上 下
25 / 276
第3章 MPポーションはじめました

Ver.1/第24話

しおりを挟む
「とりあえず、拠点を本格的に運用していく前に、これだけでも使えるようにしないとな」
 新しく手に入れた自宅に向かうと、前日に購入だけしておいた〈調合〉設備を設置する。〈調合〉に必要不可欠な作業ができる上に、最低限の道具も収納されているのだが、見た感じただの質素なテーブルである。これが15000Gもしたのだ。
「くそー。これのせいで貯め込んだ素材も材料も装備品も、だいぶ売り払うことになったぜ。しかも、所持金もほとんどゼロ……。稼がないとなぁ」
 ハルマは、早速小瓶を取り出すと、水系素材である朝露の雫を注ぎ込む。
「で、マギアのつぼみからMPを〈ドレイン〉して、っと」
 ゲーム開始から初めての魔法使用である。インベントリから素材であるマギアのつぼみを取り出し、作業台の上に乗せると手をかざして魔法を発動させる。
「〈MPドレイン〉っと。ふむ。俺のMPに別メモリで足されるのか。後は、これを〈MPリバース〉で、いいのかな」
 かざしていた手をマギアのつぼみから水の入った小瓶に移動させ魔法を発動させると、吸い取ったMPが注ぎ込まれ、無色透明だった水の色が澄んだ青に変化して仄かに発光を始めた。
「良かった。完成だ。……あれ? 何か俺の知ってるMPポーションと違う気がするんだが? ま、いっか。じゃんじゃん作って稼がないとな。さっき見て来たギルドの様子だと、まだまだMPポーションの需要は高いみたいだし。波に乗り遅れた分、がんばらないと」
 生産職をメインにやっていくつもりで始めたのに、生産職が輝いている今出遅れてしまっているのだ。おかげで拠点を手に入れることができたとはいえ、遅れを取り返そうと次から次にMPポーションを仕上げていくのだった。

「あれ? やっぱり変だぞ? これ、本当に同じアイテムなのか?」
 持っていた素材を全部使い果たし、プレイヤーバザーに出品しようと町に戻ってから気がついた。
 MPポーションの相場を調べようと、売られているものをチェックしていたのだが、どれもこれもハルマの所持しているMPポーションよりもかなり粗悪品なのである。それでも、見ているうちに次から次に売れていく。
「売られてるの、どれも回復量が12~15しかないのだが?」
 インベントリに大量に収納されているものは手作業の部分がほとんどないため、全て同じ性能であり、回復量も倍以上の40であるのだ。
 何が違うのかと首を傾げる。
 ただ、違う点は明白だった。
 抽出機を使っているか、魔法を使っているかだ。
 では、どうしてそこまで差が出たのかと考え込む。
 抽出機を使ったMPポーションの作製は、ドリップコーヒーを使ってコーヒー牛乳を作るようなものだった。つまり、ドリップコーヒーの濃さが問題なのではなかろうか? と、仮説を立てた。
 実は、この仮説は正しかった。
 現在、抽出機で使う紙の質が非常に悪いのだ。そのため、純度の高いMPを抽出できずに、その上、水系素材で薄めなければならないために効果の低い粗悪品にしかならないのである。
 その点、ハルマは魔法によって純粋なMPのみを溶かし込むことができたため、大きな差となっていたのだ。しかし、実はこれでもまだ最高級品とまでには至っていない。
 ハルマのINTが低いせいで、〈ドレイン〉による抽出が最高値に達していないためだ。むろん、当のハルマがそんなことを知るはずもなかった。

「しかし、困ったな。これじゃ同じ価格帯で出すわけにはいかんぞ? 回復量に合わせて単純に2.5倍? それとも付加価値つけて3倍くらいで大丈夫かな? いや、それだと攻め過ぎか? そんな高額なMPポーション、売れるのか?」
 プレイヤーバザーの前でひとり――マリーは気ままに周囲をふらついている――腕を組んで悩んでいたが、意を決したように操作を始めた。
「とりあえず3倍で様子を見てみるか。売れなかったら値段下げればいいだけだし」
 ドキドキしながら出品を終えると、すぐに反応があった。
「え!? もう売れた!? 3倍でも売れるんだな。良かった」
 安堵したハルマは、作ったMPポーションのほとんどを同じ値段で次々と出品するのだった。

 この後、チップとのチャットでMPポーションが飛ぶように売れたことを自慢したが「安すぎるぞ、バカ!!」と怒られるのは、もう少ししてからである。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

アイドルグループの裏の顔 新人アイドルの洗礼

甲乙夫
恋愛
清純な新人アイドルが、先輩アイドルから、強引に性的な責めを受ける話です。

最前線攻略に疲れた俺は、新作VRMMOを最弱職業で楽しむことにした

水の入ったペットボトル
SF
 これまであらゆるMMOを最前線攻略してきたが、もう俺(大川優磨)はこの遊び方に満足してしまった。いや、もう楽しいとすら思えない。 ゲームは楽しむためにするものだと思い出した俺は、新作VRMMOを最弱職業『テイマー』で始めることに。 βテストでは最弱職業だと言われていたテイマーだが、主人公の活躍によって評価が上がっていく?  そんな周りの評価など関係なしに、今日も主人公は楽しむことに全力を出す。  この作品は「カクヨム」様、「小説家になろう」様にも掲載しています。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

💚催眠ハーレムとの日常 - マインドコントロールされた女性たちとの日常生活

XD
恋愛
誰からも拒絶される内気で不細工な少年エドクは、人の心を操り、催眠術と精神支配下に置く不思議な能力を手に入れる。彼はこの力を使って、夢の中でずっと欲しかったもの、彼がずっと愛してきた美しい女性たちのHAREMを作り上げる。

天日ノ艦隊 〜こちら大和型戦艦、異世界にて出陣ス!〜 

八風ゆず
ファンタジー
時は1950年。 第一次世界大戦にあった「もう一つの可能性」が実現した世界線。1950年4月7日、合同演習をする為航行中、大和型戦艦三隻が同時に左舷に転覆した。 大和型三隻は沈没した……、と思われた。 だが、目覚めた先には我々が居た世界とは違った。 大海原が広がり、見たことのない数多の国が支配者する世界だった。 祖国へ帰るため、大海原が広がる異世界を旅する大和型三隻と別世界の艦船達との異世界戦記。 ※異世界転移が何番煎じか分からないですが、書きたいのでかいています! 面白いと思ったらブックマーク、感想、評価お願いします!!※ ※戦艦など知らない人も楽しめるため、解説などを出し努力しております。是非是非「知識がなく、楽しんで読めるかな……」っと思ってる方も読んでみてください!※

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

処理中です...