69 / 276
第9章 ゴブリン軍の進撃
Ver.1/第68話
しおりを挟む
「守り切った? よね?」
モカは次なる襲撃がないことを確認してから〈デュラハン〉を解いて元の姿に戻ると、大きく息を吐き出した。
城門がこの後破壊されたとしても、15分を過ぎることはないため、結界装置さえ壊されなければ防衛成功となる。
そして、結界装置を守り抜くことは多少ゴブリンの数が増えたとしても、そう難しいことではない。
「何とかなるもんですね」
ハルマもぐったりしながら、その場にしゃがみ込む。アバターの体が疲労を感じることもないのだが、緊張感から解放され、無意識のうちに行動に出てしまったのである。
ふたりして充実した達成感に包まれていたが、拠点の中から声が聞こえ始めた。
「あれ? ホントに城門が残ってる」
「どうなってんだ? うわっ!? なんだ、これ? トラップ?」
ようやく異変に気づいたプレイヤーがポツリポツリと戻り始めたようである。
「結界装置の防衛は、任せても大丈夫そうですね」
ハルマは城門の向こうから聞こえてくる声が少しずつ増えていくのを感じると、ようやくこのサーバーから出ることにした。
「凱旋はしないの?」
「それは、モカさんにお任せしますよ」
「ハハハ……。うちも遠慮しとく」
「じゃあ、さっさと逃げますか」
「おっけー。また遊ぼ」
「はい。ぜひ」
そういって、ふたりの英雄とそのお供は、誰にも見つからないうちにその場から消えてしまったのだった。
直後、当然のことながら大騒動になった。
何せ、失敗に終わったと思っていたら、成功を祝うアナウンスが全プレイヤーに届けられたのだ。
不具合が起こったのではないか、不正が行われたのではないか、運営が設定間違えたのを誤魔化したのではないか、失敗した時のアナウンスを用意していなかったのではないかと、あれやこれやと議論されることになる。
どちらかと言えば、ネガティブな意見の方が強さを増していく中、風向きが変わる発見があった。
「あれ? 知らん間にルールが追加されてるぞ?」
細かい部分をチェックするプレイヤーは少ないが、確実に存在する。
そんなプレイヤーのひとりが、イベント中に〈修復〉のスキルを誰かが取得したことに気づいたのである。
『〈修復〉のスキルを取得したプレイヤーの出現により、公式イベント〈ゴブリン軍の進撃〉に新たなルールが追加されました。城門を〈修復〉しても、イベントの残り時間が30分に満たない場合、〈修復〉は失敗となります』
ハルマにだけ直接届けられたアナウンスは、多少のタイムラグはあったもののしっかりと公式サイトに追記されていたのだ。
この情報が拡散されることで、今回のイベントには隠し要素が用意されていたことに初めて気づかされたのである。
これに対するプレイヤーの反応は様々だった。批判半分、賞賛半分といったところだろうか。ただ、批判の大半は、要約すると自分が見つけられなかったことに対する嫉妬であった。
城門が突如復活した謎は解けた。
では、その後、どうなったかといえば「誰が?」に、話題は移る。
そして、そこに一石を投じる目撃者が現れた。
彼女は新規プレイヤーだったためイベントに興味はなかったのだが、最後くらいは見学に行ってみようと突如思い立った。初めてのイベントで、まさか大失敗に終わっているとは露ほどにも思っていなかったのだ。
そのため、イベントサイトで状況を確認することもなく、表示されているサーバーの状況も気に留めず、入れるサーバーにただ向かった。
しかし、着いてみると、何やら様子がおかしいことにさすがに気づいたのである。他に誰もプレイヤーがいないのだから、気づかない方がどうかしている。
そうやって彼女は、気味の悪い空間を歩き出した。
拠点の中に入り込んでいるゴブリンの群れはしかし、勝手にHPを吸われ、結界装置の近くのまきびしを踏んで消えていく。
何が起こっているのか益々わけがわからなくなる中、彼女は周囲を見渡してみようと城壁の上を目指した。
そうして歩き続けていると、激しい戦いの喧騒が聞こえてきたのだ。
「見たこともない数のゴブリンの大軍勢と戦ってたのは、首のない馬に乗った首のない騎士と、黒い羽を生やした女性、猫の姿をした小柄なプレイヤーでした」
