魔王の右腕、何本までなら許される?

おとのり

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第10章 からまった糸

Ver.1/第75話

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 答えはすぐ近くにあった。
 何しろ、ユララが引っかかっていた崖を登り切った先だったからである。
「どこかに登れるルートがあるのかな?」
 森の中で崖の上を見上げながら呟く。
「この上は断崖絶壁に囲まれた山頂ですね。歩いて登るのは、不可能じゃないでしょうか?」
 ユララは簡単に言ってくれる。
 ぬーん、となったが、解決策はすでにあった。
「仕方ない。トワネ、また頼むよ。今度はラフも一緒に頼む。ユララとズキンは飛べるから、自分で上れるよな?」
 されるがままの体勢でトワネに上まで連れて行ってもらうと、問題のカラス天狗を探すことにする。
 山頂はだだっ広い平地で、見渡す限り岩場だった。ランクの高い採取ポイントでも見つかればテンションも上がったのだろうが、何もない。
「ホントに、ここなのか?」
 しばらく探し続け、ハルマが代表して口にした直後だった。
「あそこ! ズキンのパパさんみたいなのがいるよ!」
 最初に見つけたのはマリーだった。
 見てみれば、確かに立派な図体のカラス天狗が3人、自分の腕を枕にして、仰向けに寝転がっていた。近くには釣り竿が転がっている。
「あー。兄さん達で間違いないですね」
 ズキンも呆れたように顔を歪めている。
 お前さんも家にいる時はあんなだぞ? とは、言わないでいてあげるもの優しさかもしれない。

「あん? なんだ? お前達。って、ズキンじゃないか!? 久しぶりだな。大きくなったじゃないか! 特に、その乳!」
 ハルマ達が近寄ると、年長らしきカラス天狗が起き上がり、声をかけてきたかと思ったら下品に笑い転げる。
「兄さん達も、あちきの乳なみに成長してもらえるとありがたいんですけどね。よそ様の大陸に来てまで、迷惑をかけないでもらえますか?」
 笑われても物怖じせず、ズキンは言い返す。むしろ、笑われた胸をぷるんと強調してみせるほどだ。
「ば……馬鹿野郎。俺様達だって、一人前のカラス天狗! 生意気なことを言うんじゃない!」
「なーにが一人前ですか。あちきも修行は怠けていましたけど、兄さん達と違って途中で投げ出してはいませんよ?」
 カラス天狗同士の言い争いを隣で聞きながら、総大将のカルラがズキンを無理やりにでも嫁がせようとしていたのが理解できた気がしていた。もしかしたら、ズキンは優秀な方なのかもしれない。
「あのオッサン、苦労してんだな。本人はすごい経歴の持ち主なのに……」
 ぼんやり成り行きを見守っていたが、言い争いはエスカレートするばかりで、ついには兄の方がキレてしまった。
「ええい! 名高きカラス天狗に盾突くとは言語道断! こらしめてくれる!」
 売り言葉に買い言葉、ハルマの反応も待たずに戦闘に突入してしまった。
「ちょちょちょっ! 急に!? ってか、カラス天狗同士でケンカしてたじゃん!」
 慌てて戦闘の準備をすると、横からズキンが声をかけてくる。
「大丈夫です。兄さん達は図体はデカいですが、あちきよりも弱いです。術も、石つぶてしか使えない体たらくですから」
「いや!? それでも俺にはじゅうぶん脅威なんですけど!? それに、3人とも襲ってきてるんですけど!?」
 バタバタしている間に、錫杖の攻撃が迫っていた。
 無理! と、思い、目を瞑ってしまったが、体は勝手に反応する。
「!?」
 金属音が響いたと思ったら、攻撃を弾いていた。
「ガードできるのか!? これなら! って、でも、石つぶては無理ー!」
 魔法攻撃はガードできない。

 と、思っていた。

「あれ?」
 続けて発せられた石つぶてによる攻撃を、ひとつ残らずガードしてしまったのである。
「魔法によっては、ガードできるのか……」
 そう。石つぶては、魔法攻撃の中でも物理攻撃と同等の性質を持つ。そのため、ガードが可能なのだ。
 思わぬ発見に気が逸れている間にも、カラス天狗達の猛攻は続いたが、ひとつもハルマには当たらない。さすがにこれだけ攻撃をガードしていると、ガード率が100%に届いていると考えざるを得ないようだ。
 そんなことを考える余裕すらあった。
 結局、ムササビアーチャーとの戦いと変わりなく、溜めたダメージドレインを解放して、一撃で勝利してしまったのだった。
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