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第7章 カラスの恩返し
Ver.1/第44話
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チップ達と雨降りの迷宮を攻略した翌日、ハルマは日課となってきた素材の採取を済ませ、MPポーションをメインに売れ筋のアイテムを作り上げた後、ダークッタンに向かった。
この日は、ついにエリアボスに挑むつもりなのだ。
昨日、チップ達と合流した際、抽出機のレシピと一緒に紙のレシピも貰ったのだが、この紙を錬金するのに必要な素材が、エリアボスを倒さないと行けないエリアでないと手に入らないことが判明したからだ。
「それにしても、スライムは初期エリアで最初に遭遇するモンスターっていうのが定番なんじゃないのか?」
必要になるスライム粘液という素材は、プレイヤーバザーを覗けばいくらでも出回っているのだが、討伐難易度は低く、わざわざ購入してまでそろえるのはもったいなく感じたのである。
しかも、MPポーションの登場によって紙の高騰も起こっている。当然、その素材であるスライム粘液も煽りを受けているのだ。
実のところ、この高騰の要因となっているのはハルマ自身のせいでもあった。
飛び抜けて性能の良いMPポーションが突如として出回り始め、多くの生産職がチートを疑ったほどの驚きをもたらした。しかし、チートではないことがわかると、すぐに改良に乗り出したのである。
結果、抽出機そのものは向上させようがないという結論になり、使っている紙が違うのではないだろうかと躍起になって紙の改良に取り組んでいるのである。
トワネに乗って進むには目立ちすぎる気がしたため、目的地へは歩いて向かった。村づくりで消耗した素材の採取も兼ねていたこともあり寄り道も多い。
そうやって平原を抜け荒野へと進むと、その先に峡谷が見えてくる。
「確か、ここのボスが一番相性が良さそうなんだよな」
事前に詳しく調べているわけではないが、チップがここのボスはHPが高いだけで、ソロでも倒しやすいと話していたのを覚えていたのだ。
峡谷を進んで行くと、道幅一杯のサイズがある門が見えてきた。
道中人影はあまりなく、多くのプレイヤーがすでに突破してしまっていることが窺えた。
これをくぐると戦闘エリアになり、他のパーティとかち合うこともなくなる。
実は、エリアボスを倒さなくとも隣のエリアには行けるのだが、そうなると高い山を越えなければならなかったり、急流の川を渡らなければならなかったりする。しかも、そういった場所にはエリアボス以上に強力な超格上のモンスターが配置され、近寄る者を容赦なく襲ってくるのだ。
結局、素直にエリアボスを倒すのが手っ取り早いのである。
ハルマはいつも通りマリーにラフを預け、念のためにトワネを肩に乗せておき、いざという時はアイテムによる回復と魔法によるアシストを頼んでおいた。
「さて、行こうか」
門を抜けたとはいえ、周囲に大きな変化も見られない。
警戒しながら進んで行くと〈発見〉のスキルが発動し、黒いモヤが現れた。
「エリアボスとはいえ、ランクはEかFなんだな」
ボスにも効果があることに驚いたのと同時に、少しホッとする。ボスとは言え、そこまでランクの高い相手ではないことがわかったからだ。
モヤはすぐに1体のモンスターへと形を変えた。
「何か、思ってたのと違うのが出てきたな」
現れたエリアボスはひょろひょろで、何かの頭蓋骨を連ねたネックレスをぶら下げ杖をついている。
てっきり巨漢で動きの鈍そうなモンスターだと思っていたのだが、どういうことだ? と、考えている間もなく戦闘開始となった。
「とりあえず、手数でどうにかするしかないから、やるか」
ラフが自分にバフをかけている間に、弓による遠距離攻撃を仕掛ける。
AGIが高くないため回転率は上がらないが、それでもレベルが上がっているのに加え、弓の固定ダメージのおかげでそれなりのダメージを与えられていた。
「良し。順調……。ん? 見習いシャーマン?」
戦い始めて、エリアボスの名前をようやく確認した時だった。
「え!?」
見習いシャーマンはハルマを狙ってひとつの魔法を使ってきたのである。
「〈ダークネスカーテン〉」
ジャアクビーとの戦いでピンチを救ってくれた魔法が、今度は自分をピンチに招く。
直後、ハルマの視界は暗闇に包まれてしまったではないか。真っ暗闇というわけではないが、周囲を見通すことはできない。対峙しているはずのボスも、ボンヤリと居場所が把握できる程度で、何をしようとしているのかはまったくわからなくなってしまった。
「マズイ!?」
一瞬だけだが思考が硬直し、気が動転してしまう。
どうにかしなければと焦ったのだが、それは即座に杞憂で終わってしまった。
