
セルリアンブルーの···少し暗めな空色の髪色は母方の親戚筋が寒色系の髪色が多い家系らしく、俺のこの髪色は隔世遺伝と言うことだった。瞳が父さんと兄貴とも同じワインレッドなこともあって、この両親の子で間違いないだろう。
·······父さんに性格が似なかったことは幸いだ。

「律花?」

あぁ、返事をし忘れてた。
母さんが俺よりも低いところから俺の顔を覗き込んでる。

「ごめ、二人ともおかえりなさい。俺もただいま」

久しぶりの両親の帰宅ということもあり、内心驚きと喜びがせめぎ合ってるがやはり喜びの方が大きい。ここ数日の辛くて、散々だったことは忘れられはしないが、体の力が抜ける気がした。

「何かあったのか?イジメか?」
「何·······?俺の可愛い律花がイジメられてるだと······ぉ!?」
「父さん、母さん、···それに律花も。いつまで玄関そこで話し込む気なの···。お茶入れるから、サロンででも寛いでて」

あ、そだ。まだここ玄関だったわ。
出迎えの為に控えてくれてた使用人の方々は頭を下げっぱなしで、それを見た兄貴は呆れたように厨房の方へ向かった。それを慌てて追いかけるメイド(男)さん。
······親バカもいいが程度を弁えろよな。

未だに心配する二人の背を押す。
俺は少し振り向いて、頭を上げようとしていた使用人達に目配せして、すまない、と声には出さず口だけ動かした。そんなこと気にするなと言うように皆、にっこり笑いまた頭を下げる。
長年この美園家に仕えてくれている優秀な人達だ。俺とも結構仲良くしてくれるし、時々おやつくれるし、父さんと母さんはなかなか家に居ないけど、皆が仕えてくれているこの家は寂しくないし、そんな両親の元に産まれたことも悪くないと思っている。俺にはまだ悪役令息(?)という貞操の危機があるが、それでもこの世界が好きなんだ。













父さんと母さんにはサロンに向かうように促して、俺は俺自身の部屋に向かい制服を着替えたり、鞄の中身を出しておいたり·······もちろん家なので眼鏡は外す。

あ、不知火さん?あの人は分家筋らしいから家がけっこう遠いんだよな。だから屋敷内に入ったら直ぐに帰らせた。蓮家一族の領地はそこまで離れてないし、転移陣で一瞬だから夜になる前にはあっちのお屋敷に着くんじゃないか?

ラヴィラン学園に集まる生徒の登校方法も大体そんな感じだ。それに学園の近くは転移陣ホールって広場があるから殆どの領地から乗り継ぎ無しで行き来出来るはず。まぁ、前世でいう鉄道路線みたいな?俺も登校は転移陣ホールからだ。馬車を使えと昔はよく言われたが転移後の学園への乗り入れが正直面倒いし、身一つの方が早く教室に行けるから楽だ。



「律花」

「ッ·······!!」

「驚かせちゃったかな······ごめんね」


·······ビックリした。確かに直ぐに出ると思って部屋のドアを開けておいた俺も俺だが、その開いたドアに寄りかかって声をかけてきた兄貴も兄貴だ。

俺は有言実行、昨日から兄貴を無視している。
昨日、朝飯食いに食堂に行ったら悪びれもなく普通に話しかけてきた兄貴を殴らなかっただけ俺は寛容だと思うのだが?俺は兄貴の声を無視して、制服をクローゼットにしまう。
俺にだって男のプライドってもんがあるんだ。
決して話なんてしてやるもんか。



「ねぇ、僕も怒るよ···?」


背後から近づいた兄に気づかなかった俺は兄の冷たい手が首筋に当てられてようやく気がついた。その手は首筋を触れるか触れないかのギリギリで彷徨う。

「僕と律花が喧嘩してる···なんて」
「っ、それは──」
「父さんと母さんに······心配かけちゃうの?」
「っ、」
「ふふ、大丈夫。一昨日の夜は自制が効かなかっただけなんだ······もう律の嫌がることはしないって約束するよ。だから、本当にごめんね」


怖い。
何が何だか分からないが、俺の中のニワトリが叫びまくってる。

ゆっくりと体を回し兄へ振り向くとニッコリ笑う。その目は確かに悲しそうなのに、笑ってるようで笑ってなくて震えが止まらなくなる。俺の中で警戒音がビービー煩い。

──ここで選択を間違えたら駄目だ。


「さぁ、行こうか?律花···父さんと母さんが待ってる」 


耳元で囁かれた言葉。
差し出された手。
嫌な笑みを浮かべ続ける兄。

「·······わ、分かった。行く」

俺はそう言って兄の手を取った·······。




その後は別にどうと言うことも無く、手を繋いだままサロンに向かったら父さんと母さんに仲がいいって言われたくらいで、兄とはどうともなかった。

父さんと母さんは明日の午後にはもう家を出なくてはいけないらしく、本当に俺の入学式の為だけに帰ってきてくれたようだ。
入学式はサイドの保護者席で見ていたらしく、コケるとこも千秋に庇われたとこもその千秋が姫と決まる瞬間もしっかり目撃されていた。

両親の仕事は主に農地開拓で、俺たちが今いる王都からずっと西の方にある村で魔物と魔植物が大繁殖&大量発生したらしく父だけでなく多くの国家魔法士を導入しているということだ。母は父の付き添いで、魔物と魔植物の大量発生によって困窮した村の炊き出しの手伝いをしているという。·····俺も誇りに思う、凄く立派な両親だ。

二人の話を聞くのはとても楽しい。
RPGゲームは好きだったこともあって尚更だ。



次の日になって、(主に兄からの情事イベント等)夜も特に何ともなく学園の課題も終わらせ、普通に朝を迎えた俺は、早朝早くに来てくれた不知火さんを伴って学園へ向かう。

「律、行ってらっしゃい」
「今度はお土産買ってきてやろうな!よし髪留めにしよう」
「ははっ父さんも母さんも気をつけて、行ってきます」

久しぶりに両親に会えたことでだいぶ精神的に助けられた気がする。父さんも母さんも相変わらずだったし、ほんと変わんないなぁ。





「りーつっ」

「おわっ、···何だ、千秋か」

「おはよ。ん?あれれ?律花何かいい事あった?」

「あぁ···ちょっと、な。それより千秋は課題終わったのか?」

「······え、へへー」


目を泳がす千秋に、あ···こいつ終わってねぇなと俺の直感は見事当たり、俺は朝から千秋の課題を手伝うことになったのだった。
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