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本編
6.夢じゃなかったー!
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「·······へ」
『夢ではありませんよ。君が昨夜、兄の美園燈夜と性交渉したことに間違いありません』
·······そうか。これは夢か。
俺のベッドの直ぐ傍、カーテンから僅かな光の差した所にその人はいた。長い黒髪、綺麗な青藤色の装いは凛として清潔感がある。あれは狩衣って言うんだっけか?平安時代の男の人の装束で見たことがある気がする。しかしこんな美形、攻略対象の1人でも可笑しくないはずだが、見たことないぞ?
『私の装いを褒めてくれてありがとう。私もこの衣服はとても気に入っていましてね。···それよりも今、君の見ている私は夢ではありません。全て現実です』
ふっ。美人に微笑まれた。
『時間が無い故手短に済ますことを許して下さい。私の名はスイレン。地球では人間の···主に創作物関係の管轄をしている神です。そしてこの世界、ディアルタリカの神でもあります。しかし私が統括神に招集され、少しの間この世界から離れたことで·······我が妹、コーネリアが君に取り返しのつかない申し訳ないことをした。先に謝罪を』
そう言ってスイレンと名乗った男は頭を下げる。
俺の知らない攻略対象かと思ったら神様だった件···。
···ん?コーネリア?誰だそれ。
俺の人生の中でそんな名前のやつにあったことはない。まぁ、神様の話から条件内で1人(1神?)思い当たるとすればあのダ女神くらいなもんだけど···。まさかそんな訳ないよな···。
『そうです。そのダ女神が我が妹コーネリアであっています』
申し訳なさそうに眉を寄せる。
「···そっか。あのダ女神のお兄さん?ってことか····あ、お兄さんに妹をダ女神呼ばわりするって凄く失礼か。あれ?それでなんであの女神のお兄さんがここへ?女神のお兄さんって事は神様だよな??謝罪なら一応(?)受けたっちゃ受けたけど······」
『いや、ダ女神でも構わない···妹とは言えそれは本当のことですから。私がここに来た理由ですが、僅かばかりでも贖罪の為に改めて加護の付与と君の混乱を解いてあげたいと思いましてこちらに足を向けた次第です』
神様にしては人である俺に対しての頭が低い。
あのダ女神······コーネリアとは大違いだ。
ん?ちょっと待て·······現実?
俺は自分の頬を抓る。·······痛い、てかその前から痛みはある。
腰に股関節に何故か喉まで!!
『それが夢ではないからですよ』
またまた申し訳なさそうに眉を寄せると自身の眉間に指の腹を押し当ててはぁ、とため息をつく。·······あのダ女神は常習犯なのか。スイレンの表情で想像がついた。
くそっぅ·······兄貴の馬鹿っっっ!!
夢じゃなかったーーー!!
ぼすっっ。俺は思わず枕を殴りつける。
········くっ、兄貴はもう守備範囲外だと思ってたのに···っ。
確かに俺に激甘だったり、めちゃくちゃ過保護だけど、この10年以上ストーリーとは違い普通の兄弟としていられたと思っていた。
元々、大元のストーリーでは兄貴との出会いの場面で主人公が入学後直ぐに起きる『時間操作』の実験で生成した薬を誤って自分にぶっかけて意識を失うが、目が覚めると保健室のベッドで『小さくなった』体を背後から抱きしめられるようにして兄が一緒に寝てた──と言った感じだったと思う。
そんで、兄貴はショタコンって設定だったんだ。
主人公とのえっちシーンもお兄ちゃん×ショタ(所謂おにショタ?)プレイが多く、俺の元婚約者もストーリーとスチルが出る度に「甘ーーーイィィッ!!」って叫んでたのを覚えてる。
だから、安心してたんだ···。もう少年とはほぼ言い難い俺にショタコンの兄が襲いかかってくることはないだろうと。······全くもって甘かったがな。
と言うか昨夜のアレの時のアレはそう言うことだったのか!!? 昨夜、無理矢理お兄ちゃんと呼ばされたことを思い出す。内心納得してしまっている自分がいるのが尚更腹が立つ。何故その可能性に気づかなかった俺!!
