魔王の右腕、何本までなら許される?

おとのり

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第1章 スキル発見

Ver.1/第7話

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 マスターから聞いた話をカフェの外でうろうろするばかりの手品師ダイバーにも聞かせると、早速向かうことになった。
「同行するのか……」
 今までプレーしたゲームだと、依頼主は動かずに待っていることがほとんどだったため意外に感じた。
 何より。
「このオッサン、目立ちすぎなのだが?」
 プレイヤーの多くが今はフィールドでのレベル上げに励んでいるとはいえ、サービスが開始されたばかりであるためハルマと同じように町中をうろつく者も少なくなかった。そういったプレイヤーたちはダイバーに気づくと、決まったように二度見三度見して驚きを表現するのだった。
「墓地は、この路地を曲がった先にあります。あそこの教会はずいぶん前に中央広場の方に移転して、それ以来放置されたままなのですよ。私も若い頃は、あの教会に隣接する孤児院の子どもたちのために手品を披露したものです」
「いやっ。その頃に手品見せた子どものゴーストが犯人じゃん、絶対! そんなの倒したくないんだけど!?」
 無機質なNPCが相手だと油断していたせいもあったが、まさか返答があるとは思っていなかった。
「なるほど。確かにあの頃、流行り病で多くの子どもも亡くなった。その子どもの誰かが〈いたずらゴースト〉になってしまったのかもしれませんね……。だったら、少し遠回りになりますが寄り道をしても構いませんかね?」
「あ? え? はい。いいですよ」
 クエストの途中で行き先が変更になるとは予想外の展開である。しかも、NPCを相手にしているとは思えないほど自然なやり取りに感心もしてしまう。
「これが神様、安藤雄仁のやりたかったことなのかな?」
 同時に、柔軟な対応はしないと思っていたNPCに対する認識も切り替わる。

 墓地を目の前にして、行き先は移転した教会に変更になった。そこでは傷の手当と治療――HPと状態異常の回復――を受けるプレイヤーだけでなく、死に戻りしたプレイヤーがひっきりなしに転送されてきては再び外へと向かって動き出していたのだが、ここでも例外なく手品師ダイバーは奇異の目で見られることになるのだった。
「ついてきてもらえますか」
 ダイバーはプレイヤーからの視線など気にかけることもなく告げると、普段は入れない教会奥の扉へと向かいだす。興味を持った他のプレイヤーが数人ついてきたが、途中で制限が入ったらしく奥まで進めたのはハルマだけだった。
「これは、これは……。ダイバーさんじゃないですか。お久しぶりです。ようこそいらっしゃいました」
 案内されて向かった先で待っていたのは、教会の執務室のような部屋で、白髪の目立つシスターが穏やかな笑みで迎えてくれた。
「お久しぶりです、シスター。ここに来たのは、折り入ってお願いがありまして」
「はて? あなたがそういうということは、もしかしてアレですか?」
「ええ。そうです。まだ、残ってますでしょうか?」
「もちろんですとも」
 そういうと、シスターは更に奥の部屋へと向かうと、すぐに何かを持って戻ってきた。
「それは?」
 ハルマは首を傾げて尋ねる。
「教会が移った時に孤児院もこちらに移りましてね。子どもたちに楽しんでもらえるように、あの頃使っていた道具を寄付していたんですよ。すみませんがシスター。この子を返してもらってもよろしいでしょうか?」
 ダイバーが箱から取り出したのは、ブーツと羽根つき帽を身につけた騎士風の恰好をした黒猫のぬいぐるみ、いや、操り人形だった。
「ええ、構いませんとも。あなたに必要だから来られたのでしょう? ですが、すみません。子どもたちがずいぶん使っていますので、少し壊れてしまっているのです」
「なんと……。いや、しかし、このくらいなら〈見習い〉でもなければ、木工と裁縫の職人さんで直せそうですが……。どちらかだけならともかく、両方となると探している余裕はないですかね」
 ダイバーは少し肩を落とすも、ハルマは即答する。
「俺。〈見習い〉から〈駆け出し〉に上がったばかりですけど、どっちもできますよ?」 
「何と⁉ それでは直してもらえますか?」
 職人用の設備が近くにあっただろうかと頭をひねるが、どういうわけか手渡されてすぐに『修復しますか?』と、問うテキストが表示され、イエスとノーが同時に現れた。
 一瞬だけ躊躇うも、すぐにイエスで答える。
「おお! 早速直してくれたのですね。これなら大丈夫だ」
「マジかー」
 さすがはゲームと、すぐに納得するしかないのだった。
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