魔王の右腕、何本までなら許される?

おとのり

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第7章 大魔王誕生

Ver.3/第80話

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 テスタプラス達が消え、ハルマとその仲間達だけが残る闘技場は、少しの間静寂に包まれていた。
 あまりの出来事に、決着がついたのか、即座に判断できるものがいなかったからである。ハルマでさえも、警戒を解いていいのか判断に迷う状況だ。
 透明の足場に乗ったまま、手元に戻ってきた円月輪を握り締め、集中力を切らさぬようにジッと身構えたままである。
 実況も、突然のことに言葉を失ってしまっていたが、視界の中に運営からの知らせが表示されたのを確認すると、わずかに呼吸を整え、落ち着きを取り戻し、グッと腹筋に力を込めて口を開いていた。
『Greenhorn-online公式、第1回〈大魔王決定戦〉最後の勝者が決まりました! つまり、初代大魔王が、今ここに誕生!! その名は、大魔王……ハルマ!!』
 闘技場を見守る者を代表して、実況が宣言した。
 直後、花火が上空に打ち上がり、闘技場全体に花びらや紙テープが舞い落ちる。
 舞台の上にいるハルマには実況の声は届かなかったが、視界の中に、〈YOU WIN〉の文字が表示された。ようやく終わったことを悟ると、力が抜けてしまい、やれやれと〈人体浮遊〉の仕掛けの上から飛び降りると、退出用のゲートを探すが見当たらない。
「あ……。表彰式あるんだった。インタビューもあるようなこと言ってたっけ? うー。さっさと帰りたい……」
 気づけば、闘技場の上にいるのは自分ひとりだけだった。
 いつもであれば、離れることのないマリーとエルシアすら消えてしまっている。
「ひとりぼっちも、ずいぶん久しぶりだな」
 思えば、始めて1週間も経たずにマリーに出会ってから、常に一緒に行動していたため、変な感覚であった。
「もう、これもいいか」
 ふぅと、息をひとつ吐き出しながら、〈覆面〉を解除していつもの格好に戻る。アバターの体であるので、覆面をかぶっている息苦しさもなければ、見える感覚も変わらないのだが、何となく解放された気分にはなれる。
 勝者が決まったことに、ようやく観客も目が覚めたのか、この段階になって遅れて大歓声が聞こえてきた。実況の声とは違い、ランダムに拾われた歓声が何百と重なって聞こえてくるため、何を言っているのかは全くわからなかったが、どうやら祝福と驚愕が混ざったものであるようだ。
 しばらく待っていたが変化も起こらないので、どうしていいのかわからず、とりあえず歓声を送ってくれている観客に向かって、挨拶代わりに拳を上げて、何か大魔王らしいポーズでも取った方がいいのだろうか? 大魔王らしいポーズって何だよ? などと、困惑していると、ようやく舞台の中央に人影が現れた。

「決まりましたねー」
 現れた人物が、会場全体に向かって語り掛けるように視線を送ると、正面にカメラが出現した。
「はい! ここからは、再び司会進行を私、クラッチが務めさせていただきます。それでは、早速ですが、お話を伺いたいと思います。素晴らしい戦いを見せてくれましたハルマさん、どうぞ、こちらにお越しください」
 実況、解説とは違い、クラッチの声はハルマにもよく聞こえた。

 クラッチから祝福の言葉を贈られると、〈大魔王決定戦〉での3戦の振り返りをしつつ、感想を求められる。
「準々決勝、ハルマさんにとって初戦の開始早々、チョコットさんの攻撃でいきなりHPがゼロになった瞬間はびっくりしたんですが、その後の方がびっくりさせられました。あの瞬間は、どういう心境だったんですか?」
「そう、ですね。実は、1戦目も2戦目も、アドバイスを元にした作戦が上手く決まっただけなので、ほとんど親友たちのおかげです。なので、ああいう状態に追い込まれるのは作戦の一部だったので、むしろ、チョコットさんに申し訳ない、って気持ちの方が強かったですかね」
 ハルマ自身はソロプレイヤーであるが、テスタプラス達に負けない熱意で情報収集してくれた存在がいた。これは、チップだけでなく、モカを除くスタンプの村の住民全員のおかげである。ちなみに、彼らは、ハルマだけでなく、モカにも収集した情報を提供していた。
 実のところ、モカとハルマも情報共有してもいいと思っていたのだが、それはダメと、スズコとチップの姉弟にきつく言われてしまっていたのだ。
「そうだったんですね。そうなると、この結果は、お友達の方々も満足してもらえたでしょうね」
「そうだと、嬉しいです」
 晴れやかな舞台だというのに、ハルマの気持ちは、「早く帰りたい」で満ちているのだが、まだ終わりそうにない。
「1戦目、2戦目は、お友達からアドバイスをもらっての作戦立案だったとのことですが、ということは、決勝はハルマさん自身のアイデアということですよね? 見たことのないスキルのオンパレードで、正直、何が起こったのか未だにわからないのですが、さすがのテスタプラスさん達も、あれには手も足も出なかったという感じでした。あれは、どの位から準備されてたんですか?」
「そうですね。正直、この〈大魔王決定戦〉にも出場する気があまりなかったので、つい最近です。ただ、前々からアイデアとしてはあったので、上手く決まって良かったです。長期戦になったら、勝ち目がないと思っていたので……」
「え!? もしかしたら、不参加もあり得たということなんですね?」
「はい。順位も8組の枠には入っていませんでしたから、テゲテゲさん達の配信を知らなかったら、たぶん、出ることはなかったと思います。後、これも、やはり、親友たちの影響が大きいですかね」
「いやー。それは、私たちとしても、お友達の方々、テゲテゲさん達には感謝しないといけませんね。とにかく、本当に見事な戦いでした。まだまだ、お話を伺いたいところですが、お時間もなくなってきましたので、表彰式に移りたいと思います。それでは、ここでプレゼンターのおふたりをお呼びしたいと思います」
 そう言って、追加で舞台の上に現れたのは、プロデューサーの吉多と、ディレクターの安藤だった。
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