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第7章 大魔王誕生
Ver.3/第70話
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『開始直後の怒涛の展開! 電光石火の強襲によってモカが自分のペースに持ち込んだかに見えましたが、テスタプラス軍も見事な立て直しに成功。犠牲は出てしまいましたが、これは形勢逆転と呼べるでしょう!』
1分に満たない戦いの中で目まぐるしく状況が変わり、息をすることさえ許されない雰囲気があったが、ここで両者の動きが止まった。
実況の言葉の通り、形勢はテスタプラスのパーティに有利な状況であり、迂闊にモカも飛び込んでいけない陣形が出来上がっているためだ。
だが、にらみ合いが続き、試合時間が長引けば長引くほど有利になるのはモカの方である。両者生存で決着がつかなかった場合、勝者は人数の少ない方、つまりはモカになるからだ。
しかし、そんな消極的決着を、モカ自身が望むはずもない。
故に、先に動いたのはモカだった。
不利な状況であることは百も承知。だが、動かなければならない確かな理由もあったのである。
俯瞰で見下ろせる〈デュラハン〉状態だからこそ、それは見えていた。
「ちっ! バレたよ!」
陣形の最後尾。巧妙に隠れながら魔法の準備を行っていたコヤだったが、詠唱は途中で止めざるを得なくなる。
魔法は、ターゲットを指定する単発魔法の場合、当て易い反面防御され易く、場所を指定する範囲魔法の場合、当て難い反面防御され難いという性質を持つ。集団を相手にするのであれば、場所を指定する範囲魔法が効果的なのだが、ソロプレイヤー相手だとそうもいかない。しかも、モカのようなインファイトに長けた者の場合、範囲系の魔法でなければなかなか当てられないのが実情なのだ。その上、モカは機動力にも長けている。〈デュラハン〉状態で動き回られると、まず魔法は当てられないと考えた方が賢明なのだ。
懐に潜り込んで暴れ回ることを諦めたモカは、今度は機動力を活かしてヒット&アウェイの戦法に切り替えていた。
一度に大ダメージは与えられないが、コツコツと確実にダメージを蓄積させていくのである。回復魔法を使える者はいるが、使えるMPには限りがある。しかも、持ち込めるMPポーションの数は、互いに同じ数。使える数になると、モカはひとりで5回使えるのに対し、テスタプラス達は8人8体で5回しか使えないのだ。
試合が次の展開を迎えても、ドタバタとした動きにならないところは、戦い慣れた者同士だからこそだろう。
テスタプラスのパーティは、奇抜なことはしない。
冷静な判断とチームワークで、確実に相手を追い詰めることを得意とするからだ。派手さはないが、気づけば相手を凌駕しているのである。そのため、何かに特化したプレイヤーもいない。
対して、モカは攻撃特化の権化みたいな存在である。
いつの間にか、最強の矛と最強の盾のような戦いになっていた。
激しい武器と武器、武器と防具のぶつかり合う音だけが、次第にコロシアムに響くようになっていた。
実況だけは、役目を全うするために言葉を途切れさせることはないが、声に乗る熱量は、どんどん上がっていくことは仕方ないだろう。
一進一退の攻防は続き、コヤが最後のMPポーションを使ったのを確認した直後だった。
『おっと!? どうしたのでしょうか? モカが距離を取ったぞ?』
それまで止まることを知らない動きで攻め続けていたモカが、テスタプラス達から離れると同時に、全力で走り出したのだ。
『これは、モカさんの最大火力と言われる〈疾走神風〉で勝負を決めにきたみたいですね』
解説のチーフプランナーの言葉にも熱気が帯びる。
広い闘技場の上を円を描くように走り回りながらも、テスタプラス達への攻撃の手は緩めない。
ここまでの戦いで、テイムモンスターの3体が沈み、前衛のプレイヤーもふたり失っている。
このままモカの〈疾走神風〉が決まれば、盾職のふたりも無事では済まないだろう。そうなったら、モカの猛攻を耐え切ることもできなくなる。
勝敗が決する時は近づいてきた。
観客の誰もが、その瞬間を見逃すまいと前のめりになりながら闘技場を見下ろしていた。
どんどん加速するモカ。どのタイミングで仕掛けてくるのか、テスタプラス達も神経を張り巡らせながら待ち構えている。
「今だ!!」
シビアなタイミングだった。
一瞬の躊躇が命取りになったことだろう。
モカが最高のタイミングで〈疾走神風〉をぶち込もうとした瞬間、テスタプラスの声が響いたかと思ったら、それは起こった。
「「〈聖陣の盾〉!」」
大楯を持つふたりのプレイヤーが、ほぼ同時にひとつのスキルを展開したのだ。
直後、モカの前にふたつの障壁が出現した。
「何でぇ!?」
モカの槍が障壁にぶつかるのと同時に砕け散るが、そこで〈疾走神風〉の効力も消えてしまう。
〈聖陣の盾〉は、物理攻撃によるダメージを1度だけ60%減少させるスキルだ。それを2枚同時展開することで、完全に無効化することに成功したのである。
「待ってたわよ!」
最後にMPポーションを使った後、コヤは虎視眈々とひとつのことだけを狙っていた。
もうひとりの魔法職と息を合わせ、準備していた最大火力の魔法を放つことだけを……。
「きゃああああ!!」
一点突破に集中していたモカは、完全に無防備だった。
こうして、準々決勝第1試合は、テスタプラス達の勝利で幕を下ろしたのだった。
1分に満たない戦いの中で目まぐるしく状況が変わり、息をすることさえ許されない雰囲気があったが、ここで両者の動きが止まった。
実況の言葉の通り、形勢はテスタプラスのパーティに有利な状況であり、迂闊にモカも飛び込んでいけない陣形が出来上がっているためだ。
だが、にらみ合いが続き、試合時間が長引けば長引くほど有利になるのはモカの方である。両者生存で決着がつかなかった場合、勝者は人数の少ない方、つまりはモカになるからだ。
しかし、そんな消極的決着を、モカ自身が望むはずもない。
故に、先に動いたのはモカだった。
不利な状況であることは百も承知。だが、動かなければならない確かな理由もあったのである。
俯瞰で見下ろせる〈デュラハン〉状態だからこそ、それは見えていた。
「ちっ! バレたよ!」
陣形の最後尾。巧妙に隠れながら魔法の準備を行っていたコヤだったが、詠唱は途中で止めざるを得なくなる。
魔法は、ターゲットを指定する単発魔法の場合、当て易い反面防御され易く、場所を指定する範囲魔法の場合、当て難い反面防御され難いという性質を持つ。集団を相手にするのであれば、場所を指定する範囲魔法が効果的なのだが、ソロプレイヤー相手だとそうもいかない。しかも、モカのようなインファイトに長けた者の場合、範囲系の魔法でなければなかなか当てられないのが実情なのだ。その上、モカは機動力にも長けている。〈デュラハン〉状態で動き回られると、まず魔法は当てられないと考えた方が賢明なのだ。
懐に潜り込んで暴れ回ることを諦めたモカは、今度は機動力を活かしてヒット&アウェイの戦法に切り替えていた。
一度に大ダメージは与えられないが、コツコツと確実にダメージを蓄積させていくのである。回復魔法を使える者はいるが、使えるMPには限りがある。しかも、持ち込めるMPポーションの数は、互いに同じ数。使える数になると、モカはひとりで5回使えるのに対し、テスタプラス達は8人8体で5回しか使えないのだ。
試合が次の展開を迎えても、ドタバタとした動きにならないところは、戦い慣れた者同士だからこそだろう。
テスタプラスのパーティは、奇抜なことはしない。
冷静な判断とチームワークで、確実に相手を追い詰めることを得意とするからだ。派手さはないが、気づけば相手を凌駕しているのである。そのため、何かに特化したプレイヤーもいない。
対して、モカは攻撃特化の権化みたいな存在である。
いつの間にか、最強の矛と最強の盾のような戦いになっていた。
激しい武器と武器、武器と防具のぶつかり合う音だけが、次第にコロシアムに響くようになっていた。
実況だけは、役目を全うするために言葉を途切れさせることはないが、声に乗る熱量は、どんどん上がっていくことは仕方ないだろう。
一進一退の攻防は続き、コヤが最後のMPポーションを使ったのを確認した直後だった。
『おっと!? どうしたのでしょうか? モカが距離を取ったぞ?』
それまで止まることを知らない動きで攻め続けていたモカが、テスタプラス達から離れると同時に、全力で走り出したのだ。
『これは、モカさんの最大火力と言われる〈疾走神風〉で勝負を決めにきたみたいですね』
解説のチーフプランナーの言葉にも熱気が帯びる。
広い闘技場の上を円を描くように走り回りながらも、テスタプラス達への攻撃の手は緩めない。
ここまでの戦いで、テイムモンスターの3体が沈み、前衛のプレイヤーもふたり失っている。
このままモカの〈疾走神風〉が決まれば、盾職のふたりも無事では済まないだろう。そうなったら、モカの猛攻を耐え切ることもできなくなる。
勝敗が決する時は近づいてきた。
観客の誰もが、その瞬間を見逃すまいと前のめりになりながら闘技場を見下ろしていた。
どんどん加速するモカ。どのタイミングで仕掛けてくるのか、テスタプラス達も神経を張り巡らせながら待ち構えている。
「今だ!!」
シビアなタイミングだった。
一瞬の躊躇が命取りになったことだろう。
モカが最高のタイミングで〈疾走神風〉をぶち込もうとした瞬間、テスタプラスの声が響いたかと思ったら、それは起こった。
「「〈聖陣の盾〉!」」
大楯を持つふたりのプレイヤーが、ほぼ同時にひとつのスキルを展開したのだ。
直後、モカの前にふたつの障壁が出現した。
「何でぇ!?」
モカの槍が障壁にぶつかるのと同時に砕け散るが、そこで〈疾走神風〉の効力も消えてしまう。
〈聖陣の盾〉は、物理攻撃によるダメージを1度だけ60%減少させるスキルだ。それを2枚同時展開することで、完全に無効化することに成功したのである。
「待ってたわよ!」
最後にMPポーションを使った後、コヤは虎視眈々とひとつのことだけを狙っていた。
もうひとりの魔法職と息を合わせ、準備していた最大火力の魔法を放つことだけを……。
「きゃああああ!!」
一点突破に集中していたモカは、完全に無防備だった。
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