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江戸時代。彼らと共に歩む捜査道
河童4
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「帰ったぞー。」
翌朝。鏡から舞い戻った彼は、そう言った。いつのまにか、あちらに行っていたらしい。
「ああ、やはりいたな。」
「いやいるでしょ、私の家だもの。」
「どこかに出掛けていなくてよかった。」
どういうこと、と頭にハテナを飛ばす暇もなく、鏡に引き込られる。他でもない狐によって。
普通、鏡に引き込むのって学校の怪談じゃないの??
「店主殿。」
呆れながら店に出ると、一郎さんがまたもやいた。
「あら…。」
時計を見れば、八時半。約束の9時までには早い。
「時間より早くきてしまってすまない。どうも、浮かれてしまってな。時間を決めて会いに行くなんて……逢い引きのようだろう?」
「あいっ!?」
かぁ、と顔が赤くなると同時に、真横からなにかが飛ぶ。それを、首をかしげるようにしてかわす一郎さん。よく観てみれば、飛んでいったものはフォークだった。そして、なげた人物とは案の定玉藻前である。
「わたしもいるのだが?わたしの店主を口説くのでない。」
「ふむ、いたのか?気がつかなんだ。」
ぴきり、と青筋が立つのが見えた。玉藻前の額に。勝ち誇ったような顔の一郎さんは、ああ…と呟き、思い出したような顔をした。
「そんな話をしにきたんじゃない。川へ調べにいくだろう?わしの手前勝手(わがまま)で付き合わせるからな。それに、女人の服を汚すのは忍びない。」
そう言い一郎さんはわたしに袋を渡す。中をみてみれば、かわいらしい色の薄手の着物が。
「川へ行く際に、これを来ていくといい。これで店主殿の服が濡れたり汚れることはないだろう。」
「あら…そんな、いいんですよ…。」
申し訳ないですし、というとわしが送りたいのだ、と微笑んで言う。そしてひゅっと風を切る音がする。玉藻前がどこからかハリセンを取り出し一郎さんに振りかぶったが避けたためだ。
「ふっ、玉よ、お前の攻撃の手はもう理解している。」
「学習能力が無駄に高い犬め。店主を口説くなと言っておろう。わたしのだ。」
「お前のものではないだろう。わしのでもないが。……まだ、な。」
「なぜそもそも店主に構う?お前なら女は寄ってくるだろう。」
「それはお前もだろう。それに、俺はほかの女たちより店主殿の方が、はじめてあったときから……ごほん。店主殿の店の甘味は上手いし、店主殿の性格も美しいと思っているからな。」
しっかりと聞こえてしまう。顔が暑くなる。そして玉藻前の視線がひしひしと刺さる。
「ずいぶんと…。」
「……ち、ちがうのよ、玉藻前!こんな少女漫画みたいなこと起きてたら、だれでもドキドキするでしょう!?」
「ほう。」
短い言葉なのに、なんだか圧を感じた。はぁ、と呆れるように息を吐いたあと、玉藻前は私を抱き寄せた。そして、頬に温もりを感じた。頬にキスをされたのだ。
「なっっ!?」
「仕返しだ。」
一郎さんに向かって、玉藻前はべー、と舌を出す。一郎さんは顔が真っ赤だ。
「まさか犬が、男が女に服を送る意味を知らないわけではあるまい。いい年の大人が、ずいぶんと大胆なことだ。」
「と、特に意味はない!深読みをするな…!」
顔を赤くしていわれても。
意味を察してしまった私は、思わず顔を覆う。
(なによ、二人して私を恥ずか死させたいの!?)
そもそも、なぜ二人が私に好意を…いや、玉藻前はわかるわ。命救ったものね私。恩義はあるでしょう。一郎さんがよくわからない。なぜそこまで…。
「あ、なるほど。」
ふと、言葉が出る。
「一郎さん、私、この辺りの女性とちがうんですね?髪とか、肌とか。」
そういえば、この時代にまだトリートメントやシャンプーなどないし、ましてやヘアオイルなどあるはずもない。化粧水など、あっても現代ほど上質ではないだろうし、そこらへんが作用して、なかなか美人に見えているのではないだろうか。
「突然なにを……まぁ、店主殿の髪はとても艶があり美しいとは思うし、肌も綺麗だ。しかし、店主殿の瞳にも引き込まれそうでな。わしは店主殿と目があった瞬間、いや、後ろ姿をみた時から、初対面のときからずっと……っと、ごほん!!なにをいわせるんだ!」
いまさら我に返りました、というような反応をされても。聞かなければよかった、と熱を帯びた頬のまま私はそう思う。
「まて、こいつの美しさならばわたしも…。」
「待って、もういいから…!なぁに、男の人って、こんなに積極的というかストレートな口説きをするの!?草食系男子が多い令和とは真反対ね!」
「レイ……??」
「おい、これ以上はまずいぞ。勘づかれたらどうする。」
あ、と怪訝な顔の一郎さんをチラリとみる。現代のことは言わないほうがいいことを忘れていた。
「店主殿、玉。なにかわしに隠し事でも……?」
ごーん、と鐘の音がなる。いいタイミングで鳴ったわね。
「ま、まあっ!そんなことより、早く川へ行かなくちゃ!こんな時間だわ!」
「ふむ…もう巳の刻になったのか。なかなか話し込んでいたようだ。こちらだ、付いてきてくれ。」
翌朝。鏡から舞い戻った彼は、そう言った。いつのまにか、あちらに行っていたらしい。
「ああ、やはりいたな。」
「いやいるでしょ、私の家だもの。」
「どこかに出掛けていなくてよかった。」
どういうこと、と頭にハテナを飛ばす暇もなく、鏡に引き込られる。他でもない狐によって。
普通、鏡に引き込むのって学校の怪談じゃないの??
「店主殿。」
呆れながら店に出ると、一郎さんがまたもやいた。
「あら…。」
時計を見れば、八時半。約束の9時までには早い。
「時間より早くきてしまってすまない。どうも、浮かれてしまってな。時間を決めて会いに行くなんて……逢い引きのようだろう?」
「あいっ!?」
かぁ、と顔が赤くなると同時に、真横からなにかが飛ぶ。それを、首をかしげるようにしてかわす一郎さん。よく観てみれば、飛んでいったものはフォークだった。そして、なげた人物とは案の定玉藻前である。
「わたしもいるのだが?わたしの店主を口説くのでない。」
「ふむ、いたのか?気がつかなんだ。」
ぴきり、と青筋が立つのが見えた。玉藻前の額に。勝ち誇ったような顔の一郎さんは、ああ…と呟き、思い出したような顔をした。
「そんな話をしにきたんじゃない。川へ調べにいくだろう?わしの手前勝手(わがまま)で付き合わせるからな。それに、女人の服を汚すのは忍びない。」
そう言い一郎さんはわたしに袋を渡す。中をみてみれば、かわいらしい色の薄手の着物が。
「川へ行く際に、これを来ていくといい。これで店主殿の服が濡れたり汚れることはないだろう。」
「あら…そんな、いいんですよ…。」
申し訳ないですし、というとわしが送りたいのだ、と微笑んで言う。そしてひゅっと風を切る音がする。玉藻前がどこからかハリセンを取り出し一郎さんに振りかぶったが避けたためだ。
「ふっ、玉よ、お前の攻撃の手はもう理解している。」
「学習能力が無駄に高い犬め。店主を口説くなと言っておろう。わたしのだ。」
「お前のものではないだろう。わしのでもないが。……まだ、な。」
「なぜそもそも店主に構う?お前なら女は寄ってくるだろう。」
「それはお前もだろう。それに、俺はほかの女たちより店主殿の方が、はじめてあったときから……ごほん。店主殿の店の甘味は上手いし、店主殿の性格も美しいと思っているからな。」
しっかりと聞こえてしまう。顔が暑くなる。そして玉藻前の視線がひしひしと刺さる。
「ずいぶんと…。」
「……ち、ちがうのよ、玉藻前!こんな少女漫画みたいなこと起きてたら、だれでもドキドキするでしょう!?」
「ほう。」
短い言葉なのに、なんだか圧を感じた。はぁ、と呆れるように息を吐いたあと、玉藻前は私を抱き寄せた。そして、頬に温もりを感じた。頬にキスをされたのだ。
「なっっ!?」
「仕返しだ。」
一郎さんに向かって、玉藻前はべー、と舌を出す。一郎さんは顔が真っ赤だ。
「まさか犬が、男が女に服を送る意味を知らないわけではあるまい。いい年の大人が、ずいぶんと大胆なことだ。」
「と、特に意味はない!深読みをするな…!」
顔を赤くしていわれても。
意味を察してしまった私は、思わず顔を覆う。
(なによ、二人して私を恥ずか死させたいの!?)
そもそも、なぜ二人が私に好意を…いや、玉藻前はわかるわ。命救ったものね私。恩義はあるでしょう。一郎さんがよくわからない。なぜそこまで…。
「あ、なるほど。」
ふと、言葉が出る。
「一郎さん、私、この辺りの女性とちがうんですね?髪とか、肌とか。」
そういえば、この時代にまだトリートメントやシャンプーなどないし、ましてやヘアオイルなどあるはずもない。化粧水など、あっても現代ほど上質ではないだろうし、そこらへんが作用して、なかなか美人に見えているのではないだろうか。
「突然なにを……まぁ、店主殿の髪はとても艶があり美しいとは思うし、肌も綺麗だ。しかし、店主殿の瞳にも引き込まれそうでな。わしは店主殿と目があった瞬間、いや、後ろ姿をみた時から、初対面のときからずっと……っと、ごほん!!なにをいわせるんだ!」
いまさら我に返りました、というような反応をされても。聞かなければよかった、と熱を帯びた頬のまま私はそう思う。
「まて、こいつの美しさならばわたしも…。」
「待って、もういいから…!なぁに、男の人って、こんなに積極的というかストレートな口説きをするの!?草食系男子が多い令和とは真反対ね!」
「レイ……??」
「おい、これ以上はまずいぞ。勘づかれたらどうする。」
あ、と怪訝な顔の一郎さんをチラリとみる。現代のことは言わないほうがいいことを忘れていた。
「店主殿、玉。なにかわしに隠し事でも……?」
ごーん、と鐘の音がなる。いいタイミングで鳴ったわね。
「ま、まあっ!そんなことより、早く川へ行かなくちゃ!こんな時間だわ!」
「ふむ…もう巳の刻になったのか。なかなか話し込んでいたようだ。こちらだ、付いてきてくれ。」
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