魔王の右腕、何本までなら許される?

おとのり

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第6章 雨降りの迷宮

Ver.1/第38話

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 4人は最大サイズのトワネに乗り、森の中を進んでいた。森の中ではあるが〈スタンプの村〉がある森ではない。
「トワネちゃん、サイコー! マリーちゃんもこっちに来てイイんだよー」
 アヤネはぬいぐるみのモフモフした感触がいたく気に入ったらしく、だらしない顔になっては、頻繁に頬ずりして楽しんでいる。実際に触れているわけではないのだが、不思議なことに弾力みたいなものだけは伝わってくるのだ。これ以外にも、震動や衝撃といったものも体感できるシステムであるようだ。

 幼馴染の見てはいけない言動もすっかり慣れたもので、男3人周囲を警戒しながら情報交換を行っていた。
 とはいえ、ほとんどチップがネットで調べた情報だ。
「スキルの中にはデメリットしかないペナルティ的なものもあるから、気をつけた方がイイぜ。こういうのは他のスキルと違って、デリートできないからな」
「マジか?」
「判明してるので今のところ一番キツイのが〈不眠不休〉ってスキル。常時HPとMP半減の上、回復量よりも多いスリップダメージが入るってやつだな。回復ができないこともないんだけど、回復量がめっちゃ低いらしい。あと、何かしらの状態異常も常に入ってるんだそうだ」
「うわっ! 何やらかしたら、そんなエグイことになるんだよ。まともにプレーできないじゃん」
「取るのはオレらにとっちゃものすごく簡単。ってか、オレは知らずにフラグ半分立てたこともある」
「い!?」
「何でもね。24時間以上の連続ログインを2回やっちゃったら、強制取得らしいよ。まぁ、これも詳細な取得条件は不明確みたいだから、時間と回数に幅があると思うけど」
 チップとハルマのやり取りに、シュンがおっとりと加わる。どうやら、この話はすでに聞かされていたらしい。
「なんだ……。そんな鉄人プレーしないから、俺は気にする必要ないわ。確か、8時間で一度警告出るよな?」
 これはGreenhorn-onlineのシステムではなく、ハードウェアの方のシステムで、体調管理のアナウンスが状況に合わせて発せられるのだ。
「8時間で一回、12時間を越えたらもう一回、その後は30分ごとにアラーム出るな。無視するけど」
「あのなあ……。まあ、チップらしいか。とにかく、ゲームをやりすぎるな、っていう運営からの露骨な警告なのね」
「だな。このスキル、βテストではなかったから、一時期、最前線の廃プレイヤーの連中がごっそりインしなくなったんだ。スキルの解除方法が8時間以上の連続ログアウトを9回で、最短でも丸3日かかるから、辞めたか休止せざるを得なくなったんだよ。でもな、この手のスキルの恐ろしいところは、他にも似たようなペナルティスキルがあるんじゃないかって思わせるところだよ」
「?」
「運営が注意喚起するまでもなく、プレイヤー側が問題行為を自重するようになるってこと。実際、物乞い、賭博、ナンパ、ストーカーとかって、他のMMORPGだと大なり小なり問題になるんだけど、見ないだろ?」
 チップの問いに、思考を巡らせるが、初日に、モンスターの取り合いで言い争いになっていたのを見かけたことがあるくらいで、他に騒動らしい騒動は見かけた記憶はなかった。
「なるほどね。何はともあれ、迷惑かけずに健康に気を使いながら、楽しくゲームをしましょう、ってことだな」
「そういうことだな」
 区切りがついたところで、話題も変わる。
「そういえば、今から行く場所、まだ攻略進んでないんだろ? 俺が一緒で大丈夫なのか?」
「いや。たぶん、ハルマみたいなプレイヤーが一緒じゃないと、攻略できないんじゃないかと思ったから誘ったんだよ。攻略できないにしても、糸口くらいはつかめるんじゃないかと思ってね」
 ハルマ達が向かっているのは、闇の大陸の初期エリア、ダークッタンの南西に広がる森を抜けた先にある迷宮だった。
 森を抜けるのは危険な上に、迷宮内もトラップが数多く仕掛けられており、死に戻りするプレイヤーが後を絶たない。しかも、迷宮は入る度に形を変えるため、今では物見遊山のプレイヤーが立ち寄る以外、閑散としている場所のひとつだった。
「なるほど、トラップだらけ、ね」
「そ。入る度に構造が変わるインスタント系のダンジョンってだけでも厄介なのに、トラップまであって全然先に進めないらしいんだわ。〈発見〉のスキルって、罠も見つけられるんだろ?」
「らしいな。まだ、罠を見たことがないから、役に立ったことないけど」
「あー、そっか。初期エリアで罠がある場所って、たぶん、今から向かう迷宮くらいだもんな。ハルマもレベル12もあるんあったら、そろそろ次のエリアに進めるんじゃないか? ラフだっているんだろ?」
「そうだな。拠点も手に入ったし、村になったおかげで転移オーブも使えるようになったから、行動範囲広げてもいいかもな」
 生産活動の拠点が欲しくて副次的に村を作ることなったせいで時間を取られなければ、ハルマもすでにエリアボスに挑戦していたかもしれない。
 初期エリアから出るためのボスは全部で12種類おり、各大陸に2種類ずついた。
 すでにβテストの段階で情報が出回っていたので、それぞれ何かしらのステータスに偏ったボスか、プレースタイルのモデルになりそうなタイプのボスが当てられていることは知っていた。
 HPが極端に高いがそれだけのボスであるとか、戦士や武闘家、魔法使いタイプを想定したボスである。
 どうやら、これらのボスと戦うことで、この世界の戦闘スタイルを理解してもらおうという背景が見え隠れしていた。

 森の中をトワネに乗って移動している間、戦闘はアヤネの魔法かハルマの弓による遠距離攻撃で対処できた。
 アヤネは水と光系統の魔法を使うスタイルで、INTを高めるために杖を装備している。それでも、いつもであれば回復職も兼ねることから、火力重視で戦うことは少ないのだが、今日はハルマ特性のMPポーションが豊富にあるということで、遠慮なく攻撃魔法を使いまくっている。
 森を抜け、周囲に他のプレイヤーが見当たらないことを確認して、そのままトワネに乗って移動することにした。
 普通に歩くよりも早いということもあったが、ハルマだけでなく、他の3人も騎乗して移動できることが単純に面白かったからである。
 そうやって、チップの案内でしばらく進むと、目的の迷宮の入口が見えてきた。
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