あ、今更だけど神様を名前呼びってダメか。
『あ、いいえ、スイレンで構いませんよ。···早速ですが私もこの姿で長時間居るのは難しいのです。神は人に姿を見せてはならない·······しかし今回は話が別でしょう。神が人の運命を変えてしまったのですから···』
『失礼。話を戻しましょう······。あの子は君に加護を付与しませんでしたか?·········あぁ、確かに。ありましたね』
ふわりの俺の額に向け、手を翳す。
どうやら光の差している所から動くことが出来ないようだ。
少しの間目を閉じて再び開く。
『······あぁ、これは──本当に申し訳ない。···これでは大変苦労したことでしょう』
苦労。一言で思い当たる節は多々多々ある。
一昨日のことか?昨夜の兄のことか?あぁ、それとももう昔の事にはなるが日常会話的に痴漢されたり盗撮されたりしてたことか?
じっと見つめるとスイレンは切れ長の目を泳がせる。
·······沈黙は肯定と受け取ろう。
まぁ、そんな不幸もこれまでってことか。
話の通りだと加護し直してくれるってことだろ?
·······という事はこれ以上俺の不運は悪くなりようがない···ふっふっふっ。
これは起死回生のチャンスなのでは······!
『···その····期待に添えず申し訳ない。力はあの子よりも強いと自負していたのですがどうやらあの子の《想い》が強すぎて私の加護で上書きすることが出来ないようなのです·······これは一時しのぎにしかなりませんが、あの子の加護によって引き起こされる事を成るべく最小限に出来るように私の加護で補填します』
が、ガーンッ!!
期待した俺が馬鹿だった·······いや、スイレンは悪くない。悪いのはあのダ女神だ!···一体どんな加護を俺に付けたんだ。内容はめちゃくちゃ気になるが、今までよりマシになるなら万々歳だ。
陰陽師のよくやるポーズでブツブツと何か呟くスイレン。
ほわぁと体が暖かく優しい淡い光に包まれる。
それは本当に一瞬の内だったけど、光が収まりゆっくりと瞬きすると何だか体の怠さが和らいだ気がする。流石にこれは夢じゃないよな?
『コーネリアの加護は主に君のフェロモンを増大し相手を誘惑する、そして相手は自分の意識に逆らって感情が増幅し、君を求めてしまう···が代償に君は誰からも愛される·······そんな内容でした。そして物語の本編を迎えるに当たり、その加護がより強くなるようになっていたのです。私の補填した加護は、そのフェロモンを抑制し、イベント察知・回避能力や自然治癒力の向上する·······主に身体能力の強化です。抑制については効果があるかさえ不安がありますが無いよりは良いでしょう···また、あくまでも能力向上なので、余り期待はしないで下さいね』
ふわ。···美人の微笑みが心に刺さる。
あんのダ女神·······なんつー加護付与してくれとんじゃぁああ!!
それなら楼透の説明に頷ける気がする。先輩たちは俺を犯すつもりじゃなかったけど、ダ女神の加護のせいで自制が効かなかったんだろう。同様に兄も。楼透に関してはヤンデレルートってのが関わってる気がする。と言うか、俺の選択が間違ってたんじゃ無いだろうか?主人公の千秋はともかく従者である楼透とまでなるべく関わらないようにしていたのだから。そこが分岐だったのではないだろうか···。分岐と言うとあとは性格とか──正規ルートで美園律花はビッチ気質だったのに対して、今の俺は普通。ってこととか?
スイレンの加護については──。
うん···襲われてヤラれること前提なんだな!それだけあのダ女神の想いが·······って俺にどんな期待してんだよ。まぁ、その為にイベント察知・回避能力を向上してくれたのは有難い。フェロモン抑制の効果も少しあるだけでもう十分。あのダ女神よりよっぽど良い。これで少しは逃げ切れる可能性が出たってこと、だよな?
『えぇ、本当に君には申し訳のない事をしました···。今までのことは君が理解している通りです。君の、相手を誘ってしまう体質と言うのは変わりませんが、今までよりは回避しやすくなると思います』
『そして、今後のことですが·······』
今後のことと言うと?
