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第12章 絶望をもたらす者
Ver.2/第92話
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扉が開かれ、魔王の間が映し出された。
そこで待ち構えていたのは、ひとりの人物だけだった。
前回のように、薄暗い部屋のいたるところに人形やぬいぐるみが飾られているわけでもなく、フワフワと飛び回っているわけでもない。
ただの質素な空間に、その人物だけがいた。
魔術師のローブをまとい、両手に片手剣を握る人物。その片方の剣は肩に担ぎ、残った片方の剣を挑戦者たちに向けられているが、何かを告げる気配はない。
フードで隠れて顔は見えにくいが、そもそもフードの中はスカルヘルムで覆われてしまっているので骸骨の顔にしか見えず、男性なのかも女性なのかも判別できない。それどころか、頭からは山羊を思わせる歪な形状のツノまで生えているのだ。ただ、前回と違い、異様な雰囲気を更に強調するかのような周囲に漂う霧は立ち込めていなかった。
すぐには戦闘にならない。
今回は魔王城の探索を含めたイベントではないため、開始の合図があるのを待たなければならないのだ。
そこまで含めてインターバルも5分が設定されているのだ。
そうして、規定の時間になった瞬間、開始を報せるSEが高らかに鳴り響いたのだった。
……が。
「ん? どっちも動かないぞ?」
開始の合図は間違いなく鳴ったはずなのだが、どちらも様子見なのか、動き始めないのである。
ハルマの場合は特におかしな行動ではなかった。前回も、自分から攻撃を仕掛けたことはなかったからだ。
おかしいのは、挑戦者の方である。
「やっぱり、そうなるか」
徐々にざわつきが大きなる中、チップはふむふむと何度も頷いて見せた。
「どういうこと?」
「たぶん、ハルマがドレイン持ちなことに気づいたんだよ。だから、自分達から仕掛けないって作戦なんじゃないかな? 引き分けなら、挑戦者の勝利だからな」
アヤネの問いかけに、素直に答える。
「あー。なるほど」
このやり取りをしている、まさに同じ頃、ハルマの立つ魔王の間でも、同じようなやり取りがなされていた。
「悪いけど、アンタがドレイン持ちで、カウンターしか攻撃手段がないのはわかってるんだ。どうやって攻撃を全部ガードできるのかはわからなかったけど、こっちから攻撃を仕掛けなければいいだけの話だ。テイムモンスターもいるだろうけど、こっちは4体もテイムモンスターがいるからな。悪いけど、時間切れまで付き合ってもらうぜ!」
せこいと思う者も多いかもしれない。しかし、それだけハルマに勝つということは大きな意味を持つのだ。
これを見ていた者の中でも、彼らの選択を支持する者は少なくなかったし、中には「先を越されたあ!」と、絶叫する者もいたほどだった。
……と。
そこで、ハルマはようやく口を開いた。
「見事なものだな」
たったひとつの呟き。しかし、その呟きの相手は、目の前の挑戦者に向けられて発せられた称賛ではなかった。
続いて発せられた言葉からが、挑戦者に向けられたものとなる。
「貴様に問おう! 魔王に幹部はつきもの。では、魔王の右腕とは、一体、何本までなら許されるのだろうな?」
「は?」
挑戦者がハルマの問いを理解できない内に、次の行動に移っていた。
「〈カーテンコール〉」
何かのアイテムを使うとともにスキルが発動すると、ハルマを中心に半径5メートルほどを包むように真っ赤なカーテンが下りて姿を隠してしまったのだ。
「はい!?」
突然、何が起こったのかわからないまま、見ていることしかできない挑戦者達。
それは10秒ほど続き、幕が上がっていく。
「い!?」
姿を隠していたカーテンが消えた時、その場にいたのはハルマだけではなかった。ずらりとハルマを取り囲むように、いくつものシルエットが確認できた。
小さな二足歩行の猫。
軽乗用車ほどもある大きな蜘蛛のぬいぐるみ。
ハロウィンイベントで配布されたお面で顔は隠されているが、黒い羽を生やした魅惑的な胸元が目立つ女性。
宙に浮かぶ、ヘビの足を生やしたくらげ。
小さなドラゴンが2体。
エルフ耳の少女も、ハロウィンイベントで交換できたアイテムで顔は隠されている。
そして、大きな黒いスライム。が、2体。
「さあ。絶望というやつを味わうが良い!」
ハルマの一声で、虐殺が始まった。
そこで待ち構えていたのは、ひとりの人物だけだった。
前回のように、薄暗い部屋のいたるところに人形やぬいぐるみが飾られているわけでもなく、フワフワと飛び回っているわけでもない。
ただの質素な空間に、その人物だけがいた。
魔術師のローブをまとい、両手に片手剣を握る人物。その片方の剣は肩に担ぎ、残った片方の剣を挑戦者たちに向けられているが、何かを告げる気配はない。
フードで隠れて顔は見えにくいが、そもそもフードの中はスカルヘルムで覆われてしまっているので骸骨の顔にしか見えず、男性なのかも女性なのかも判別できない。それどころか、頭からは山羊を思わせる歪な形状のツノまで生えているのだ。ただ、前回と違い、異様な雰囲気を更に強調するかのような周囲に漂う霧は立ち込めていなかった。
すぐには戦闘にならない。
今回は魔王城の探索を含めたイベントではないため、開始の合図があるのを待たなければならないのだ。
そこまで含めてインターバルも5分が設定されているのだ。
そうして、規定の時間になった瞬間、開始を報せるSEが高らかに鳴り響いたのだった。
……が。
「ん? どっちも動かないぞ?」
開始の合図は間違いなく鳴ったはずなのだが、どちらも様子見なのか、動き始めないのである。
ハルマの場合は特におかしな行動ではなかった。前回も、自分から攻撃を仕掛けたことはなかったからだ。
おかしいのは、挑戦者の方である。
「やっぱり、そうなるか」
徐々にざわつきが大きなる中、チップはふむふむと何度も頷いて見せた。
「どういうこと?」
「たぶん、ハルマがドレイン持ちなことに気づいたんだよ。だから、自分達から仕掛けないって作戦なんじゃないかな? 引き分けなら、挑戦者の勝利だからな」
アヤネの問いかけに、素直に答える。
「あー。なるほど」
このやり取りをしている、まさに同じ頃、ハルマの立つ魔王の間でも、同じようなやり取りがなされていた。
「悪いけど、アンタがドレイン持ちで、カウンターしか攻撃手段がないのはわかってるんだ。どうやって攻撃を全部ガードできるのかはわからなかったけど、こっちから攻撃を仕掛けなければいいだけの話だ。テイムモンスターもいるだろうけど、こっちは4体もテイムモンスターがいるからな。悪いけど、時間切れまで付き合ってもらうぜ!」
せこいと思う者も多いかもしれない。しかし、それだけハルマに勝つということは大きな意味を持つのだ。
これを見ていた者の中でも、彼らの選択を支持する者は少なくなかったし、中には「先を越されたあ!」と、絶叫する者もいたほどだった。
……と。
そこで、ハルマはようやく口を開いた。
「見事なものだな」
たったひとつの呟き。しかし、その呟きの相手は、目の前の挑戦者に向けられて発せられた称賛ではなかった。
続いて発せられた言葉からが、挑戦者に向けられたものとなる。
「貴様に問おう! 魔王に幹部はつきもの。では、魔王の右腕とは、一体、何本までなら許されるのだろうな?」
「は?」
挑戦者がハルマの問いを理解できない内に、次の行動に移っていた。
「〈カーテンコール〉」
何かのアイテムを使うとともにスキルが発動すると、ハルマを中心に半径5メートルほどを包むように真っ赤なカーテンが下りて姿を隠してしまったのだ。
「はい!?」
突然、何が起こったのかわからないまま、見ていることしかできない挑戦者達。
それは10秒ほど続き、幕が上がっていく。
「い!?」
姿を隠していたカーテンが消えた時、その場にいたのはハルマだけではなかった。ずらりとハルマを取り囲むように、いくつものシルエットが確認できた。
小さな二足歩行の猫。
軽乗用車ほどもある大きな蜘蛛のぬいぐるみ。
ハロウィンイベントで配布されたお面で顔は隠されているが、黒い羽を生やした魅惑的な胸元が目立つ女性。
宙に浮かぶ、ヘビの足を生やしたくらげ。
小さなドラゴンが2体。
エルフ耳の少女も、ハロウィンイベントで交換できたアイテムで顔は隠されている。
そして、大きな黒いスライム。が、2体。
「さあ。絶望というやつを味わうが良い!」
ハルマの一声で、虐殺が始まった。
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