魔王の右腕、何本までなら許される?

おとのり

文字の大きさ
上 下
68 / 276
第9章 ゴブリン軍の進撃

Ver.1/第67話

しおりを挟む
 ゴブリンロードは通常、5人以上のパーティでなければ勝利することは難しいといわれる難敵である。
 解放済みのエリアの中ではトップクラスの強さを持ち、フィールドで見かけても嫌厭されることの方が多い。
 しかも、通常フィールドの場合、単体でしか出現しないのに、である。

 城門を破壊されても、制限時間が残り15分を切っていれば実質勝利である。
 そのためにも、残り7分持ち堪えなければならない。
「残り7分か……。MP持つか?」
 これまで我慢に我慢を重ね、ズキンにもラフにもMPは使わせなかった。ゴブリン達のペースを落とすために、トワネには魔法をバンバン使わせていたため、こちらの残りMPはわずかである。
「ロードは温存して勝てる相手じゃないよ! うちは槍主体の攻撃だから、あんまり範囲技ないんだけど、ハルちゃんの方は何かない!?」
「いちおうズキンが範囲魔法使えます!」
 ズキンはレベル80設定のため、各ステータスは普通のプレイヤーよりも遥かに高い。しかも、カラス天狗の固有スキルと思われるものもいくつか取得していた。
 ただ、ステータスを見てみるとAGIがかなり高めに設定されており、本来は戦闘要員というよりは、斥候系のキャラであることが窺える。
「ズキン! 思い切りやってくれ!」
 ハルマの言葉を皮切りに、ズキンの攻撃は猛威を振るった。
 つむじ風と石つぶての2種類しか今のところ使えないが、AGIの次に高いのがINTなだけあり、ゴブリン軍は見る見るうちに数を減らしていく。
 つむじ風は〈天狗のうちわ〉と言うアイテムを使ったスキルのため、威力は初級の風魔法程度しかないが、石つぶての方は土属性の多段攻撃魔法のため効果が大きかった。
 それでも、ゴブリンハット以上の個体になると倒し切るには至らない。
 幸い、指揮官たるゴブリンロードの数は少なく、見える限り3体しか確認できなかった。いずれも直接前線で戦う気配は見られず、大隊の指揮に専念しているらしい。
 と、思っていたら、数を減らしたゴブリン軍は隊列を組み始めた。
「うひゃー。壮観だね」
 モカはデュラハン状態のため、この機敏な動きを高い視点から眺めていた。
 ゴブリンソードがきれいな列を作り、足並みをそろえて進軍してきたのである。
 ザッザッザッと規則正しく発せられる足音は、威圧感があった。
 ゴブリンソードの高い防御力に守られ、ズキンの石つぶても後続のゴブリン達に届かなくなってしまった。
 ズキン以外のメンバーは物理攻撃が主体のため、こちらもゴブリンソードの壁に難儀していた。
「何かないか? 俺の攻撃力じゃ、あの壁は崩せないぞ」
 ズキンとモカのおかげで耐えている中、ハルマは使えるトラップでもないかと探していた。
 その時、作ったはいいが使ったことのないアイテムを見つけていた。
「あー。演芸用のアイテムだけど、弓よりはダメージ出せるか? DEX依存で威力上がるらしいから、試してみるか」
〈手品Ⅱ〉で教えてもらったファイアーブレスというものだった。
 いわゆる、火吹き芸である。
 手品スキルはMPを消費することはないが、アイテムを消耗する。コインマジックであったりカードマジックだったりで、プレイヤー同士で楽しむことが主な目的のスキルのため、威力は期待できない。

