225 / 276
第3章 兎追いし
Ver.3/第30話
しおりを挟む
エルシアとハンゾウの能力について、だいたい理解したところで、スタンプの村に戻ることにした。
この日もモヤシとチップ達と合流して、今度こそ〈大工の心得〉が取得できるかの検証を行う予定なのだ。
「ウォータニカとライトライム、どっちが良い?」
全員がそろったところで、モヤシに尋ねる。
「何だよ。今日は行き先、決まってなかったのか」
「一番手頃だと思ってたダークッタンはハズレだったからな。今の2択以外にも候補地はあるけど、だいぶ遠いんだよ。町からの距離を考えると、次の候補地まではどこも似たり寄ったりだから、それなら、モヤシ君の好みに任せた方がいいだろ? 俺らが住むわけじゃないんだから」
「ああ……。そりゃ、違いない。じゃあ、モヤシ君、選んでくれ」
「わ、わかりました。えーと……。どこでも問題ないですけど、その2択だったら、ウォータニカですかね?」
こうして、一行は水の大陸の初期エリア、ウォータニカへと飛ぶことになった。
ハンゾウはスケルトンの顔のままでは目立つ可能性もあるからと、ハルマに変化しての移動となった。
「なんか、ハルマがふたりいるのも気持ち悪いな」
「そうは言っても、スケルトンの顔ってわけにもいかないだろ?」
「ハルマが魔王プレーする時の恰好でいいじゃん」
「ああ、なるほど……。なあ、ハンゾウ。服装って、前に執事服になったみたいに、自由に変えられるの?」
「一度、変化の術を使ったことがある相手のものであれば、見た目だけ変えることはできるでござるよ。ハルマ殿達が言うスイッチングと同じで、変化の術を使うまでもないでござる」
スイッチングとは、装備は変えず、見た目だけを瞬時に変えることができる機能のことだ。
「ほー。それじゃ何か、ハンゾウ用の服装を考えないとだな」
こうして、ハンゾウに似合う服装をみんなで考えながら町を出ると、例によってトワネとシャムに乗って移動を開始することになった。
向かうのは、町の南西に広がる森の中だ。
「なあ? ハルマ?」
目的地に入るには狭い場所を通らなければならないからと、トワネとシャムから降ろされ、隠し通路のようなルートを進むことになった。
丹念に探索していた者でも、ここを見つけることは困難であっただろう場所だ。案内され、突如広がった景色を眺め、呆然としたところでチップだけでなく、その場の全員が考えていたであろう疑問があった。
「ん? どうした?」
「いや……。どうやったら、こんな場所見つけられたんだよ? っていう、単純な疑問」
見通しの悪い森の中、ハルマの案内で、突き当たりとも呼べる、そびえ立つ崖の前まで到着したかと思ったら、鬱蒼と茂る木立の中に躊躇なく突っ込んでいったのである。こういう、完全に先が見通せないオブジェクトの場合、侵入不可の壁であることも多いため、これだけでギョッとさせられていた。
しかも、こういうことができるのも、ハルマが〈発見〉のスキルを取得していればこそである。そうでなければ、潜んでいるかもしれないモンスターに警戒なく行動することはできないはずだ。
進んだ木立の先には崖に空いた小さな洞くつが存在し、エリアを区切るはずの崖の先に、マップにも記されていないエリアが広がっていた。
そこは、高い崖から流れ落ちる滝があり、エリアの中央に湖を作っている。ただ、その周辺には廃屋が複数捨て置かれ、何とも寂れた空間であった。
「ここ? 前に、ユララと出会った時に、空魚ってドラゴンが出る場所教えてもらったことがあるんだけど、ここも、そのひとつなんだよ。盆地で霧が出る場所が空魚の活動エリアらしいんだけど、さっきの森の中だと条件に合わないだろ? それで、この辺を探してたら、抜け道を見つけたんだよ」
「え!? ドラゴンが出るんですか!?」
ハルマの説明に、モヤシが驚きの声を上げる。
「あー。大丈夫、大丈夫。ドラゴンっていっても、霧の時しか出てこないらしいし、向こうから襲ってくることもないらしいから。とびきりデカい観賞魚みたいなものだよ。それより、ここ、ちょっと寂れてるけど、きれいな景色だろ? けっこうお気に入りの場所なんだよな」
崖に囲まれたエリアながら、流れ落ちる見事な滝に澄んだ水を湛えた湖、針葉樹の森。忘れ去られたエリアだからなのか、モンスターの気配もまるでない。
雰囲気としては、北欧の湖畔を思わせる落ち着いた場所だった。
モヤシもこの場所を気に入り、早速〈大工の心得〉の取得に挑戦することになった。
「これが〈大きな木づち〉な。スパイクが付いてる方で叩くと建材の破壊。平らな方で叩くと建材の回収ができる。破壊って言っても、素材に戻るだけだから、そんなに気にする必要はないからね」
ハルマは準備していた〈大きな木づち〉をモヤシに渡すと、簡単に説明する。
まずは、完全に倒壊してしまっている廃屋を撤去してみることにした。
「あ! 新しい建材のレシピ覚えました!」
ハルマの時とは違い、軽々と〈大きな木づち〉を使いながらオブジェクトを素材として回収すると、モヤシが嬉しそうに声を上げた。
「おお! 可能性が出てきた!」
