魔王の右腕、何本までなら許される?

おとのり

文字の大きさ
上 下
107 / 276
第2章 生と死と

Ver.2/第8話

しおりを挟む
 アイスドラゴンのヤタジャオースを仲間にしてから最初にやったことは、自宅にこもって生産職の研究だった。
 戦闘能力を確認したいとも思ったが、ステータスを見ただけでだいたいの強さはわかるようになってきたので、また時間がある時でいいかと考えたのだ。
 現状、総合的に判断するとズキンよりは能力が低いが、それでもレベル70くらいの強さを持っている。また、STRやINTはすでにズキンよりも高い数値のため、戦闘力だけならもっとも頼りになるだろう。
 ただでさえ過剰な戦力をそろえているというのに、更に戦闘タイプのお供が増えたことで、不落魔王ハルマの軍勢は更に盤石となったといえよう。

「HPとMPを同時に回復するハイブリッドポーションかあ……。ゲームによってあったりなかったりだよな? たぶん。あったとしても切り札的なレアアイテムって感じなことが多いイメージだから、ない可能性の方が高いかなぁ?」
 ただでさえレシピがなければ作れないのである。
 レシピを見つけるか、既存のレシピから発展させ、新たにレシピを生み出すしか方法はない。
 生産職に必要なレシピの入手方法は、いくつかある。
 店で売っているものを買う。
 クエストの報酬として獲得。
 スキル取得時に関連アイテムを作るために獲得。
 職人のランクが上がった際に新規で覚える。
 モンスターのドロップアイテムとして入手する。
 ここまでが一般的な方法である。
 これ以外にも〈陽炎の白糸〉を入手した時のように、専用のアイテムを作るのに必要なレシピを覚えることもある。
 また、職人達の研究によって既存のレシピを発展させ、新レシピを完成させることも可能だった。この場合、特殊な仕様が用意されている。
 特許制度である。
 新レシピを開発すると、運営に特許を申請できるのだ。
 この申請順が一番早ければ特許所有者として認められ、登録したレシピを販売する権利を得る。販売価格も権利所有者が決めることができる。
 ただし、この価格は毎日減少させられる。減少幅は販売状況に左右され、よく売れれば下げ幅は少なく、売れなければ下げ幅が大きくなる。
 欲を出して高価格に設定すると、全く売れずにすぐに底値にまで落ちてしまうというわけだ。むろん、基本的に適正価格で落ち着き、緩やかな減額になった後、役目を終えるまではそれなりの利益を出し続ける。
 それでも、有益なレシピは多少高額になっても売れるため、中には開発したレシピで巨万の富を得ている者もいるほどだ。
 ハルマも、この方法でマリーの髪を整えるためにブラシを開発したことがあるが、テイムモンスターが普及していない現状、需要は見込めないためレシピ化はしていない。しかも、派生したレシピの場合は、基礎となるレシピを覚えていなければ使えないのである。
「ポーションはアルヒ草と水系素材。MPポーションはマギアのつぼみと水系素材。普通に考えると、この両方使うのは間違いないとして、どっちのレシピも同系統の上位アイテムにしか発展しなさそうなんだよなあ」
 レシピの発展には勘と予測が重要と言われる。
 例えば、片手剣のレシピだと〈鉱石系材料と木材系材料〉というのが初歩のものである。この〇〇系という部分が鍵で、同じ木材系材料を使っても、銅のインゴットを使うか、鉄のインゴットを使うかで出来上がる武器が変わってくるわけだ。
 銅のインゴットを使えば銅の剣になるし、鉄のインゴットを使えば鉄の剣になる。そして、それぞれ、銅の剣のレシピ、鉄の剣のレシピとして独立して所有することが可能になり、更に、どの木材系材料を使うかで、別ルートの枝分かれをする可能性を秘めている。また、銅の剣のように初歩中の初歩のアイテムになると、最初から単独でもらえたり、売っていたりするものも多い。
 どの材料をどれだけの数使うべきなのかは、勘と予測、後は、地道な試行錯誤が必要であった。
 また、苦労して出来上がったレシピも、すでに権利所有者のいるレシピだったという可能性もあるため、レシピ開発だけに心血を注ぐ者は多くない。
 ハルマが悩んでいるのも、ポーションのレシピは、あくまでもポーションのレシピであって、HPを回復するための素材しかなく、水系素材にMP回復効果があるものを探さなければならないことに由来する。そんな水系素材があるならば、MPポーションの素材にマギアのつぼみが入ることはないはずなので、可能性はかなり低いということが推測できるのだ。
 MPポーションを元にしたところで、同じことだ。
 シンプルなレシピであるほど、発展させるのは難しいものである。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

Free Emblem On-line

ユキさん
ファンタジー
今の世の中、ゲームと言えばVRゲームが主流であり人々は数多のVRゲームに魅了されていく。そんなVRゲームの中で待望されていたタイトルがβテストを経て、ついに発売されたのだった。 VRMMO『Free Emblem Online』 通称『F.E.O』 自由過ぎることが売りのこのゲームを、「あんちゃんも気に入ると思うよ~。だから…ね? 一緒にやろうぜぃ♪」とのことで、βテスターの妹より一式を渡される。妹より渡された『F.E.O』、仕事もあるが…、「折角だし、やってみるとしようか。」圧倒的な世界に驚きながらも、MMO初心者である男が自由気ままに『F.E.O』を楽しむ。 ソロでユニークモンスターを討伐、武器防具やアイテムも他の追随を許さない、それでいてPCよりもNPCと仲が良い変わり者。 そんな強面悪党顔の初心者が冒険や生産においてその名を轟かし、本人の知らぬ間に世界を引っ張る存在となっていく。 なろうにも投稿してあります。だいぶ前の未完ですがね。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】VRMMOでチュートリアルを2回やった生産職のボクは最強になりました

鳥山正人
ファンタジー
フルダイブ型VRMMOゲームの『スペードのクイーン』のオープンベータ版が終わり、正式リリースされる事になったので早速やってみたら、いきなりのサーバーダウン。 だけどボクだけ知らずにそのままチュートリアルをやっていた。 チュートリアルが終わってさぁ冒険の始まり。と思ったらもう一度チュートリアルから開始。 2度目のチュートリアルでも同じようにクリアしたら隠し要素を発見。 そこから怒涛の快進撃で最強になりました。 鍛冶、錬金で主人公がまったり最強になるお話です。 ※この作品は「DADAN WEB小説コンテスト」1次選考通過した【第1章完結】デスペナのないVRMMOで〜をブラッシュアップして、続きの物語を描いた作品です。 その事を理解していただきお読みいただければ幸いです。

転生したら第6皇子冷遇されながらも力をつける

そう
ファンタジー
転生したら帝国の第6皇子だったけど周りの人たちに冷遇されながらも生きて行く話です

【完結】デスペナのないVRMMOで一度も死ななかった生産職のボクは最強になりました。

鳥山正人
ファンタジー
デスペナのないフルダイブ型VRMMOゲームで一度も死ななかったボク、三上ハヤトがノーデスボーナスを授かり最強になる物語。 鍛冶スキルや錬金スキルを使っていく、まったり系生産職のお話です。 まったり更新でやっていきたいと思っていますので、よろしくお願いします。 「DADAN WEB小説コンテスト」1次選考通過しました。

日本列島、時震により転移す!

黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?

釈 余白(しやく)
ファンタジー
HOT 1位!ファンタジー 3位! ありがとうございます!  父親が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。  その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。  最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。 その他、多数投稿しています! https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394

処理中です...