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三章 魔神の過去世界『傲慢』
荵昴▽逶ョ縺ョ迚ゥ隱(九つ目の物語)
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こんにちは、ただいま王座のようなものに座らされている私です。なぜでしょう、みんな英語で歌い出してます。隣に立っていたファントムさんすらも参加していきました。しかも何人か……というよりなぜかいるジェイさんとイスハークくんがこちらを歌いながら凝視してきます。
「The baby mouse is crying miserably.
(子鼠どもが無様に泣いてる)
harsh clinking sound
(耳障りなチューチュー音)
The weaker the dog, the more it barks
(弱い犬ほどよく吠える)」
(ファントムさんも英語できるタイプだったのね。そうね、頭良さそうな顔してるわ、チャイナマフィアみたい……。)
そんなことをぼう、としながら考えていれば、その目はジェイさんとイスハークくんを捉えた。そして唇の両端が歪に上がり、表情は歪む。仲間割れしろとでも言うようだった。効果音つけるなら、ニタァ~、だ。
「Betrayal is the best spice
(裏切りは最高のスパイスやで)
Are you tired already?
(もう疲れたんか?)
Kaishishime That's why I can't reach the brilliance
(甲斐性なしめ だから輝きに手が届かないんや。)
I'll show you what's real
(本物というものを見せてやる)
I am strong, beautiful, and wonderful. I can't find any flaws!
(俺は強く美しく素晴らしいんや。欠点など見当たらない!)」
一呼吸おいて、ファントムさんは口を閉ざした。しかし顔に笑みを張り付けたまま。
(え、これ私も歌った方がいい?みんな歌ってるわよね??)
私の知り合い全員歌っている。流れ的に、私も歌った方がいいのだろうか。困惑していれば、イスハークくんがこちらをチラリと見て、目があってしまった。心なしか、私を睨んでいる気がする。空気読んで歌え、ということかしら……。なんとかかっこいい感じの英語をひねり出そうと口を開こうとするが、そのとき王座の飾りに手を触れてしまったらしい。
「I am…「うぃっ!?ゾリゾリするわ……っ!?」……!?」
(あっ、ごめんなさい!!)
なんというか、昔の飾りは…変なものが多いわよね。
ファントムさんが歌おうとしていたときに、つい悲鳴がはもってしまった。そんな私言葉は、予想以上に広間に響いたようで。
ハモりはかなりダメだったらしい。音楽は止まり、ほとんどの人物の動きが止まる。例外がいるとすれば、イスハークくんとジェイさんと私、ファントムさんだ。ファントムさんは、いままでのうさんくさい笑みを止め、ピクリとも動かない、まるで陶器のような白さの顔を冷たい表情で覆っていて。私を見下ろしている。と思えば、次の瞬間わなわなと唇が震え始め、アは、あハはハ、と焦点が合わない、真っ黒な瞳で此方を見つめて来た。そこで気づく。なぜ、正面に立っていたイスハークくんたちに向けてファントムさんは歌っていたのに、いつの間に私を見下ろすように立っているのだろう。距離は変わっていない。ならなぜ、こんなにハッキリ顔が見えるの……?
動いていたから?否。動いた程度で見える距離じゃない。それじゃあ振り向いたから?否。あれは、振り向いたのではない。それで、済むわけがない。
首が、180度回転しているのだ。それに気がついてしまえば、体をぞわりとしたものが駆け巡る。とっさに魔法で防御しようとしたが、なんの力も使えない。
唖然と手を見つめている間に、ファントムさんの目や口からは赤い血が滴り、黒く変化した腕が、鋭い爪をつけて此方へ伸びてくる。そしていつのまにか、
(もう、目の前に)
キン、と鋭い音と共に、私は意識を手放した。
「危なかったな……!」
「なっ……!シアン!あなた……いたなら早く出てきなさい……!」
「小言はあとだ、それに英雄は遅れてやって来る、というだろう?一部始終は見させて貰った、さすがは女神さまだな。こいつが偽物など、一度たりとも疑わなかった。」
ナーと共に、一部始終を見ていた。ジェイ・ジャックたちが女神さまにたいして歌で愛を捧げているところも、彼女が、いつから気がついていたのかはわからないが……ウィーゾル……彼女はファントムさまに向けてたしかにそう言った。その言葉で、イスハークも、ジェイ・ジャックも……そしてファントムさまの格好をした何者かも勘づいたのだろう。ピクリと、訝しげに眉が動いたのを見た。
ウィーゾル……Weaselという言葉は、一般的にはイタチ、という意味だが。
スラングとして、ずる賢い卑怯者、という意味もある。また、密告者という意味も含むこともある……つまり、ファントムさまが卑怯なことをしているか、または目の前のこいつがファントムさまではない、ということを、女神様は俺たちに密告したかったのだろう。よく考えれば、口調や仕草が、微妙に普段と違う。よく見なければ気がつかない些細なことだが……さすがは女神様だ。それほどまでにファントムさまを集中して見ているのは少々妬けるが。
しかし、先程俺も気がついたことだが、魔法の使えないここではうまく密告はできず、察知能力の高いその何者かは、歪な形へと変貌を遂げ、彼女へと手を伸ばしていた。すぐさまナーにここにいろと告げ、近くにあった掃除用のモップの枝の部分で応戦したのだ。
「が、ガガが……じゃマ、ソのジョセイ、ほしイ……。」
顔にはヒビが入り、そこからどくどくと真っ黒なインクのようなものが垂れ流されていく。それはなんとも不気味で、汗などかかないはずの精霊でさえ、冷や汗をかいているようにぞっとする。いままでは間違えると牢屋で起きるところまで戻れていたが、こいつに彼女が奪われたら、時間が巻き戻ることなど出来ないだろう。
「はやク、はヤク、はやク、はヤクハヤク!!チョウダイ!」
無数の影のような手が地面から伸び、此方へ迫ってくる。ジェイ・ジャックやイスハークもいつのまにか、応戦してくれているが、多勢に無勢だ。なんとか、彼女にだけは近づけないようにしているがこれも時間の問題かもしれない。
命さえ捨てる覚悟で応戦していれば、ガチャンと大きな音がして、俺たちも、ファントムさまに成り済ます何者かも動きを止めた。扉から誰かが入ってくる。
「あー……っと、私が呼んだサーカス団のリーダーのアーサーを知らないか?茶髪で、陽気な性格なんだが……。ピエロの格好をしていたはずだ……すまない、取り込み中だな?人間のはずなのに異形に見えるとは、私も連日の業務で疲れているのだろうな……。」
ぶつぶつとそう言いながら広間を出ていこうとする白銀の髪をもつ男。
そういえば巻き込まれる範囲内にいた正直なんとなく忘れていた男。
ファルークが、劇場の支配人のような格好をして、入ってきたのである。そして出ていこうとしている。
「……待ちなさい!ファルークさん!あなたの腕輪!魔力がなぜか感じ取れます!私に貸しなさい!」
「ん?なぜそう慌てて……これか?これはたしか昔大切な人に……あれはいつだったかな……。」
「思い出話に花を咲かせているうちにすべてが血に濡れますよ!?あとで聞きますから早くそれを!」
首をかしげたあと、その腕輪を外し手に持ちこちらへ歩き出すファルーク。
「すぐにとってきます、それまでの時間稼ぎ任せましたよ!」
ジェイ・ジャックの意図はあまり理解できていないが、頷きモップをしっかりと握りしめ構える。
「ナンで、ジャマするノ……オレをたスケ……「私たちを、護りなさい!!」……ッ!!」
ジェイ・ジャックの声が聞こえた。見れば、いつのまにか、ジェイがファルークから奪い取った腕輪が輝きを放っている。
(なぜ、魔法が……?)
使えないはずでは、と小一時間ほど仕掛けを問い詰めたい。が、いまはそんなことをしている暇はない。彼女は無事か、と何者かが動きを止めている隙に振り返れば、
なぜか目を閉じている彼女をイスハークが攻撃から庇うように抱き締めているのが見える。そして、使用人服を着ているイスハークの腰に、ナイフ入れが着いているのも。
「……ん?おい、あいつの相手しろって、……まてなにすんだよ!?いってぇぇ!!」
胸ぐらをつかみ、地面からイスハークの体を少し浮かせ腰の武器を取る。どん、とそのあとイスハークを落としてしまったが、許せ。彼女はイスハークが大事に抱き抱えているため落としても怪我はさせないだろう。
固まり輝きを放つ腕輪を飲み込まれるようにじっくりと眺めている何者かは、先程と違い隙だらけだ。だから、俺は……胸にナイフを突き刺した。
「The baby mouse is crying miserably.
(子鼠どもが無様に泣いてる)
harsh clinking sound
(耳障りなチューチュー音)
The weaker the dog, the more it barks
(弱い犬ほどよく吠える)」
(ファントムさんも英語できるタイプだったのね。そうね、頭良さそうな顔してるわ、チャイナマフィアみたい……。)
そんなことをぼう、としながら考えていれば、その目はジェイさんとイスハークくんを捉えた。そして唇の両端が歪に上がり、表情は歪む。仲間割れしろとでも言うようだった。効果音つけるなら、ニタァ~、だ。
「Betrayal is the best spice
(裏切りは最高のスパイスやで)
Are you tired already?
(もう疲れたんか?)
Kaishishime That's why I can't reach the brilliance
(甲斐性なしめ だから輝きに手が届かないんや。)
I'll show you what's real
(本物というものを見せてやる)
I am strong, beautiful, and wonderful. I can't find any flaws!
(俺は強く美しく素晴らしいんや。欠点など見当たらない!)」
一呼吸おいて、ファントムさんは口を閉ざした。しかし顔に笑みを張り付けたまま。
(え、これ私も歌った方がいい?みんな歌ってるわよね??)
私の知り合い全員歌っている。流れ的に、私も歌った方がいいのだろうか。困惑していれば、イスハークくんがこちらをチラリと見て、目があってしまった。心なしか、私を睨んでいる気がする。空気読んで歌え、ということかしら……。なんとかかっこいい感じの英語をひねり出そうと口を開こうとするが、そのとき王座の飾りに手を触れてしまったらしい。
「I am…「うぃっ!?ゾリゾリするわ……っ!?」……!?」
(あっ、ごめんなさい!!)
なんというか、昔の飾りは…変なものが多いわよね。
ファントムさんが歌おうとしていたときに、つい悲鳴がはもってしまった。そんな私言葉は、予想以上に広間に響いたようで。
ハモりはかなりダメだったらしい。音楽は止まり、ほとんどの人物の動きが止まる。例外がいるとすれば、イスハークくんとジェイさんと私、ファントムさんだ。ファントムさんは、いままでのうさんくさい笑みを止め、ピクリとも動かない、まるで陶器のような白さの顔を冷たい表情で覆っていて。私を見下ろしている。と思えば、次の瞬間わなわなと唇が震え始め、アは、あハはハ、と焦点が合わない、真っ黒な瞳で此方を見つめて来た。そこで気づく。なぜ、正面に立っていたイスハークくんたちに向けてファントムさんは歌っていたのに、いつの間に私を見下ろすように立っているのだろう。距離は変わっていない。ならなぜ、こんなにハッキリ顔が見えるの……?
動いていたから?否。動いた程度で見える距離じゃない。それじゃあ振り向いたから?否。あれは、振り向いたのではない。それで、済むわけがない。
首が、180度回転しているのだ。それに気がついてしまえば、体をぞわりとしたものが駆け巡る。とっさに魔法で防御しようとしたが、なんの力も使えない。
唖然と手を見つめている間に、ファントムさんの目や口からは赤い血が滴り、黒く変化した腕が、鋭い爪をつけて此方へ伸びてくる。そしていつのまにか、
(もう、目の前に)
キン、と鋭い音と共に、私は意識を手放した。
「危なかったな……!」
「なっ……!シアン!あなた……いたなら早く出てきなさい……!」
「小言はあとだ、それに英雄は遅れてやって来る、というだろう?一部始終は見させて貰った、さすがは女神さまだな。こいつが偽物など、一度たりとも疑わなかった。」
ナーと共に、一部始終を見ていた。ジェイ・ジャックたちが女神さまにたいして歌で愛を捧げているところも、彼女が、いつから気がついていたのかはわからないが……ウィーゾル……彼女はファントムさまに向けてたしかにそう言った。その言葉で、イスハークも、ジェイ・ジャックも……そしてファントムさまの格好をした何者かも勘づいたのだろう。ピクリと、訝しげに眉が動いたのを見た。
