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二章 吸血鬼の花嫁『色欲』

again night

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「ごめーんくださーい。」
「あら、こんにちは。」

洗濯物を運びながら、ドアをくぐり訪れた騎士さんと大工さん、お医者さんに挨拶をする。

「ああ!!お嬢様!お止めください!お手が汚れてしまいます!」
「いつも助けてくれる貴女の手伝いをしたいの……それに、これは私の服だもの。」
「いいのです!お嬢様はそちらでごゆっくりお過ごしくださるのが私の至福でございます!」
「すまない、これはどこに置いたらいいだろうか。」
「まっ、そこに置かないでください!あっちです!あああ、なぜそう籠から洗濯物が落ちるのです、もうなにもしないでください!」
「……すまない。」
「兄上家事したことないもんな……。」


ちなみに、商人さんも少し前に来て、イスハークくんとともに洗濯物を運ぶのを手伝ってくれているが、どうやら家事が苦手らしい。皿洗いを頼めばお皿を割り、洗濯物を運べば籠の中身が床に落ちる。それにイライラしてるのか、ジェイさんは商人さんを睨み付けていた。

「うわぁ……大変ですネェ……。報告があったんですガ……ヴィンスについて。」
「!騎士さんを牢屋に連れていかないでください!会えなくなるのは……寂しいです。死人や怪我人は出てないのでしょう!?王族のかたにそう伝えてください!」
「ぐえっ!!くるし……!」

大工さんたちに洗濯籠をもったまま詰め寄れば、大丈夫だから!!と叫ばれる。それにほっとし距離をとれば、洗濯籠の圧迫感ってすごいんだねと言われた。

「ふむ……しかし、クーデターをしたというのは、あまり許されない行為だろう?」
「うん、そうなんだけどねぇ~神様が味方したのかな、誰一人、覚えてないんだよね。」
「は!?なんでそんなことになってんの!?」
「どうやら、何人かほんわかと覚えていて話題にしているものもいましたけど、全て夢だと思っているようデスヨ。」
「うーん、もしかすると、あのアクセサリー類がキーだったかもやなぁ。意識はアクセサリーの中にあって、アクセサリーが壊れたから、精神が身体に戻れたんやない?それで、目覚めたら城はなんともないし、まぁアクセサリーの残骸は残っとるけど、みんななんともないし……夢やと思うのも仕方あらへんなぁ。このこにかかってた呪いも消えとるしな。」
「どっから湧いたこいつ!?」
「クソガキは口がわるうて仕方あらへんな。」

先ほどまでいなかったのに、いつのまにかショートケーキを食べながら椅子に座っている。ファントムさんは、神出鬼没すぎるわ。


「まぁ、そういうことで、誰も覚えてないし、被害もなかったことになってまっす!つまりヴィンスは、無実!」
「ああ……本当に、助かった。罪悪感はあるが……。そういえば、腕輪についていたこの宝石についてみてほしくてきたんだ。ファントム殿がいるならば話が早い。あのとき、なぜ俺は魔法が使えたんだ?それに、なぜ会話ができたんだ?」

机の上に騎士さんは砕けている宝石を置いた。禍々しい色のそれは、艶などの輝きを失っている。

「それは、あれやなぁ。魔法は、もともと魔力を持たない者は、魔力石を使うしかあらへんけどな、その魔力量の多さで、使える魔術の範囲も変わるんや。魔力が多いといえば、たとえばドラゴンやらの生物の核やな。ほんまなら、自我を保ったまま、特訓すれば思うままに魔法を操れるんやけど……けど、これは……死んだ吸血鬼の恨みがこめられていて、その吸血鬼の魂が一部組み込まれていたんやろな。どうしてでも、人間に復讐したい、と。復讐の目的は遠い昔すぎて忘れたわ。やけど、だから普通の魔法の使い方ができず、半ば乗っ取られたようになっとったと思うで。あー、このケーキ最高やな!」
「なるほど……。」
「そんなことよか、あの虎大丈夫なん?たしかランプにまた入れられてるって聞いたんやけど。」
「うん、それも一応聞きたくて、持ってきてるよ。」

