魔王の右腕、何本までなら許される?

おとのり

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第11章 魔王城への挑戦 前編

Ver.1/第82話

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 魔王イベントに対して、流れ弾のように参加権が与えられたものの、乗り気ではなかったハルマも少しだけ気持ちが変わっていた。
 シュンの提案は、一考に値するものだったからだ。
「基本的に、顔を隠せばバレないか?」
 見た目だけではNPCとPCの区別も難しいほどの世界なのだ。その気になれば何とか誤魔化せそうな気はしてきた。
 体型に特徴はない。普段は弓を使っているので〈二刀流〉で暴れても問題はないだろう。ただ、まだ髪型の変更であるとか、顔つきの変更は行えるようになっておらず、フルプレート系の顔を覆うタイプの兜でなければ、顔を隠すことはできないはずである。
「探せば、甲冑系以外にも何かあるかな?」
 しかし、そうなると最大の難点が、自分よりも目立つ存在が何人もいることであり、本人よりも魔王的な強さを持っていることにあった。
「せっかく出るなら、みっともない戦いは見せられないもんなぁ。そうなると、ズキンもラフも使わないわけにはいかないだろ?」
 ジレンマである。
「んー。チップの言う通り、ルールがわかってから決めるかな? とりあえず〈魔王迷宮〉に挑戦する必要もないし、長らくやれてなかったことやるか」
 せっかくの週末である。
 気分を切り替えて出かけることにした。

 強くなることに興味がないわけではなかったが、積極的に行動することはなかった。そうでなければ最初からDEXに極振りすることはないし、生産職を目指すこともなかったはずである。
 この日も、ハルマが向かったのはスライム狩りだった。
 ズキンと出会う前に試そうと思っていた紙の錬金が、ようやく試せる頃合いになってきたのである。
 あれからひと月ほども経っていることもあり、さすがにMPポーションの価格も落ち着いている。更に、紙の質が向上し、MPポーションの性能もハルマのドレイン製には及ばないものの、以前の倍近くは回復できるようになっていた。
 スライムを狩れる地域も増え、プレイヤーも分散し、金策で込み合うことも減っている。
 混雑を避けていたことと、〈ゴブリン軍の進撃〉の準備に追われていたこと、それに加えてイベントが終わった後は、ガード率特化の装備を作るのに没頭していたこともあり、本当に久しぶりな感覚だった。
 ハルマは弓を使ってスライム系の最弱モンスターを狩っていく。
 スライムが相手では、二刀流で戦う方が不便だからである。
 のんびりとスライム粘液を集めた後は、戻って紙の錬金に移る。
 紙の錬金には3つの素材が必要になる。枝系素材、水系素材、スライム粘液である。MPポーションが出始めた頃は、枝系の素材も水系の素材もFランクのものしか採取できなかったが、今は安定してEランクの素材が手に入るようになっていた。これには〈発見〉のスキルを取得したプレイヤーの増加が理由に上げられるだろう。
 では、すでに〈発見〉のスキルもⅤにまで成長しているハルマであったらどうなるか……。
 実は、さほど違いはなかった。
 というのも、行ける範囲が限られているため、スキルに見合った採取場所が見つからないのである。チップ達の進んでいるエリアには追いついているので、現状Dランクの採取ポイントが限界のようだった。
「よし、できた。これで何か折り紙したら、スキル取得できるんだっけ? 折り鶴でいいのかな?」
 これは、〈ゴブリン軍の進撃〉の合間にスズコの友人であるミコトに教えてもらった情報だ。
 ハルマはうろ覚えの記憶を頼りに折っていく。
 そうして鶴が完成すると、アナウンスが表示された。

『スキル〈折り紙〉を取得しました』
『紙を使い、折り紙ができます。DEXによって、作れる種類は変化』
【取得条件/特定の伝統的な折り紙を折る】

「うわ。なんだ、これ!? こんなの折り紙で作れるの?」
 覚えたばかりのスキルを確認してみると、想像以上に多くの種類が登録されていたのである。当然、それだけの数が作れるのは、ハルマのDEXがあればこそである。
「四足歩行の猛獣ともなると、もはやフィギュアの領域だな。ドラゴンになると、別世界じゃん」
 完成図も合わせて見ることができたため、一覧を眺めているだけでも心躍るものがあった。
「ドラゴン作ってみたいなあ。リアルだとまず無理だもんなー。どうせなら、上質な紙使って大きいの作りたいな」
 ハルマは当初の目的も忘れ、インベントリの中を調べ始めるのだった。
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