ウィーゾル……Weaselという言葉は、一般的にはイタチ、という意味だが。
スラングとして、ずる賢い卑怯者、という意味もある。また、密告者という意味も含むこともある……つまり、ファントムさまが卑怯なことをしているか、または目の前のこいつがファントムさまではない、ということを、女神様は俺たちに密告したかったのだろう。よく考えれば、口調や仕草が、微妙に普段と違う。よく見なければ気がつかない些細なことだが……さすがは女神様だ。それほどまでにファントムさまを集中して見ているのは少々妬けるが。
しかし、先程俺も気がついたことだが、魔法の使えないここではうまく密告はできず、察知能力の高いその何者かは、歪な形へと変貌を遂げ、彼女へと手を伸ばしていた。すぐさまナーにここにいろと告げ、近くにあった掃除用のモップの枝の部分で応戦したのだ。
「が、ガガが……じゃマ、ソのジョセイ、ほしイ……。」
顔にはヒビが入り、そこからどくどくと真っ黒なインクのようなものが垂れ流されていく。それはなんとも不気味で、汗などかかないはずの精霊でさえ、冷や汗をかいているようにぞっとする。いままでは間違えると牢屋で起きるところまで戻れていたが、こいつに彼女が奪われたら、時間が巻き戻ることなど出来ないだろう。
「はやク、はヤク、はやク、はヤクハヤク!!チョウダイ!」
無数の影のような手が地面から伸び、此方へ迫ってくる。ジェイ・ジャックやイスハークもいつのまにか、応戦してくれているが、多勢に無勢だ。なんとか、彼女にだけは近づけないようにしているがこれも時間の問題かもしれない。
命さえ捨てる覚悟で応戦していれば、ガチャンと大きな音がして、俺たちも、ファントムさまに成り済ます何者かも動きを止めた。扉から誰かが入ってくる。
「あー……っと、私が呼んだサーカス団のリーダーのアーサーを知らないか?茶髪で、陽気な性格なんだが……。ピエロの格好をしていたはずだ……すまない、取り込み中だな?人間のはずなのに異形に見えるとは、私も連日の業務で疲れているのだろうな……。」
ぶつぶつとそう言いながら広間を出ていこうとする白銀の髪をもつ男。
そういえば巻き込まれる範囲内にいた正直なんとなく忘れていた男。
ファルークが、劇場の支配人のような格好をして、入ってきたのである。そして出ていこうとしている。
「……待ちなさい!ファルークさん!あなたの腕輪!魔力がなぜか感じ取れます!私に貸しなさい!」
「ん?なぜそう慌てて……これか?これはたしか昔大切な人に……あれはいつだったかな……。」
「思い出話に花を咲かせているうちにすべてが血に濡れますよ!?あとで聞きますから早くそれを!」
首をかしげたあと、その腕輪を外し手に持ちこちらへ歩き出すファルーク。
「すぐにとってきます、それまでの時間稼ぎ任せましたよ!」
ジェイ・ジャックの意図はあまり理解できていないが、頷きモップをしっかりと握りしめ構える。
「ナンで、ジャマするノ……オレをたスケ……「私たちを、護りなさい!!」……ッ!!」
ジェイ・ジャックの声が聞こえた。見れば、いつのまにか、ジェイがファルークから奪い取った腕輪が輝きを放っている。
(なぜ、魔法が……?)
使えないはずでは、と小一時間ほど仕掛けを問い詰めたい。が、いまはそんなことをしている暇はない。彼女は無事か、と何者かが動きを止めている隙に振り返れば、
なぜか目を閉じている彼女をイスハークが攻撃から庇うように抱き締めているのが見える。そして、使用人服を着ているイスハークの腰に、ナイフ入れが着いているのも。
「……ん?おい、あいつの相手しろって、……まてなにすんだよ!?いってぇぇ!!」
胸ぐらをつかみ、地面からイスハークの体を少し浮かせ腰の武器を取る。どん、とそのあとイスハークを落としてしまったが、許せ。彼女はイスハークが大事に抱き抱えているため落としても怪我はさせないだろう。
固まり輝きを放つ腕輪を飲み込まれるようにじっくりと眺めている何者かは、先程と違い隙だらけだ。だから、俺は……胸にナイフを突き刺した。
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