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三章 魔神の過去世界『傲慢』

القصة السابعة(ななつめの物語)

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「……落ち着いたか?」
「ええ、お手数お掛けしました。やはりこの本は燃やすべきです。」
「ぜんっぜん落ち着いてねぇじゃねぇか!!」

現在……本の外、すなわち現実の世界にいるジェイさんとイスハークは、現状に困り果てていた。いいや、ジェイは怒り狂っていると言ったほうがいいかもしれない。

手から炎を出す姿を城の住人に見られてしまったらなんといわれるだろうか。地獄の死神という噂になにを付け足されるものか。悪寒しかしない。貴族たちが保身で私刑が始まるのが先か、恐怖でジェイさんが貴族たちを支配するのが先か。つまり僕の役目は、ジェイさんを止めることであった。

「なぁほんとに炎仕舞えって!!城ごと燃えんだろジェイさんの魔力量じゃ!!」
「私をお嬢様から引き離すものなど跡形もなく消え去ればいいのです!」

その大事なお嬢様が死んだらどうするんだと叫び伝えれば、ふと息をのみ……彼は笑い出す。

「共に死ねるなど、生涯を共にしたと同然ではないですか!ええ、ええ!死んでしまったとしてもお嬢様はとてもお美しい!ならばいっそ……!!」

師匠が足りなさすぎて禁断症状が出ている。それとも、これが精霊の愛しかたなのだろうか。ならば……シアンも?

(もう精霊を師匠に近づけたくねぇよ……。)

そんなことを思っても、ジェイさんらを押さえ込むのは無理だろう。
きっと来る、きっと来る~!だろうな。
イスハークは脳裏にダニエルが発明したガラクタのようなもの(見た目ブラウン管テレビ)がなぜか浮かび上がった。





「くしゅんっ!」
「お兄さん……風邪?」
「噂知れているかもしれん。」

それは突然の出来事だった。シアンは寒さからか、くしゃみした。

「お大事にね……。」
「ああ、すまないな。ありがとう。」
「おい、なにをごちゃごちゃ言ってるんだ?低能が!口動かす前にどうにかしろよ!」
「っ……ごめん、カーミル……。」

なぜそう敵視するのか理解できない。
そもそも、俺には兄弟はいないというのも理由かもしれないが。

「こら、言い方が悪いぞ。兄弟なんだろう?もう少し仲良くできないのか?」
「出きるわけないじゃん!こいつ前に僕の母様取ったんだ!少しあとに生まれたからって!卑怯ものめ!屑!!僕が愛されるはずだったのに!母様は僕の母様だったのに!!お前がっ!!お前がいなければ……っ!!」
「……ごめんなさい、カーミル。」

ひたすら謝り続けるナーを、睨み付けたまま責め続けるカーミル。
……それほど、親の愛情は宝物なのだろうか。泉の精霊として生まれ落ちた俺にとって、親と呼べる存在はいない。強いて言うならば、女神さまだろうが、彼女に対する思いは、一般的な親子愛とは違うらしい。母子愛というほど純粋でなく、彼女に他の男が近づけばどろどろとしたものが心から流れ出す。生まれたばかりの頃は意味がわからなかった。出会ったとたんの、胸の高鳴りも。俺には彼女しかいないという気持ちが心を埋め尽くしたことも。後々、他の者たちと交流してみれば、それが惚れたはれただ、ということを学んだ。
 彼女に、何人夫がいるのだろう。それは、この世界にいる誰もが知らないだろう。それほど、彼女は謎に満ち溢れている。彼女が、夫らしき人物と会うところをみたことはない。よほど、隠すのがうまいらしい。精霊王すらも、夫になろうとしているが、夫ではない。そんな彼女の第一夫はどんな者なのだろうか。

「おい、シアン!」

甲高いその声にはっとする。考え込んでいた思考が現実へと戻ったのだ。

「なんだ、カーミル。」
「あのピエロ戻ってこない!!僕たち売られたんだ!!あの裏切り者っっ!!」
「まて、まだそうと決まった訳じゃ……。」
「脱走がバレて殺される前に、僕をこんな風にした王を殴り付けてやる!!」

