魔王の右腕、何本までなら許される?

おとのり

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第2章 謎は霧の中に

Ver.3/第23話

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 天井に空いていた穴に潜り込むと、そこはちゃんとした通路であった。
「屋根裏、って雰囲気じゃないな」
 薄暗さはあるが見通せないほどでもなく、人が通るのにじゅうぶんな広さも確保されている。キャットウォークというほど簡易な足場でもなく、不思議な空間だった。
 逃げていった謎の人物を追いかけ、移動を開始する。

「行き止まり?」
 いくつもの曲がり角を右に左に上に下に進んでいくと、突き当たりで小部屋にたどり着いた。しかし、そこに逃げ込んだはずの人物は見当たらない。
 一本道であったので、すれ違っていることもないはずだ。
「途中で〈発見〉に引っかからない隠し通路でもない限り、見逃すはずはない。って、ことは、どこかに仕掛けがあるのかな?」
 長い通路は、謎の館をぐるぐると取り囲むように伸びていた。というのも、行く先々で小さな穴が見つかり、おそらく全ての部屋を覗き見ることができたからである。つまりは、逃げ去った何者かによって監視されていたのだろう。
 たどり着いた部屋の中をぐるりと見渡す。
 こんなシチュエーションでもなければ、風光明媚な場所にあるロッジを思わせる落ち着いた雰囲気の部屋だった。
 ロッキングチェアに大きな暖炉があり、足が沈み込みそうな感覚がある分厚い絨毯が敷かれている。壁には獅子の頭飾りがかけられ、部屋の片隅にはフルプレートの鎧が展示されている。
 調べる場所は多くなく、まずは絨毯をどかして床を確かめてみたが何もなかった。
 ロッキングチェアにも不審な点はなく、フルプレートの飾り鎧も、重いだけで簡単には動かせそうにないことがわかっただけだった。
「ん? この暖炉、使ってる形跡がないな」
 薪を燃やして暖を取るはずなのに、薪どころか灰すら見当たらない。よくよく観察してみると、煙が抜けるはずの煙突も塞がっていることがわかった。
「マリー。この先に行けないか見れるか?」
「ん? いいよー」
 ハルマの問いかけに、マリーは暖炉の奥に消えると、すぐに戻ってきた。
「奥には何もないけど、下にハシゴがあるよ」
「下か……」
 マリーが首から上だけを出した場所を拳で軽く叩いてみる。
 しかし、残念ながら、そこまで繊細な反応は期待できないようである。
「どうにかして、ここを開けないといけないのか……」
 目的地はわかった。後は手段である。
「ま、怪しいのは、後はこれだけだもんな」
 調べ終わっていないものは、壁にかけられた獅子の頭飾りだけだ。
 立派な獅子の銅像は、静かな眼差しで部屋の中を見守っているようでもある。
「牙が動かせる……」
 閉じた口からはみ出していた2本の牙の1本に触ったところで、それに気づく。
 牙は2本とも動かすことができ、手前に軽く引っ張るだけで下アゴが動き出し、壁の奥へと引っ込んでいった。
「レバー?」
 口の中から出てきたのは、鎖に吊るされた棒だった。
「まあ、引っ張ればいいんだろうな」
 それ以外にやれそうなこともなかったので、引っ張ってみる。
 ……が。
「ビクともしねえ」
 全体重を乗せるように引っ張ってみて、ようやく2~3センチ動かせた程度だった。
 しかし、それでも暖炉に変化が起こった。
「これと、あそこが連動してるのは間違いないな」
 ゆっくりと戻るレバーの動きに合わせて、暖炉の床も閉まっていくのだ。
 単純にSTRが足らないのかと思い、〈覆面〉を使ってワーウルフになって再度試してみたが、結果に変化は起こらない。
「いー? 単純にSTRの問題じゃない、ってことか」
 今のハルマのSTRは1000を超えている。この状態でSTR不足では、他のどのプレイヤーでも解決できないだろう。
「ええぇー? 一度戻って、ヒントか何か探さないとダメっぽいか?」
 パワー不足でないとしたら、特殊な条件が必要なのであろう。
 その条件になるアイテムが、すっ飛ばしてきたどこかの部屋に置かれている可能性も否定できない。
「いや。でもな……」
 この隠しルートを使っていたのは監視者である。
 そんな者が複雑な仕掛けを使うだろうか?
 何より、ハルマの勘が、このルートは独立した特殊なクエストであると告げている。本来の謎解き脱出ゲームとは切り離して考えても、いや、考えた方が正解にたどり着ける気がしていたのだ。
「うん。やっぱり、これは、ここだけで完結する仕掛けな気がする」
 引き返しかけた足を再び戻し、改めて部屋の中を見回した。
 何の道具も使わずとも、わずかであるが動かせた。しかし、STRは関係なさそうである。
 では、何が必要?
 視界の端では制限時間を告げるカウントダウンが進んでいるが、あまり焦りはなかった。というのも、まだたっぷり時間が残っているからである。
 ハルマはロッキングチェアに腰掛け、ユラユラ揺れながら考えを巡らせるのだった。
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