『あの子が君に話そうとしていたことです。·······この世界の規定に触れるので私からはお話出来ません。神の助言によって未来を変えてしまうことは規定違反なんです。君自身が変えると言う分には問題ないのですがね······』
『既に君の回避しようとしていた事態は形を変えて君の身に起きてしまった事実です。これからどうしよう、と目的が分からなければまた混迷に陥る······。私からは言えることはただ一つです。迷った時は先程君が思い出したような正規のルートを辿りなさい。未来は変えられませんが、情報は増える·······それが君を救うかもしれない······』
······は?それ、って···。
『スイレン、時間だ』
『クロ······あと少しだけ』
『そもそも規定違反に触れている』
スタッ。黒豹のような靱やかな体をカーテンの隙間から滑り込ませた男は漆黒の髪にターバンを巻き、褐色肌の筋肉が織り成す造形美を放つ体に、まるで映画で見たアラビアンナイトの衣装のような衣服を身に付けていた。
ツリ目がちな目がこちらを一瞥してから、スイレンに近づき、口調は少し怒っているようだ。
『彼の名はクロ。私に仕えている者です』
『スイレン』
『っ分かっています、もう少し待ちなさい。·······済まない、文君。私が君に言えるのはもう無いのです···しかし規定違反に触れない範囲の助言は出来ます。もし困ったことがあれば聖蓮教会にいらして、祈りを捧げて下さい。姿は現せませんが、声だけでなら君の力になれると思います』
──本当なら私が君の味方である事を君の目を見て証明したかったのですが。
クロと言う神使の青年に半ば無理矢理肩を引き寄せられながら、スイレンはそう言ってこちらに尚申し訳なさそうな表情を向け曇らせた。
「·······うーん、まぁ、俺はあのダ女神よりはずっと信頼するけどな。いくら妹が悪いことしたからって俺みたいな人間に姿を現したってことはそれだけ悪いと思ってくれてるってことだろ?脳内だけで語りかけてくる神より余程信用出来るだろ···」
スイレンはクスリと笑い、『そう言って頂けると有難い』と一言残すと神使の発動した転移陣で消えていった。色々と驚いたが、だいぶ情報の整理も混乱も落ち着いたのは事実だ。
ん······じゃあ、スイレンの言った通りに正規ルートを辿ってみるか。しかし全てダ女神のせいと分かった今でも流石に兄とは暫く口を聞いてやらないことにする。
そして若干の不安を残しながらも俺は高等科生活を迎えることとなった。
『夢ではありませんよ。君が昨夜、兄の美園燈夜と性交渉したことに間違いありません』
·······そうか。これは夢か。
俺のベッドの直ぐ傍、カーテンから僅かな光の差した所にその人はいた。長い黒髪、綺麗な青藤色の装いは凛として清潔感がある。あれは狩衣って言うんだっけか?平安時代の男の人の装束で見たことがある気がする。しかしこんな美形、攻略対象の1人でも可笑しくないはずだが、見たことないぞ?
『私の装いを褒めてくれてありがとう。私もこの衣服はとても気に入っていましてね。···それよりも今、君の見ている私は夢ではありません。全て現実です』
ふっ。美人に微笑まれた。
『時間が無い故手短に済ますことを許して下さい。私の名はスイレン。地球では人間の···主に創作物関係の管轄をしている神です。そしてこの世界、ディアルタリカの神でもあります。しかし私が統括神に招集され、少しの間この世界から離れたことで·······我が妹、コーネリアが君に取り返しのつかない申し訳ないことをした。先に謝罪を』
そう言ってスイレンと名乗った男は頭を下げる。
俺の知らない攻略対象かと思ったら神様だった件···。
···ん?コーネリア?誰だそれ。
俺の人生の中でそんな名前のやつにあったことはない。まぁ、神様の話から条件内で1人(1神?)思い当たるとすればあのダ女神くらいなもんだけど···。まさかそんな訳ないよな···。
『そうです。そのダ女神が我が妹コーネリアであっています』
申し訳なさそうに眉を寄せる。
「···そっか。あのダ女神のお兄さん?ってことか····あ、お兄さんに妹をダ女神呼ばわりするって凄く失礼か。あれ?それでなんであの女神のお兄さんがここへ?女神のお兄さんって事は神様だよな??謝罪なら一応(?)受けたっちゃ受けたけど······」
『いや、ダ女神でも構わない···妹とは言えそれは本当のことですから。私がここに来た理由ですが、僅かばかりでも贖罪の為に改めて加護の付与と君の混乱を解いてあげたいと思いましてこちらに足を向けた次第です』
神様にしては人である俺に対しての頭が低い。
あのダ女神······コーネリアとは大違いだ。
ん?ちょっと待て·······現実?