廃屋をひとつ丸々撤去し終えると、今度こそ本命の作業に移る。
ここにも、1軒だけ状態の良い廃屋が残っており、モヤシの手によって修繕されていく。建材は、事前にハルマが調べておいたものを、モヤシが作っていたのだ。基本的に、候補地にはどこも1軒だけ状態の良い廃屋が残っており、似たような建材が不足していたので、モヤシの負担も大きくはなかった。
「あとは、ランプを設置すれば……」
家に必要なものは、床、壁、屋根、入口の扉があること。これに明かりを灯せば、最低限人が住める家として条件が満たされる。
ハルマの指導のもと、モヤシは家の条件を満たすために最後のピースであるランプを壁に設置した。
「覚えました! 〈大工の心得〉!」
モヤシの笑顔がパッと輝くと、その場の全員が「おおー!」と、拍手を送るのだった。
この日もモヤシとチップ達と合流して、今度こそ〈大工の心得〉が取得できるかの検証を行う予定なのだ。
「ウォータニカとライトライム、どっちが良い?」
全員がそろったところで、モヤシに尋ねる。
「何だよ。今日は行き先、決まってなかったのか」
「一番手頃だと思ってたダークッタンはハズレだったからな。今の2択以外にも候補地はあるけど、だいぶ遠いんだよ。町からの距離を考えると、次の候補地まではどこも似たり寄ったりだから、それなら、モヤシ君の好みに任せた方がいいだろ? 俺らが住むわけじゃないんだから」
「ああ……。そりゃ、違いない。じゃあ、モヤシ君、選んでくれ」
「わ、わかりました。えーと……。どこでも問題ないですけど、その2択だったら、ウォータニカですかね?」
こうして、一行は水の大陸の初期エリア、ウォータニカへと飛ぶことになった。
ハンゾウはスケルトンの顔のままでは目立つ可能性もあるからと、ハルマに変化しての移動となった。
「なんか、ハルマがふたりいるのも気持ち悪いな」
「そうは言っても、スケルトンの顔ってわけにもいかないだろ?」
「ハルマが魔王プレーする時の恰好でいいじゃん」
「ああ、なるほど……。なあ、ハンゾウ。服装って、前に執事服になったみたいに、自由に変えられるの?」
「一度、変化の術を使ったことがある相手のものであれば、見た目だけ変えることはできるでござるよ。ハルマ殿達が言うスイッチングと同じで、変化の術を使うまでもないでござる」
スイッチングとは、装備は変えず、見た目だけを瞬時に変えることができる機能のことだ。
「ほー。それじゃ何か、ハンゾウ用の服装を考えないとだな」
こうして、ハンゾウに似合う服装をみんなで考えながら町を出ると、例によってトワネとシャムに乗って移動を開始することになった。
向かうのは、町の南西に広がる森の中だ。
「なあ? ハルマ?」
目的地に入るには狭い場所を通らなければならないからと、トワネとシャムから降ろされ、隠し通路のようなルートを進むことになった。
丹念に探索していた者でも、ここを見つけることは困難であっただろう場所だ。案内され、突如広がった景色を眺め、呆然としたところでチップだけでなく、その場の全員が考えていたであろう疑問があった。
「ん? どうした?」
「いや……。どうやったら、こんな場所見つけられたんだよ? っていう、単純な疑問」
見通しの悪い森の中、ハルマの案内で、突き当たりとも呼べる、そびえ立つ崖の前まで到着したかと思ったら、鬱蒼と茂る木立の中に躊躇なく突っ込んでいったのである。こういう、完全に先が見通せないオブジェクトの場合、侵入不可の壁であることも多いため、これだけでギョッとさせられていた。
しかも、こういうことができるのも、ハルマが〈発見〉のスキルを取得していればこそである。そうでなければ、潜んでいるかもしれないモンスターに警戒なく行動することはできないはずだ。
進んだ木立の先には崖に空いた小さな洞くつが存在し、エリアを区切るはずの崖の先に、マップにも記されていないエリアが広がっていた。
そこは、高い崖から流れ落ちる滝があり、エリアの中央に湖を作っている。ただ、その周辺には廃屋が複数捨て置かれ、何とも寂れた空間であった。
「ここ? 前に、ユララと出会った時に、空魚ってドラゴンが出る場所教えてもらったことがあるんだけど、ここも、そのひとつなんだよ。盆地で霧が出る場所が空魚の活動エリアらしいんだけど、さっきの森の中だと条件に合わないだろ? それで、この辺を探してたら、抜け道を見つけたんだよ」
「え!? ドラゴンが出るんですか!?」
ハルマの説明に、モヤシが驚きの声を上げる。
「あー。大丈夫、大丈夫。ドラゴンっていっても、霧の時しか出てこないらしいし、向こうから襲ってくることもないらしいから。とびきりデカい観賞魚みたいなものだよ。それより、ここ、ちょっと寂れてるけど、きれいな景色だろ? けっこうお気に入りの場所なんだよな」
崖に囲まれたエリアながら、流れ落ちる見事な滝に澄んだ水を湛えた湖、針葉樹の森。忘れ去られたエリアだからなのか、モンスターの気配もまるでない。
雰囲気としては、北欧の湖畔を思わせる落ち着いた場所だった。
モヤシもこの場所を気に入り、早速〈大工の心得〉の取得に挑戦することになった。
