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第8章 陽炎の白糸
Ver.1/第57話
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「新しいお洋服、できたの?」
マリーはキラキラした目で訊いてきた。
3着のうち、ローブをもとにしたワンピースはシンプルながらも満足してもらえそうなものができた。
あとの2着も、ベースはできているので着られることは着られる。
そう説明しようとしたところで、マリーは興奮気味に言葉を続けてきた。
「ねえ!? 新しいお洋服に羽はついてる? マリーもズキンみたいな羽が欲しい!」
無邪気ないたずらゴーストは、思わぬことを言い始めた。
「羽、ですか……」
ちらりとズキンの方を見る。
「あちきの羽をむしっても、ダメですよ?」
「ダメなのぉ?」
「かわいい妹分の願いを叶えてあげたいのは山々ですけど、痩せても枯れても闇の大陸の森の神に連なるカラス天狗ですから、光の素材とは混じり合わないんですよ。それに、あちきの羽むしられたら、あちきが飛べなくなってしまいます」
「あー、なるほど。〈陽炎の白糸〉は光属性の素材だもんね。属性の相性ってやつか。うーん。飛ぶのに使うわけじゃないから飾りでいいとはいえ……。いや、待てよ。そもそも、そんなもの作れるレシピ覚えてない」
この世界の職人システムの肝心な部分を思い出し、おでこを平手で叩く。
「ごめんな、マリー。羽はまだ作れそうにないから、我慢してくれ」
「えー。そっかぁ。ざんねん」
「その代わり、作れるようになったらちゃんと作ってあげるからさ」
「うん! 楽しみにしてる!」
些か脱線したが、こうやってマリーの服は完成したのだった。
羽はつけてあげられなかったものの、新しい洋服をもらってからマリーはすこぶる上機嫌だった。
これは、服だけが原因ではない。
新しい服を着させた結果、どうにも髪の乱れが気になってしまったのである。せっかくのきれいな銀髪がもったいないと思い、ブラシを作ることにしたのだ。
とはいえ、ブラシのレシピなど知らないと思ったのだが、〈スタンプの村〉の住人から馬の世話のために道具を一式そろえて欲しいと、クエストを依頼された時に教わったレシピの中に、馬用のブラシがあった。
レシピはアレンジは可能なので、手を加えれば作れるのではないかと思ったのだ。試行錯誤の時間がかかってしまったが、〈万能ブラシ〉という新アイテムを生み出すことに成功したのである。
これには思わぬ効果もあった。
『スキル〈トリマー〉を取得しました』
『テイムモンスターの魅力を引き出せるようになりました(DEXによって成功率は変化)』
『定期的に世話をすることでテイムモンスターの回復量が増え、状態異常からの回復が早くなります。また、テイムモンスターによる獲得経験値が微増されます』
『DEXが常時30増える』
【取得条件/テイムモンスターの管理アイテムの獲得】
「ねえ、ねえ。みんなに見せに行こうよ!」
「みんな、って言ってもなあ」
アヤネには真っ先に見せて、存分に可愛がられたばかりであるし、スズコとミコトにも披露したばかりだ。男性陣も口々に褒めてはくれたが、女性陣ほどの興奮は感じられなかった。
村の住人はNPCであるので、最初から見えていない。
他に誰か見せられる相手がいただろうか? と、首をひねっていると、ひとりだけ心当たりがいた。
「そういえば、ダイバーさんには見えてたな」
マリーと出会うきっかけとなったクエストの、発注者NPCである。
「なんだかんだ忙しくて、あのカフェにもしばらく行ってなかったから行ってみるか」
ふと思い立ち、いつものようにマリーを連れてウィンドレッドのカフェに向かうことにした。
