魔法の華～転移した魔女は勘違いされていても気づかないわよ？～

短編 師匠は狙われている！～イスハーク少年、がんばれ！～

2.

「彼女を襲おうとしたものがいるみたいなんだ。」
にっこりと笑うアーサーは、食事後師匠を先に帰らせ、テーブルのうえにじゃらじゃらと音のする鎖が雑に置かれる。
「この鎖、彼女の……姫の窓から投げられたみたいでね、丁度彼女の部屋の真下の庭に落ちてたよ。」
(おい、外にでられないんじゃないのかよ！？)
目でそう睨めば、あちゃー、と言う顔をされる。それをみたのか、アーサーは眉をピクリと動かし、話しかけてきた。
「そう言えば、昨日は君たち何してたの？」
ヴィンスやダニエルたちは、鍛練やら眠くなって寝ていた、やら言っている。一部睡眠薬効いてないじゃんか。
「ぼ、僕も眠くなっちゃって……！」
「俺は本呼んでたな。いやぁ、おもろかったでー？あとで貸したるわ。」
「そう……じゃあ、彼女の私物かな？」
「そうはならんやろ」
(そうはならんやろ。)
つい精霊王につられて変な言葉遣いになってしまう。というかもろに言うなよ精霊王！！しかし、聞こえなかったのか会議はお開きになった。


「いやあっぶなかったなぁ……。」
「おもにアンタのせいでな？？なんで庭にでれてんだよ。」
「図書館から、庭にだけでれるようになってたの忘れてたわぁ……にしても人間の癖に肝が据わっとるなぁ……ん？あれは…。ジェイか。」
そう話ながら各々の部屋へ向かっていると、調理部屋からトントン、と音がする。覗いてみると、機嫌良く食材を切っているジェイさんが。
「…？さっきごはん終わっただろ？」
「きっと夜食の準備やろ……アウトーーーっ！！あのこにあげる用やなっっ！？」
小声で叫ぶなんて器用だなと思いながら、先ほどの光景に絶句する。あからさまにピンク色の液体が入った注射器を、ジャガイモにいれているではないか。
「あれどう見たって怪しい薬だよな！？」
「いやあれ……ダニエルの部屋にあった媚薬やな……。てっきりダニエルがそれ使うって予想してたんに……ジェイだったんか……。」
「なんでそんなもん置いてんだよ！？」
こそこそと話ながら見ていると、完成したらしい。彼女への差し入れの夜食だろうか。それにしてはガッツリ主食である。
「ふふーん♪私の勝っちでっすよー♪」
そう言いながら、お盆におきこちらへ向かってくる。慌てて図書室に逃げ込み、やつが彼女の部屋に向かうのを見ているしかなかった。
「ど、どうしよ……！？このままじゃ師匠が……っ！？」
頭のなかはまっピンクである。思春期だもの。
「変な妄想するんやない。全部捨てたら怪しく思われるし……そうやな……ジャガイモにいれとったやろ、それを横取りして、事故を装って床に落とすってのはどうや？」
「そっちのほうが怪しい気もするけど……。」
「正直言うと、全部こぼすと掃除がめんどくなるからいやや。」
ここは譲らへん！！とばかりに胸を張るから、その作戦にすることにした。

ジェイさんがでてきたのを見計らい、僕たちは彼女の部屋に突撃する。驚いた彼女に、ジャガイモあるっ！？食べないとファントム父さん死んじゃうっ！！と叫び、夜食を覗く。
「！？！？カレー……！？」
ジャガイモは溶けきっていた。真に受けたのか、師匠はさっきまでジェイさんいたから呼んでくる、といまにも部屋からでていきそうな勢いだ。犯人きても困る。
「あっ、あーーー！！間違えたぁぁ～！」
「えっ、ちょっ、まちや！息子が汚したら掃除するん父親の俺……いやぁぁぁ！！」
カレーをわざと地面に落とす。汚い叫び声がしたが、無視した。
　ほっと息をつき、彼女を見る。まだ一口も食べていないようだ。
「ありがとう……イスハークくん。」
彼女は、僕の頬にキスをしてくれる。なんでお礼言われたのか、もしや助けたことを悟られたのだろうか。しかし、僕はすっかり彼女のキスにうっとりしていた。そして……
ジリリリリ！！！
「夢かよ……。」
夢オチだった。
しかし、僕は気を引き締める。

もしかしたら、またあるかもしれない。