上 下
65 / 276
第9章 ゴブリン軍の進撃

Ver.1/第64話

しおりを挟む
「何か進展あったの?」
 急いでモカのところに戻ると事情を説明する。どうやら追加ルールのアナウンスは、全プレイヤーには通知されていないらしい。

「おっふ。運営、クリアさせる気があるのかないのかわかんないね。でも、敗者復活の道が残っているのなら、全力でサポートするよ!」
 グッと力強く胸の高さまで腕を突き上げるが、そこで先ほどと同じ問題に突き当たる。
「ああ……。でも、ここの防衛があるのか。〈修復〉にはハルちゃんが必要だから残ってもらうわけにはいかないし。うーん。そんなに距離はないから、急いでポジションチェンジすればいけるか?」
 助けを呼ぶという選択肢もないわけではないのだが、簡単には呼べない事情もあった。大前提として、ふたりともソロプレイヤーであるため、呼べるフレンドがそもそも登録されていないことが最大の問題点である。
 そうなると他のプレイヤーが駆けつけてくれるのを待つしかないのだが、ほとんど全てのプレイヤーがイベントはすでに失敗したと思っている。そのため、イベントサイトをこまめに確認している者は、極一部しかいないだろう。このタイミングで拠点が復活したとしても、気づいてもらえない可能性が大きいのだ。
 拠点が復活したことに仮に気づいたプレイヤーがいたとしても、積極的にイベントに参加していたプレイヤーであるほど入ってこられないのも問題だ。
 というのも、死に戻りしたプレイヤーが50%以上回復する前に通常サーバーに戻ると、ペナルティが発生して3時間はイベントサーバーに戻れないというルールがあるからだ。
 そして、この時間帯に参加していたプレイヤーは、だいたい皆、城門が破壊される激闘に敗れ、死に戻りして回復する前に通常サーバーに戻ってしまっている。そうでなかったら、個人報酬目当てに15分以上残っていた者であり、これもまた他のイベントサーバーに移動できないルールに引っかかってしまうのだ。
 チップとスズコのパーティであれば呼び戻せるはずなのだが、あの6人は昼食もとらずに戦っていたため、戻った直後にログアウトしてしまったらしく、フレンド欄から消えていた。
 ハルマもこんなことになるとは思っていなかったので、善後策など考えてもいなかった。

 そもそもひとりでやるつもりだったことに、最強ソロプレイヤーの助っ人がいると思えば、少しは気も楽になる。何より、マリーの願いを叶えて上げられるチャンスが残っているのだ。
 そう思い腹をくくると、行動を起こす。
「俺は、〈修復〉に必要な材料をそろえたら一度ここに戻るので、その後は一緒に城門にきてもらえますか? 15分ちょっと耐えられれば、防衛成功になるはずなので、ふたりで、ふたり? まあ、ふたりか。ふたりで耐え抜きましょう」
「何だかよくわからないけど、だいたいわかった。でも、ここの防衛はどうするの? 15分くらいなら放置でもいけるかな?」
「とりあえず試したいことがあるので、後で結果を教えてください。それがダメだったら、また考えます」
 そういうと、ハルマはインベントリからアイテムを取り出し、急いで準備を済ませると職人部屋へと走っていった。
しおりを挟む

処理中です...