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六章 豪華客船、カジノとディーラー

出航

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次の日、予定時刻より少し早くに屋敷へ迎えに行ってしまった俺とアーサー、そしてダニエルは応接室で彼女と話していた。

「あ、そうだわ!急になって申し訳ないけれど、アーシラさん、誘いませんか!」

ヴィンスは目を剥いた。
彼女が突然言いはなったからだ。無邪気とも思える瞳は、その裏では何を思い描いているのだろう。ぎくり、と体を震わせたアーサーは、長らく口を閉ざしたあと、いいね、と声を捻り出すように言った。

(アーシラも、と言わなかったのは、アーシラとして船で過ごせ……と言うことだろうな。)

アーサーとアーシラの両立を彼女が望まなかったのがせめてもの救いだろうか。国の行事や会議がやっと終わり、くたくたであろうアーサーの気を汲んでくれたのだろう。

その上で、アーシラを望んだのは……。

(いや、意図などわからないうちは無理に理解しようとしなくていいな。必要があれば自ずと教えてくれるだろう。いまは、彼女の希望をかなえることを優先しなくては。)

考えていれば口から言葉が飛び出た。

「アーシラのドレスアップは俺に任せてほしい。必ず見事なレディにして見せる。」
「なにいってんのお前!?」

アーサーがぎょっと目を見開きそう叫んだ。







ヴィンスさんとアーサーさんは、アーシラさんを呼んでくると言って、なぜか爆笑するダニエルさんを置いて一度帰っていった。

「おはよ……ん、ダニエル…?アーサーとヴィンスの声、聞こえた気が済んだけど…。」
「オヤ、おはようゴザイマス。二人はアーシラさんを呼びに一度帰りましたヨ。」
「は??え、は??じゃあアーサーどうすんの??」
「アーー……エット……。」

寝ぼけてたはずが、ダニエルさんの言葉でなぜか目をかっぴらきはじめたイスハークくんに不思議な質問をされたダニエルさんは、ちらり、とこちらを見て言う。

「さ、先ほど言ってたのデスガネェ!!アーサー、急遽大工の仕事が入ったみたいデス!!でもいい辛いので、ワタシから伝えてほしいト!!」
「そうなんですか!?お仕事なら言ってくれればいいのに……でも、企画者が不在なのに私たちだけ楽しむなんて申し訳ないですね……。」
「イエ!!全然!!アーサーなんて忘れて我々だけで全力で楽しみまショウ!!」
「おいテンパってるからってヒデェこと言ってるぞ?」
「いや、不可抗力デスシ…!」

どうやらダニエルさんは仕事は仕方がないと割りきってるらしかった。



着飾ってきた、と誇らしげに微笑むヴィンスさんは、THE、淑女であるアーシラさんを、とてつもなく美しく着飾って連れてきてくれた。

「お久しぶりですわね!お呼びされたとうかがって参りましたのっ!!」
「アーシラさん!会いたかったです…!アーサーさんは…もう行っちゃってますか…お仕事頑張ってくださいと伝えたかったんですが……。」

私がそこまで言えば、首をかしげられる。

「……え、どういうことですの。」
「ダニエルが言ってたんだよ、アーサーに大工の仕事が入ったって。」
「ダニエルナイスですわぁっ!!!……じゃなくて…っ!そ、そうでしたわね!!今度会ったらアーサーに豪華客船の感想教えて差し上げてくださいまし!きっと彼も楽しみにしてますわ!」
「そのときは僕も伝えに言ってやるよ。」
「ワタシもデス。二人っきりにさせはシマセン。」
「……あら、イスハークくん、アーシラさんとお知り合いだったのね?」

二人に面識があったとは始めて知ったが、アーシラさんはアーサーさんの親戚なのだから紹介する機会があってもおかしくはない。

チクリ。

(……?)

少し、胸が痛む。

「……っふ、素敵な服装だな。」

またもや起きてきたシアンさんも、知り合いのようだ。馴れ馴れしい態度に、どちらともそれが当たり前のような接し方をしている。

ちくり、ちくり。

また、胸が痛む。

「クックク…!…似合っている、アーシラ嬢。」
「お嬢様、珈琲が入りました…って、皆さん起きてましたか。ん……おや久しい。随分とまぁお洒落してますね笑」

ファルークさんと、ジェイさんの笑顔に、また私の心は強く痛む。

ちくり、ちくり、ちくり。

胸がおかしい。こんなの、
まるで、まるで。

(だめ、自覚しちゃだめよ。)

まだ、友達でいなければ。まだ、知らないふりをしてなくちゃ。じゃないと、でないと。



きっと……罪悪感に押し潰されてしまうわ。



(そう、これはただ、友達と友達がいつのまにか仲良くなってて寂しいだけ。)
「魔女殿?いかがしたか。」

パチリ、と瞬きをし視線をあげれば、不安そうな顔の彼らがいる。

「師匠、体調でも悪いのか?」
「……え……い、いえ。ごめんなさいね、楽しみすぎてあまり寝れなかったのよ。」
「……ですが、お嬢様。なんだか顔色が……。」
「え、あ、やだ……思ってた以上に、寝不足が祟ってるの、かしら……。」

