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二章 吸血鬼の花嫁『色欲』

4night

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僕は、なにを……。
イスハークは、なにげない不安と孤独感を感じ目を覚ました。
暗闇のなか、身動きのとれない僕の体は鎖で縛られている。しかし、意識だけははっきりとしていた。
「こ、こは……。」
目の前に、魔法を教えようとする師匠が写し出される。まるで、ページをめくるように、登場人物は動いている。
「たすけて……師匠……。」
ひねり出した声は、師匠には届かない。まるでなにかに操られているように、僕はなにかを呟き続け、視界は揺れる。
(ここは…精神世界か……?)
そうとしか考えられない。なぜ鎖があるのか謎だが。
よく見れば、背中には大きな紫色の宝石が、背もたれのように飾られている。囚人を捕らえているのに金をかけてしまってこの国は大丈夫なのだろうか。
『ふふ、それ……お気に入りなのね。』
師匠は、僕を見ていう。彼女の視線は、言葉通り……精神世界にいる僕を捉えていた。すると、背にある宝石は、まるで動揺するように小刻みに揺れた。
「そ、れ……?僕のことか……?」
『でも、そろそろ集中してくれなくちゃやーよ?』
彼女はそういいながら僕の耳にふれる。なにもなかったと記憶していたそこからは、まるで耳飾りのようなじゃら、というおとが聞こえた。
そのとたん。宝石は、鎖は崩壊した。
「っう…!」
崩れ落ちる体をなんとか支えきる。何事かと目線を写し出されている師匠へと向ければ、彼女のてには、僕が着けていたのだろう、耳飾りが、つけられていた宝石ごと粉々になって置かれていた。それと共に、漠然とした不安や孤独感は消え去る。目の前のこの人が、いるから。
『……イスハーク君。』
一向に僕の名前を呼ばなかった彼女は、僕が支配からとけたのを悟ったのか、その唇から僕の名を呼ぶ。
「し、しょう……!」
いますぐにこの敏い人を抱き締めたい。僕を
何度も助けてくれる偉大な……僕のお師匠さま。
そう言いたいのに、まだ乾きが続く喉からは声はでない。頭もぼんやりとしてきている。そのまま、抗えない睡魔に従ったのだった。




「いっ…イスハークくん……ごめんなさいぃぃぃっ!!!」
全力でそう叫び謝るが、反応がない。ただの屍のようだ。
「……って、気絶してるわ!?目を閉じてるっ!?そんなに大切だったのね……っ!?」
私はなんてことを……っ、と自己嫌悪しながら、魔法で彼の自室につれていき、ベッドに寝かせる。ついでに私こんなに握力強かったかと中学校の体力テストを思い出す。いや、私非力な方だったわ。
「触っただけで力込めてないわよね……?」
思い返しても、人差し指でちょん、と触っただけだ。そしたらがしゃんって音と共に壊れて、とっさに掌で受け止めたけど、イスハーク君……?としか言えなかったわ。
悶々としながらゲンドウボーズをすれば、とてとて、とかわいいおとをしながら黒猫がやってくる。我らが花子ちゃんであった。
「は、花子ちゃん!!」
もふりながら、どうしようと考えていると、ぴこん!と頭に思い浮かんだ。
「似たようなもの!」
買いに行けば、いいじゃない。それで、すり替えちゃえば、いいじゃない?
我ながら屑である。しかし、弟子からの信用は失いたくないのだ。嫌われたら泣ける。
「まっててね、すぐ帰ってくるから。」
私は町へと出発したのだった。



