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第1章 新たな一歩

Ver.3/第2話

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 新たな魔王スキルの取得を保留したところで何をしようかと手が止まる。
 世間では〈魔王イベント〉の興奮が収まらないうちに、〈大魔王イベント〉開催の告知がされたことで、益々熱気で溢れていた。
 ハルマも、当然意識はしている。
 しているのだが、どちらかといえば自分が選ばれてしまうかもしれないという困惑の方が強かった。
 ルールにもよるだろうが前回と今回の〈魔王イベント〉である程度戦える自信はついていた。しかし、所詮は生産職プレイヤーである。
 ステータスもDEXにしか注力しておらず、ちょっとでも攻撃が当たれば、すぐに死んでしまう貧弱さであることも自覚している。
 いかにソロプレイヤーとして異例な数の仲間を従えているとはいえ、テイムモンスターが当たり前となった今、数で押し切られるとどうしようもないだろう。
 何しろ、今回の〈魔王イベント〉では3人以下のパーティメンバーで参加していたのはハルマとモカのふたりだけなのだ。
 ほとんどが5人以上のパーティでの参加であり、そこにテイムモンスターも加わった編成での魔王軍ばかりだったのである。
 逆にいえば、ソロプレイヤーのふたりが〈魔王イベント〉の予選で1位と2位であることの異常さが際立っていたのだが……。

「最近、アウィスリッドにも他の人がポツポツ増えてきたもんなー」
 少し前までは、ニノエに出会ったアウィスリッド地方はハルマしか入れないエリアだったのだが、テイムモンスターが育ってきたことで塞き止めていたエリアボスのフォリートレントの討伐も可能になってきたのだ。
 レベルが50以上になるまでは通れないだろうと思われていたエリアであったが、まだまだ50には程遠い時期であるにも関わらず変化が起こったということは、それだけテイムモンスターによる変化が大きいということだろう。
 とはいえ、PVP解禁エリアであっても、ハルマが頻繁に向かっていたのは、他のプレイヤーに遭遇することがなく、仲間達と気ままに探索できていたからという理由以外にない。その気軽さがなくなってしまったら、PVPの危険性がある歩きにくいエリアでしかなくなっていたのだ。
「ズキンとニノエは、ハロウィンイベントのアイテムで顔を隠せたけど、他のメンバーはバレちゃったもんなあ。まあ、ラフもヤタジャオースも出さずに勝てるほど甘くはないだろうから、仕方ないけど」
 テイムモンスターの登場で、フィールドを歩き回っていても目立つことはなくなっていたが、不落魔王と特徴が一致するプレイヤーとなると思わぬ騒動に巻き込まれかねない。
 むろん、迷惑行為に対してはペナルティスキルの存在が抑止効果となって、悪い噂を耳にすることもないので考え過ぎだとは思うようになってきている。
 それでも、しばらく考え込んだ後でフレンドチャットをつなげていた。
「おう。珍しいな。どうした?」
 つながった先は、親友のチップである。
 チップ達も〈大魔王イベント〉の権利は持っているが、現在の目標は次の〈魔王イベント〉出場であるため、今はテイムモンスターの更なる育成に励んでいるようだ。
「ちょっと訊きたいんだけど、他の人が進んでなさそうなエリアで、俺が入れそうな所ってないかな?」
 ハルマの結論は、アウィスリッド地方に代わるエリアを目指すことだった。これには、前々から探しているハイブリッドポーションの素材を見つけるという目的も含まれている。
「随分、難易度高い要求だな」 
 チャットの先のチップからは、苦笑いが伝わってくる。
 それでも、時間がかからずに返答があった。
「そうだなあ。ハルマだったら土の大陸のロシャロカの先には行けるんじゃね? オレ達の知らない攻撃パターンがどんな感じなのかわからんから、絶対とは言い切れないけど。他の場所だと、魔法や特殊攻撃系のボスがほとんどだから、難しいかも」
「ロシャロカ?」
 初めて聞く地名に首を傾げる。
「え? もしかして、まだアスティエラも抜けてなかったのか?」
「あー。あそこの先がロシャロカなのか。わかった。とりあえずアスティエラに行ってみるよ」
 基本的に攻略スピードは遅い。アウィスリッド地方に進んでいたのは、ただの気まぐれであり、エリアボスを次から次に倒していくというタイプのプレイヤーではないのだ。
「はいよ。気をつけて行ってこい。まあ、ハルマならアスティエラは余裕だよ。ロシャロカも抜けたら、教えてくれよな」
「オッケー。じゃあ、またな」
「おう。またな」
 短い会話が終わると、早速アスティエラに向かうことにするのだった。
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