上 下
69 / 75
短編 師匠は狙われている!~イスハーク少年、がんばれ!~

1.

しおりを挟む
突然だが、頭がおかしくなったかもしれない。先程まで僕は、とても美しい師匠と魔法の特訓中だったがそろそろ休憩しましょといわれ、彼女自らの手でお菓子をあーん♥️されていたはずである。しかしどうだ、なぜか僕は、見知らぬ真っ白の部屋にいる。真っ白、といっても、なにもないわけでなく、机やベッドは普通に置いてあり、どことなく生活感が漂っていた。
(ジェイさんの仕業か……?)
記憶を探れば、お菓子を持ってきたジェイさんは、師匠がそのお菓子を僕にあーんしようとしたのを見てキェェェェ!!、とこの世のものではないような奇声をあげてナイフを振りかざしてきたのを思い出す。
(まさかジェイさんが何らかの魔法を……?いやならナイフで襲いかかってきた意味ないな。)
とりあえず師匠の無事を確認せねば、と部屋からでる。そこには長い廊下があり、左右を合わせて10ほどの部屋があった。
そして、一番奥には……豪華な扉が。扉を開けると……そこには、寝台に鎖でくくりつけられた師匠の姿が。慌てて駆け寄ろうとするが、そんな師匠のうえには、黒髪の男……精霊王が鼻息荒く馬乗りになっていた。
「師匠に……なにしてんだよっ!!この変態精霊王っっ!!」
「ぐはぁっ!?!?」
おもいっきり急所を狙い蹴り飛ばす。見事に寝台から落ちたのを見届け、師匠の鎖を解く。そしてその鎖を窓から投げた。
男に拘束され馬乗りになられるなんて、さぞ怖かっただろうと師匠の様子を見れば、どうやらまだ寝ていたようだ。
「いっ……たいなぁ……セイレイオウってなんや、俺はファントム父さんやで?父さんを蹴るなんて悪い息子やなぁ……いてて…。」
「なに気色悪いこといってんだよ!しかも師匠を鎖で縛るって……なにかんがえてんだ!?」
「はぁ……?師匠って……イスハーク、いつからこのこに弟子入りしたんや?いつもおねーさん♥️って呼んでたやろ。」
「は…?まだふざけてんの?」
どすを効かせれば、青ざめた顔で首を高速にふられた。
「いやいやいや!?ほんまにわけわからへん!てか、食事のときに全員分のごはんに睡眠薬いれたはずなんやけど……。その間にこのこと既成事実作ってまうつもりだったんに……少なかったんかな?」
「なんってことしてんだこの屑!?」
なんだか性格がいつもと違う気がする。ここまで屑だったか?この男。よくみれば、服装もなんだかいつもと違う。なんというか……貴族の私服ってかんじだ。いつもはあのワフクやらチュウカフクっていう異色の服を着てるというのに。
「どうした、その服?」
「え、なんか身だしなみ変!?あちゃー……ん?いつも通りやないの。」
ぐるりと自分の服を見渡し、異変がないことを悟った精霊王は、怪訝な顔をした。
「んー……それにしても、犯行見られてしまったしなぁ……今回は諦めるかぁ……どうせ他のやつもなんかしら用意してるし……。」
そう呟きながら、精霊王は部屋をでていく。その数分後、混乱で硬直していた僕は、あいつ捕まえなきゃダメだろ!?と思い、動こうとした瞬間、獲物が大急ぎで戻ってきた。
「待ってぇや!?精霊王って言われて気づいたけど、なんで俺こんなとこであのこ襲おうとしてたんや!?」
「僕の台詞だこの変態!!」
もう一発蹴りいれといた。


「いてて……ほんま容赦ないな息子よ……。」
「こんなときにふざけんなよ!だれが息子だ!」
そう噛みつけば、精霊王はほんとに息子なんや…と弱々しく言った。
「なんでかはしらんけど、ここでは、イスハークは、ファントムっていう貴族……まぁ俺やな、その息子って認識されてるんや。」
「は……はぁぁぁ!?」
大声で叫べば、口を押さえられた。
「あのこが起きたらどうすんねんっ!!?しー……やで!……で、玄関はあるけど出れなくて、実質行動範囲はこの屋敷のなかだけや。」
「たくさんあったあの部屋たちは?外に繋がってたりしないの?」
「せぇへんな。あの部屋たちは、住人と調理部屋と図書室と食事部屋や。」
住人は自分達と師匠だけではなかったのか。その疑問が通じたのか、苦々しげに、教えてくれる。
「住人は、俺たち以外に、大工のアーサーと騎士団長のヴィンス、医者のダニエルにその弟子で薬剤師のシアン、執事のジェイ、商人のファルークがいるんや。で、こっからがほんまめんどいんやけどな……全員、このこの貞操を狙っとる。」
「微妙に役職違うやついるな……は!?!?貞操っ!?!?」
「だから叫んだらアカンって……!!」
(いや叫ばずにはいられないだろ!?)
なぜそんなことになっているのか小一時間ほど問い詰めたい。彼らは、師匠にたいして、紳士なのではなかったか。というか、そんな度胸ないし、手を出そうとしても決して靡かない師匠に翻弄されていたはずだ。
「なんでだよ……っ!?」
「わからんよ……俺もイスハークに精霊王って呼ばれる切っ掛けなかったら、この屋敷にあのこと同棲している貴族で、養子もちって設定信じてたしな……?」
「しかも僕養子だったのか……いやそんなことどうでもいい!呪われてるんじゃないのか!?」
「かもしれんなぁ……。なんか、他の奴らより先に、あのこを手篭めにせなあかんって本能に刻まれてたというか……間違い犯さなくて良かったわぁ、ほんま……。」
胸に手を当て、はぁ、と安堵のため息をつかれる。しかし次の瞬間、くわっ、と目を見開き、他の奴らの計画、阻止するで!!と僕の肩をつかんだ。
「いや、そんなこと言われなくてもするよ!んなことより、ほんっとうにもう正気なんだな……?」
「正気や正気!!もう襲う気はこれっぽっちもあらへん!!むしろまもるきや!!……あっ、でも、魔法は使えへんみたいや、ここ。」
「それを先にいえぇぇぇぇ!!!」
「だから叫んだらアカンって!!……いやそんなことよか、俺が襲おうとしてたのバレたら、たぶん永遠に幽閉されるで……!?」
それは正直いつもならありがたかったが、いまは協力者を失うわけには行かない。
「……あ、でも窓から捨てたからセーフだろ。」
「ナイスやでぇぇぇ!!」
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

ある工作員の些細な失敗

大衆娯楽 / 完結 24h.ポイント:2,300pt お気に入り:0

『マンホールの蓋の下』

ライト文芸 / 完結 24h.ポイント:624pt お気に入り:1

ほろ甘さに恋する気持ちをのせて――

恋愛 / 完結 24h.ポイント:624pt お気に入り:17

愛及屋烏

BL / 連載中 24h.ポイント:213pt お気に入り:5

陣代『諏訪勝頼』――御旗盾無、御照覧あれ!――

歴史・時代 / 完結 24h.ポイント:42pt お気に入り:11

アンバー・カレッジ奇譚

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:191pt お気に入り:0

文化祭

青春 / 完結 24h.ポイント:624pt お気に入り:1

1人の男と魔女3人

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:504pt お気に入り:1

処理中です...