自分の肌に触れてみるが、よくわからない。そんなにも、顔色悪く見えるのだろうか。

は、と空気でかき消えてしまい方なほど小さく息を吐けば、起きてきたらしい和久くんの声が、私を助けてくれる。

「だ…れ……?」

アーシラさんを、不思議そうにみつめている。

「……わ、私アーシラと申しますの。」
「な…んか、アー…サーでん……けほ、けほ。アーサー、さん、に似てる……。」
「お、おーほっほっほ!親戚ですもの!ダニエル!ヴィンスでもいいですわ!お行き!GO!!」

家売○女のような勢いのアーシラさんにより、二人は和久くんになにかを囁いた。訳知り顔になった和久くんが、大変だねと言っているが何を言ったのかしら。

「ん、なに……わか、りました……。
俺……甘…和久、この屋敷、の服職人……やってます……。
昨日、引っ越して、きて、アーサー、さんとかと、仲良くなり、ました……。」

良くできたとばりにヴィンスさんが頷いている。自己紹介をと言われたみたい。ダニエルさんがグッジョブ、と言うように親指をたてている。なぜかこれでばれないデスネとか筋道が合ウとか言ってるけれど。
そしてアーシラさんに閉じた扇で叩かれていたけれど。

しかも、話しぶりによるとどうやら、パーティーで私は疲れ寝たその後にも、親睦会を続けたようだ。しかし、気づけばベットの上で素敵な目覚めをした私は詳しくはわからないから残念である。

「よし、それじゃあ、集まったし行ってきますわ。お土産は買ってきますわ!」
「チッ。なんで未成年だめなんだよ。」
「酒とかが出るそうなので。イスハーク、家事は任せましたよ。」
「へいへい……っっ!!?」

そんな話をしながら玄関に向かう。と、そのとき、何人かの床が抜けた。

「⁉イスハーク、ヴィンス殿、シアン殿!無事か!!?」
「くっ、くくく!引っ掛かったなぁ!魔法は封じられて、屋敷からでれなくとも、落とし穴を屋敷で仕掛けとけば、お前らを屋敷から出すことはできんくなる!あのこと俺抜きの旅行なんて行かせるわけないやろ!!」
「なんてことですの!!?逃げますわよ!!」

アーシラさんの先導により逃げるが、後ろからファントムさんがすごいスピードで追いかけてくる。

「っ!こうなったファントムさまは手をつけられない!俺が引き留めるから、彼女を旅行に連れてってあげて!!」
「虎……葬式は盛大にして差し上げますよ!」
「え、俺死ぬの??引き留めるだけ……ギャァァァ!!まってなんでファントムさま少しとはいえ魔法使えるようになってきてるの!?もう効果切れ始めてるの!?」


虎さんを犠牲に、私たちは屋敷の外へと無事にでることができた。悔しげな呪詛が屋敷から聞こえる。

「ふぅ…撒いたようですわね。」
「ん……そ、う、みたい……。」
「フフフ、無事生き残りマシタヨ。」
「……?
あなたたち旅行メンバーじゃないですわよね!?なんで一緒にきちゃったんですの!?」
「つい……俺、も行きたくて……てへ。他、の人いけなくなっ、たのなら、俺、入れて……?」
「ソウデスヨ!!他の人行けなくなったナラ、埋め合わせ必要デショ!!」
「このひとたち腹黒いですわぁ!?だから落とし穴とかで落ちたヴィンスたちを助けなかったんですわね!?虎しか身を挺してないじゃないですの……。というか、ダニエルはともかく、きみはお酒飲めるんですの?」
「うち、の国…18さい、から飲める…。俺、も嗜む程度には……。」
「ワタシは全然好きですヨ!!」

少しの間頭を抱えていたアーシラさんは、仕方ありませんわ、と呟く。

「なんで仕方なくなってしまうのです。先日までの1ヶ月という長い期間お嬢様と会えた羨ましくも憎らしい方々は置いておくと言う話であったのでは?」
「でも……いまからこの方々を魔境とかしたあの屋敷に戻すんですの?」

アーシラさんが手で指した屋敷は、庭の植物がおぞましい姿となり、屋敷の窓は勝手に開いたり閉まったりする。ときどき幽霊のような人形のものが窓から見え、悲鳴が聞こえることもある。いつのまにかアメリカやイギリスのようなガチ怖心霊スポットと化した屋敷に、ジェイさんを除き私たちは震えた。

「戻せばいいのでは?」
「ヤメテクダサイ!!これ以上犠牲を出してはイケマセン!!」

気難しい顔のジェイさんに、私もやめた方がいいと思うと伝えれば、幽霊屋敷を直す人手はもう足りてますしね、と納得してくれた。
この人手とは、さきほど落とし穴に落ちた彼らと、自ら犠牲となってくれた虎さんのことだろうか。

 当初の予定とは大幅に変わったメンバー。私、ダニエルさん、ジェイさん、ファルークさん、和久くん、そしてアーシラさんの6人で、豪華客船へと向かったのだった。
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