魔王の右腕、何本までなら許される?

おとのり

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第6章 雨降りの迷宮

Ver.1/第39話

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 到着した迷宮の入口は、廃城を思わせる造りだった。
「でかいな」
 ハルマは門を見上げて、素直に口にする。
「ここが雨降りの迷宮だ。インスタントダンジョンなのと、トラップが多い以外は特に警戒するモンスターはいないらしい。とはいえ、奥に進めているプレイヤーがいないから、正確なところはわからんけどな」
 トワネから降りたチップが、準備を整えながら説明する。
「チップとシュンが前衛で、アヤネが後衛だろ? 俺も後衛でいいよな?」
 全員が下りたところで、トワネに肩乗りサイズになってもらい、いくつか指示を出した後で確認する。
 チップは両手剣使いの典型的な戦士タイプながら風属性魔法も使える。パーティリーダーとしての指示も担当だ。シンプルな戦闘スタイルのため、個人の技量が問われるポジションでもある。
 シュンは本来のぽっちゃり体型ではできないことがしたいからと、短剣使いの回避盾を目指している。そのため、AGIを強化しつつ相手の行動を阻害できる土属性魔法も修得している。相手にダメージを当てヘイトを稼ぎながら、高いAGIを活かした回避能力によって後衛への攻撃を未然に防ぐことで陣形のバランスを保つのが役割である。
 本人は苦笑いを浮かべながら「正直、難しいんだよね」と、弱音を吐いているところを見ると、まだ納得できる動きはできていないとみえる。
 アヤネは道中にも見せた高威力の攻撃魔法も使えるが、基本は前衛のふたりを回復しつつサポートするのが本来の役割である。
「そうだな。弓での援護射撃と不意打ちの警戒ってところかな。特に背後からの強襲には注意してくれ」
「〈発見〉でランクの低いモンスターだったらポップする前にわかるぞ」
「あー。そうだったな。うーん。〈発見〉のスキル、オレたちも欲しいな。DEXどれくらい必要なんだろ?」
「皆、DEXにはまだ振ったことはないのか?」
 チップの問いにハルマが確認すると、全員首肯する。
「ってことは、100から120の間くらいじゃないか? 俺の初期DEXが110で、初日に取れたから」
「じゃあ、そろそろ取れるかもしれないんだね」
「いや。そうなると〈発見〉のスキル持ちが増えて、このダンジョンもにぎわい始めるかもしれない。そうなる前にクリアしちゃいたいな」
 シュンの言葉にチップが重ねる。
 ところが、雨降りの迷宮に足を踏み入れた直後、にぎわいを取り戻すのはもう少し先のことになりそうだと判明した。

「本当にトラップだらけだな。しかも、表示の感じだと、レベル1の罠だけじゃなくて、レベル2の罠も数は少ないけどあるみたいだ。もし、それ以上のレベルの罠があったら、俺でもわからんぞ」
 早速スキルが発動し、潜んでいる罠の場所が黄色くなって表示されている。そこにはどんなタイプの、レベルいくつの罠があるのかも一緒に表示されていた。
 思っていた以上に数が多く、丁寧に場所を教える必要が生じたため、役割分担は早くも修正された。
「スキル〈傀儡〉」
 マリーに代行してもらっていたラフの操作を引き取る。
 DEX以外は役に立てないステータスのため、本人が前衛に混ざるのは危険なので、ラフを使って代わりに道案内することにしたのだ。ハルマがラフを操る場合は、コントローラーでアバターを操作する感覚に似ている。
「そこの床に落とし穴がある。今度はスイッチを踏んだら矢が飛び出してくるタイプだ」
 石畳の道は罠に誘い込むように真っ直ぐな道が多かった。当然、真っ直ぐには進めない配置でトラップがいたるところに設置されていた。
 トラップ自体は、場所さえわかれば魔法やスキルで吹き飛ばすこともできるのだが、場所がわからなければ虱潰しにやるしかなくなる。MPに余裕があったとしても、長いダンジョンで続けるには限度があった。しかも、このダンジョンの場合、この方法を使うと一定数のトラップを破壊したところで、モンスターハウスに飛ばされてしまい、数百というモンスターに襲われ続けるハメになるのだ。
 このモンスターハウスに飛ばされる条件はもうひとつあり、一定数のトラップにはまってしまうことだった。レベルの低いトラップだからと、ダメージも気にせず突き進むと、これまた酷い目に合わされるというわけだ。
〈発見〉のスキルのおかげで順調に奥へと進んで行くと、ピタリとハルマの足が止まり、同時にラフの足も止まる。
「ん? どうした?」
 罠の少ないゾーンに入った時だけ出現するザコモンスターを倒すだけで、ハルマの案内通りに進んでいたチップが問いかける。
「いや。この先、回避できそうもない大きさの落とし穴があるんだよ」
 ハルマにしか見えない行き止まりが、その先で待っていたのである。
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