この目撃情報により、ひとりはモカであると特定されたが、残りのプレイヤーは謎に包まれることになる。
加えて、モカの〈デュラハン〉以外にも変身系のスキルが見つかってるのかと、騒然となるのだった。
モカは次なる襲撃がないことを確認してから〈デュラハン〉を解いて元の姿に戻ると、大きく息を吐き出した。
城門がこの後破壊されたとしても、15分を過ぎることはないため、結界装置さえ壊されなければ防衛成功となる。
そして、結界装置を守り抜くことは多少ゴブリンの数が増えたとしても、そう難しいことではない。
「何とかなるもんですね」
ハルマもぐったりしながら、その場にしゃがみ込む。アバターの体が疲労を感じることもないのだが、緊張感から解放され、無意識のうちに行動に出てしまったのである。
ふたりして充実した達成感に包まれていたが、拠点の中から声が聞こえ始めた。
「あれ? ホントに城門が残ってる」
「どうなってんだ? うわっ!? なんだ、これ? トラップ?」
ようやく異変に気づいたプレイヤーがポツリポツリと戻り始めたようである。
「結界装置の防衛は、任せても大丈夫そうですね」
ハルマは城門の向こうから聞こえてくる声が少しずつ増えていくのを感じると、ようやくこのサーバーから出ることにした。
「凱旋はしないの?」
「それは、モカさんにお任せしますよ」
「ハハハ……。うちも遠慮しとく」
「じゃあ、さっさと逃げますか」
「おっけー。また遊ぼ」
「はい。ぜひ」
そういって、ふたりの英雄とそのお供は、誰にも見つからないうちにその場から消えてしまったのだった。
直後、当然のことながら大騒動になった。
何せ、失敗に終わったと思っていたら、成功を祝うアナウンスが全プレイヤーに届けられたのだ。
不具合が起こったのではないか、不正が行われたのではないか、運営が設定間違えたのを誤魔化したのではないか、失敗した時のアナウンスを用意していなかったのではないかと、あれやこれやと議論されることになる。
どちらかと言えば、ネガティブな意見の方が強さを増していく中、風向きが変わる発見があった。
「あれ? 知らん間にルールが追加されてるぞ?」
細かい部分をチェックするプレイヤーは少ないが、確実に存在する。
そんなプレイヤーのひとりが、イベント中に〈修復〉のスキルを誰かが取得したことに気づいたのである。
『〈修復〉のスキルを取得したプレイヤーの出現により、公式イベント〈ゴブリン軍の進撃〉に新たなルールが追加されました。城門を〈修復〉しても、イベントの残り時間が30分に満たない場合、〈修復〉は失敗となります』
ハルマにだけ直接届けられたアナウンスは、多少のタイムラグはあったもののしっかりと公式サイトに追記されていたのだ。
この情報が拡散されることで、今回のイベントには隠し要素が用意されていたことに初めて気づかされたのである。
これに対するプレイヤーの反応は様々だった。批判半分、賞賛半分といったところだろうか。ただ、批判の大半は、要約すると自分が見つけられなかったことに対する嫉妬であった。
城門が突如復活した謎は解けた。
では、その後、どうなったかといえば「誰が?」に、話題は移る。
そして、そこに一石を投じる目撃者が現れた。
彼女は新規プレイヤーだったためイベントに興味はなかったのだが、最後くらいは見学に行ってみようと突如思い立った。初めてのイベントで、まさか大失敗に終わっているとは露ほどにも思っていなかったのだ。
そのため、イベントサイトで状況を確認することもなく、表示されているサーバーの状況も気に留めず、入れるサーバーにただ向かった。
しかし、着いてみると、何やら様子がおかしいことにさすがに気づいたのである。他に誰もプレイヤーがいないのだから、気づかない方がどうかしている。
そうやって彼女は、気味の悪い空間を歩き出した。
拠点の中に入り込んでいるゴブリンの群れはしかし、勝手にHPを吸われ、結界装置の近くのまきびしを踏んで消えていく。
何が起こっているのか益々わけがわからなくなる中、彼女は周囲を見渡してみようと城壁の上を目指した。
