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獣人の町

第二十話

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 相変わらず澄み切った青い空を、何羽もの猛禽類が飛び交っている――糸に繋がれたまま。

 あのテンションのまま川に連れて来られた時には日が翳り始めていたが、どうやらこのまま夜釣りを決行するらしい。
 新しい素材エサを前にした職人達を止められる者はどこにも居なかった。
(――捕まえる手伝いくらいするか)
 そう思い同行した佐久弥だったが、釣り上げるのに時間がかかっているようだった。
 確かに飛んでからは大変だったが、あそこまで苦労しただろうかと疑問に思い……意識からあえて外していたステータスウインドウの光をちらりと見る。
「いちおう見てみるかなぁ……」
 嫌がってる佐久弥の様子に、夕暮れの中をパタパタと飛んでいたキューちゃんが肩に止まり……ぶらんっ、と服を伸ばしながらぶら下がる。
「すまないがもうちょっとだけよけてくれ」
 たら~っと垂れてきたスライムに声をかけて視界を確保する。
 ……何か期待するように花子がふわふわと花を飛ばし始めたが――今はこれといって望む事は無いので放置。
 ぽと、ぽと、と花が地面に落ちて消えるのを見て片手で鞘を軽く叩いてやると再び飛ばし始めたので問題無い。

 スッ、と指先を光に滑らせ……覚悟していたはずの佐久弥の目が、虚ろになる。
(見るんじゃなかった……)
 遠くで騒いでいる連中の声もどこか遠くに聞こえてしまう。


 * * *

 サクヤ LV39

 【スキル】
  ・テイム
  ・採取
  ・調薬
  ・探索
  ・釣り
  ・掴み
  ・回避
  ・獣医
  ・農夫

 【称号】
  ・初心者の中の初心者
  ・NPCの友
  ・とんでもないものを盗んでいきました
  ・せめてお名前を
  ・コリル道場門下生
  ・うちのこ!!!!
  ・宝くじよりもすごい
  ・つ『名前のつけかた』
  ・……えっち

 【状態異常】
  ・呪(解呪不可)

 【同行者】
  ・スライム
  ・花子(装備)
  ・キューちゃん

 * * *


 深く考えたく無くてぼ~っと画面を見ていた佐久弥が、意を決して称号の説明表示に指を滑らせると……さらに折りたたまれていた部分が開かれる。


 * * *

【初心者の中の初心者】……VRMMORPGの基本さえ何一つ知らない正真正銘の初心者
【NPCの友】……出会う全てのNPCに話しかけようとする究極の暇人
【とんでもないものを盗んでいきました】……$%&の、心です
【せめてお名前を】……名乗るほどのもんじゃありません
【コリル道場門下生】……師範代まであと100戦!
【うちのこ!!!!】……現在争奪戦中
【宝くじよりもすごい】……その運分けてくれ
【つ『名前のつけかた』】……お察し下さい
【……えっち】……隠してるものを見つけてしまう

  ・所持金:1030R

 * * *


 何からつっこめばいいのかわからない!
 獣医や農夫はそれスキルじゃない、職業だ!
 うちのこ?誰の子!?
 誰といえば名前聞いてるの誰だよ!そして説明で会話するな!!
 すごいって、何がすごいんだ、そして誰に分けろと!?
 えっちって何だよ、見つけちゃだめなら探索スキルあっちゃ駄目だろ!!
 あと何か一箇所バグってる!!
(……追いつかない)
 猛烈な勢いで脳内をつっこみが駆け巡るが、頭一つじゃ足りそうに無い。……というか疲れた。


「さっくん捕まえて~っ!」
 ばさり。と一人突っ込みに走っていた佐久弥の顔面に鳥の足がめり込む。猛禽類の脚力は凄まじく、佐久弥は意識を飛ばし……たいのに無駄にレベルが高いせいか飛ばせない。
(いっそ気を失って、今見たものは夢でしたとかだったらいいのに……)
 自分を蹴り付けた鳥をがっしりと捕獲したまま、佐久弥は空を見上げる。
「ああ、空が青いな……」
「いま夜だろ」
 佐久弥の腕の中から鳥を回収しながら拓也が返す。
 嬉しそうにぬるっと残った羽をアイテム欄にしまう拓也はご機嫌だ。
「鳥が飛んでるよ……」
「そりゃまあ釣りまくってるからな。飛んでるだろう、鳥目なのに」
 あと何羽ぐらい釣れるかな~と仕掛けを直した拓也はまた川へと向けて竿を振る。
「大漁大漁っと♪」
 現実逃避もさせてくれない拓也は佐久弥の様子には気付きもしない。
 慰めるように頭を撫でるよう、ずりずり動くスライムと、逆さまのまま指先を舐めるキューちゃんと、勝手に腰から抜け出し寄り添ってくる花子。
「お前らだけが俺の癒しだ……っ!」

 佐久弥の声はとても切実だったという。
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