魔王の右腕、何本までなら許される?

おとのり

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第5章 切り株の村

Ver.1/第35話

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 黙々と建て続け、途中で〈大工の心得Ⅱ〉が〈大工の心得Ⅲ〉に成長したことで、作業効率があがったこともあり、ようやく追加の移住希望者19人が住める家を用意できた。
 しかし、ここで予定外のアナウンスが表示されてしまった。

『村の住人が30人に到達しました。これ以上住人を増やすためには、周囲の開拓が必要になります。開拓は住人に依頼しておくことで、徐々に進行していきます』

「え? 30人?」
 最初の移住者7人。商業組合から来た行商人が1人。教会の神父とシスターの2人。これに19人を足す。
「29人だよな? あ! 俺も含めてか。プレイヤーも数に含まれるってなると……。チップたちを呼べないってことか」
 昨日でチップの補習も終わり、今日は久しぶりにゲーム内で会う約束をしていた。この日はチップだけでなく、シュンとアヤネも一緒に来る予定で、村に誘うのには丁度いいと思っていたのだ。
 ただ、約束していた時間からはずいぶんと過ぎている。
「うーん。どうしても、って時には、今いるNPCの誰かにまた移住してもらえばイイとはいえ、それはそれで気が引けるなあ」
 思いがけない問題に頭を悩ませていると、ようやくチップがログインしたらしく、チャットが飛んできた。
「悪い、悪い。補習から解放されたのがうれしくて、昨日は徹夜しちゃって……。さっきまで寝てた」
「ハハハ……。そんなことだと思ってたよ」
「シュンとアヤネも、もう少ししたら戻って来られるみたいだから、どこかで待ち合わせしようぜ」
「おっけー」

 シュンとアヤネは、チップがいない時はそれぞれソロプレーをしており、気ままに散策していたらしい。
 2人とも古くからのゲーム仲間ではあるが、がむしゃらにトッププレイヤーを目指そうというタイプではなかった。それでもチップに引っ張られ、かなりやり込んでいるらしい。
「おーい。こっち、こっち」
 指定された場所に向かうと、すでに3人はそろっていた。遅れてやってきたハルマを目敏く見つけたチップが、手を振りながら声をかけてきたので、軽く手を上げて返事をする。
「すまない。遅かったか?」
 村の仕上げに少し時間がかかり遅くなったのは事実だったが、シュンとアヤネも先に来ているとは思っていなかった。
「違う、違う。ボクもアヤネも、偶然この近くで受けてたクエストが終わったタイミングだっただけだよ」
 ぽっちゃり体型のシュンが、おっとりと告げる。
「だいたい。一番、遅れたのはチップなんだから気にしなくていいわよ。それより、ハル君。カワイイ幼女を連れ回してるって、ホント!? どうやったらそんなことできるの!?」
 スリムで小柄な少女は全てを薙ぎ払い、興奮気味に詰め寄ってきた。
「おいおい。その言い方じゃ俺がただのヘンタイじゃないか。ここで見せるとアヤネの性癖が爆発しそうだから、場所を変えよう。マリー以外にも見せたいものがあるからさ」
 アヤネは根っからのカワイイもの愛好者なのである。
 2人のやりとりにチップとシュンも苦笑いを浮かべるばかりだ。
「失礼ねぇ。カワイイは正義なのよ?」
「いや、マリーがカワイイのは認めるけど、見る前からカワイイ前提で話を進めるのは危険だと思うぞ? まあ、いいや。まずはパーティを組もうか。アヤネは、少し向こうを向いていてくれ。マリーが見えちまう」
「むー。わかったわよ」
 ハルマはメニュー画面を操作し、3人をパーティに誘う。
「俺の転移オーブに〈スタンプの村〉ってのがあるだろ? それを使ってくれ」
 転移アイテムはパーティメンバーであれば共有可能であり、転移場所は始まりの町以外にも随時増えていく。ただ、ハルマの場合、始まりの町エリアから出ていないので、登録できる場所は自分の村以外増えていない。
 エリアボスを越えていないと登録できないような場所の場合、該当のボスを倒していないと、同じパーティメンバーであっても使うことはできないのだ。
「〈スタンプの村〉? 聞いたことない場所だな。使えるってことは、初期エリアのどこかなんだろうけど……」
 アヤネはチップの疑問も気にせず、いち早く転移していった。少しでも早くマリーを見たいのだろう。
 アヤネの行動に飽きれつつ、男3人もすぐに転移するのだった。
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