マリーの依代になってからというもの、カフェには何度か足を運んだのだが、ダイバーを見かけることはなかった。今回も、会えるかわからないと思いつつ向かっていたのだが、店に到着するよりも前に見つけることができた。
「やあ、ハルマさんにマリー。お久しぶりです。ラフも元気にやっていますか?」
相も変わらずシルクハットに真っ白なチョビ髭、目元を隠すマスクと全身を覆うマントといった、いかにもな怪しさ満点のダイバーが寛いでおり、近寄ると向こうから声をかけてきた。
「はい。ふたりのおかげで助かっています」
「それは、よかった」
「ダイバーさん、見て、見て! かわいいお洋服作ってもらったんだよ!」
マリーは我慢ならずに、割り込むようにダイバーの前に舞い降りる。
「おお、ほっほっほ。これは、ますます可愛くなった。ハルマさんに助けてもらえて、本当に良かったね」
「えへへへー」
そうやって和やかな時間が続くかと思ったが、ダイバーは話題を変えてきた。
「ところで、ハルマさん。〈手品〉の腕前も上がっているようです。新しい〈手品〉をお教えしますよ」
突然、何の話を始めたのかと思ったが、そもそもダイバーはハルマの〈手品〉スキルの師匠だったことを思い出す。だが、ハルマは〈手品〉のスキルを使うことは滅多になく、腕前が上がっていると言われてもピンとこなかった。
不思議に思いながらも、話はどんどん進んで行き、アナウンスが表示された。
『スキル〈手品Ⅰ〉が〈手品Ⅱ〉に成長しました』
『新しい手品専用道具のレシピを覚えました』
『DEXが常時60増える』
【取得条件/規定の回数手品を披露する】
成長させる条件、そんなにハードルが低いのか? と、思ったが、無邪気に飛び回るマリーが目に入り、もしやと思う。
片手剣のスキルはラフのおかげで取得した。杖のスキルもズキンのおかげで取得している。では、日頃、〈手品〉スキルでラフを使っているのは誰かというと、ハルマ本人ではなく、マリーであった。
「いや、ホント。何から何までお世話になります」
がんばって羽の装備なり装飾品なりのレシピを探そうと誓うハルマだった。
マリーはキラキラした目で訊いてきた。
3着のうち、ローブをもとにしたワンピースはシンプルながらも満足してもらえそうなものができた。
あとの2着も、ベースはできているので着られることは着られる。
そう説明しようとしたところで、マリーは興奮気味に言葉を続けてきた。
「ねえ!? 新しいお洋服に羽はついてる? マリーもズキンみたいな羽が欲しい!」
無邪気ないたずらゴーストは、思わぬことを言い始めた。
「羽、ですか……」
ちらりとズキンの方を見る。
「あちきの羽をむしっても、ダメですよ?」
「ダメなのぉ?」
「かわいい妹分の願いを叶えてあげたいのは山々ですけど、痩せても枯れても闇の大陸の森の神に連なるカラス天狗ですから、光の素材とは混じり合わないんですよ。それに、あちきの羽むしられたら、あちきが飛べなくなってしまいます」
「あー、なるほど。〈陽炎の白糸〉は光属性の素材だもんね。属性の相性ってやつか。うーん。飛ぶのに使うわけじゃないから飾りでいいとはいえ……。いや、待てよ。そもそも、そんなもの作れるレシピ覚えてない」
この世界の職人システムの肝心な部分を思い出し、おでこを平手で叩く。
「ごめんな、マリー。羽はまだ作れそうにないから、我慢してくれ」
「えー。そっかぁ。ざんねん」
「その代わり、作れるようになったらちゃんと作ってあげるからさ」
「うん! 楽しみにしてる!」
些か脱線したが、こうやってマリーの服は完成したのだった。
羽はつけてあげられなかったものの、新しい洋服をもらってからマリーはすこぶる上機嫌だった。
これは、服だけが原因ではない。
新しい服を着させた結果、どうにも髪の乱れが気になってしまったのである。せっかくのきれいな銀髪がもったいないと思い、ブラシを作ることにしたのだ。
