上 下
159 / 276
第8章 聖獣の門

Ver.2/第60話

しおりを挟む
 必死に足を動かすが、AGIが低いため思うように進まない。それでも、初期の頃に比べたらだいぶ早くなったので、鈍足というほどでもない。ただ、鈍いわけではないのだが、夢の中で必死に何かから逃げようとしているのに、全然進めない感覚に似たもどかしさがあった。
 ベアートラップで動きを止めた警備モンスターの目から発せられるライトの範囲ギリギリのスペースを通らなければならない時は、ヒヤヒヤしながら駆け抜ける。
 時には移動しながらトラップを仕掛けなければならないポイントもあり、一発勝負の緊張感に冷や汗が流れる思いだった。
「ふー。何とか、ここまでは来れたな」
 制限時間は半分残っているが、宝物庫までは後一息というところである。
 しかし、その一息が遠かった。
 物理的に遠いわけではなく、警備モンスターの動きのパターンに隙がないのだ。トラップで足止めするにも地形的に半分も届かない。
 どれだけ〈離れ技〉が優秀なスキルであっても、見えない場所には仕掛けられないのだ。
 故に、ハルマが魔王城を設計した時、魔王の間を見晴らしの良い高所にして、全体を視認できるようにしたのである。
「次の安全地帯まで進めればクリアしたも同然なんだけどなあ」
 そこまでのルートに、警備マシンは7体も配置されているのだ。
 この場所から3体は足止めが狙えるが、うち1体はタイミングが悪いと通路にライトが照らされたまま固定されてしまう危険性もあるため、実質2体しか止められそうになかった。
「ここまで来たからには攻略したいもんなー」
 マップに目を向けてはモンスターの動きを確認し、壁から顔を出しては進行ルートのモンスターの動きを視認する。ここまで進んできた感覚と照らし合わせると、タイミングはシビアだが、いけると感じていた。

「まずは、ここの2体」
 ベアートラップを仕掛け、発動することを信じて走り出す。
 時々忘れるのだが、トラップは発動しないことの方が普通なのだ。
 それでも、自分のDEXを信じて動かないと間に合わないのである。
「あれが奥に向かったタイミングで、次のトラップ」
 ブツブツと脳内に組み立てた計画を実行していく。
 そうやって3体、4体と警備モンスターをすり抜け、警備範囲の繋ぎ目である難所へとたどり着いた。
 ここでもたつくと、抜けてきた警備モンスターが戻ってきてしまう。
 しかも、急いで先に進もうとすると、最後の1体にトラップを仕掛ける間もなくかち合ってしまうのだ。
 トラップの効果が切れる恐怖に耐えながら、この先にいる警備モンスターが次のポイントに移動するのを待たなければならない。
 ジリジリとした焦燥感に襲われながら待っていたのだが、ここまでで積もり積もった小さな誤差が、大きな誤差となって現れてしまう。
「まずい! もう動き出した」
 背後の警備モンスターの足を捕えていたベアートラップが消失し、こちらに向かって移動を始めてしまったのだ。ほんの数秒の差であるが、決断が迫られた。
「行くしかねえ!」
 ずんずん迫ってくる警備モンスターをかわせる自信などないので、先に進むしか選択肢はなかったのだ。
 走り出す。
 追いかけてきていた警備モンスターは決められた範囲までしか進まないため、途中で踵を返すが、今度は進行方向に2体の警備モンスターが迫ってきている。
 この2体の足止めは難しくない。
 ハルマは走りながら2つのベアートラップを仕掛け、そのまま走り抜ける。
 しかし、そこまで進んで頭を抱えていた。
「うがー! 次のを止めるタイミングがわからねぇ!」
 このまま進んでしまうと、丁字路を曲がったところで出会い頭に衝突してしまう。それではトラップを仕掛ける余裕もない。それならば、角を曲がる前に待てばいいとなるのだが、そうすると、今度は今トラップで足止めしている2体の警備モンスターが動き出してしまうのだ。
 ハルマは一か八か、インベントリからアイテムを取り出すと、スピードを緩めることなく丁字路を曲がる決断を下すのだった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

Free Emblem On-line

ユキさん
ファンタジー
今の世の中、ゲームと言えばVRゲームが主流であり人々は数多のVRゲームに魅了されていく。そんなVRゲームの中で待望されていたタイトルがβテストを経て、ついに発売されたのだった。 VRMMO『Free Emblem Online』 通称『F.E.O』 自由過ぎることが売りのこのゲームを、「あんちゃんも気に入ると思うよ~。だから…ね? 一緒にやろうぜぃ♪」とのことで、βテスターの妹より一式を渡される。妹より渡された『F.E.O』、仕事もあるが…、「折角だし、やってみるとしようか。」圧倒的な世界に驚きながらも、MMO初心者である男が自由気ままに『F.E.O』を楽しむ。 ソロでユニークモンスターを討伐、武器防具やアイテムも他の追随を許さない、それでいてPCよりもNPCと仲が良い変わり者。 そんな強面悪党顔の初心者が冒険や生産においてその名を轟かし、本人の知らぬ間に世界を引っ張る存在となっていく。 なろうにも投稿してあります。だいぶ前の未完ですがね。

日本列島、時震により転移す!

黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

おじさんが異世界転移してしまった。

明かりの元
ファンタジー
ひょんな事からゲーム異世界に転移してしまったおじさん、はたして、無事に帰還できるのだろうか? モンスターが蔓延る異世界で、様々な出会いと別れを経験し、おじさんはまた一つ、歳を重ねる。

高校では誰とも関わらず平穏に過ごしたい陰キャぼっち、美少女たちのせいで実はハイスペックなことが発覚して成りあがってしまう

電脳ピエロ
恋愛
中学時代の経験から、五十嵐 純二は高校では誰とも関わらず陰キャぼっちとして学校生活を送りたいと思っていた。 そのため入学試験でも実力を隠し、最底辺としてスタートした高校生活。 しかし純二の周りには彼の実力隠しを疑う同級生の美少女や、真の実力を知る謎の美人教師など、平穏を脅かす存在が現れ始め……。 「俺は絶対に平穏な高校生活を守り抜く」 そんな純二の願いも虚しく、彼がハイスペックであるという噂は徐々に学校中へと広まっていく。 やがて純二の真の実力に危機感を覚えた生徒会までもが動き始めてしまい……。 実力を隠して平穏に過ごしたい実はハイスペックな陰キャぼっち VS 彼の真の実力を暴きたい美少女たち。 彼らの心理戦は、やがて学校全体を巻き込むほどの大きな戦いへと発展していく。

陽キャグループを追放されたので、ひとりで気ままに大学生活を送ることにしたんだが……なぜか、ぼっちになってから毎日美女たちが話しかけてくる。

電脳ピエロ
恋愛
藤堂 薫は大学で共に行動している陽キャグループの男子2人、大熊 快児と蜂羽 強太から理不尽に追い出されてしまう。 ひとりで気ままに大学生活を送ることを決める薫だったが、薫が以前関わっていた陽キャグループの女子2人、七瀬 瑠奈と宮波 美緒は男子2人が理不尽に薫を追放した事実を知り、彼らと縁を切って薫と積極的に関わろうとしてくる。 しかも、なぜか今まで関わりのなかった同じ大学の美女たちが寄ってくるようになり……。 薫を上手く追放したはずなのにグループの女子全員から縁を切られる性格最悪な男子2人。彼らは瑠奈や美緒を呼び戻そうとするがことごとく無視され、それからも散々な目にあって行くことになる。 やがて自分たちが女子たちと関われていたのは薫のおかげだと気が付き、グループに戻ってくれと言うがもう遅い。薫は居心地のいいグループで楽しく大学生活を送っているのだから。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

学園の美人三姉妹に告白して断られたけど、わたしが義妹になったら溺愛してくるようになった

白藍まこと
恋愛
 主人公の花野明莉は、学園のアイドル 月森三姉妹を崇拝していた。  クールな長女の月森千夜、おっとり系な二女の月森日和、ポジティブ三女の月森華凛。  明莉は遠くからその姿を見守ることが出来れば満足だった。  しかし、その情熱を恋愛感情と捉えられたクラスメイトによって、明莉は月森三姉妹に告白を強いられてしまう。結果フラれて、クラスの居場所すらも失うことに。  そんな絶望に拍車をかけるように、親の再婚により明莉は月森三姉妹と一つ屋根の下で暮らす事になってしまう。義妹としてスタートした新生活は最悪な展開になると思われたが、徐々に明莉は三姉妹との距離を縮めていく。  三姉妹に溺愛されていく共同生活が始まろうとしていた。 ※他サイトでも掲載中です。

『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる

農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」 そんな言葉から始まった異世界召喚。 呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!? そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう! このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。 勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定 私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。 ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。 他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。 なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。

処理中です...