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第12章 魔王城への挑戦 後編
Ver.1/第93話
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――最後の戦いが始まる少し前。
魔王城の門前に降り立った3人。
オートマッチングによる初顔合わせのため、まずは挨拶から始まり、役割を簡単に説明する。
即席でパーティを組むため、重要になる部分、5分という限られた時間内ですり合わせなければならないのだ。
何しろ、これから向かうのは、この最終戦を残して、唯一無敗を続けている魔王だからだ。
自分たちも腕には自信がある。
そうでなければ、わざわざ最後にこの魔王城を選んだりしなかっただろう。
ランダムな組み合わせになるオートマッチングだからではなく、3人の特徴は似ていた。つまり、通常であれば非常にバランスが悪い。
3人とも前衛の物理攻撃主体のプレイヤーなのだ。
「俺、剣道3段っす。県大会優勝経験あります。全国でもベスト8っす」
「私はフェンシングのインターハイ3位入賞が最高」
「オレはボクシングやってる。ランキングは低いけど、いちおうプロ」
それぞれが「おー」と、互いの実績を感心し合う。
両手剣戦士、片手剣戦士、ツメ武闘家。普段であれば回りのサポートを受けることで、より強力な戦いができる者たちなのだが、この魔王城では許されない。
何しろ、魔王の間にたどり着くまでに、どんなに頑張ってもMPが枯渇してしまうのだ。MPがなければ、ほとんどのスキルも魔法も使えない。
そのため、魔法職の挑戦者は途中からいなくなってしまい、スキルに頼った戦い方しかできない者も、同じく役に立てないからと入る前に諦めてしまっている。
事前に発表された魔王のコメント欄にあった「魔法職の人は来ない方がいいと思います」という、挑発ともブラフとも取れる注釈に、最初のうちは魔法が苦手なのだろうと挑んだ者もいたのだが、それが本当にただの忠告だと知らされるだけに終わっていた。
スキルも魔法も使えないとなると、あとは己の実力に頼るしかなくなる。これまで積み重ねた戦い方を否定された気分になり、不満を持つ者もいたが、そこに惹かれる者も多かった。
スキルに依存しない攻撃は、単純にプレイヤースキルの質が問われるからである。
「絶対に一撃入れるぞ!」
剣道戦士が声を上げると、連れになったふたりが苦笑いする。
「そこは、絶対倒すぞ! じゃないのか? いや、気持ちはわかるけど……」
「そこは……。だって、ねえ?」
城門が開く直前、3人は乾いた笑い声を上げていた。
魔王城の門が開かれ、3人は奥へ進み始める。
その様子をハルマは、魔王の間から見下ろしていた。
城の造りは、モカを除けば最もシンプルな造りであろう。配下のいる城の場合は、選択の扉、振り分けの天秤、瞬転の魔法陣、探索の扉といった仕掛けを用意されているのだが、魔王だけの城の場合は使えない。
選択の扉は、2つ並んだ扉のどちらかを挑戦者が先に選び、選んだ扉に進むと後戻りできない仕掛けである。全員で同じ扉を進むか、わかれるかを選択しなければならない。
振り分けの天秤は、高低差のあるルートに使われ、人数差をつけて天秤に乗ることで上下どちらにも進むことができるが、どちらが正解のルートなのかは当然わからない。
瞬転の魔法陣は、魔法陣トラップと同じものであり、別の場所に飛ばされてしまうものだ。これは、飛ばす人数を設定できるため、パーティを分断させることも可能だった。
探索の扉は、カギのかかった扉であり、どこかに隠されたカギを探し出さなければ先に進むことができないものだ。
いずれも挑戦者を分断させ、迷わせることを目的に配置される。
そこにきて、ハルマの城に仕掛けられたトラップは、これ以上に豊富だった。
一定時間拘束されてしまう上に、ダメージとAGI低下を同時に食らってしまうベアートラップ。
ゴブリン達を壊滅させた、HPドレインを仕込んだ魔法陣とまきびしのコンビネーション。
ダメージと共に状態異常を引き起こす矢を仕込んだ飛び矢。
罠の定番、踏み潰されると即死級のダメージを受ける鉄球落とし。
などなどなど……。
中でも厄介だったのが、MPドレインを仕込んだ魔法陣トラップである。
しかも、ある程度トラップの設置場所が漏れても、トラップを回避することは困難だった。それどころか、情報が出回れば出回るほど、ハルマの思うツボだったのである。
なにせ、〈離れ技〉を使って挑戦者が攻略して回ってるさなかに追加で仕掛けているのだから、毎回変わるのだ。
「ああ! またMP吸われた!」
「くそっ! このタイミングでモンスターかよ!」
スキル〈トラップ〉がⅢに成長したことで罠の性能は上がり、本来の3回分のMPドレインが1度に発動するのである。いくらハルマのINTが低いとはいえ、かなりの量が消失してしまう。
ごっそり吸われたMPを放置すると、モンスターに消耗させられる。MPポーションを使って回復しても、すぐに次のMPドレインの魔法陣に持っていかれる。多くのプレイヤーは、ゼロになったMPを1度でも全回復させると、MPポーションは制限数を使い果たしてしまうのだ。
自然回復に頼ろうとしても、この魔王城の制限時間は30分しかないのである。1分間に1しか回復しない以上、非常に心許ない。
MPポーションを節約して進もうとしても、他のトラップで消耗させられたところでモンスターに襲われるのだ。HPもMPも消耗した状態では魔王と戦う前に全滅しかねない事態に陥ってしまう。
そうやって魔王の間にたどり着く頃には、魔法職でMPが豊富にある者ですら、すっからかんになってしまうのだ。
スキルも魔法も使えなければ、後は通常攻撃に頼るしかなくなる。
当然、ハルマはガード率100%なので、全てガードしてしまう。
ハルマ本人でさえ「ひどい手口だな」と、思っているのだが、挑戦者視点だと全く違って見えていた。
本人は無自覚だったが、何も知らない者からしたら、未知の魔王がそこにはいたのだ。
魔王城の門前に降り立った3人。
オートマッチングによる初顔合わせのため、まずは挨拶から始まり、役割を簡単に説明する。
即席でパーティを組むため、重要になる部分、5分という限られた時間内ですり合わせなければならないのだ。
何しろ、これから向かうのは、この最終戦を残して、唯一無敗を続けている魔王だからだ。
自分たちも腕には自信がある。
そうでなければ、わざわざ最後にこの魔王城を選んだりしなかっただろう。
ランダムな組み合わせになるオートマッチングだからではなく、3人の特徴は似ていた。つまり、通常であれば非常にバランスが悪い。
3人とも前衛の物理攻撃主体のプレイヤーなのだ。
「俺、剣道3段っす。県大会優勝経験あります。全国でもベスト8っす」
「私はフェンシングのインターハイ3位入賞が最高」
「オレはボクシングやってる。ランキングは低いけど、いちおうプロ」
それぞれが「おー」と、互いの実績を感心し合う。
両手剣戦士、片手剣戦士、ツメ武闘家。普段であれば回りのサポートを受けることで、より強力な戦いができる者たちなのだが、この魔王城では許されない。
何しろ、魔王の間にたどり着くまでに、どんなに頑張ってもMPが枯渇してしまうのだ。MPがなければ、ほとんどのスキルも魔法も使えない。
そのため、魔法職の挑戦者は途中からいなくなってしまい、スキルに頼った戦い方しかできない者も、同じく役に立てないからと入る前に諦めてしまっている。
事前に発表された魔王のコメント欄にあった「魔法職の人は来ない方がいいと思います」という、挑発ともブラフとも取れる注釈に、最初のうちは魔法が苦手なのだろうと挑んだ者もいたのだが、それが本当にただの忠告だと知らされるだけに終わっていた。
スキルも魔法も使えないとなると、あとは己の実力に頼るしかなくなる。これまで積み重ねた戦い方を否定された気分になり、不満を持つ者もいたが、そこに惹かれる者も多かった。
スキルに依存しない攻撃は、単純にプレイヤースキルの質が問われるからである。
「絶対に一撃入れるぞ!」
剣道戦士が声を上げると、連れになったふたりが苦笑いする。
「そこは、絶対倒すぞ! じゃないのか? いや、気持ちはわかるけど……」
「そこは……。だって、ねえ?」
城門が開く直前、3人は乾いた笑い声を上げていた。
魔王城の門が開かれ、3人は奥へ進み始める。
その様子をハルマは、魔王の間から見下ろしていた。
城の造りは、モカを除けば最もシンプルな造りであろう。配下のいる城の場合は、選択の扉、振り分けの天秤、瞬転の魔法陣、探索の扉といった仕掛けを用意されているのだが、魔王だけの城の場合は使えない。
選択の扉は、2つ並んだ扉のどちらかを挑戦者が先に選び、選んだ扉に進むと後戻りできない仕掛けである。全員で同じ扉を進むか、わかれるかを選択しなければならない。
振り分けの天秤は、高低差のあるルートに使われ、人数差をつけて天秤に乗ることで上下どちらにも進むことができるが、どちらが正解のルートなのかは当然わからない。
瞬転の魔法陣は、魔法陣トラップと同じものであり、別の場所に飛ばされてしまうものだ。これは、飛ばす人数を設定できるため、パーティを分断させることも可能だった。
探索の扉は、カギのかかった扉であり、どこかに隠されたカギを探し出さなければ先に進むことができないものだ。
いずれも挑戦者を分断させ、迷わせることを目的に配置される。
そこにきて、ハルマの城に仕掛けられたトラップは、これ以上に豊富だった。
一定時間拘束されてしまう上に、ダメージとAGI低下を同時に食らってしまうベアートラップ。
ゴブリン達を壊滅させた、HPドレインを仕込んだ魔法陣とまきびしのコンビネーション。
ダメージと共に状態異常を引き起こす矢を仕込んだ飛び矢。
罠の定番、踏み潰されると即死級のダメージを受ける鉄球落とし。
などなどなど……。
中でも厄介だったのが、MPドレインを仕込んだ魔法陣トラップである。
しかも、ある程度トラップの設置場所が漏れても、トラップを回避することは困難だった。それどころか、情報が出回れば出回るほど、ハルマの思うツボだったのである。
なにせ、〈離れ技〉を使って挑戦者が攻略して回ってるさなかに追加で仕掛けているのだから、毎回変わるのだ。
「ああ! またMP吸われた!」
「くそっ! このタイミングでモンスターかよ!」
スキル〈トラップ〉がⅢに成長したことで罠の性能は上がり、本来の3回分のMPドレインが1度に発動するのである。いくらハルマのINTが低いとはいえ、かなりの量が消失してしまう。
ごっそり吸われたMPを放置すると、モンスターに消耗させられる。MPポーションを使って回復しても、すぐに次のMPドレインの魔法陣に持っていかれる。多くのプレイヤーは、ゼロになったMPを1度でも全回復させると、MPポーションは制限数を使い果たしてしまうのだ。
自然回復に頼ろうとしても、この魔王城の制限時間は30分しかないのである。1分間に1しか回復しない以上、非常に心許ない。
MPポーションを節約して進もうとしても、他のトラップで消耗させられたところでモンスターに襲われるのだ。HPもMPも消耗した状態では魔王と戦う前に全滅しかねない事態に陥ってしまう。
そうやって魔王の間にたどり着く頃には、魔法職でMPが豊富にある者ですら、すっからかんになってしまうのだ。
スキルも魔法も使えなければ、後は通常攻撃に頼るしかなくなる。
当然、ハルマはガード率100%なので、全てガードしてしまう。
ハルマ本人でさえ「ひどい手口だな」と、思っているのだが、挑戦者視点だと全く違って見えていた。
本人は無自覚だったが、何も知らない者からしたら、未知の魔王がそこにはいたのだ。
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