「これが〈大きな木づち〉な。スパイクが付いてる方で叩くと建材の破壊。平らな方で叩くと建材の回収ができる。破壊って言っても、素材に戻るだけだから、そんなに気にする必要はないからね」
ハルマは準備していた〈大きな木づち〉をモヤシに渡すと、簡単に説明する。
まずは、完全に倒壊してしまっている廃屋を撤去してみることにした。
「あ! 新しい建材のレシピ覚えました!」
ハルマの時とは違い、軽々と〈大きな木づち〉を使いながらオブジェクトを素材として回収すると、モヤシが嬉しそうに声を上げた。
「おお! 可能性が出てきた!」
廃屋をひとつ丸々撤去し終えると、今度こそ本命の作業に移る。
ここにも、1軒だけ状態の良い廃屋が残っており、モヤシの手によって修繕されていく。建材は、事前にハルマが調べておいたものを、モヤシが作っていたのだ。基本的に、候補地にはどこも1軒だけ状態の良い廃屋が残っており、似たような建材が不足していたので、モヤシの負担も大きくはなかった。
「あとは、ランプを設置すれば……」
家に必要なものは、床、壁、屋根、入口の扉があること。これに明かりを灯せば、最低限人が住める家として条件が満たされる。
ハルマの指導のもと、モヤシは家の条件を満たすために最後のピースであるランプを壁に設置した。
「覚えました! 〈大工の心得〉!」
モヤシの笑顔がパッと輝くと、その場の全員が「おおー!」と、拍手を送るのだった。
0
お気に入りに追加
88
あなたにおすすめの小説

Free Emblem On-line
ユキさん
ファンタジー
今の世の中、ゲームと言えばVRゲームが主流であり人々は数多のVRゲームに魅了されていく。そんなVRゲームの中で待望されていたタイトルがβテストを経て、ついに発売されたのだった。
VRMMO『Free Emblem Online』
通称『F.E.O』
自由過ぎることが売りのこのゲームを、「あんちゃんも気に入ると思うよ~。だから…ね? 一緒にやろうぜぃ♪」とのことで、βテスターの妹より一式を渡される。妹より渡された『F.E.O』、仕事もあるが…、「折角だし、やってみるとしようか。」圧倒的な世界に驚きながらも、MMO初心者である男が自由気ままに『F.E.O』を楽しむ。
ソロでユニークモンスターを討伐、武器防具やアイテムも他の追随を許さない、それでいてPCよりもNPCと仲が良い変わり者。
そんな強面悪党顔の初心者が冒険や生産においてその名を轟かし、本人の知らぬ間に世界を引っ張る存在となっていく。
なろうにも投稿してあります。だいぶ前の未完ですがね。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】VRMMOでチュートリアルを2回やった生産職のボクは最強になりました
鳥山正人
ファンタジー
フルダイブ型VRMMOゲームの『スペードのクイーン』のオープンベータ版が終わり、正式リリースされる事になったので早速やってみたら、いきなりのサーバーダウン。
だけどボクだけ知らずにそのままチュートリアルをやっていた。
チュートリアルが終わってさぁ冒険の始まり。と思ったらもう一度チュートリアルから開始。
2度目のチュートリアルでも同じようにクリアしたら隠し要素を発見。
そこから怒涛の快進撃で最強になりました。
鍛冶、錬金で主人公がまったり最強になるお話です。
※この作品は「DADAN WEB小説コンテスト」1次選考通過した【第1章完結】デスペナのないVRMMOで〜をブラッシュアップして、続きの物語を描いた作品です。
その事を理解していただきお読みいただければ幸いです。


【完結】デスペナのないVRMMOで一度も死ななかった生産職のボクは最強になりました。
鳥山正人
ファンタジー
デスペナのないフルダイブ型VRMMOゲームで一度も死ななかったボク、三上ハヤトがノーデスボーナスを授かり最強になる物語。
鍛冶スキルや錬金スキルを使っていく、まったり系生産職のお話です。
まったり更新でやっていきたいと思っていますので、よろしくお願いします。
「DADAN WEB小説コンテスト」1次選考通過しました。

日本列島、時震により転移す!
黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。
『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?
釈 余白(しやく)
ファンタジー
HOT 1位!ファンタジー 3位! ありがとうございます!
父親が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。
その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。
最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。
その他、多数投稿しています!
https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる