魔王の右腕、何本までなら許される?

おとのり

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第5章 ダークエルフの集落

Ver.2/第33話

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 湖の中に入って調べてみたいという願望もあったのだが、さすがに踏み止まった。ハルマのDEXに偏ったステータスであっても泳ぎのスキルは難なく取れることは知っている。しかし、水中に連れていける仲間がいないため、単独行動しなければならないのだ。
 マリーだけならついて来られるだろうが、彼女だけでは戦力にならない。当然、ハルマ自身が戦力として期待できない。ユララはくらげである上に、水の大陸の森の守り神であるので水の中の方が得意かもしれないが、残念ながら戦闘面では期待できない。
 トワネの話だと、モンスターがいない可能性も高かったが、この世界の神は基本、どこかポンコツである。
 水神も魔王の手にかかり、力を失っている可能性も大いにあるのだ。
「とりあえず、ここの調査は保留かな? 先に、さっきの滝から調べてみよう」
 このエリアは、大雑把にだが全体を把握できていた。
 あちこちに気になる場所はあったが、全部を一度に回るのは骨が折れる。

 下ってきた川を遡り、滝を目指す。
 落差50メートルほど、幅も15メートルはありそうな大瀑布は、水が叩きつけられる音と風、舞い散る水滴が幻想的な風景を作り出す。
 滝つぼも大きく、水で削られたのかゴツゴツした岩場になっている。
「滝といえば、裏に隠された洞くつだよなー」
 目を凝らすが、水量が多いためよくわからない。
 近寄って確かめてみたいが、流れ落ちる水の勢いも凄まじいために、吹き飛ばされてしまいそうだ。実際、風圧によるノックバックや、水の塊による打撃系のダメージが発生することもあるので、注意しなければならない。
 どこかに近寄れるルートがないかと探していると、それは突然起こった。

「くぁwせdrftgyふじこlp!!」

 余りの驚きに、変な声を出してしまう。
 何しろ、滝の裏側から突如、巨大なナニカが飛び出したのだ。
「なんじゃありゃ!?」
 思ってもいなかったイベントの発生に、ゲームの中であるというのに腰を抜かしそうになる。
「あやつは……。風喰いじゃな」
 ヤタジャオースが教えてくれた。
「風喰い?」
「聞いたことがあります! この大陸の風を喰い、淀んだ空気に変えてしまうという邪竜です!」
「邪竜って……。ヤタジャオースの親戚か?」
「フンッ! あんな下等種に我の気高き血統が混ざっておるはずもないわ」
「あれで下等種なんだ。ヤタジャオース、全盛期はすごかったんだろうなー。でも、永いこと封印されてたんだろ? 育ってるんじゃないか?」
「ふーむ。多少デカくなっておったかの? じゃが、手に負えないほどではなかろう」
 これが見栄なのか、冷静な分析なのか判断がつかないところが困ったところである。
 しかし、ここで思わぬ提案が出された。
「旦那様! ドラゴンです! あれは美味しそうです! 捕まえに行きましょう!」
 ずっと黙って飛び去った風喰いの後姿を目で追っていたズキンが、キラキラした眼差しを向けながら迫ってきたのである。
「えー? 嫌だよお。絶対強いだろ? あいつ」
「そんなあ。あちきも滅多に見せない本気を出しますからあ」
「いや、本気は常に出せよ。それに、ズキンだけ頑張ってもなあ……」
「我は手伝っても良いぞ? どちらが格上か教えてやろう」
「ちょ……。ヤタジャオースまで……」
「ハルマ殿。わたしからもお願いできないでしょうか? あの邪竜のせいで、この大陸の風が淀んでしまうのは、見過ごせないのです」
 ズキンとヤタジャオースの我儘には付き合いきれないと思ったが、トワネからのお願いとなると少し話が変わってしまう。
「おおぅ……。わかったよ。行くよ。行きますよ!」
 こうして、思わぬミッションがスタートしたのだった。
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