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第一章:深い闇からも必ず。
06.優しい祖母が本当に願った意味。
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不思議に思いながら私は歩くのだが。
桂さんの背中を。
更に周りを。
全て見ながらも、どうしても…
私には判らなかった。
「なぁ、桂さん?
やっぱ…
似合わねぇどころか、こりゃ…
もうヤベェんじゃ?
別に私は、どうでも良いが。
この様子じゃ…」
振り向いた桂さんは私を見てくるが。
なぜか先に周りを見渡して…
更に少し笑いながら言うのもだった。
「春香が心配する必要もないよ?
確かに、これは…
一応、道も含め選んでるが。
流石に仕方ない事だろう。
私も問題ない。」
「でも…
桂さんもだろ?
しかも、こんなん歩き難いだけだぞ?」
私は下駄っぽいのを見ながら言う。
これなぁ…
もう単純に邪魔だろ!?
素足の方がマシだぞぉ!?
歩き難いどころじゃねぇし?
しかも着物じゃ更にだぁ?
すぐ走れねぇよ!!
「ふっ。
普段とも違うのは判るが…
歩くのも、だろう?
ゆっくりで大丈夫だよ、春香。
それに…
やはり似合ってるから尚更か?
私すら、この様な事は…
考えた事も、なかった。」
また私は桂さんも見るが笑ってるのも判る。
複雑な気分のまま言う。
「そりゃ、私も初めて着たがなぁ?
何じゃ、こりゃ状態だぞ!?
もう歩くのもかぁ?
良く、まぁ…
こんなん着る意味すら判んねぇ。
走れねぇだけでも?
ねぇし…
何か周りすらだろ?
私をかぁ?
判んねぇが、更に桂さんまで明らかに…
気付いてねぇと言わせねぇぞ?」
そう…
皆が真っ先に私を見てからだ。
すぐ目の前に居る桂さんへと視線を。
確かに誰も話かけて来ねぇが。
こりゃ…
桂さんが強いからかぁ?
判んねぇし?
でも桂さんもだろ?
言ってた筈だがなぁ…
そんな桂さんは、また周りも見ながら…
私へ向いて少し笑う。
「確かに春香?
皆が見てくる理由も簡単ではある。
美人と言うより、これ程だと…
もう私すら初めてだが。
一人には余計させられないよ?
それに皆も私が居れば春香に近付かない。」
私も周りを見ながら言う。
「確かになぁ…
理由は判らねぇが。
見てるだけならかぁ?
揉める以前に済むし?
でも…
何だか不思議な感覚以上だぞ。」
そんな周りを。
僅かに見ながら私でも判る事だった。
だから思わず…
「どうして…」
「春香?
何か気になるのか?」
桂さんの声だけは聞いてたが、私は…
僅かに気付いた事のみ。
周りを見ながら言う。
「一応かぁ?
店周りには華やかな女性達も居るし?
多くの人も笑ってんが…
どうして隠れた様な狭い道に?
多分あんなんじゃ、まともに食事すら…
笑ってる奴らも気付いてんだろ?
それなのに…」
私は冷静に日本史の教科書も思い出すが。
書いてないだろう事にだった。
こりゃ…
既に貧富の差とかかぁ?
どんな時代でもかよ。
仕方ねぇのも判っけど、やっぱか。
流石に私の場合。
尚更、口出しすら出来ねぇが。
もう私は、ため息を出した。
「それを!?
また春香は…
だがな、今は僅かに助けてしまえば際限もない。
彼らも含め、皆が判ってるのだよ。」
桂さんの声が普段とも違うのに私は気付いて見ると…
少し複雑な顔もしてた。
「春香が気付いた通り。
今は尚更、幕府へと全く手が出せぬ庶民がだ。
いくら集まっても勝てない上に…
下手したら更に酷くもなる。
笑ってる皆も含めて、だろう。
だから余計、皆は避けるしか出来ないのだよ。」
一応、私も意味は判った。
だから頷くが、ふと思い出して笑う。
「でも、だからこそ桂さん達も!!
だろ?
悪りぃな、私の事まで面倒かけてっし?
気にしてねぇよ!!」
桂さんは、また驚いた顔もしたが。
すぐ笑った。
「ふっ。
あはは…
春香は本当に判り易い。
ならば尚更、私もだよ?
少し店を回ろうか。
だが、これは…
私の方が気分転換かも知れないな。」
そこで私も考える。
んん?
桂さんの方が?
気分転換だぁ?
まぁ、普通に考えてもかぁ?
大変そうだし…
私は納得して笑う。
「そうだなぁ!!
桂さんも大変だろ?
ありゃ、高杉さんにもかぁ?
んぁ!?
また気付いた!?」
少し桂さんが不思議そうな顔になるのを私も見た。
首を傾げた桂さんに…
「まぁ、でもなぁ…
こりゃ、桂さんにじゃ。
意味も?
ねぇかぁ!?」
私は着物に合わせた巾着から財布を出した。
それから、この時代じゃ意味もないが。
金を全部と思いながら不思議そうな桂さんへ。
笑いながら、そのまま渡した。
「これは…
春香!?
まさかだが、貨幣をか!?
見た事もないが…
未来の、だろう!?
なぜ、私に!?
しかも、今の様子ならば全部か!!」
凄く驚いた顔で桂さんは言った。
おぉ!?
流石だなぁ!!
普通は紙だろ!?
もう私は、また笑って言う。
「あははははっ!!
スゲェな!!
マジで良く判るもんだなぁ?
桂さんには意味もねぇし?
更に使えねぇなら要らねぇだろ!!
でもなぁ…
この着物とか高いぐれぇ判んし?
まして宿代にも何ねぇ。
使えねぇ金でも、まぁ…
気持ち程度かぁ?
普通は金ぐれぇ出すだろ。
当たり前だな!!」
それでもだった。
桂さんは驚くだけでもなく慌てながら…
「いや、春香!?
待つんだ、普通だと?
な、何を。
私は女子に金など出させたりも、しない!!
それなのに、なぜ!?
いくら出した!?
使えないとしてもだ!!」
んん?
いくら?
私には不思議でしかない。
だから素直に、そのまま言う。
「んな驚く事かぁ?
男だの、女だの、変わんねぇだろ?
普通なら最低でも割り勘。
半分ぐれぇ当たり前だが。
この時代じゃ…
あれかぁ?
まだ感覚が違うっぽい?
使えねぇ上に金額すら大した事もねぇよ。
たかが三万円程度かぁ?
銀行もねぇからカードも使えん!!」
それを聞いた桂さんは、もう明らかに動揺までした。
また凄く驚いた顔になるのも私は見てたが…
急に目を閉じたまま首を横に振った。
「三万…
だと!?
しかも春香は普通に言ったが…
たかが、だと!?
これは…
金の価格すらか?
違うから、か!?
だが、それでも…
まさか春香は!?」
目を開けた桂さんは、そのまま私に金を返してきた。
不思議に私も見てると複雑な顔で言う。
「春香は武家では、ないと。
言っていたが。
未来でも、おそらく金には…
困らないぐらいの、だろう?
だが、それでも私は受け取れん。」
んん?
どしたぁ?
私は首を傾げながら聞く。
「いや、まぁ…
私の場合、そりゃ…
金だけは困んねぇがな?
働く事すら簡単だが。
特に私は学生だしなぁ…
一人暮らしの生活にも全く問題ねぇぞ?
まして今じゃ、その金も使えねぇのにかぁ?
せめて世話になってる桂さんに…
渡すのは当たり前じゃねぇの?」
でも桂さんは首を横に振る。
しっかりと私を見てきた。
「良いかい、春香。
確かに今は使えない金でもだ。
私は一切、受け取らない。
そして金に関してもだよ?
私ならば春香の分すら全く問題ない事。
更に、だろう?
私には春香が元の時代に戻れる事を。
断言、出来ない事でもある。
それでも春香。
もし戻れた時には、必ず役立つ金を。
今の春香が、した行為はな?
使える金を無闇に捨てる行為になる。
私には一切、使えない金にも関わらず。
それを渡すのは、間違えてる。
ならば尚更、春香が持ってるべき事。
違うか?」
私は驚いた、そのまま桂さんを見ながら考える。
確かに桂さんが持ってても絶対、使えない金。
だから…
金を捨てる行為と!?
だからこそ私が持つべき金…
納得も出来た私は複雑な気分で桂さんに小さく言う。
「桂さんの意見は…
何も間違ってねぇ。
でも、それなら余計に私は…」
私は目を閉じて、そのまま言う。
「なぁ、桂さん。
悪りぃが。
もう、やっぱ私は…
要らねぇだろ?
余計、邪魔なだけにしか何ねぇよ。
金ぐれぇ稼いでも、この時代じゃ尚更だ。」
「春香。
金ならば心配すら全く、ない。
まして、また…
冷静なまま、聞いて欲しい。
これは春香でも簡単に判る事。」
私は目を開けて桂さんを見る。
「春香?
良く聞いて覚えなさい。
春香も言ったな?
金ならば稼ぐ事で簡単に手に入る。
更に着物を含めた物品も金では簡単、だろう?
だが、春香の命。
それは決して金では買えない。
そして失えば二度と手には入らない。
だからこそ命は大切なのだ。
その命に関して…
失ってからでは全てが無意味。
後からする後悔が常に残り続けるのみ。
もし春香の命を。
私が失う事になれば…
もう死ぬまで私は、その苦しみを。
ずっと常に抱え続けて生きるのだ。」
もう私は何も言えなかった。
桂さんが!?
死ぬまで、ずっと!?
まさか…
あの耐えられねぇ苦しさをか!!
そんな事をしたら…
「駄目だろ!?
何でだ?
桂さんが、あんなんを。
苦しむだと!?
おかしいぞ?
この時代に私は居ねぇのに、それは…」
「だが、私の前に今!!
春香は生きて居る。
私は春香と話し、更に数日でもだ。
既に『春香の存在』も知って居る!!
ならば『春香の命』を。
忘れたりなど、一切ない!!」
私の言葉すら遮る様に桂さんは言った。
もう何も言えなくて私は目を閉じた。
首を横に振るだけを。
こんなんじゃ…
私は何を。
どうすりゃ良いってんだ!?
でも私は誰も信じちゃ駄目だぁ!!
そんでも、もし…
あんな苦しさを桂さんが!?
駄目だろ!?
私のせいで既に、もう…
そのままで、どうにか私も言う。
「桂さんは判んねぇ…
何を。
それすら変なのに…
私は信じねぇ…
信じたら駄目だ。
私は…」
急に抱き締められて私は目を開けた。
驚いて動けない。
でも…
「まだ春香?
信じるのが無理でも良いのだよ?
簡単では、ない事。
充分、私は判ってる。
だからこそ徐々に、なのだから…
今の春香は、また…
痛みを、だろう?
私は春香を痛くさせたくも、ない。」
また私は判らない感覚がした。
でも答えが判らない。
あぁ、こりゃ…
多分かぁ?
桂さんは優しいんだろ?
だから私みてぇなのにも…
少し私は笑う。
「桂さんは…
ズリィなぁ?
あはははは…
私みてぇなのまでかぁ?
そんなんじゃ、身が保たねぇぞ!!」
そう言うと桂さんは腕を緩めて私を見てきた。
心配そうな顔が判った。
素直に私は思った。
こんな私みてぇなのを。
優しい桂さんにはかぁ?
んな心配までなぁ…
欲しかねぇが。
だから私は少し笑いながら…
何となく桂さんの頬に手を。
すぐ驚いた顔も見たけど動かない桂さんに触れて言う。
「桂さんはなぁ?
充分、大変な事ぐれぇ…
私にすら判んだよ。
だから尚更かぁ?
んな顔すんなよ…
大丈夫だって言ってんだろ?」
「春香?
その…
手を。
せめて…」
少し慌てる様子になった桂さんに、また私は笑う。
一応、手を離してから…
「あははははっ!!
何じゃ、急にかぁ?
あはははっ!!
心配してん顔よりは…
こりゃ、マシなぁ!!
笑っちまうな、おい!!
めっちゃオモロいだけ?
あははははっ!!」
息を吐き出してから、どうにか普段通りに…
戻ろうとしてる桂さんにも私は気付いた。
だから私は桂さんに、そのまま抱き付いた。
「なっ!?
春香!!
待ってくれ!?
まして、ここで…
そんな事は!?」
慌てる桂さんの声に、もう私は笑って言う。
「んな事、気にすんな!!
桂さんも、桂さんだろ?
あははははっ!!
今更かぁ?
私も、私だぁ!!」
「いや、意味は判ってるが!?
いや、それでもか!?
今は…
違う!?
春香、今は離れ…
確かに?
そのままと私も言ったが!?
だが、これでは…
いや、待ってくれ、春香!?」
余りにも慌ててる様子の桂さんに私は声も気付いた。
だから離れるが、そのまま桂さんは目を閉じた。
深呼吸を始めてから言ってきた。
「これは…
春香?
私からの頼みを聞いてくれないか?」
私は疑問を言う。
「んん?
頼みだぁ?
桂さんがかぁ?」
深呼吸を繰り返す桂さんは目すら閉じたままだった。
「今みたいな事を。
そう安易にか?
春香からは絶対しないと。」
安易にしない事?
まぁ…
それも…
納得して私は笑って言う。
「そうだな!!
桂さんは間違えてねぇか!?
判ったぞ!!
私も安易に、しねぇよ!!」
ようやく桂さんは目を開けた。
複雑な顔で私を見てくるのは気付くが。
その顔だけは判らない私は首を傾げる。
「判ってない様子に見えるのだが。
春香、本当か?」
また一応、私も考える。
「あぁ、大丈夫だぞ!!
私も判ってんよ!!
安易にしなきゃ良いんだろ?
知らねぇ人に、する訳ねぇし?
それに桂さんもだろ?
安易に、しねぇし?
だったら同じ事を。
だなぁ!!」
急に桂さんは驚いた顔になった。
また目を閉じるのを私は見て不思議に思ってると…
「やはり、これは…
春香は判って、ない事にも。
いや、だが…
私が!!
だろう?
ならば問題ない筈、か?」
んん?
今度は、どしたぁ?
首を横に振ると桂さんは目も開けた。
少しだけ笑って言ってきた。
「これも徐々に、だろう。
ならば、このまま店を少し見よう。
春香が疲れない範囲でもある。
もう私も覚悟したから構わない。」
んん?
覚悟だぁ?
まぁ…
店だかを見るのは構わないが。
私も考えてると桂さんは私を引き寄せてから言う。
「春香には教える事が多そうだ。
それでも私も決めたよ?」
少し笑いながら言った桂さんを私も見てたが。
私には判らない、だから目を閉じた。
「だから…
また勝手に決めんじゃねぇ!!」
そのまま大きく私も言った。
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そんな事もあったが私は結局、桂さんに連れられて…
店に入れば更に驚く。
相変わらず、皆が私も見てくるのも変わらないが。
なぜか、やっぱ皆は桂さんを。
見る様子もして確かに誰も近付いて来なかった。
不思議に思いながら私も桂さんを見れば…
「春香、大丈夫だよ。
好きな物があれば言いなさい。」
少し笑いながら言うのも変わらなかった。
また私も考えて極力、話さない様にはしながら…
いや…
金もねぇ私にかよ!?
駄目じゃね?
でも初めて見る物ばかりで、どうしても私は驚く。
そんな中でも雑貨店に入った時。
私は目にして立ち止まる。
あれは…
大きな陶磁器で出来た招き猫か!?
そうだ、私は探して…
でも、いきなり…
この時代には、きっと。
もう、ねぇだろ!?
唯一の宝物は多分、もう…
「春香?
どうかし…
春香!?
な、なぜ、泣いてるのだ?
何が…」
桂さんの声に私も気付く。
泣いてる?
私が?
そのまま私は手で触れて驚くのもある。
でも、すぐ慌てて拭う。
「別に…
何でも、ねぇ…」
すぐ懐から桂さんは手拭いを出して私にとだった。
「どうしたのだ、春香?
今まで、どんな顔をしても…
春香は一度も涙だけは…
それでも泣かず、居たのにか?
何もない筈も、ないだろう!?」
すぐ私も桂さんへ返して拭うと涙を止めた。
もう目を閉じた。
どうにか言うだけだった。
「桂さんにも…
関係ねぇ…
私は一人だ。
そう、それで良い…」
「今は私も春香と居る。
一人ではない。
泣く程に耐えるのは…」
「黙れぇ!!」
私は我慢すら出来ず叫んだ。
それでも思い出す、あの優しい祖母を。
必死に目を閉じたまま耐える。
あんなに大切な…
ずっと…
それすら私は!!
見つけられなかった…
祖母すら大切にしてたのにかぁ!!
また急に桂さんが私を抱き締めてきた。
「春香、今は落ち着きなさい。
そんな痛そうな顔まで…
なぜ…」
それでも私は小さく言う。
「桂さん。
悪りぃ…
もう…
大丈夫だ。」
腕が緩まって桂さんの心配そうな顔を、私も見たが。
でも視線だけ逸らした。
「春香?
落ち着いたのとも、また…
違うだろう?
なぜ…」
首も横に振ってから一応、最後にと招き猫だけを。
見てから私は、桂さんの問に無言を選んだ。
「春香、招き猫を。
だが、なぜだ?
そんな悲しい顔まで…」
もう私は、招き猫を、見ずに端的に言う。
「桂さんにも関係ねぇ。」
そして私は、店を出る。
空を眺め思い出しながら…
あの祖母が言った言葉もだった。
「春香?」
桂さんを見れば心配そうでもある。
だから少しだけ笑って言う。
「不思議だよなぁ?
なぜってかぁ?
それを言うなら…
なぜ私は、ここに?
だろ?
でもなぁ…」
また空を私は見上げた。
「あぁ、そうだなぁ…
なぜ…
かぁ?
小さい頃は、ずっと…
思ってたなぁ…
いつからか考えなくなったが。
そんでも、なぜ、かぁ…
結局ずっと判んねぇまま。」
ふと思い出す、だから私は目を閉じたまま…
優しい祖母の言葉を。
桂さんでもなく、そのまま祖母へ言う。
「お婆ちゃん、ごめんね?
もう多分、見つけられない…
『幸福が来るように招き猫だよ』と。
『どんな時も強くね』と。
『頑張る者には必ず幸福が来る』と。
だから私は強くって毎日、頑張ったけど。
無理っぽい。
やっぱり私は弱いままだけど。
でも私が失っても…
お婆ちゃんだけ、違うのは判るよ?
また撫でて許してくれるってぐらい!!
だって怒った顔も私には浮かばないからね。
それに、もう安心して良いよ?
今の私は一人でも生きていける!!
それぐらいには、なれたよ!!
もう、お婆ちゃんも心配はないよ!!
私は大丈夫!!」
それから目を開けた。
空を見上げながら私は笑う。
そうだよ!!
優しい祖母なら、きっとだろ?
私が失敗してもかぁ?
怒った事すらねぇし?
少し笑いながら頭をなぁ?
撫でて許してくれんよ!!
「春香、まさか。
今のは祖母へと言ったのか?」
そこで私も桂さんの方を。
でも、また複雑な顔をしてるのに気付く。
まぁ、仕方ねぇよなぁ!?
私は笑って桂さんにも言う。
「そうだなぁ!!
私をかぁ?
真っ先に唯一だったから忘れねぇ!!
何も言ってねぇのに…
察したんだろうなぁ?
俊介に会う前だが。
必死に祖母だけはクズ共から私を!!
守ろうとしてくれたんだ!!
あんな優しい祖母の言った言葉も…
絶対、忘れねぇな!!」
桂さんは驚いた顔になるのも見たが、私は祖母を。
優しかった祖母だけ思い出して笑う。
「あの歳じゃ絶対。
働けねぇのに僅かでもなぁ?
あんだけ必死に私だけを。
守ろうと助けてくれた!!
そんでなぁ!!
いつも怒らねぇで、優しいんだぞ!!
まぁ…
それも事故でなぁ?
結局、私は家に戻されたが。
そんでも優しい祖母の言葉を。
でも諦めかけてた時には俊介がだった。
あん時すらかぁ?
きっと、あの優しい祖母がだとなぁ!!
マジで私は思ったぞ!?
そっから私も俊介と、ずっと一緒だな。
同い年だし?
俊介の親も含めて保護されたが。
強くって忘れてねぇから武術系ばっか。
頑張った結果だな?
もう一人でも生きれるから問題ねぇぞ!!」
でも桂さんは、すぐ目を閉じたのを私も見てた。
更に言った言葉に…
「それは春香、少し違う。
春香の祖母が今、もし居たら…
笑わない、悲しむ事だろう。」
もう驚くだけだった。
あの優しい祖母が!?
悲しむだと!?
桂さんは、そのまま…
「春香の祖母が願う『本当の意味』ならば…
既に春香自身も、言っている。
一番、伝えたい本当の願いは…
それは『春香が幸福になる事』を。
だからこそ、残したのだろう?
そして『幸福の中で春香が笑う事』をだ。
『一人で生きる事』だけ…
祖母は決して望んでは、居ない。」
もう私は何も言えなくなる。
しかも、あの祖母を思い出すだけで何も考えられない。
そこで桂さんは目を開けた。
また複雑な顔で…
「春香、祖母は今。
笑って安心すらして居ない。
春香を心配してるのだよ?
幸福を願う祖母は『春香が一人な事』を。
悲しむだけだろう?
そして春香は…
それだけ信じた優しい祖母を思うならば。
一人を選ばず…
『幸福』を探すべき、だろう?
その幸福の為、強く頑張るべき事。」
私は僅かにしか言えなかった。
「幸福を?
探す?
そんな事は…」
全てが判らなくなって私は目を閉じた。
でも何も浮かばない。
**************************
私は動揺するだけでもある。
そんな…
私が!?
あの優しい祖母が?
悲しむ事を!?
でも一人では…
幸福?
私の、そんなん考えすら…
目を閉じたまま私は考えながら言う。
「私の?
幸福…
そんなん…
知らねぇ?
判んねぇ?
でも、あの…
お婆ちゃんが悲しむ?
なら…
何も今まで?
それすら違う?」
もう私は判らない事で頭を抱える。
その時、抱き締められる感覚がした。
そして記憶すら蘇る。
「うぁぁ!?
触れんな!?
やだ、もう…
嫌だぁ!!!
痛いの。
誰か…
もう出して!!
やぁ…」
「春香、私だ!!
大丈夫だ!!
落ち着きなさい。」
桂さんの声に気付いて私は目を開けた。
でも顔は見えない。
もう思い出すばかりだった。
その場からも必死に逃げようと動く。
「やっ…
あっ、もう…
助けて!?
痛い、恐い!!
どうして!?
お父さん、どうして?
うぁあぁ!!
やだぁ!!
お母さん、助けて、違う?
何で!?
私だけ違うの?
ごめんなさい!!
止めて!?
兄さんも、何で?
私だけ、どうして!?」
もう目の前すら私には何も見えなくなる。
判らなくても思い出す。
「嫌だ、もう出して!!
許して!?
暗い、恐い、寒い。
何も言ってないの!!
私は、何も!?
うぁあ、やだよ!!
暗いの!!
痛い、出して!!
許して、もう…
ごめんなさい。
あぅ、やぁ…
やだよ、誰か…
でも嘘は…
お願いだから、やめ…
また、やだ!!
ごめ…
泣かないから。
言わないから。
違うよ、私じゃな…」
「春香、落ち着くのだ!!
思い出す必要すらない。
私は傷付けない!!
私は痛くしない!!
私は閉じ込めない!!
私は全てをしない!!」
その大きな声が桂さんな事に私は気付く。
動くのを全て止めた。
でも震えだけは止まらない。
でも更に桂さんが力強く、抱き締めたまま…
「今の春香は…
私が守る!!
私が助ける!!
私が必ず救い出す!!
だから、もう…
思い出すなぁ!!」
桂さんの大きな声に私は、また目を閉じた。
何も言えないまま息だけを。
どうにか整えるが、もう…
「春香…
どれだけ、ずっと…
苦しかったのだ。
こんなにも…
春香は何も悪くない!!
私は春香が痛い事すら一切、しない!!
今の春香は、ここに居る。
そして私が守る、助ける。
だから今を。
春香は思い出す事もない!!
今の春香は自由。
だが、こんな事を。
絶対に私は許せん!!
更に傷付けさせん!!」
桂さんの大きな声を聞いて僅かに私も言う。
「誰か…
もう…」
桂さんの腕が緩まるって顔が見えた。
少しだけ笑うと私に言ってくる。
「春香?
私が助ける。
思い出す事すら、ないのだよ。
もう痛くない。」
そのまま桂さんは大きな手で優しく私の涙すら拭ってくる。
「桂さんは…
何で…
もう判らない。」
桂さんを私は見ながら視界が歪む。
頭すらクラクラして力も入らなくなる。
すぐ桂さんが支える様子には気付いたが。
「春香、安心して良い。
そのまま休んで大丈夫だよ。
落ち着きなさい?
もう痛い事すら、何もないから…」
その声を最後に私は意識が途切れた。
**************************
ふと気付いて私は目だけで見渡す。
見た事もない天井、部屋すら知らない場所だった。
それにボンヤリとして動かなかった。
でも話し声だけ聞こえた。
「坂本君。
現状、私の知った事の全てを言ったのみ。
こんな事は私すら、もう…
完全に怒りが湧くばかりでもある。
だが、春香を休める為…
一旦あの場からは近い寺田屋へ来た次第。
既に藩邸へも文を出して居るが。
そして私は春香に関しては特にだ。
一切、諦めん!!」
「桂さん…
もう、そがな事は聞いちゅうだけで充分。
判ったのもあるがや。
痛々しゅうて耐えられん。
そがな女子を放って置けんぜよ。
同じ事を思うき。
今の桂さんも判るき余計にちや。
ワシも考えるだけで辛いだけやきな。
やけんど、今も判っちゅう筈。
けんど春香さんを。
どうするつもりで居るがよ?
一応、教えてくれんか?
下手に動いたら危ないのは…
春香さんやろう?」
この声は…
んん?
桂さんと坂本さんかぁ?
それに私の事っぽいが。
「簡単な事だよ、坂本君。
同盟の件も、そのままで良い。
私も含めて晋作も判って、ここに居る。
だが、今後。
私は常に春香も一緒でとするのみ。
現状では春香から離れる方が危険だろう?
もし新撰組や幕府に捕まった場合。
完全に最悪な事になるのみ。
そして春香も歴史の内容に詳しくない。
ならば全く問題ない。」
「な、何を言い!?
桂さん!?
それをげにやるつもりなのかや?
春香さんも危険やろう?
幕府側に捕まる方が危険やけんど。
もう、そがな事は判らんぜよ!?」
「その場には必ず私が側に居る。
だからこそ春香に危険など、全くない!!
そんな事より幕府側に、だろう!!
まだ存在すら知られてないが。
もし見つかれば、どうなるか…
坂本君すら判る筈!?」
「そりゃ、そうじゃが…
桂さん、ちっくと落ち着いてくれんか?
ワシもだけんど勝手に決められんぜよ。
春香さんの事もやろう?
やったら春香さんにも聞かんといかんよ。」
「すまない、坂本君。
私らしくない事も…」
そこで私は身体を起こした。
声がした方の襖をすぐ動いて一気に開けた。
私は桂さんと坂本さん。
声は聞こえなかったが武市さんも居た。
もう一人知らない男性も居たが。
その場、全員が驚いた顔をしたのも見た。
「春香、起きて…」
言ってきた桂さんを私は睨んだ。
「おい、桂さん。
何を、どう…
勝手に決めてんだぁ?
ふざけてんじゃねぇぞ!!」
すぐ桂さんも慌てながら…
「違う、春香!?
話はする予定も…
それに、もし幕府側になど…」
「んな事は判ってんだぁ!!」
桂さんの声を遮って私は怒鳴った。
それから溜息を出して冷静にと言う。
「もう歴史が大嫌いな私でもかぁ?
内容まで詳しく言わねぇが。
土佐の坂本龍馬だぁ?
長州の高杉晋作だぁ?
そして桂小五郎…
だったらかぁ?
薩摩なら大久保利通!!
更に西郷隆盛だろうがぁ!!」
全員が驚いた顔のまま私を見た。
僅かに思い出しながら言う。
「やっぱ、こうなるよなぁ…
だから私も最初に、だぞ?
すぐ居なくなる事を。
言ったのにかぁ?
桂さんだけじゃねぇ。
坂本さんまで止めてきた。」
そこで坂本さんも慌てながら…
「春香さん。
ちっくと待ってくれんか?
桂さん達とも、まだ相談しちゅうき。
落ち着いて…」
「黙れぇ!!」
そんな坂本さんの言葉も私は大きく遮る。
視線のみ四人を確認してから淡々と言った。
「先に言った筈。
私は完全な異物だって事を。
この場すら居るべきじゃねぇ…
本来、居たら駄目って意味を。
全く判んねぇのか。」
そこで完全に私は判断した。
だからこそ淡々と四人に言う。
「もう決めた。
この場からも去る。
止めるぐれぇなら殺せ。
もし私が幕府側に捕まっても。
全く問題ねぇ。
私は何も言わねぇから。
この場、全員は私の存在。
忘れれば良いだけ…」
言ってから、すぐ私も動く時。
「待ってくれ、春香!?
まさか…」
桂さんの声も聞こえるだけでもない。
明らかに気配で私も判った。
武市さんも含め同時に四人も動いた事。
冷静に私は判断して僅かに避けながら…
部屋に置きっ放しの短刀を持って抜いた。
すぐ首元に当てて言う。
「誰も動くな。
確かに実力じゃ勝てねぇし?
場合によって常に捕まる可能性もある。
今までも、そうだな?
桂さんにすら当たり前だが。
勝てねぇ…
だったら捕まる前にだ。」
全員の動きは止まったのも見たが。
桂さんだけが私にと叫んだ。
「春香ぁ!?
それだけは駄目だと…
私は言ってるだろう!!
今度は己の命まで!!」
私も桂さんを僅かに思い出しながら…
少し笑って言う。
「悪りぃな、桂さん。
いっつも桂さんは優しいからなぁ…
私みてぇなのまで世話させた!!
もう全部、忘れてくれ。」
そして私は素早く動いた。
「待て、春香!!
私は忘れる筈がない!!」
桂さんの声を無視して私は宿らしい場所から出た。
既に夜だったが、明かりが少ないのもある。
それでも私は気配のみを。
更に人の居ない方向を。
常に選びながら、どうにか誰にも捕まる事なく…
私は初めて本当に一人で江戸時代を。
詳しくなくても考えながら動き出した。
桂さんの背中を。
更に周りを。
全て見ながらも、どうしても…
私には判らなかった。
「なぁ、桂さん?
やっぱ…
似合わねぇどころか、こりゃ…
もうヤベェんじゃ?
別に私は、どうでも良いが。
この様子じゃ…」
振り向いた桂さんは私を見てくるが。
なぜか先に周りを見渡して…
更に少し笑いながら言うのもだった。
「春香が心配する必要もないよ?
確かに、これは…
一応、道も含め選んでるが。
流石に仕方ない事だろう。
私も問題ない。」
「でも…
桂さんもだろ?
しかも、こんなん歩き難いだけだぞ?」
私は下駄っぽいのを見ながら言う。
これなぁ…
もう単純に邪魔だろ!?
素足の方がマシだぞぉ!?
歩き難いどころじゃねぇし?
しかも着物じゃ更にだぁ?
すぐ走れねぇよ!!
「ふっ。
普段とも違うのは判るが…
歩くのも、だろう?
ゆっくりで大丈夫だよ、春香。
それに…
やはり似合ってるから尚更か?
私すら、この様な事は…
考えた事も、なかった。」
また私は桂さんも見るが笑ってるのも判る。
複雑な気分のまま言う。
「そりゃ、私も初めて着たがなぁ?
何じゃ、こりゃ状態だぞ!?
もう歩くのもかぁ?
良く、まぁ…
こんなん着る意味すら判んねぇ。
走れねぇだけでも?
ねぇし…
何か周りすらだろ?
私をかぁ?
判んねぇが、更に桂さんまで明らかに…
気付いてねぇと言わせねぇぞ?」
そう…
皆が真っ先に私を見てからだ。
すぐ目の前に居る桂さんへと視線を。
確かに誰も話かけて来ねぇが。
こりゃ…
桂さんが強いからかぁ?
判んねぇし?
でも桂さんもだろ?
言ってた筈だがなぁ…
そんな桂さんは、また周りも見ながら…
私へ向いて少し笑う。
「確かに春香?
皆が見てくる理由も簡単ではある。
美人と言うより、これ程だと…
もう私すら初めてだが。
一人には余計させられないよ?
それに皆も私が居れば春香に近付かない。」
私も周りを見ながら言う。
「確かになぁ…
理由は判らねぇが。
見てるだけならかぁ?
揉める以前に済むし?
でも…
何だか不思議な感覚以上だぞ。」
そんな周りを。
僅かに見ながら私でも判る事だった。
だから思わず…
「どうして…」
「春香?
何か気になるのか?」
桂さんの声だけは聞いてたが、私は…
僅かに気付いた事のみ。
周りを見ながら言う。
「一応かぁ?
店周りには華やかな女性達も居るし?
多くの人も笑ってんが…
どうして隠れた様な狭い道に?
多分あんなんじゃ、まともに食事すら…
笑ってる奴らも気付いてんだろ?
それなのに…」
私は冷静に日本史の教科書も思い出すが。
書いてないだろう事にだった。
こりゃ…
既に貧富の差とかかぁ?
どんな時代でもかよ。
仕方ねぇのも判っけど、やっぱか。
流石に私の場合。
尚更、口出しすら出来ねぇが。
もう私は、ため息を出した。
「それを!?
また春香は…
だがな、今は僅かに助けてしまえば際限もない。
彼らも含め、皆が判ってるのだよ。」
桂さんの声が普段とも違うのに私は気付いて見ると…
少し複雑な顔もしてた。
「春香が気付いた通り。
今は尚更、幕府へと全く手が出せぬ庶民がだ。
いくら集まっても勝てない上に…
下手したら更に酷くもなる。
笑ってる皆も含めて、だろう。
だから余計、皆は避けるしか出来ないのだよ。」
一応、私も意味は判った。
だから頷くが、ふと思い出して笑う。
「でも、だからこそ桂さん達も!!
だろ?
悪りぃな、私の事まで面倒かけてっし?
気にしてねぇよ!!」
桂さんは、また驚いた顔もしたが。
すぐ笑った。
「ふっ。
あはは…
春香は本当に判り易い。
ならば尚更、私もだよ?
少し店を回ろうか。
だが、これは…
私の方が気分転換かも知れないな。」
そこで私も考える。
んん?
桂さんの方が?
気分転換だぁ?
まぁ、普通に考えてもかぁ?
大変そうだし…
私は納得して笑う。
「そうだなぁ!!
桂さんも大変だろ?
ありゃ、高杉さんにもかぁ?
んぁ!?
また気付いた!?」
少し桂さんが不思議そうな顔になるのを私も見た。
首を傾げた桂さんに…
「まぁ、でもなぁ…
こりゃ、桂さんにじゃ。
意味も?
ねぇかぁ!?」
私は着物に合わせた巾着から財布を出した。
それから、この時代じゃ意味もないが。
金を全部と思いながら不思議そうな桂さんへ。
笑いながら、そのまま渡した。
「これは…
春香!?
まさかだが、貨幣をか!?
見た事もないが…
未来の、だろう!?
なぜ、私に!?
しかも、今の様子ならば全部か!!」
凄く驚いた顔で桂さんは言った。
おぉ!?
流石だなぁ!!
普通は紙だろ!?
もう私は、また笑って言う。
「あははははっ!!
スゲェな!!
マジで良く判るもんだなぁ?
桂さんには意味もねぇし?
更に使えねぇなら要らねぇだろ!!
でもなぁ…
この着物とか高いぐれぇ判んし?
まして宿代にも何ねぇ。
使えねぇ金でも、まぁ…
気持ち程度かぁ?
普通は金ぐれぇ出すだろ。
当たり前だな!!」
それでもだった。
桂さんは驚くだけでもなく慌てながら…
「いや、春香!?
待つんだ、普通だと?
な、何を。
私は女子に金など出させたりも、しない!!
それなのに、なぜ!?
いくら出した!?
使えないとしてもだ!!」
んん?
いくら?
私には不思議でしかない。
だから素直に、そのまま言う。
「んな驚く事かぁ?
男だの、女だの、変わんねぇだろ?
普通なら最低でも割り勘。
半分ぐれぇ当たり前だが。
この時代じゃ…
あれかぁ?
まだ感覚が違うっぽい?
使えねぇ上に金額すら大した事もねぇよ。
たかが三万円程度かぁ?
銀行もねぇからカードも使えん!!」
それを聞いた桂さんは、もう明らかに動揺までした。
また凄く驚いた顔になるのも私は見てたが…
急に目を閉じたまま首を横に振った。
「三万…
だと!?
しかも春香は普通に言ったが…
たかが、だと!?
これは…
金の価格すらか?
違うから、か!?
だが、それでも…
まさか春香は!?」
目を開けた桂さんは、そのまま私に金を返してきた。
不思議に私も見てると複雑な顔で言う。
「春香は武家では、ないと。
言っていたが。
未来でも、おそらく金には…
困らないぐらいの、だろう?
だが、それでも私は受け取れん。」
んん?
どしたぁ?
私は首を傾げながら聞く。
「いや、まぁ…
私の場合、そりゃ…
金だけは困んねぇがな?
働く事すら簡単だが。
特に私は学生だしなぁ…
一人暮らしの生活にも全く問題ねぇぞ?
まして今じゃ、その金も使えねぇのにかぁ?
せめて世話になってる桂さんに…
渡すのは当たり前じゃねぇの?」
でも桂さんは首を横に振る。
しっかりと私を見てきた。
「良いかい、春香。
確かに今は使えない金でもだ。
私は一切、受け取らない。
そして金に関してもだよ?
私ならば春香の分すら全く問題ない事。
更に、だろう?
私には春香が元の時代に戻れる事を。
断言、出来ない事でもある。
それでも春香。
もし戻れた時には、必ず役立つ金を。
今の春香が、した行為はな?
使える金を無闇に捨てる行為になる。
私には一切、使えない金にも関わらず。
それを渡すのは、間違えてる。
ならば尚更、春香が持ってるべき事。
違うか?」
私は驚いた、そのまま桂さんを見ながら考える。
確かに桂さんが持ってても絶対、使えない金。
だから…
金を捨てる行為と!?
だからこそ私が持つべき金…
納得も出来た私は複雑な気分で桂さんに小さく言う。
「桂さんの意見は…
何も間違ってねぇ。
でも、それなら余計に私は…」
私は目を閉じて、そのまま言う。
「なぁ、桂さん。
悪りぃが。
もう、やっぱ私は…
要らねぇだろ?
余計、邪魔なだけにしか何ねぇよ。
金ぐれぇ稼いでも、この時代じゃ尚更だ。」
「春香。
金ならば心配すら全く、ない。
まして、また…
冷静なまま、聞いて欲しい。
これは春香でも簡単に判る事。」
私は目を開けて桂さんを見る。
「春香?
良く聞いて覚えなさい。
春香も言ったな?
金ならば稼ぐ事で簡単に手に入る。
更に着物を含めた物品も金では簡単、だろう?
だが、春香の命。
それは決して金では買えない。
そして失えば二度と手には入らない。
だからこそ命は大切なのだ。
その命に関して…
失ってからでは全てが無意味。
後からする後悔が常に残り続けるのみ。
もし春香の命を。
私が失う事になれば…
もう死ぬまで私は、その苦しみを。
ずっと常に抱え続けて生きるのだ。」
もう私は何も言えなかった。
桂さんが!?
死ぬまで、ずっと!?
まさか…
あの耐えられねぇ苦しさをか!!
そんな事をしたら…
「駄目だろ!?
何でだ?
桂さんが、あんなんを。
苦しむだと!?
おかしいぞ?
この時代に私は居ねぇのに、それは…」
「だが、私の前に今!!
春香は生きて居る。
私は春香と話し、更に数日でもだ。
既に『春香の存在』も知って居る!!
ならば『春香の命』を。
忘れたりなど、一切ない!!」
私の言葉すら遮る様に桂さんは言った。
もう何も言えなくて私は目を閉じた。
首を横に振るだけを。
こんなんじゃ…
私は何を。
どうすりゃ良いってんだ!?
でも私は誰も信じちゃ駄目だぁ!!
そんでも、もし…
あんな苦しさを桂さんが!?
駄目だろ!?
私のせいで既に、もう…
そのままで、どうにか私も言う。
「桂さんは判んねぇ…
何を。
それすら変なのに…
私は信じねぇ…
信じたら駄目だ。
私は…」
急に抱き締められて私は目を開けた。
驚いて動けない。
でも…
「まだ春香?
信じるのが無理でも良いのだよ?
簡単では、ない事。
充分、私は判ってる。
だからこそ徐々に、なのだから…
今の春香は、また…
痛みを、だろう?
私は春香を痛くさせたくも、ない。」
また私は判らない感覚がした。
でも答えが判らない。
あぁ、こりゃ…
多分かぁ?
桂さんは優しいんだろ?
だから私みてぇなのにも…
少し私は笑う。
「桂さんは…
ズリィなぁ?
あはははは…
私みてぇなのまでかぁ?
そんなんじゃ、身が保たねぇぞ!!」
そう言うと桂さんは腕を緩めて私を見てきた。
心配そうな顔が判った。
素直に私は思った。
こんな私みてぇなのを。
優しい桂さんにはかぁ?
んな心配までなぁ…
欲しかねぇが。
だから私は少し笑いながら…
何となく桂さんの頬に手を。
すぐ驚いた顔も見たけど動かない桂さんに触れて言う。
「桂さんはなぁ?
充分、大変な事ぐれぇ…
私にすら判んだよ。
だから尚更かぁ?
んな顔すんなよ…
大丈夫だって言ってんだろ?」
「春香?
その…
手を。
せめて…」
少し慌てる様子になった桂さんに、また私は笑う。
一応、手を離してから…
「あははははっ!!
何じゃ、急にかぁ?
あはははっ!!
心配してん顔よりは…
こりゃ、マシなぁ!!
笑っちまうな、おい!!
めっちゃオモロいだけ?
あははははっ!!」
息を吐き出してから、どうにか普段通りに…
戻ろうとしてる桂さんにも私は気付いた。
だから私は桂さんに、そのまま抱き付いた。
「なっ!?
春香!!
待ってくれ!?
まして、ここで…
そんな事は!?」
慌てる桂さんの声に、もう私は笑って言う。
「んな事、気にすんな!!
桂さんも、桂さんだろ?
あははははっ!!
今更かぁ?
私も、私だぁ!!」
「いや、意味は判ってるが!?
いや、それでもか!?
今は…
違う!?
春香、今は離れ…
確かに?
そのままと私も言ったが!?
だが、これでは…
いや、待ってくれ、春香!?」
余りにも慌ててる様子の桂さんに私は声も気付いた。
だから離れるが、そのまま桂さんは目を閉じた。
深呼吸を始めてから言ってきた。
「これは…
春香?
私からの頼みを聞いてくれないか?」
私は疑問を言う。
「んん?
頼みだぁ?
桂さんがかぁ?」
深呼吸を繰り返す桂さんは目すら閉じたままだった。
「今みたいな事を。
そう安易にか?
春香からは絶対しないと。」
安易にしない事?
まぁ…
それも…
納得して私は笑って言う。
「そうだな!!
桂さんは間違えてねぇか!?
判ったぞ!!
私も安易に、しねぇよ!!」
ようやく桂さんは目を開けた。
複雑な顔で私を見てくるのは気付くが。
その顔だけは判らない私は首を傾げる。
「判ってない様子に見えるのだが。
春香、本当か?」
また一応、私も考える。
「あぁ、大丈夫だぞ!!
私も判ってんよ!!
安易にしなきゃ良いんだろ?
知らねぇ人に、する訳ねぇし?
それに桂さんもだろ?
安易に、しねぇし?
だったら同じ事を。
だなぁ!!」
急に桂さんは驚いた顔になった。
また目を閉じるのを私は見て不思議に思ってると…
「やはり、これは…
春香は判って、ない事にも。
いや、だが…
私が!!
だろう?
ならば問題ない筈、か?」
んん?
今度は、どしたぁ?
首を横に振ると桂さんは目も開けた。
少しだけ笑って言ってきた。
「これも徐々に、だろう。
ならば、このまま店を少し見よう。
春香が疲れない範囲でもある。
もう私も覚悟したから構わない。」
んん?
覚悟だぁ?