俺は自分の頬を抓る。·······痛い、てかその前から痛みはある。
腰に股関節に何故か喉まで!!
『それが夢ではないからですよ』
またまた申し訳なさそうに眉を寄せると自身の眉間に指の腹を押し当ててはぁ、とため息をつく。·······あのダ女神は常習犯なのか。スイレンの表情で想像がついた。
くそっぅ·······兄貴の馬鹿っっっ!!
夢じゃなかったーーー!!
ぼすっっ。俺は思わず枕を殴りつける。
········くっ、兄貴はもう守備範囲外だと思ってたのに···っ。
確かに俺に激甘だったり、めちゃくちゃ過保護だけど、この10年以上ストーリーとは違い普通の兄弟としていられたと思っていた。
元々、大元のストーリーでは兄貴との出会いの場面で主人公が入学後直ぐに起きる『時間操作』の実験で生成した薬を誤って自分にぶっかけて意識を失うが、目が覚めると保健室のベッドで『小さくなった』体を背後から抱きしめられるようにして兄が一緒に寝てた──と言った感じだったと思う。
そんで、兄貴はショタコンって設定だったんだ。
主人公とのえっちシーンもお兄ちゃん×ショタ(所謂おにショタ?)プレイが多く、俺の元婚約者もストーリーとスチルが出る度に「甘ーーーイィィッ!!」って叫んでたのを覚えてる。
だから、安心してたんだ···。もう少年とはほぼ言い難い俺にショタコンの兄が襲いかかってくることはないだろうと。······全くもって甘かったがな。
と言うか昨夜のアレの時のアレはそう言うことだったのか!!? 昨夜、無理矢理お兄ちゃんと呼ばされたことを思い出す。内心納得してしまっている自分がいるのが尚更腹が立つ。何故その可能性に気づかなかった俺!!
あ、今更だけど神様を名前呼びってダメか。
『あ、いいえ、スイレンで構いませんよ。···早速ですが私もこの姿で長時間居るのは難しいのです。神は人に姿を見せてはならない·······しかし今回は話が別でしょう。神が人の運命を変えてしまったのですから···』
『失礼。話を戻しましょう······。あの子は君に加護を付与しませんでしたか?·········あぁ、確かに。ありましたね』
ふわりの俺の額に向け、手を翳す。
どうやら光の差している所から動くことが出来ないようだ。
少しの間目を閉じて再び開く。
『······あぁ、これは──本当に申し訳ない。···これでは大変苦労したことでしょう』
苦労。一言で思い当たる節は多々多々ある。
一昨日のことか?昨夜の兄のことか?あぁ、それとももう昔の事にはなるが日常会話的に痴漢されたり盗撮されたりしてたことか?
じっと見つめるとスイレンは切れ長の目を泳がせる。
·······沈黙は肯定と受け取ろう。
まぁ、そんな不幸もこれまでってことか。
話の通りだと加護し直してくれるってことだろ?
·······という事はこれ以上俺の不運は悪くなりようがない···ふっふっふっ。
これは起死回生のチャンスなのでは······!
『···その····期待に添えず申し訳ない。力はあの子よりも強いと自負していたのですがどうやらあの子の《想い》が強すぎて私の加護で上書きすることが出来ないようなのです·······これは一時しのぎにしかなりませんが、あの子の加護によって引き起こされる事を成るべく最小限に出来るように私の加護で補填します』
が、ガーンッ!!
期待した俺が馬鹿だった·······いや、スイレンは悪くない。悪いのはあのダ女神だ!···一体どんな加護を俺に付けたんだ。内容はめちゃくちゃ気になるが、今までよりマシになるなら万々歳だ。
陰陽師のよくやるポーズでブツブツと何か呟くスイレン。
ほわぁと体が暖かく優しい淡い光に包まれる。
それは本当に一瞬の内だったけど、光が収まりゆっくりと瞬きすると何だか体の怠さが和らいだ気がする。流石にこれは夢じゃないよな?
