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第12章 絶望をもたらす者

Ver.2/第93話

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「ぎゃはははははははははははははははははははははは」
 ハルマが本性を現したのを見て、チップは腹を抱えて笑っていた。ハルマの正体を知っていても、いや、知っているからこそ画面越しに見るこの光景は壮観だったのだ。
 最初、笑っていたのはチップだけだったが、次第に、それは広がりをみせていく。ただ、笑いの質は全くの別物で、乾いたものだった。
 ハルマ本人の戦闘力ですら未知数だというのに、どういうわけだか他に9体もの仲間が現れたのだ。
 どれかはテイムモンスターなのだろうが、それにしては多すぎる。
 ズキンとニノエはプレイヤーなのではないかと考える者もいたのだが、ハルマは運営が認めたソロプレイヤーであるので、意味不明なままだった。
 見せかけだけの戦力であれば、「びっくりしたあ」と、微笑ましく眺めていることもできたのだろうが、バフにデバフ、状態異常まで駆使し、ブレスや魔法、物理攻撃でもってトップレベルであろう挑戦者達に何もさせず蹂躙していくのだ。
 結局、ハルマは定位置から一歩も動くことなく、ただ仲間の戦いを見守るだけで戦闘は終わっていた。

 まさに圧倒的!

「なに、アレ?」
 勝者を称えるエフェクトがハルマに向けられると、第2回〈魔王城への挑戦〉の初戦は終了となり、映像はインターバルのものに切り替わった。
 インターバルの間は、Greenhorn-onlineのオープニングムービーが流され、続いて魔王イベントで活躍したプレイヤーによる大魔王戦の告知とともに、特典として、新オープニングムービーに主演できる権利が与えられることが大々的に宣伝される。
 続いて、〈魔王城への挑戦〉の簡単なルールも説明されているのだが、観ている者はほとんどいなかった。
 それは、最初こそ小さなさざ波のようなものだったが、次第に大きなうねりとなってコロシアム全体を包み込む。
「なんだ、あれ! すげーーーー!!」
 唖然としていた者たちも、自分が見た光景を思い出し我に返るとともに、実感をもって信じがたいものを見たという興奮が沸き上がっていく。
 そう、興奮だった。
 体の奥底から、言い知れぬ恐怖を越えて沸き上がるものが、口から声をなって溢れ出す。
 大喝采とともに、想像を超えたハルマの強さに酔いしれていたのだ。
 そして同時に、あれにどうやって勝てというのだ? という、絶望を越えた畏怖の念も改めて植え付けられていた。
「いやー。色んな魔王がいるだろうけど、あれは別格だろ? しかし、あそこまで突き抜けてると、勇者に倒される日がくるのか?」
 魔王とは勇者に倒されるまでが仕事なのではなかろうか? と、口には出さずとも思い描いていた伝統が、ハルマに適用されることがあるのかと一抹の不安が過る者も、少なからずいるようだ。
 
 この後も、あの手この手とハルマに挑戦する者はいたが、ハルマ本人に攻撃を仕掛けることすらできぬまま、全て返り討ちにされ初日を終えることになるのだった。

「おつかれー」
 スタンプの村に戻ってきたハルマを、チップ達が出迎える。
「ただいまー。まあ、俺は例によって何もしてないけどな」
 ハルマはスイッチング機能を使って、見た目を元に戻しながら気の抜けた表情を作る。
「それにしても、今回はまた、派手な作戦にしたのねえ」
 同じく出迎えに参加していたスズコも労いの言葉をかけると、続けていた。
「不本意ながらの参加でしたけど、やるからには負けたくないですからね。チップに相談したら、俺がガードとドレインのコンボを使ってるのを見抜いてるプレイヤーは絶対にいるから、対策した方が良いってアドバイスもらえたんですよ。引き分け狙いだと、どうしたって俺個人の戦力じゃ対抗できませんからね。皆に頼るしかなかったんですよ」
「へー。さすがあたしの弟、わかってるじゃん」
 スズコも珍しく弟を感心した表情で眺める。
 つまり、ハルマが最初の挑戦者と対峙した時に呟いた「見事なものだな」という言葉は、チップに贈られたものだったのである。
「しかし、わからんことがあるのだが?」
「ん?」
「あのカーテン、何だったんだ? それに、どこに皆を隠してたんだよ?」
「〈カーテンコール〉のこと? あれは、ただの〈奇術〉スキルだよ。準備が見えないように10秒だけ目隠ししてくれるんだ。その間はカーテンの外からは干渉できないから緊急避難にも使えるけど、こっちからも相手が何してるか見えないから、そういう目的だと使い勝手は悪いかな? 後は、シャムが〈潜伏〉のスキル持ってるから、最初から俺の回りにいたけど見えてなかっただけ」
「そういうことね。で? ヤタジャオースとシャムが、なんで2体ずついたんだ?」
「あー。ヤタジャオースは魔王スキルの〈贋作〉でコピーしたやつだよ。シャムは、ヒュージシャドースライムに進化した時に〈分裂〉ってスキル覚えたから、それ使ってるだけ。何となく、数が多い方が迫力出るかな? って思って」
「それで、シャムがだいぶ小さかったのか。どんなスキルなんだ?」
 チップだけでなく、他のメンバーも、なるほどと頷いてみせた。シャムの本来の大きさを知らない者からしたら、それでもじゅうぶんな大きさなのだが。
「そのまんまだよ。分裂して2体になって、それぞれ戦ってくれるんだ。ただ、HPとMPは半分になっちゃうけどね」
「そういうことね……」
 事も無げに告げるハルマに対して、チップは苦笑いである。
 ハルマの仲間達の攻撃が厄介なのは、単純にレベルが高いだけではなかった。ブレスや魔法による範囲攻撃が多いため、防御も回避も難しい点にある。しかも、ラフとトワネによってバフとデバフ、状態異常魔法の支援も豊富なため、そこにも注意を払わなければならない。
 シャムがいない時であれば属性の幅も少なかったのだが、シャムが加わったことで、風、水、闇、土と選択肢も広がった。これに、ハルマのファイアーブレスも加わると、光以外はそろってしまう。
 元々、光属性は回復魔法が豊富なため、攻撃魔法は非常に種類が少ない。光属性の対策をしている者は少ないのだが、それでも他の全ての属性に対して耐性を万全にすることは不可能なのだ。
 そのことを理解している面々は、「ああ、今回も全勝するな」と、確信しているのだった。
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