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第5章 切り株の村

Ver.1/第37話

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「ちょ、ちょっと待った。って?」
 チップが混乱した様子で尋ねてくる。
「そのままの意味だが? この〈スタンプの村〉全部が、俺の所有物。住宅地サーバーないだろ? それって変だなーと思ったら、自分で開拓できたんだよ。すごいよな。ここ、別サーバーなんだぜ? 全然わからないだろ。あ! あの一番大きな家が、俺の家な」
 あちこちの建物を指さしながら4日間の苦労を説明していくも、チップたちはそれどころではなかった。

「「「待て待て待て」」」

「オレ達」
「ボク達」
「わたしらって」
「「「同じゲームしてるんだよな(ね)?」」」

「いやだな。こうやって同じ場所にいるんだから同じゲームに決まってるじゃないか。あ! 一緒に村を作りたかったのか? ごめんな。皆もここに誘おうと思ってたんだけど、今、住人の人数が上限で誘えないんだよ。開拓が進んだらまた増やせるらしいから、それまで待ってくれよ」
 昔、この4人でサンドボックス系のゲームをマルチプレーで遊んだこともあったので、その時の記憶を思い出しての発言だったが、当然、そんな意味ではない。
「いや。そういうことじゃないんだが……。もう、いいや」
 チップもわかっていた。
 こうやって話が噛み合わなくなることが時々あるのだが、そういう時はとことん噛み合わないので、さっさと諦めるのが正解であることを。その辺は良くも悪くも長年の付き合いから生まれる慣れだった。
 そして、3人ともわかっているのである。
 こういう事はハルマが心底楽しんでる時に起こることが多いのだと。
 しかし、この後、ケット・シーのラフと森の守り神トワネも紹介され、更に頭を抱えることになることを、まだ知らない。

「ハル君だけ、ズルいぃ! わたしもこんなにカワイイ子たちに囲まれてプレーしたい!」
 アヤネにとっては、ケット・シーのラフだけでなく蜘蛛のぬいぐるみであるトワネもカワイイに分類される存在だったらしく、ぶるんと頭を思い切り振ったかと思ったら、我に返ったように抗議を始めた。
「いやー。そんなこと言われてもなあ……。俺もどこでフラグ立ったのかわからんクエストばかりだからなあ。どこで発生したのか教えてもいいけど、同じクエストが始まるかはわからんぞ?」
「あー。それは、まず、発生しないだろうな。ネットで調べて条件満たしてると思ってクエスト受注場所に行っても何も起こらないことがあるくらいだから……。ただ行っただけじゃ、難しいんじゃないか? 第一」
「第一?」
「ラフはともかく、マリーやトワネって、複数いるのか?」

「「「!?」」」

 チップの疑問に、全員が目を丸くしてハッとなる。
「確かに……。いや、正直、他にもいたら、ちょっと嫌だなあ。……あ。でも、マリーは設定しないと他のプレイヤーには見えないから、いる可能性はある、のか?」
「どうだろうな? いたずらゴーストや森の守り神って括りだと複数いるかもしれないけど、マリーとトワネは固有な気がするけどな」
「あー、なるほど。どんな見た目と性格になるかは、ランダムって可能性はあるかも。じゃあ、わたしが同じクエストをクリアしても、カワイイ子が選ばれるとは限らないのか」
「いやー。アヤネだったらどんな子が来ても、カワイイ! って、飛びつくと思うよ? ボクの知ってる限り、この世界で出会ったモンスターで、初見の感想が『カワイイ』じゃなかったことないもん」
 ガックリ肩を落とすアヤネに、シュンがのんびりと答えると表情が一変する。
「それもそうね。わたしがカワイイを見いだせない存在なんか、いないわね」
 アヤネのよくわからない自信に、ハルマを始め男3人、大丈夫か? と、思ったのは、今回が初めてではないということも付け足しておこう。
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