『コーネリアの加護は主に君のフェロモンを増大し相手を誘惑する、そして相手は自分の意識に逆らって感情が増幅し、君を求めてしまう···が代償に君は誰からも愛される·······そんな内容でした。そして物語の本編を迎えるに当たり、その加護がより強くなるようになっていたのです。私の補填した加護は、そのフェロモンを抑制し、イベント察知・回避能力や自然治癒力の向上する·······主に身体能力の強化です。抑制については効果があるかさえ不安がありますが無いよりは良いでしょう···また、あくまでも能力向上なので、余り期待はしないで下さいね』
ふわ。···美人の微笑みが心に刺さる。
あんのダ女神·······なんつー加護付与してくれとんじゃぁああ!!
それなら楼透の説明に頷ける気がする。先輩たちは俺を犯すつもりじゃなかったけど、ダ女神の加護のせいで自制が効かなかったんだろう。同様に兄も。楼透に関してはヤンデレルートってのが関わってる気がする。と言うか、俺の選択が間違ってたんじゃ無いだろうか?主人公の千秋はともかく従者である楼透とまでなるべく関わらないようにしていたのだから。そこが分岐だったのではないだろうか···。分岐と言うとあとは性格とか──正規ルートで美園律花はビッチ気質だったのに対して、今の俺は普通。ってこととか?
スイレンの加護については──。
うん···襲われてヤラれること前提なんだな!それだけあのダ女神の想いが·······って俺にどんな期待してんだよ。まぁ、その為にイベント察知・回避能力を向上してくれたのは有難い。フェロモン抑制の効果も少しあるだけでもう十分。あのダ女神よりよっぽど良い。これで少しは逃げ切れる可能性が出たってこと、だよな?
『えぇ、本当に君には申し訳のない事をしました···。今までのことは君が理解している通りです。君の、相手を誘ってしまう体質と言うのは変わりませんが、今までよりは回避しやすくなると思います』
『そして、今後のことですが·······』
今後のことと言うと?
『あの子が君に話そうとしていたことです。·······この世界の規定に触れるので私からはお話出来ません。神の助言によって未来を変えてしまうことは規定違反なんです。君自身が変えると言う分には問題ないのですがね······』
『既に君の回避しようとしていた事態は形を変えて君の身に起きてしまった事実です。これからどうしよう、と目的が分からなければまた混迷に陥る······。私からは言えることはただ一つです。迷った時は先程君が思い出したような正規のルートを辿りなさい。未来は変えられませんが、情報は増える·······それが君を救うかもしれない······』
······は?それ、って···。
『スイレン、時間だ』
『クロ······あと少しだけ』
『そもそも規定違反に触れている』
スタッ。黒豹のような靱やかな体をカーテンの隙間から滑り込ませた男は漆黒の髪にターバンを巻き、褐色肌の筋肉が織り成す造形美を放つ体に、まるで映画で見たアラビアンナイトの衣装のような衣服を身に付けていた。
ツリ目がちな目がこちらを一瞥してから、スイレンに近づき、口調は少し怒っているようだ。
『彼の名はクロ。私に仕えている者です』
『スイレン』
『っ分かっています、もう少し待ちなさい。·······済まない、文君。私が君に言えるのはもう無いのです···しかし規定違反に触れない範囲の助言は出来ます。もし困ったことがあれば聖蓮教会にいらして、祈りを捧げて下さい。姿は現せませんが、声だけでなら君の力になれると思います』
──本当なら私が君の味方である事を君の目を見て証明したかったのですが。
クロと言う神使の青年に半ば無理矢理肩を引き寄せられながら、スイレンはそう言ってこちらに尚申し訳なさそうな表情を向け曇らせた。
「·······うーん、まぁ、俺はあのダ女神よりはずっと信頼するけどな。いくら妹が悪いことしたからって俺みたいな人間に姿を現したってことはそれだけ悪いと思ってくれてるってことだろ?脳内だけで語りかけてくる神より余程信用出来るだろ···」
スイレンはクスリと笑い、『そう言って頂けると有難い』と一言残すと神使の発動した転移陣で消えていった。色々と驚いたが、だいぶ情報の整理も混乱も落ち着いたのは事実だ。
ん······じゃあ、スイレンの言った通りに正規ルートを辿ってみるか。しかし全てダ女神のせいと分かった今でも流石に兄とは暫く口を聞いてやらないことにする。
そして若干の不安を残しながらも俺は高等科生活を迎えることとなった。
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