大工さんがランプを擦ると、もわもわーんと煙がたち、成人男性が出てくる。

「話は聞こえていたよ。それを踏まえて……なんで俺っちの支配解けないのっ!?魔女ちゃんもそう思うっしょ!?」

手足には、変わらず枷がついている。耳も尻尾もある。魔女ちゃん……?と首をかしげれば、馴れ馴れしい!とジェイさんにナイフを刺されている。

「いてっ!しかし俺には効かん!!
なぁーなぁー!!俺っち人にもうかなりの数ご奉仕したよねぇ!?解放するの精霊たちならできるっしょー!?」
「まぁ、できんことはないけど……正直、もうしばらくランプにおった方がええと思うで?」
「なんでよー!!俺っちなにか悪いことした~??いつのまにかこんなランプにいてさぁ……人間みたいに生活してみたいよぉ!!」
「なに言うとるん、人間のときは人間を越えたいゆうてたくせに。また虐殺されたらかまいまへん。」
「なにそれぇぇ言ってないよー!!俺っちそもそも人間じゃないし!虐殺なんて……こわっ!誰の話だよー!!……え、なにその目、ホントに俺っち聞き覚えないけど。」
「……そういえば、昔はそんな性格やったか?もう少し暗かったなぁ……。キャラ変したんか?」
「?」
「……なんかおかしいで。」

眉を寄せ、城の図書室に行けるかと大工さんたちに聞く。騎士さんは、首をかしげながら、たぶん大丈夫だと答え、ファントムさんが立ち上がった。少し気になった私は、少し出てくるというファントムさんたちのあとをついていくことにした。

「……転移魔法を使われたわね。なら、私も……あっ、イスハークくん、ジェイさん、私、彼らを追跡してくるわ。ごめんなさい、家のことはお願いね。」
「待ってくれ、私も連れていってくれないか。そもそも、あのランプは私の国……んん、母国にあったものなんだ。何かあるのなら、私も知りたい。」
「なっ!それなら僕だって……!」
「お前はここにいなさい。家事があるだろう。」
「……引き合いに出すには家事は弱すぎんだろ。」
「いいえ、ファルークさんの後片付けを貴方にはやってもらいますよ。弟でしょう?」
「……兄上のばかやろー!!!」

イスハークくんはジェイさんに引っ張られていった。

「……私も連れていってくれ。」
「え、ええ……いいですけども……。」

イスハークくんに頑張れという念を送ってから、私たちは図書室に転移した。



「よし、あんたらは図書室の外に出ててエエで。シアンと少し調べ物するからな。」
「いや、なんでデスカ!?ワタシタチいてもいいじゃナイデスカ!」
「見張りがいないとダメだろう。俺は精霊王に呼ばれて来たが、本来人間に姿をみられてはいけない立場だ。」
「そうだそうだー!俺っち見られたら恥ずかしい( 〃▽〃)……待って殴ろうとしないで!!」

アーサーが笑顔で拳を握る。俺も賛成やで、うざいもんなこいつ。

「あなた方精霊と魔神ですモンネ……わかりました、見張りしてますヨ……。アーサーは仕事に行ってください、どうせまだ仕事残ってるんデショウ?」
「ギクッ。……やだなぁ、もー、そんなわけー……「行くぞ、アーサー。」うそー!!やだー!!」

そんな会話をするやつらを後ろ手に、俺らは図書室にはいる。静かな空間のなか、魔法で本を探す。狙うは、魔神に関する書物や。思い出したところ、このグランド王国は、1000年ほどの歴史がある。それならば、魔人に関する書物もあるやろうと当たりをつけたのだ。

「……よしきた!あったで!」

見つけた本は自ら棚から抜き出て浮遊している。タイトルは、魔神辞典である。

「……水の魔神、闇の魔神、光の魔神……全て違いますね……。」
「え、こんなに魔人っているの?うける~!……あ、俺はこれじゃない?」

魔人が指を指すところをみれば、そこには炎の魔神、と書かれている。ずいぶんとながったらしい文章が書かれており、シアンに読み上げるのを命じる。
「【炎の魔神】

いつ頃からかそう呼ばれはじめ、伝承によればランプに封じられているという。その魔神は、願いを叶えてくれるという。しかし、その親切で便利な行動とは裏腹に、人間への多大なる恨みを募らせているらしき言動がみられ、取り扱いには要注意である。また、願いを早く叶えようとする傾向があり、それはどうやら7つにこだわっているらしい。7つ叶え終わると、何が起こるかわからないため、7つめは決して願ってはいけない。
 そして、この魔神は、もともとは人間だったらしい。四つめの願いとして、私は彼の記憶を消すように頼んだ。なぜなら、彼はとても危険な状態だからだ。名前呼ばれることさえ嫌がる。その名を記しておく。その名は……カーミル。とある国では、完全な者という意味らしく……ここで途切れているようだ。」
「へぇ……おまえそんな名前だったんか。……?どうしたん、や……」

魔人は、やめろ、と呟き続け身体全体から黒い煙を発生させる。
それはじんわりとこちらの身体に染み込んでいくようで、ひどく気持ちが悪い。
視界がグニャリと揺れ、目を閉じ倒れるその瞬間。同じく倒れこむ、なぜここにいるのかわからない……麗しのあのこがいた。
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