カーミルはそういって走り出す。子供だからか、すばしっこくすぐさま城の中へと走っていってしまった。

「ど、どうしよう……!このままじゃカーミルが……っ!」
「……仕方がない、お前はここで待っていろ。俺が連れ戻して…「い、行く!カーミルを置いてかない!だって、兄弟だから、分かち合うべき……だから……。」……そうか。」

なんとなく、頭を撫でる。ナーは、目を見開いて、固まった。その手を止めれば、時が進んだように、ナーも動き始めた。

「……さぁ、カーミルを連れ戻しに行くぞ。」
「お、おー!!」



そして気配をたどること15分。気がつけば、大広間へと来ていた。途中強奪……借りた使用人服に着替え、探索していたのだ。
中からは、音楽が聞こえる。それは、なんというか……まるで一人の女性を奪い合うような激しい音楽だった。
 そうっと、ナーと共に中へとはいる。そこでは、王座の横に座らされた女神さまと、隣にいる王のダニエル、そして……求婚している曲の歌い手?ダンサー?の男性たちの中に、ファントムさまと……なぜかジェイ・ジャックとイスハークがこの時代の服を来て歌い踊っているのを見つけてしまった。



時は遡り、そして現実の世界で。
言い争うイスハークとジェイのいる図書館で、ガタン、と大きなおとがした。大きなものが本棚に激突したようで、その音がイスハークたちを止めた。

「……っー、いてて。はっ!あのこは無事か!?ほんま変な術かけられそうになった……おらんっっ!?!?」
「……!?この声は……!?しかし、本の中に精霊王の描写が綴られ続けていますよ!?なぜこちらに……!」

本をみれば、相変わらず師匠と共に精霊王は行動しているようだ。ならば、いま聞こえた声は……?

「あっ!お前ら!いたんやな!……なんでおるん?まぁええ、あの子を知らへん!?魔力辿っても、変な風にねじ曲がっとるんや!」
「それなら本の中だ。」
「……とち狂ったん?」

ドン引きしてるような目でみられる。それは、僕に大分不快感を与え、その不快感は結果的に舌打ちとして表現されることとなった。

「これみろよ。」
「うーん?なになに、
“これは俺が魔神になるまでのお話。どうか俺を助けて。彼女たちは俺の過去の世界に閉じ込めた。助けてくれるまで返さない。“……なんやこれぇぇ!!歴史の本だからって、なぁにが過去世界や!?好き勝手しとるから歴史ぐっちゃぐちゃやろ!燃やしたろかっ!!」
「なんで精霊はなんでも燃やしたがるんだよ!!?」
「それに……変やな、なんで俺になりすましてるやつがおるんや?」
「話し聞けよ……。」

しかし、その疑問は最もだ。しかし、僕らにどうすることもできない。その訴えに気づいたのか、精霊王は、はぁ、とため息をつき本にてをかざす。

「……お前ら二人なら俺ほど魔力強ないし、魔人の世界に、はいる時の結界に弾かれんはずや。俺の魔法でねじ込んだる。」
「……は!?それできんのかよ!?精霊王すげぇ……。」
「さすがだてに精霊王やってませんね。」
「まぁな。ジェイのは褒められた気ぃせぇへんけど。だけど、彼女の奪還と俺になりすましてるやつの正体、探してきてくれや。」
「ええ、わかってますよ。」
「さすが俺の元部下やな。まさかあのこの屋敷に行ったとたん辞表だすとは思わへんかったけど。」

まさかのそんな過去があるらしい。二人は知り合いだったのか。そんないまではない話題をしていれば、ぐにゃりと視界が歪んでくる。どうやら、本の中に引き込まれているらしい。

「頼んだでーー!!……まぁ、検討はついとるけどな。まさか俺がはいれないほど強い魔力ためとったとは思わへんかったな。」

聞こえたのは頼んだで、のその言葉。続きを聞く前に、僕の視界はブラックアウトした。
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