そうして歩き続けていると、激しい戦いの喧騒が聞こえてきたのだ。
「見たこともない数のゴブリンの大軍勢と戦ってたのは、首のない馬に乗った首のない騎士と、黒い羽を生やした女性、猫の姿をした小柄なプレイヤーでした」
この目撃情報により、ひとりはモカであると特定されたが、残りのプレイヤーは謎に包まれることになる。
加えて、モカの〈デュラハン〉以外にも変身系のスキルが見つかってるのかと、騒然となるのだった。
0
お気に入りに追加
88
あなたにおすすめの小説

Free Emblem On-line
ユキさん
ファンタジー
今の世の中、ゲームと言えばVRゲームが主流であり人々は数多のVRゲームに魅了されていく。そんなVRゲームの中で待望されていたタイトルがβテストを経て、ついに発売されたのだった。
VRMMO『Free Emblem Online』
通称『F.E.O』
自由過ぎることが売りのこのゲームを、「あんちゃんも気に入ると思うよ~。だから…ね? 一緒にやろうぜぃ♪」とのことで、βテスターの妹より一式を渡される。妹より渡された『F.E.O』、仕事もあるが…、「折角だし、やってみるとしようか。」圧倒的な世界に驚きながらも、MMO初心者である男が自由気ままに『F.E.O』を楽しむ。
ソロでユニークモンスターを討伐、武器防具やアイテムも他の追随を許さない、それでいてPCよりもNPCと仲が良い変わり者。
そんな強面悪党顔の初心者が冒険や生産においてその名を轟かし、本人の知らぬ間に世界を引っ張る存在となっていく。
なろうにも投稿してあります。だいぶ前の未完ですがね。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】VRMMOでチュートリアルを2回やった生産職のボクは最強になりました
鳥山正人
ファンタジー
フルダイブ型VRMMOゲームの『スペードのクイーン』のオープンベータ版が終わり、正式リリースされる事になったので早速やってみたら、いきなりのサーバーダウン。
だけどボクだけ知らずにそのままチュートリアルをやっていた。
チュートリアルが終わってさぁ冒険の始まり。と思ったらもう一度チュートリアルから開始。
2度目のチュートリアルでも同じようにクリアしたら隠し要素を発見。
そこから怒涛の快進撃で最強になりました。
鍛冶、錬金で主人公がまったり最強になるお話です。
※この作品は「DADAN WEB小説コンテスト」1次選考通過した【第1章完結】デスペナのないVRMMOで〜をブラッシュアップして、続きの物語を描いた作品です。
その事を理解していただきお読みいただければ幸いです。


【完結】デスペナのないVRMMOで一度も死ななかった生産職のボクは最強になりました。
鳥山正人
ファンタジー
デスペナのないフルダイブ型VRMMOゲームで一度も死ななかったボク、三上ハヤトがノーデスボーナスを授かり最強になる物語。
鍛冶スキルや錬金スキルを使っていく、まったり系生産職のお話です。
まったり更新でやっていきたいと思っていますので、よろしくお願いします。
「DADAN WEB小説コンテスト」1次選考通過しました。

日本列島、時震により転移す!
黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。
『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?
釈 余白(しやく)
ファンタジー
HOT 1位!ファンタジー 3位! ありがとうございます!
父親が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。
その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。
最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。
その他、多数投稿しています!
https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる