上 下
19 / 70
一章 出会いと魔女の本領発揮『憤怒』

15page

しおりを挟む
「花子ちゃん、おはよう。今日も来てくれたのね、待ってたわ。」
黒猫の花子ちゃんは、今日も炎を纏いながらうちにやってきた。そして、いつも通り布団にきてストンと丸くなって寝てしまうのだ。それがかわいいことこの上なく……いつのまにか住み着くようになり、お昼時にはどこかへいってしまう。なので、会えるのは実質午前中だけなのよ。
「今日もかわいいわね、花子ちゃん。」
(この名前で呼ぶと最近諦めたような悟ったような顔するのはなぜかしら……?)
このこは、というかこの世界の動物は、どうにも表情が女優顔負けにわかりやすい。
「そういえば、ダニエルさんっていうお医者さんいるんだけどね、婚約者がいるみたいなの。アーシラさんっていう……この前泉に来た美女さん知ってる?その人と出来てるらしいのよ……って、見てたみたいね。」
「ふにぁぁ~!!」
ほら、こんなことをいえば、何が面白いのか前足をバンバンとベッドに叩きつけながら、鳴く。陽キャの大学生が爆笑してるみたい。
「……あ!そうだわ、今日は本屋さんに行くんだったわ!新刊がでたって大工さんから聞いたのよね!」
花子ちゃんを満足まで撫でてから、外出するための準備を進めたのだった。お金はこの家の金庫になぜかたんまりあるのよ。もう一生遊んで暮らせるくらい。


「……貴方は」
偶然本屋の前に見知った人をみつけ、声をかければお医者さまだった。
「あら……お医者さま?お医者さまも本屋さんに来てたんですね。」
「ええ、しばらく時間がありますカラ、暇潰しを仕入れに。貴方は?」
「私は、新刊がでると大工さんに伺って……。」
ワクワクしながら一緒に本屋さんにはいれば、案の定新刊!と看板がありそこにはお目当てのものが並んでいた。
「これですよこれ……!」
「これいいですネ……オヤ?」
てを伸ばせば、彼の手が重なる。どうやら、お医者さまも目を付けたようだ。いつも薬品とかをさわってるのか、ひんやりとした感覚が手に伝わる。
「フフ、貴方と趣味が合うようデスネ。それにしても、貴方の手は暖かい……。」
「あ……ごめんなさい、そんなつもりはなくて……。」
「イインデスヨ、できればこのまま……」
いつのまにかガッツリと手を握られている。
(え、お医者さまって浮気者なの……!?)
信じられないという目でみれば、きょとん、と伝わってないような顔をされる。
「アーシラさんに失礼ですよ……!」
「アーシラ……?誰です?」
「え……?貴方は知ってるでしょう…?」
まるでわからないと肩をすくめられる。なんだか嘘じゃないように見えて、婚約者は、と聞けば不審げな顔をされた。解せない。
「ワタシは生まれてこのかた寂しい人生を送っておりマス……あ、貴方が婚約者になってくれマスカ?……大歓迎ですよ。」
「え……?喧嘩してるからって、そんな言い方はよくありませんよ。」
「え、えー……??本当に覚えがないのデスガ……。」
「早く仲直りできるといいですね!」
それじゃあまた!と手を振れば、首をかしげながら手を振り返してくれた。


「あ……アーシラさん!」
「あはは~こんにちわ……。」
なぜ俺がまたこんな格好してるか知りたいか?知りたいよな?知りたくなくても勝手に話す。時を戻そう。一時間くらい前のことだ。本を持ったダニエルは、珍しく慌てた様子で城に帰ってきた。そしてバターンと音を立て俺の執務室に入ってきたんだ。迷惑なことこの上ない。
「ん?どうしたんだ?ノックくらいしろよ。」
「ノックもなにも無理デスネ!!ダッテ、ワタシ婚約者いませんモン!!アーシラって誰ですカー!!!」
「ごぶっ……げっほ!!」
水を優雅に飲んでた俺は、吹いた。
「なんでお前がその名前を……!!?いやまて婚約者ってなんだ……!?」
「知ってるんデスネ!!?なんでか彼女に、魔女さんにアーシラっていう婚約者がいるって思われてるんですヨー!!アーシラが誰か聞いてもっ!喧嘩中だからってそんな態度はだめって言われて……!!可笑しいですよ、なにかの策略デスヨ……!!」
泣きつくダニエルは、髪を振り乱し助けを求めている。というか俺も助けてほしい。なんでそんな設定が出てきた!?
「おい、アーサーこれは……ん?ダニエルはどうしたんだ?」
「俺も泣きたい。」
「おい。状況説明をしてくれ。」
事情を話しダニエルに架空の婚約者ができていると話せば、あー……と目をそらされる。(こいつなにか知ってんな。)
ダニエルと目配せをしヴィンスを捕らえる。
「どういうことデスカ……!!答えなさい……!」
「そうだそうだー!!」
最初はじたばたしていたが、ようやく諦めたようで、ことの顛末を話してくれた。
「……じゃあ俺と二人きりにさせないためにでっち上げたってことか……?」
「まぁ……そうなるな。」
「なんでワタシなんですか……!!?別の人に擦り付けてクダサイヨ……!アーサーの婚約者でいいじゃないですか!!
てかアーサーなんで女装して会いになんていってるんデスカ……!?」
「その……それはまぁ、ノリで。」
「仕方ないだろう、アーサーの親戚だと言われたら、結婚相手にはできない。」
そんなこんな言い争いが続き、結局俺がまた女装してアーシラとして会いに行き誤解を解くってことになった。
……ということでいまこんな状況だ。
「その、魔女さん?わたくしに婚約者がいるってお噂みたいですが……。」
「!ええ、お医者さまのダニエルさんとですよね、知ってますよ~。」
(あ、やっぱりそうなんだ……。)
憂鬱な気持ちのまま、ダニエルは婚約者じゃないと伝えれば驚いた顔される。
「その……あの日は、嘘を付いていい日なんですわ!ええ、今年から決まったんですの!」
「あら……エープリルフールみたいなものかしら……そうだったんですね。」
えい……とよくわからないことをいっていたがいまはまぁいい。
「そうなんですの!わたくしに婚約者はおりませんわ!おひとりさま!自由の身!」
「うふふ、結婚しないなら、ずっとお友だち付き合いできますね。嬉しいわ。」
心が重たくなる。いや、これはアーシラに向けられた言葉だ、俺じゃない。ずっと友達はいやだー!!!
と思ったところで、俺は執務がまだ終わってないことを思い出した。ダニエルに妨害されたんだった。
「ごめんなさい、おれ……わたくしもう帰らなくては!!また今度ご一緒したいですわ!!それではご機嫌よう~!!」
あわててドレスを裾掴みあげ走る準備をすれば、彼女が笑ってるのに気がついた。
(……ん?)
それはなんだか、こちらを見通すようで……。
(もしかして、全部わかった上でからかわれた?)
それを肯定するように彼女は俺に近づき囁く。
「それではまた。アーシラさん。」
わかった上で、"アーシラ"に会いたいと彼女は言ってるようだ。どうやら、彼女は女装してる俺を愉快だと感じてくれたようだ。
俺、なにやってんだろ。
「……負けたよ。それじゃ、またね。」
彼女の鋭さには敵わないな。



「エイプリルフールってこの世界にもあったのねぇ……すっかり騙されちゃったわ。お医者さまがわからないって言うはずだわ……申し訳ないことしたわね……。」
アーシラさんが帰ったあと、どこから現れたのか花子ちゃんがこちらを見つめているのに気がついた。ワタシと目が合うと、にゃーといいながら近づいてくるので撫でている。
「それにしても、負けたって……なににかしら?たまに男の人みたいな口調になるのよね……。」
私は何一つわかっていなかった。
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

出雲死柏手

エッセイ・ノンフィクション / 完結 24h.ポイント:568pt お気に入り:3

BLはファンタジーだって神が言うから

BL / 完結 24h.ポイント:825pt お気に入り:30

9歳の彼を9年後に私の夫にするために私がするべきこと

恋愛 / 完結 24h.ポイント:1,867pt お気に入り:103

こころ・ぽかぽか 〜お金以外の僕の価値〜

BL / 連載中 24h.ポイント:1,208pt お気に入り:783

桜天女

恋愛 / 完結 24h.ポイント:326pt お気に入り:0

とある高台夫婦の事情(5/19更新)

大衆娯楽 / 連載中 24h.ポイント:113pt お気に入り:1

記憶がないっ!

青春 / 連載中 24h.ポイント:1,306pt お気に入り:1

勇者のこども

児童書・童話 / 完結 24h.ポイント:1,980pt お気に入り:1

孤独なまま異世界転生したら過保護な兄ができた話

BL / 連載中 24h.ポイント:61,254pt お気に入り:3,754

そこまで言うなら徹底的に叩き潰してあげようじゃないか!

恋愛 / 完結 24h.ポイント:2,279pt お気に入り:44

処理中です...