上 下
106 / 276
第2章 生と死と

Ver.2/第7話

しおりを挟む
「え!? ハルちゃん、また増えたの?」
〈魔王城への挑戦〉の直前にハルマの村を仮拠点にしてから、モカはずっと居座っていた。本人曰く「だって、居心地いいんだもん」だそうである。
 そんなモカに、スタンプの村に戻ってきたところで出くわしたので、ヤタジャオースを紹介しておく。
「いやー。もっと別のものがあると思ってたんですけどね」
 ダミーで用意されていた宝箱の中身が魔法書だったこともあり、魔法職向きの何かが封印されていると予想していたのである。しかし、よくよく考えてみれば、魔法職にSTRを要求するわけもないので、出発点から間違っていたのだ。
 それでも、その思い込みが良くも悪くも物事を動かすのだから、何が吉と出るがわからないものである。
「今度は正統派のドラゴンですか。そろそろ巨大ロボあたりでも連れてくると思ってたけど、それはまだ?」
「いや。何言ってるんですか? これ以上そう簡単にポンポン増えるわけないですよ。だいたい、巨大ロボはこの世界観だとダメじゃないです? マシン系のモンスターはいるみたいですけど」
「なーに言ってるのよお。次から次にポンポン増やしておいてっ! まあ、巨大ロボは確かに合わないか」
 モカはイヒヒと笑ったかと思ったら、真面目な顔になって納得してみせる。
 普通であれば、この後一緒にどこか行こうか? と、なることが多いのだろうが、ふたりともソロプレーが染みついていることもあり、このまま別のことを始めるためにその場でわかれることになった。

 ただ、その前にひとつ頼まれる。

「そうだ。ハルちゃんってHPとMPを同時に回復できるポーション、作れない?」
「あれば便利でしょうけど、見たことないですねえ」
「やっぱりないのかなあ? うち、戦い方が雑だから、気づいた時にはヤバいことが多いんだよねぇ」
「なんか……、想像できます」
 そもそもモカは、現実世界では激しい運動が苦手だという理由からGreenhorn-onlineを始めていた。
 運動音痴というわけではない。むしろ、彼女は運動神経は良い方なのだが、胸がデカい、というシンプルな理由が存在した。
「ちょっと走るだけでコレが千切れそうなほど暴れるわけよ。それだけでも泣くほど痛いのに、男どもだけじゃなくて、女からも羞恥の視線で眺められるんだよ? そりゃ、運動なんかしたくなくなるわよ。その点、この体だと無茶苦茶に動いてもコレが暴れないんだから、気持ち良いわよー」
 自分の胸を両手で鷲掴みしながら、圧倒的多数に理解不能なことを愚痴られ、ハルマも困ったものである。ちなみに、他のプレイヤーの体には触ることはできないので、すり抜けてしまう。自身の体は触ることができるのだが、形状が変化するほど摘まんだり引っ張たりはできない。
 戦闘中であれば相手に触ることも可能なのだが、それは装備品同士がぶつかる場合に限られるので、掴んで放り投げる、というようなことはスキルを使わなければできない。NPCの場合も基本は同じなのだが、スキルなどがなくとも肩に止まったり、トワネに乗れたりするので、だいぶ融通が利くようである。
 何はともあれ、そういった理由もあったせいで、モカの戦い方は派手なのだ。
 とにかく良く動く。ストレス発散とばかりに暴れ回る。
 自分がダメージを受けるのも気にせず攻撃し続けるのだから、ちょっと戦いが長引くと深刻なダメージを受けていることがあるのだ。
「ハイブリッドポーションは俺も興味あるので、探してみますね」
「そうしてくれると助かる。見つかったらお願いねー」
「はーい」
 こうしてハルマに、目標がひとつ追加されたのだった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

アイドルグループの裏の顔 新人アイドルの洗礼

甲乙夫
恋愛
清純な新人アイドルが、先輩アイドルから、強引に性的な責めを受ける話です。

💚催眠ハーレムとの日常 - マインドコントロールされた女性たちとの日常生活

XD
恋愛
誰からも拒絶される内気で不細工な少年エドクは、人の心を操り、催眠術と精神支配下に置く不思議な能力を手に入れる。彼はこの力を使って、夢の中でずっと欲しかったもの、彼がずっと愛してきた美しい女性たちのHAREMを作り上げる。

最前線攻略に疲れた俺は、新作VRMMOを最弱職業で楽しむことにした

水の入ったペットボトル
SF
 これまであらゆるMMOを最前線攻略してきたが、もう俺(大川優磨)はこの遊び方に満足してしまった。いや、もう楽しいとすら思えない。 ゲームは楽しむためにするものだと思い出した俺は、新作VRMMOを最弱職業『テイマー』で始めることに。 βテストでは最弱職業だと言われていたテイマーだが、主人公の活躍によって評価が上がっていく?  そんな周りの評価など関係なしに、今日も主人公は楽しむことに全力を出す。  この作品は「カクヨム」様、「小説家になろう」様にも掲載しています。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

天日ノ艦隊 〜こちら大和型戦艦、異世界にて出陣ス!〜 

八風ゆず
ファンタジー
時は1950年。 第一次世界大戦にあった「もう一つの可能性」が実現した世界線。1950年4月7日、合同演習をする為航行中、大和型戦艦三隻が同時に左舷に転覆した。 大和型三隻は沈没した……、と思われた。 だが、目覚めた先には我々が居た世界とは違った。 大海原が広がり、見たことのない数多の国が支配者する世界だった。 祖国へ帰るため、大海原が広がる異世界を旅する大和型三隻と別世界の艦船達との異世界戦記。 ※異世界転移が何番煎じか分からないですが、書きたいのでかいています! 面白いと思ったらブックマーク、感想、評価お願いします!!※ ※戦艦など知らない人も楽しめるため、解説などを出し努力しております。是非是非「知識がなく、楽しんで読めるかな……」っと思ってる方も読んでみてください!※

社畜だけど異世界では推し騎士の伴侶になってます⁈

めがねあざらし
BL
気がつくと、そこはゲーム『クレセント・ナイツ』の世界だった。 しかも俺は、推しキャラ・レイ=エヴァンスの“伴侶”になっていて……⁈ 記憶喪失の俺に課されたのは、彼と共に“世界を救う鍵”として戦う使命。 しかし、レイとの誓いに隠された真実や、迫りくる敵の陰謀が俺たちを追い詰める――。 異世界で見つけた愛〜推し騎士との奇跡の絆! 推しとの距離が近すぎる、命懸けの異世界ラブファンタジー、ここに開幕!

転生墓守は伝説騎士団の後継者

深田くれと
ファンタジー
 歴代最高の墓守のロアが圧倒的な力で無双する物語。

処理中です...