とはいえ、ブラシのレシピなど知らないと思ったのだが、〈スタンプの村〉の住人から馬の世話のために道具を一式そろえて欲しいと、クエストを依頼された時に教わったレシピの中に、馬用のブラシがあった。
レシピはアレンジは可能なので、手を加えれば作れるのではないかと思ったのだ。試行錯誤の時間がかかってしまったが、〈万能ブラシ〉という新アイテムを生み出すことに成功したのである。
これには思わぬ効果もあった。
『スキル〈トリマー〉を取得しました』
『テイムモンスターの魅力を引き出せるようになりました(DEXによって成功率は変化)』
『定期的に世話をすることでテイムモンスターの回復量が増え、状態異常からの回復が早くなります。また、テイムモンスターによる獲得経験値が微増されます』
『DEXが常時30増える』
【取得条件/テイムモンスターの管理アイテムの獲得】
「ねえ、ねえ。みんなに見せに行こうよ!」
「みんな、って言ってもなあ」
アヤネには真っ先に見せて、存分に可愛がられたばかりであるし、スズコとミコトにも披露したばかりだ。男性陣も口々に褒めてはくれたが、女性陣ほどの興奮は感じられなかった。
村の住人はNPCであるので、最初から見えていない。
他に誰か見せられる相手がいただろうか? と、首をひねっていると、ひとりだけ心当たりがいた。
「そういえば、ダイバーさんには見えてたな」
マリーと出会うきっかけとなったクエストの、発注者NPCである。
「なんだかんだ忙しくて、あのカフェにもしばらく行ってなかったから行ってみるか」
ふと思い立ち、いつものようにマリーを連れてウィンドレッドのカフェに向かうことにした。
マリーの依代になってからというもの、カフェには何度か足を運んだのだが、ダイバーを見かけることはなかった。今回も、会えるかわからないと思いつつ向かっていたのだが、店に到着するよりも前に見つけることができた。
「やあ、ハルマさんにマリー。お久しぶりです。ラフも元気にやっていますか?」
相も変わらずシルクハットに真っ白なチョビ髭、目元を隠すマスクと全身を覆うマントといった、いかにもな怪しさ満点のダイバーが寛いでおり、近寄ると向こうから声をかけてきた。
「はい。ふたりのおかげで助かっています」
「それは、よかった」
「ダイバーさん、見て、見て! かわいいお洋服作ってもらったんだよ!」
マリーは我慢ならずに、割り込むようにダイバーの前に舞い降りる。
「おお、ほっほっほ。これは、ますます可愛くなった。ハルマさんに助けてもらえて、本当に良かったね」
「えへへへー」
そうやって和やかな時間が続くかと思ったが、ダイバーは話題を変えてきた。
「ところで、ハルマさん。〈手品〉の腕前も上がっているようです。新しい〈手品〉をお教えしますよ」
突然、何の話を始めたのかと思ったが、そもそもダイバーはハルマの〈手品〉スキルの師匠だったことを思い出す。だが、ハルマは〈手品〉のスキルを使うことは滅多になく、腕前が上がっていると言われてもピンとこなかった。
不思議に思いながらも、話はどんどん進んで行き、アナウンスが表示された。
『スキル〈手品Ⅰ〉が〈手品Ⅱ〉に成長しました』
『新しい手品専用道具のレシピを覚えました』
『DEXが常時60増える』
【取得条件/規定の回数手品を披露する】
成長させる条件、そんなにハードルが低いのか? と、思ったが、無邪気に飛び回るマリーが目に入り、もしやと思う。
片手剣のスキルはラフのおかげで取得した。杖のスキルもズキンのおかげで取得している。では、日頃、〈手品〉スキルでラフを使っているのは誰かというと、ハルマ本人ではなく、マリーであった。
「いや、ホント。何から何までお世話になります」
がんばって羽の装備なり装飾品なりのレシピを探そうと誓うハルマだった。
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