魔王の右腕、何本までなら許される?

おとのり

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第11章 魔王城への挑戦 前編

Ver.1/第85話

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 魔王イベント〈魔王城への挑戦〉の詳細が発表された当日、学校から帰り、いつものようにログインすると、珍しい人物からチャットが飛んできた。
「ハルちゃん! 助けて!」
「ふぇ? モカさん? どうしたんですか?」
「何だかわからないけど、色んな人に追われてる!」
「はい? 状況がさっぱりわかりませんが、とりあえずパーティ組んでください。転移オーブにスタンプの村ってのがあるので、そこに飛んでもら……」
「わかった!」
 ハルマの説明もそこそこに、モカは操作を終わらせてしまったらしい。
 よっぽど慌てているのだろうと、そのまま家の外で待っていると、ほどなくしてモカが転移してきた。モカと会うもの〈ゴブリン軍の進撃〉以来なので、ひと月ぶりくらいである。
「追っ手は!? いないよね?」
 モカは転移して早々、周囲を警戒する。
「大丈夫ですよ。ここは俺の村なんで、登録してる人かパーティメンバーしか入れない別鯖です」
「え!? ハルちゃんの村なの? そういえば、スズコとミコトちゃんがそんな話してたな。こんなに立派とは思ってなかったよ。お! その子が噂のマリーちゃんだね。それに、前は見なかった付属品? も、増えてる?」
 相変わらずニッシッシといった笑顔が気持ちイイ。
「そういえば、マリーを見るのは初めてでしたね。あと、くらげの方はユララっていいます」
「いやー。あの時は急に仲間が増えたからびっくりしたよ。この子も手伝ってくれてたんだよね? ユララちゃんもよろしくー」
「そうですよ。頼れる味方です」
「えへへー。マリー頼られてる」
「お初にお目にかかります。ユララと申します。以後、お見知りおきを」
「あははっ、どっちもかーわいいー」
 モカは瞬時にNPC達と打ち解けてしまったらしい。やはり、どことなくハルマに近しい雰囲気があるのだろう。
「それで、何をやらかして追いかけ回されてるんですか?」
「え!? 失礼だなー。うちは何もしてないよ? たぶん。ログインして町を散策してたら、急に追いかけられるようになっちゃっただけで」
「何それ、怖い」
「でしょー? うちもさすがにパニックになって、あちこち逃げ回ったんだけど、行く先々で似たようなことになって困ってたんだよね。ホントに助かったよー。ありがとう」
「おかしいですね? そういう行為って、ペナルティスキル押し付けられそうな事案だから、だいたい自重するはずなのに……」
 ハルマも腕を組んで首を傾げる。
 こういう時は、世間の情報に明るい人物を呼ぶのが手っ取り早いと判断し、チップにチャットを飛ばして来てもらうことになった。

「お久しぶりです、モカさん」
「久しぶり! 急に悪いね」
「いや、大丈夫っす。だいたいの事情はわかったんで」
「「ホントに!?」」
「簡単な話ですよ。っていうか、反射的に逃げないで話を聞いていれば、ややこしいことになってなかったんじゃないですかね?」
「ほえ?」
「モカさんが、魔王だからですよ。〈魔王城への挑戦〉のイベントルールが発表されて、魔王の配下になりたいプレイヤーが志願しにきたんだと思いますよ? オレたちと違って、モカさんは有名だから。たぶん、話も聞かずに爆走して逃げちゃったんですよね? モカさんのAGI半端ないから、事情を説明したくても、生産職系の人だと追いつけなかっただけじゃないですかね?」
 そう。ハルマの用意した高性能の回復薬のおかげもあって、チップ達もギリギリ190位台にランクインして何とか魔王の資格を得ていた。運営推薦枠が何人いるのか不明だったため、発表されるまで気が気ではなかったらしい。
「あー、なるほど。確か、ルールだと60人まで登録できるもんね」
「そういうこと。ハルマと違って、選ばれてるプレイヤーはだいたい戦闘に特化した人ばかりだから、魔王城のカスタムは苦手だろうからな。生産職の人たちが、イベントに参加できるチャンスだと踏んで押しかけてきてるんだと思う。それと、オレ達と違ってギリギリのラインで落ちちゃった人だと、近衛兵として配下に入り込もうって意気込んでる人もいるんじゃないかな?」
「そういうことかー。うちの戦闘スタイルだと、近衛兵はいらないと思うけど、生産系のスキルは全くないに等しいからなあ。誰かに手伝ってもらいたいのは山々だけど……。そうだ! ハルちゃん手伝ってよ!」
「いや。俺もモカさんと一緒で、真っ先に権利もらってますから……。それに、辞退しても配下にはなれませんよ?」
「あー! そうでした! むしろ、うちがハルちゃんのおかげで権利もらえたようなもんだった! そうかー。誰か生産職の知り合い紹介してもらえない?」
「あ! オレも紹介してほしい!」
「え? いや、俺、ソロプレイヤーだから、知り合いなんて他にはスズコさんのパーティメンバーくらいしかいないぞ?」
「いやいやいや。生産職仲間くらい、普通い……る」
 チップはそこまで告げて、ハッと周囲に視線を走らせる。
「そうか!? ハルマ、ここで職人作業してるから、他の人と違ってギルドで顔見知りになるってことがないのか!」
 そうなのだ。普通、生産職のプレイヤーは、ギルドや生産設備の整っている場所でしか活動できない。そういった場所は限られているので、自然と同じ時間帯や場所が重なり、顔馴染みになり、親交を深めるものなのだが、ハルマはかなり早い段階で村を作ってしまったため、そういった機会がなかったのである。
「えー!? ハルちゃんがダメなら、チップ君、他に生産職の知り合いいない? うち、売ってるものをテキトーに買うだけだから、馴染みの職人さんなんていないんだけど?」
「いやー。ハルマが職人関係は全部請け負ってくれるから、オレもいないです。ねーちゃんだったら、もしかしたら誰か知り合いいるかなー? 他にも、フレンドに当たってみます」
「そっかー。まあ、最悪ひとりで何とかするしかないかな? ハルちゃんはどうするの?」
「俺ですか? あのルールだったら、たぶん、ひとりでやった方が対処できそうですかね?」
「ハルマの場合はそうかもな。ってか、参加する気になったんだな」
「ん? あー。あれこれ探してみたら、上手いこと変装できそうだから、やってみるよ。それに、生産職代表じゃないけど、このルール、生産職の腕の見せ所な気がするし」
「違いない。どんな魔王城作るか、楽しみにしてるぜ」
「ねー? 話が盛り上がってるところ悪いんだけど、しばらくハルちゃんの村に居座らせてもらってもイイ? 他の所にいったら、また追いかけ回されそうだし。いちいち話聞いて回るのも面倒だからさ」
「構いませんよ? 教会で転移場所登録できますし、宿屋使ってもらえたら、普通に仮拠点として使えます。権限、設定しておきますね。アイテム類が欲しい時は、言ってもらえたら作りますよ。自慢じゃないですけど、普通に売ってるものよりは良いものが作れますよ」
「助かるー。そこまで至れり尽くせりだったら、いっそここに居座って、魔王城もソロでやっちゃおうかな?」
「ハハハ……。モカさんの場合、下手に小細工するより、正面からぶつかった方が強そうですもんね」
「にゃはは。そっか。その手があるか。デュラハンになれる時間さえ稼げれば、大広間の方がうちは戦いやすいもんな」
 こうして、村に居候が滞在することになるのだった。
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