 ……はず、だった。

「わお!」
 モカは突然のことに、驚きを隠さなかった。
 突如、巨大な炎が隊列を組んで迫ってくるゴブリンソードの軍勢を焼き払ったのだ。その威力はもはや、魔法の専門職が使う範囲魔法と遜色ないものだったのである。
 一瞬、援軍が駆けつけてくれたのかと思ったほどだ。
 使った本人も、ポカンと惚けている中、ズキンが寄ってきた。
「旦那様。火属性の魔法が使えたんですね。早く言ってくださいな」
「え!? いや。これ、魔法じゃないんだけど……」
「そうなんですか? まあ、かまいません。もう一度お願いします」
 ハルマにはなんのことだかわからなかったが、言われた通りに再びファイアーブレスを使う。
 ズキンはそれに合わせて、〈天狗のうちわ〉で風を起こす。
「そーれぇ!」
 ズキンの起こしたつむじ風は、ハルマの吐き出した炎の威力を後押しするように強化した。
 ハルマも初めて知ったのだが、〈天狗のうちわ〉は風の属性攻撃を起こす効果と同時に、火の属性魔法の威力を高める効果も持っていたのだ。
 ファイアーブレスは消費MPゼロであり、ズキンのつむじ風も消費MPは少ない。
 この合わせ技によって頑強だったゴブリンソードの隊列は、壊滅的なダメージを受け、残すゴブリン軍の主力はゴブリンロードだけとなっていた。
「ここまできたら、守り切るより倒し切っちゃった方が気持ち良さそうだね!」
 モカは首のない馬を走らせ、ゴブリンロードへと全力で突進していく。
 脇に挟んだ長槍によって、進路上にいたゴブリン達は無残にも串刺しにされ、吹き飛ばされ、消滅していく。
 そうやってゴブリンロードの直前にまで迫ったところで、最大火力と思われるスキルを発動させていた。これまで使わなかったのは、おそらく、リキャストタイムが長いため、頻繁には使えないからだろう。
「はあっ! 〈疾走神風〉」
 AGIをATKに上乗せする一点集中タイプの大技が、ゴブリンロードの体を穿ち、吹き飛ばした。槍によるダメージだけでなく、体当たりもダメージ判定が入るらしく、ゴブリンロードは2段階の大ダメージを受けて消失していった。
「え、えええ……」
 ゴブリンロードを一発で撃沈させるとは思っていなかっただけに、呆れるやら慄くやら、妙な声を発してしまっていた。
 指揮官の1体が消えたことにより、形勢は大きくこちら側に傾いた。
 残りのゴブリンロードのうち1体は、最後の最後でバーサクモードに入ったラフに飲み込まれ、ごっそりデバフと状態異常を受けた後で吹き飛ばされ、最後の1体は総攻撃によって、何とか撃破することに成功したのである。

 そうして制限時間が15分を切ったタイミングで、ぴたりとゴブリン軍のポップは止まったのだった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

Free Emblem On-line

ユキさん
ファンタジー
今の世の中、ゲームと言えばVRゲームが主流であり人々は数多のVRゲームに魅了されていく。そんなVRゲームの中で待望されていたタイトルがβテストを経て、ついに発売されたのだった。 VRMMO『Free Emblem Online』 通称『F.E.O』 自由過ぎることが売りのこのゲームを、「あんちゃんも気に入ると思うよ~。だから…ね? 一緒にやろうぜぃ♪」とのことで、βテスターの妹より一式を渡される。妹より渡された『F.E.O』、仕事もあるが…、「折角だし、やってみるとしようか。」圧倒的な世界に驚きながらも、MMO初心者である男が自由気ままに『F.E.O』を楽しむ。 ソロでユニークモンスターを討伐、武器防具やアイテムも他の追随を許さない、それでいてPCよりもNPCと仲が良い変わり者。 そんな強面悪党顔の初心者が冒険や生産においてその名を轟かし、本人の知らぬ間に世界を引っ張る存在となっていく。 なろうにも投稿してあります。だいぶ前の未完ですがね。

婚約破棄を目撃したら国家運営が破綻しました

ダイスケ
ファンタジー
「もう遅い」テンプレが流行っているので書いてみました。 王子の婚約破棄と醜聞を目撃した魔術師ビギナは王国から追放されてしまいます。 しかし王国首脳陣も本人も自覚はなかったのですが、彼女は王国の国家運営を左右する存在であったのです。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】VRMMOでチュートリアルを2回やった生産職のボクは最強になりました

鳥山正人
ファンタジー
フルダイブ型VRMMOゲームの『スペードのクイーン』のオープンベータ版が終わり、正式リリースされる事になったので早速やってみたら、いきなりのサーバーダウン。 だけどボクだけ知らずにそのままチュートリアルをやっていた。 チュートリアルが終わってさぁ冒険の始まり。と思ったらもう一度チュートリアルから開始。 2度目のチュートリアルでも同じようにクリアしたら隠し要素を発見。 そこから怒涛の快進撃で最強になりました。 鍛冶、錬金で主人公がまったり最強になるお話です。 ※この作品は「DADAN WEB小説コンテスト」1次選考通過した【第1章完結】デスペナのないVRMMOで〜をブラッシュアップして、続きの物語を描いた作品です。 その事を理解していただきお読みいただければ幸いです。

転生したら第6皇子冷遇されながらも力をつける

そう
ファンタジー
転生したら帝国の第6皇子だったけど周りの人たちに冷遇されながらも生きて行く話です

【完結】デスペナのないVRMMOで一度も死ななかった生産職のボクは最強になりました。

鳥山正人
ファンタジー
デスペナのないフルダイブ型VRMMOゲームで一度も死ななかったボク、三上ハヤトがノーデスボーナスを授かり最強になる物語。 鍛冶スキルや錬金スキルを使っていく、まったり系生産職のお話です。 まったり更新でやっていきたいと思っていますので、よろしくお願いします。 「DADAN WEB小説コンテスト」1次選考通過しました。

日本列島、時震により転移す!

黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

処理中です...