魔王の右腕、何本までなら許される?

おとのり

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第3章 兎追いし

Ver.3/第30話

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 エルシアとハンゾウの能力について、だいたい理解したところで、スタンプの村に戻ることにした。
 この日もモヤシとチップ達と合流して、今度こそ〈大工の心得〉が取得できるかの検証を行う予定なのだ。

「ウォータニカとライトライム、どっちが良い?」
 全員がそろったところで、モヤシに尋ねる。
「何だよ。今日は行き先、決まってなかったのか」
「一番手頃だと思ってたダークッタンはハズレだったからな。今の2択以外にも候補地はあるけど、だいぶ遠いんだよ。町からの距離を考えると、次の候補地まではどこも似たり寄ったりだから、それなら、モヤシ君の好みに任せた方がいいだろ? 俺らが住むわけじゃないんだから」
「ああ……。そりゃ、違いない。じゃあ、モヤシ君、選んでくれ」
「わ、わかりました。えーと……。どこでも問題ないですけど、その2択だったら、ウォータニカですかね?」
 こうして、一行は水の大陸の初期エリア、ウォータニカへと飛ぶことになった。

 ハンゾウはスケルトンの顔のままでは目立つ可能性もあるからと、ハルマに変化しての移動となった。
「なんか、ハルマがふたりいるのも気持ち悪いな」
「そうは言っても、スケルトンの顔ってわけにもいかないだろ?」
「ハルマが魔王プレーする時の恰好でいいじゃん」
「ああ、なるほど……。なあ、ハンゾウ。服装って、前に執事服になったみたいに、自由に変えられるの?」
「一度、変化の術を使ったことがある相手のものであれば、見た目だけ変えることはできるでござるよ。ハルマ殿達が言うスイッチングと同じで、変化の術を使うまでもないでござる」
 スイッチングとは、装備は変えず、見た目だけを瞬時に変えることができる機能のことだ。
「ほー。それじゃ何か、ハンゾウ用の服装を考えないとだな」
 こうして、ハンゾウに似合う服装をみんなで考えながら町を出ると、例によってトワネとシャムに乗って移動を開始することになった。
 向かうのは、町の南西に広がる森の中だ。

「なあ? ハルマ?」
 目的地に入るには狭い場所を通らなければならないからと、トワネとシャムから降ろされ、隠し通路のようなルートを進むことになった。
 丹念に探索していた者でも、ここを見つけることは困難であっただろう場所だ。案内され、突如広がった景色を眺め、呆然としたところでチップだけでなく、その場の全員が考えていたであろう疑問があった。
「ん? どうした?」
「いや……。どうやったら、こんな場所見つけられたんだよ? っていう、単純な疑問」
 見通しの悪い森の中、ハルマの案内で、突き当たりとも呼べる、そびえ立つ崖の前まで到着したかと思ったら、鬱蒼と茂る木立の中に躊躇なく突っ込んでいったのである。こういう、完全に先が見通せないオブジェクトの場合、侵入不可の壁であることも多いため、これだけでギョッとさせられていた。
 しかも、こういうことができるのも、ハルマが〈発見〉のスキルを取得していればこそである。そうでなければ、潜んでいるかもしれないモンスターに警戒なく行動することはできないはずだ。
 進んだ木立の先には崖に空いた小さな洞くつが存在し、エリアを区切るはずの崖の先に、マップにも記されていないエリアが広がっていた。
 そこは、高い崖から流れ落ちる滝があり、エリアの中央に湖を作っている。ただ、その周辺には廃屋が複数捨て置かれ、何とも寂れた空間であった。
「ここ? 前に、ユララと出会った時に、空魚ってドラゴンが出る場所教えてもらったことがあるんだけど、ここも、そのひとつなんだよ。盆地で霧が出る場所が空魚の活動エリアらしいんだけど、さっきの森の中だと条件に合わないだろ? それで、この辺を探してたら、抜け道を見つけたんだよ」
「え!? ドラゴンが出るんですか!?」
 ハルマの説明に、モヤシが驚きの声を上げる。
「あー。大丈夫、大丈夫。ドラゴンっていっても、霧の時しか出てこないらしいし、向こうから襲ってくることもないらしいから。とびきりデカい観賞魚みたいなものだよ。それより、ここ、ちょっと寂れてるけど、きれいな景色だろ? けっこうお気に入りの場所なんだよな」
 崖に囲まれたエリアながら、流れ落ちる見事な滝に澄んだ水を湛えた湖、針葉樹の森。忘れ去られたエリアだからなのか、モンスターの気配もまるでない。
 雰囲気としては、北欧の湖畔を思わせる落ち着いた場所だった。

 モヤシもこの場所を気に入り、早速〈大工の心得〉の取得に挑戦することになった。
「これが〈大きな木づち〉な。スパイクが付いてる方で叩くと建材の破壊。平らな方で叩くと建材の回収ができる。破壊って言っても、素材に戻るだけだから、そんなに気にする必要はないからね」
 ハルマは準備していた〈大きな木づち〉をモヤシに渡すと、簡単に説明する。
 まずは、完全に倒壊してしまっている廃屋を撤去してみることにした。
「あ! 新しい建材のレシピ覚えました!」
 ハルマの時とは違い、軽々と〈大きな木づち〉を使いながらオブジェクトを素材として回収すると、モヤシが嬉しそうに声を上げた。
「おお! 可能性が出てきた!」
 廃屋をひとつ丸々撤去し終えると、今度こそ本命の作業に移る。
 ここにも、1軒だけ状態の良い廃屋が残っており、モヤシの手によって修繕されていく。建材は、事前にハルマが調べておいたものを、モヤシが作っていたのだ。基本的に、候補地にはどこも1軒だけ状態の良い廃屋が残っており、似たような建材が不足していたので、モヤシの負担も大きくはなかった。
「あとは、ランプを設置すれば……」
 家に必要なものは、床、壁、屋根、入口の扉があること。これに明かりを灯せば、最低限人が住める家として条件が満たされる。
 ハルマの指導のもと、モヤシは家の条件を満たすために最後のピースであるランプを壁に設置した。
「覚えました! 〈大工の心得〉!」
 モヤシの笑顔がパッと輝くと、その場の全員が「おおー!」と、拍手を送るのだった。
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