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第8章 聖獣の門

Ver.2/第65話

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 シュンを先頭に、城門に向かって走り出したのをハルマは1拍遅れてついていく。頭の中は、前々から試してみたかったアイデアのことで一杯だったのだ。
「アヤネちゃん、ミコト。やっちゃって! ゴリとシュン君は城門に向かってタゲ(ターゲット)集めて! ハル君は……、って、何それ!?」
 スズコが指揮を執り、ハルマにも弓による支援を要請しようとしたところで動きが止まってしまった。
「え? ああ、これは〈覆面〉ってスキルです」
 ハルマの頭は狼に変化しており、金属弓を構えていた。
「ステータスが変化するスキルなんであんまり使い道ないんですけど、こういう時なら役に立つかな? って思って」
 普段のステータスではSTRが足らずに装備することのできない金属弓だが、狼の覆面を身につけることでワーウルフとなり、STRが1000を軽く超える値になる。この値で装備できないものは今のところ存在しないし、今後も登場する可能性は低いだろう。
 DEXも含めて他のステータスは半減するが、それでも、DEX補正の命中率はかなりの値になるので、この状態でも外すことはないだろう。
 跳ね上がったSTRによって軽く引かれた弓から放たれた矢が、一直線に城門の上を陣取るモンスターに突き刺さり、消滅させたのがその証拠だ。
「え!? 何で届くの!?」
 見た目が変わっただけでも驚かされたというのに、今度は届くはずのない範囲にいるモンスターを射止めてしまったのだ。
 この場の全員の目が丸くなるのも仕方ない。
「あー。それもスキルですよ。〈離れ技〉って、トラップを遠隔設置できるスキルのことは知ってますよね? あれって、射程が延長されるスキルも入ってるんです。いつもはSTR全くないから、あんまり役にも立ちませんけど、この状態だとSTRも1000超えてるので、かなりの距離まで届きますよ?」
 スキル〈離れ技〉の効果は、大きくふたつあった。ひとつがトラップの遠隔設置が可能になるというもので、初期値で5メートル、DEXによって延長するものだ。
 そして、もうひとつが今回活躍している、遠距離物理攻撃の射程が伸びるというものである。これは、初期値で+5メートルあり、STRによって延長し、通常の戦闘エリア外まで延長可能だった。
 STRによる延長も、値1につき5センチ程度なのだが、これが1000を超えると50メートル以上にもなる。初期設定で5メートル追加されているので、加えて55メートルものアドバンテージとなっていたのだ。
 このおかげで、本来届かないはずの場所にいる相手にも、楽々命中しているのである。
「前に、ハロウィンのイベントで遠距離攻撃が上手く使えなくて役に立てなかったじゃないですか? それで、こういうことできたらいいなって、ずっと考えてたんですよ。今回は役に立てて、嬉しいです」
 狼の覆面のせいで表情はよくわからなかったが、嬉しそうな顔をしていることは伝わっていた。
「あ、ああ……。そう、なんだ……。助かるわあ」
 あれよあれよ駆除されるモンスターを眺め、スズコだけでなく、この場の全員が苦笑いを浮かべるのだった。
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