魔王の右腕、何本までなら許される?

おとのり

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第7章 カラスの恩返し

Ver.1/第49話

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「早速、探しましょうか」
 ザッルーム地方に入り、森に入ってすぐスズコが指揮をとる。
 パーティリーダーはチップであるのだが、姉弟のパワーバランス的に逆らえないのだ。
「これって、みんな一緒に行動した方がいいんですか? バラけて探したらダメな系?」
 アヤネが誰にともなく尋ねる。
「罠にかかってるカラスを探すだけならバラけた方がいいんだけどね。フラグが立つと、受注の確認もなしにクエストが始まっちゃって、けっこうすぐボス戦になるみたい。他のパーティとの取り合いになることもあるから、効率悪いけど団体行動した方がいいんだよね。とりあえず、先頭はゴリが安全確保するから、のんびり探しましょう」
「ホント、今日はどうしたんすか!? のんびり探すなんて言葉が、先輩の口から出るなんて!」
「ねーちゃん。普段どんなプレーしてんだよ?」
「失礼ね。あんたと大差ないわよ」
 ふたりのやり取りを聞きながら、他のメンバーが遠い目をしていることには、ついに気づくことはなかった。

 森の中で見通しが悪かったが、先頭を守るゴリのおかげで不安を覚えることもなく探索が続けられた。
 そうして時折すれ違う他のパーティと情報交換しながら目的のカラスを探し続けていると、30分ほどかけてようやく見つけることができたのだった。
「いた!」
 チップの指さしに反応してシュンがいち早く現場に駆け寄ると、周囲を素早く確認する。
「大丈夫。他に人いないみたい」
「おー、ラッキー。本当に見つかるとは思わなかった。今のうちに戦闘準備整えるわよ」
 フラグを立てないように、カラスを囲む陣形を組むとスズコが指示を出す。
「下手に刺激して罠がカラスを傷めつけ過ぎると、クエスト始まる前に消えちゃうから注意な」
 チップもメニューを操作しながら忠告してくる。
 しかし、そんな中、ハルマはひとり首を傾げていた。
「なあ? この罠レベル2だから、解除できそうなんだけど?」
 カラスの足が捕らわれているのは、トラバサミともベアートラップとも呼ばれる類の罠だった。
「え!? ハル君〈トラップ解除〉のスキル持ってるの?」
「あ、はい。レベル2までなら、だいたい解除できますよ」
「そうそう。ハルマがトラップ系に強いおかげで、ダークッタンの雨降りの迷宮も攻略できたんだぜ」
「マジで!? いいなぁ。今度あたしらのパーティにも協力してよ」
「え? あ、はい。いいですよ? それより、これ、どうします?」
「ああ、そうだった。解除できるんなら、解除しちゃった方が面白いことになりそうじゃない? 情報だと、解除しようとして失敗したらボス戦になるみたいだし」
 スズコの提案に、反対する者はいなかった。
「それじゃ、いきますよ? いちおう、ボス戦になるつもりでいてくださいね?」
 ハルマは恐る恐る〈トラップ解除〉のスキルを発動させる。
 
 すると。

「おお。解除できた。カラスも無事だ」
 それでも全員が身構えたまま待機していたが、ボスモンスターが登場する気配もない。
 ジッと待っていると、カラスはぴょこぴょこ周囲を確認し始め、お辞儀をして回ると、最後にハルマをびっくりしたように凝視してひと鳴きした。
 直後、不意にハルマ以外の表情が和らいだ。
「やった。やっぱり、解除したら戦闘なしで報酬もらえるのね!」
「え? 何か、進展あったんですか?」
 スズコの反応に、ひとりついていけない。
「え? 報酬、もらえたよ? もらえてないの?」
「何も……ない、ですね」
 困惑しているうちに、カラスは飛び立ってしまっていた。
「え? ええ? 俺だけ報酬なし? 罠を解除したの俺なのに?」
 なんだか釈然としないまま、森を後にするしかないのだった。
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