魔王の右腕、何本までなら許される?

おとのり

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第7章 大魔王誕生

Ver.3/第75話

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 遅れて紹介され、闘技場に現れたマカリナだったが、緊張感はまるでなかった。
 今、対峙しているのが、誰あろう不落魔王であるというのに落ち着いたものだと、闘技場を取り囲む観客席から見ていると感じたかもしれない。
 しかし、違うのだ。
 彼女のハルマに対する驚きは、イースターイベント中にやってきていた。
 巨大な桜の木を前に撮影されたという1枚の写真。
 モカとハルマと偶然居合わせたプレイヤーが投稿したそれを目にした時、彼女だけは真相に気づいていたのである。
 新人プレイヤー7人と中堅プレイヤー2人、ベテランプレイヤー3人という情報。それだけで、確信を得るのにはじゅうぶんだった。ハルマや他のプレイヤーのNPCも混ざって写っていたためわかりにくかったが、モカの隣で不落魔王の恰好をしている人物を数えると、数が合わないからだ。
 そのことに気づけたのは、写真の中に知り合ったばかりのフレンドが写っていたからである。
 その段階で直接尋ねることができれば良かったのだろうが、そこまで親しい間柄ではない。何と言って切り出せばいいものか悩んでいるうちに、結局ここまで来てしまっていたのだ。
 マカリナは、そっとメニュー画面を開き、フレンド一覧を確認する。
「やっぱり……」
 チャットはできないが、フレンドが今現在、どこにいるかは表示されている。
 こちらも顔を隠して出場しているため、相手は気づいていないようだが、ロシャロカの採掘の町ペシャコで出会い、ツルハシを作ってくれたハルマと同一人物で間違いない。
 一方的に相手のことを知っているのは、何となくフェアに思えない。かといって、お面を外して顔をさらす気にもなれない。
 しかし、すでに対策済だ。マカリナはこれから戦闘が始まるというのに、装備を切り替えると、取り出したツルハシを見せつけるように掲げて見せていた。
「な!? え?」
 案の定、反応があったのは中央付近に立つ不落魔王の恰好をした人物ではなく、その側に立っていたフード姿の人物だった。
 その様子に満足すると、再び装備を切り替える。
『今のは、何だったのでしょうか?』
 当然、闘技場の外では、実況が首を傾げるが、さすがの解説も意図を理解することはできなかったようである。
 
 さて、肝心の準決勝第2試合の内容であるが、正直、マカリナだけでなく、その仲間も、やる前から結果は見えていた。
 何しろ、全プレイヤーの中で、相性最悪の天敵とも呼べる存在が、誰あろうハルマだからだ。ハルマと相性の良いプレイヤーが存在するのかは、また別の話ではあるが……。
 このことは、解説を務めているチーフプランナーも気づいているのだが、当然、そんなことは口にしない。
 それは、マカリナの取得している珍しいスキルが理由である。
 このスキルのおかげで一気に有名プレイヤーの仲間入りしたのだが、彼女自身が望んだ結果ではない。
 基本は、ハルマと同じく生産職メインのプレイヤーである。
 普段は別行動している親友に、半ば強制的にパーティリーダーにさせられて参加しているに過ぎないのだ。
 彼女の持つスキルは〈DCG〉という。
〈デジタルカードゲーム〉という名のスキルは、戦闘中に一定のルールに則ってカードを使用することでモンスターを召喚できるというものなのだが、このスキル、攻めてくる相手には滅法強いのに対し、受けの相手には滅法弱いという性質を持つ。そのため、準々決勝で戦ったナイショのように、攻め立ててくる相手であれば、その実力をいかんなく発揮できる。
 使えるカードは投擲武器としても使えるのだが、召喚に使うためにはMPとは別にコストが必要で、相手の行動回数によって自身が使えるコストが上昇する仕組みなのだ。そのため、ハルマのようにNPCの後ろで指揮を執るだけだと、いつまで経っても使えるコストが増えてくれないのである。
 当然、強力なモンスターを召喚するためには、多くのコストを必要とする。
 結果、いつまで経っても低コストのザコモンスターしか召喚できない。それで対処できるはずもないため、どんどん攻め込まれてしまっていた。せめて、相手のテイムモンスターの行動でもコストが増えてくれると良いのだが、そうなると強力過ぎるスキルとなってしまうのか、残念ながらプレイヤーの行動に限られているのが現状だ。
「やっぱり、予想通り、どうにもならないわね」
 召喚した先から吹き飛ばされ、盾を務めている仲間達も攻撃に転じる余裕もない。それでも、最後の手段とばかりに仲間のひとりがスキルを発動させた。
「奥の手よ! これで少しは時間を稼げるはず!〈敗戦の記憶〉!」
 守りを仲間に託しスキルを発動させる。
 直後、両者の間に魔法陣が浮かび上がる。この魔法陣から、ハルマが全滅させられたことのあるモンスターが召喚される

 ……はず、なのだが、何も起こらず消え去った。

「「「「え?」」」」
 気の抜けた言葉を最後に、4人は敗戦の記憶を植え付けられることになるのだった。
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