「え? あ!? あれ? 勝っちゃったの?」
ハルマがジタバタするよりも早く、ラフの攻撃が見習いシャーマンに突き刺さっていたのだ。
この日は、ついにエリアボスに挑むつもりなのだ。
昨日、チップ達と合流した際、抽出機のレシピと一緒に紙のレシピも貰ったのだが、この紙を錬金するのに必要な素材が、エリアボスを倒さないと行けないエリアでないと手に入らないことが判明したからだ。
「それにしても、スライムは初期エリアで最初に遭遇するモンスターっていうのが定番なんじゃないのか?」
必要になるスライム粘液という素材は、プレイヤーバザーを覗けばいくらでも出回っているのだが、討伐難易度は低く、わざわざ購入してまでそろえるのはもったいなく感じたのである。
しかも、MPポーションの登場によって紙の高騰も起こっている。当然、その素材であるスライム粘液も煽りを受けているのだ。
実のところ、この高騰の要因となっているのはハルマ自身のせいでもあった。
飛び抜けて性能の良いMPポーションが突如として出回り始め、多くの生産職がチートを疑ったほどの驚きをもたらした。しかし、チートではないことがわかると、すぐに改良に乗り出したのである。
結果、抽出機そのものは向上させようがないという結論になり、使っている紙が違うのではないだろうかと躍起になって紙の改良に取り組んでいるのである。
トワネに乗って進むには目立ちすぎる気がしたため、目的地へは歩いて向かった。村づくりで消耗した素材の採取も兼ねていたこともあり寄り道も多い。
そうやって平原を抜け荒野へと進むと、その先に峡谷が見えてくる。
「確か、ここのボスが一番相性が良さそうなんだよな」
事前に詳しく調べているわけではないが、チップがここのボスはHPが高いだけで、ソロでも倒しやすいと話していたのを覚えていたのだ。
峡谷を進んで行くと、道幅一杯のサイズがある門が見えてきた。
道中人影はあまりなく、多くのプレイヤーがすでに突破してしまっていることが窺えた。
これをくぐると戦闘エリアになり、他のパーティとかち合うこともなくなる。
実は、エリアボスを倒さなくとも隣のエリアには行けるのだが、そうなると高い山を越えなければならなかったり、急流の川を渡らなければならなかったりする。しかも、そういった場所にはエリアボス以上に強力な超格上のモンスターが配置され、近寄る者を容赦なく襲ってくるのだ。
結局、素直にエリアボスを倒すのが手っ取り早いのである。
ハルマはいつも通りマリーにラフを預け、念のためにトワネを肩に乗せておき、いざという時はアイテムによる回復と魔法によるアシストを頼んでおいた。
「さて、行こうか」
門を抜けたとはいえ、周囲に大きな変化も見られない。
警戒しながら進んで行くと〈発見〉のスキルが発動し、黒いモヤが現れた。
「エリアボスとはいえ、ランクはEかFなんだな」
ボスにも効果があることに驚いたのと同時に、少しホッとする。ボスとは言え、そこまでランクの高い相手ではないことがわかったからだ。
モヤはすぐに1体のモンスターへと形を変えた。
「何か、思ってたのと違うのが出てきたな」
現れたエリアボスはひょろひょろで、何かの頭蓋骨を連ねたネックレスをぶら下げ杖をついている。
てっきり巨漢で動きの鈍そうなモンスターだと思っていたのだが、どういうことだ? と、考えている間もなく戦闘開始となった。
「とりあえず、手数でどうにかするしかないから、やるか」
ラフが自分にバフをかけている間に、弓による遠距離攻撃を仕掛ける。
AGIが高くないため回転率は上がらないが、それでもレベルが上がっているのに加え、弓の固定ダメージのおかげでそれなりのダメージを与えられていた。
「良し。順調……。ん? 見習いシャーマン?」
戦い始めて、エリアボスの名前をようやく確認した時だった。
「え!?」
見習いシャーマンはハルマを狙ってひとつの魔法を使ってきたのである。
「〈ダークネスカーテン〉」
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直後、ハルマの視界は暗闇に包まれてしまったではないか。真っ暗闇というわけではないが、周囲を見通すことはできない。対峙しているはずのボスも、ボンヤリと居場所が把握できる程度で、何をしようとしているのかはまったくわからなくなってしまった。
「マズイ!?」
一瞬だけだが思考が硬直し、気が動転してしまう。
どうにかしなければと焦ったのだが、それは即座に杞憂で終わってしまった。
「え? あ!? あれ? 勝っちゃったの?」
ハルマがジタバタするよりも早く、ラフの攻撃が見習いシャーマンに突き刺さっていたのだ。
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