「……ク。……ハーク。…イスハーク!目が覚めたか。」
「こ、こは……?」
「女神さまが連れてきてくださったのだ。」
ぐるりと回りを見れば、見覚えのある配置の家具。僕の部屋だ。しかし、なぜシアンがここにいるのか。
「ああ……不思議な魔力を感じてな。辿ればお前に行き着いた。……というと語弊があるな。お前を操っていた、この耳飾りを辿ってきた。そしたらお前が倒れていて、精霊王に話を聞けば、お前は膨大な魔力からの強制的な解放に耐えられず倒れたようだ。」
リンゴを剥き終わったシアンは、僕にかわいいウサギ型のリンゴのはいった器を渡してくれた。
(父様も……こんなことしてくれなかったのに。)
昔の兄上を思い出してしまう。起き上がり、むしゃりと食べれば、その潤いで喉が癒されるのを感じる。食べ終わったあと、気になったことを聞いた。
「精霊王……?」
「俺のことや。」
後ろから声が聞こえた。振り替えると、そこには魔神と以前戦っていた、あの黒髪の美男がいる。
「リンゴ食べ終わるの遅ないか…?ずっと出番まってたんやけど……??……なんでもあらへんよ、クソガキ。洗脳から解放されて良かったな。」
そう言いながら、僕の頭をくしゃりと撫でてくれる。前に僕を処刑しようとしたときとは打ってかわって、柔らかい雰囲気だ。その疑問に気づいたのか、彼は答えてくれる。
「なんやろな……あのこが青二才な少年を可愛がってるところを見たらな……なんだか息子のように思えてきたんや。」
「僕がなりたいのは息子じゃなく夫だ!!」
「ずいぶん情けない夫になりそうやな。」
前言撤回。全然柔らかくない。この男、いまにも鼻で笑いそうだ。
「ごほん……。精霊王、あなたは言い争いをしに来たのか?」
「あー……ちゃうな。つい、な。そんなことよりも……歌ってみぃひん?」
「は…!?僕は師匠みたいに華麗に歌えないし、歌ったところであんな風に魔法を操れないけど?」 
「おぉぅ……どんどんテンション下がったなぁ……まぁ、簡単に言えば、あのこがおまえに、イヤリング壊す際に魔力を与えたってことやな。……まぁ事故やけど……ん?あぁ、なんでもあらへんよ。10年ぶんくらい与えたけど、あのこは寝れば魔力は回復するからな。安心してええよ。」
「……ということだ。お前も、10年分の魔力の範囲だが、歌えば彼女のように強い魔法を操ることができる。お前があの方から授かった杖には、ドラゴンからできた魔法石が埋め込まれている。それでいままでは魔法を使っていたが、いまなら杖をつかえば、消耗する力が少なくなり、しばらく魔法石を交換する必要なくなる。」
「え……ちなみに補充の方法は?」
「そんなこというわけあらへ「体液だ。」おいぃ!??思春期のこになんてこといっとるんや!?まだ早いやろっ!?」
まるで物語の、過保護な父と弟の味方をしてくれる兄の喧嘩のような様子の彼らに(内容は生々しいが)、つい笑みがこぼれる。それとともに、体液の意味について悶々とするが。
試しに……と歌おうとすれば、頭に歌詞が思い浮かぶ。聞いたことのない、新しいその歌を口ずさもうとすれば、どこからか音楽が流れてきた。それに乗るように、声を出す。
「あな…たの…夢をみた。いつ、も…助けてくれる。あなたは、僕の…敬愛する人だ。」
だんだんと、すらすらと口から流れる言葉に楽しくなっていく。
「魂ーがかなーでる、旋律は高く~。舞い上ーがりながら、僕の心震わせる♪

僕に~は生き続ける、いつまでも…♪あなたーの優し~さと、美しさ~よ…!」
全力で声を張り上げ、しかし優雅に歌えば、窓から小鳥やリスなどが覗いている。シアンがてを少しふると、窓は開かれた。
「さぁ……手を、かざしなさい。」
精霊王が、歌い出した。全く違う曲調なのに、流れる音楽と、僕の声にうまく被さる。
「教えましょう、この力の使い方……♪」
彼は、僕の手をとり、歌い続けろと言った。その言葉に反応するように、新たな歌詞が頭を駆け巡る。
「共に歌おう~♪」
「繰り返せーーー♪」
シアンは、さりげなくシールドを張っていた。行動が早い。できる男だ。
「炎よ、燃え盛れ。」
「ほーのおよ♪燃え盛れ~!」
彼の言葉を歌いながら続ければ、手から大きな火の玉が出現する。瞬きをした瞬間、熱さを光のように撒き散らしながら消滅したが。
「水よーー。龍となれーー。」
「みーずよ♪龍となれ~♪」
手から出現した大量のみずは、龍の形を作り上げた。
またもや、短時間で消えてしまったが。
しかし、何羽もの白いとりたちが、天井を駆け回る。
「ええところにきたな……。なら……。」
そう呟くと、精霊王は、大量の花を手から出す。様々な種類があるが、彼女には似合わないと思い、僕は歌う。
「あなたーを、彩るのは、この薔薇だね。」
それが聞こえたのか、精霊王は圧し殺すように笑うと、花たちを花束にして、きれいにラッピングした。それに比べ、僕は、一本しか咲かせられていない。しかし、彼女への愛おしさは負けているつもりはない。
いつのまにやら、彼女への愛情の強さを、歌で競っていた。
「美しく、かわいらしい。永遠に、逃がさへんで。」
「気高くて、優しい人。ずーっと、そばにいて~♪」
「出会ったときから」
「いつの間にか」
「「愛してる。」」
ぐるっと振り返り二人でポーズを決めると、そこは扉で。そこから入ってきた師匠が、買い物袋を持ったまま立っていた。


(え、うちのこ、いつから◯ィズニープリンセ◯になったの??いや、男の子だからプリンス??えっ??このおとこの人だれ?)
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