まぁ…
店だかを見るのは構わないが。
私も考えてると桂さんは私を引き寄せてから言う。
「春香には教える事が多そうだ。
それでも私も決めたよ?」
少し笑いながら言った桂さんを私も見てたが。
私には判らない、だから目を閉じた。
「だから…
また勝手に決めんじゃねぇ!!」
そのまま大きく私も言った。
**************************
そんな事もあったが私は結局、桂さんに連れられて…
店に入れば更に驚く。
相変わらず、皆が私も見てくるのも変わらないが。
なぜか、やっぱ皆は桂さんを。
見る様子もして確かに誰も近付いて来なかった。
不思議に思いながら私も桂さんを見れば…
「春香、大丈夫だよ。
好きな物があれば言いなさい。」
少し笑いながら言うのも変わらなかった。
また私も考えて極力、話さない様にはしながら…
いや…
金もねぇ私にかよ!?
駄目じゃね?
でも初めて見る物ばかりで、どうしても私は驚く。
そんな中でも雑貨店に入った時。
私は目にして立ち止まる。
あれは…
大きな陶磁器で出来た招き猫か!?
そうだ、私は探して…
でも、いきなり…
この時代には、きっと。
もう、ねぇだろ!?
唯一の宝物は多分、もう…
「春香?
どうかし…
春香!?
な、なぜ、泣いてるのだ?
何が…」
桂さんの声に私も気付く。
泣いてる?
私が?
そのまま私は手で触れて驚くのもある。
でも、すぐ慌てて拭う。
「別に…
何でも、ねぇ…」
すぐ懐から桂さんは手拭いを出して私にとだった。
「どうしたのだ、春香?
今まで、どんな顔をしても…
春香は一度も涙だけは…
それでも泣かず、居たのにか?
何もない筈も、ないだろう!?」
すぐ私も桂さんへ返して拭うと涙を止めた。
もう目を閉じた。
どうにか言うだけだった。
「桂さんにも…
関係ねぇ…
私は一人だ。
そう、それで良い…」
「今は私も春香と居る。
一人ではない。
泣く程に耐えるのは…」
「黙れぇ!!」
私は我慢すら出来ず叫んだ。
それでも思い出す、あの優しい祖母を。
必死に目を閉じたまま耐える。
あんなに大切な…
ずっと…
それすら私は!!
見つけられなかった…
祖母すら大切にしてたのにかぁ!!
また急に桂さんが私を抱き締めてきた。
「春香、今は落ち着きなさい。
そんな痛そうな顔まで…
なぜ…」
それでも私は小さく言う。
「桂さん。
悪りぃ…
もう…
大丈夫だ。」
腕が緩まって桂さんの心配そうな顔を、私も見たが。
でも視線だけ逸らした。
「春香?
落ち着いたのとも、また…
違うだろう?
なぜ…」
首も横に振ってから一応、最後にと招き猫だけを。
見てから私は、桂さんの問に無言を選んだ。
「春香、招き猫を。
だが、なぜだ?
そんな悲しい顔まで…」
もう私は、招き猫を、見ずに端的に言う。
「桂さんにも関係ねぇ。」
そして私は、店を出る。
空を眺め思い出しながら…
あの祖母が言った言葉もだった。
「春香?」
桂さんを見れば心配そうでもある。
だから少しだけ笑って言う。
「不思議だよなぁ?
なぜってかぁ?
それを言うなら…
なぜ私は、ここに?
だろ?
でもなぁ…」
また空を私は見上げた。
「あぁ、そうだなぁ…
なぜ…
かぁ?
小さい頃は、ずっと…
思ってたなぁ…
いつからか考えなくなったが。
そんでも、なぜ、かぁ…
結局ずっと判んねぇまま。」
ふと思い出す、だから私は目を閉じたまま…
優しい祖母の言葉を。
桂さんでもなく、そのまま祖母へ言う。
「お婆ちゃん、ごめんね?
もう多分、見つけられない…
『幸福が来るように招き猫だよ』と。
『どんな時も強くね』と。
『頑張る者には必ず幸福が来る』と。
だから私は強くって毎日、頑張ったけど。
無理っぽい。
やっぱり私は弱いままだけど。
でも私が失っても…
お婆ちゃんだけ、違うのは判るよ?
また撫でて許してくれるってぐらい!!
だって怒った顔も私には浮かばないからね。
それに、もう安心して良いよ?
今の私は一人でも生きていける!!
それぐらいには、なれたよ!!
もう、お婆ちゃんも心配はないよ!!
私は大丈夫!!」
それから目を開けた。
空を見上げながら私は笑う。
そうだよ!!
優しい祖母なら、きっとだろ?
私が失敗してもかぁ?
怒った事すらねぇし?
少し笑いながら頭をなぁ?
撫でて許してくれんよ!!
「春香、まさか。
今のは祖母へと言ったのか?」
そこで私も桂さんの方を。
でも、また複雑な顔をしてるのに気付く。
まぁ、仕方ねぇよなぁ!?
私は笑って桂さんにも言う。
「そうだなぁ!!
私をかぁ?
真っ先に唯一だったから忘れねぇ!!
何も言ってねぇのに…
察したんだろうなぁ?
俊介に会う前だが。
必死に祖母だけはクズ共から私を!!
守ろうとしてくれたんだ!!
あんな優しい祖母の言った言葉も…
絶対、忘れねぇな!!」
桂さんは驚いた顔になるのも見たが、私は祖母を。
優しかった祖母だけ思い出して笑う。
「あの歳じゃ絶対。
働けねぇのに僅かでもなぁ?
あんだけ必死に私だけを。
守ろうと助けてくれた!!
そんでなぁ!!
いつも怒らねぇで、優しいんだぞ!!
まぁ…
それも事故でなぁ?
結局、私は家に戻されたが。
そんでも優しい祖母の言葉を。
でも諦めかけてた時には俊介がだった。
あん時すらかぁ?
きっと、あの優しい祖母がだとなぁ!!
マジで私は思ったぞ!?
そっから私も俊介と、ずっと一緒だな。
同い年だし?
俊介の親も含めて保護されたが。
強くって忘れてねぇから武術系ばっか。
頑張った結果だな?
もう一人でも生きれるから問題ねぇぞ!!」
でも桂さんは、すぐ目を閉じたのを私も見てた。
更に言った言葉に…
「それは春香、少し違う。
春香の祖母が今、もし居たら…
笑わない、悲しむ事だろう。」
もう驚くだけだった。
あの優しい祖母が!?
悲しむだと!?
桂さんは、そのまま…
「春香の祖母が願う『本当の意味』ならば…
既に春香自身も、言っている。
一番、伝えたい本当の願いは…
それは『春香が幸福になる事』を。
だからこそ、残したのだろう?
そして『幸福の中で春香が笑う事』をだ。
『一人で生きる事』だけ…
祖母は決して望んでは、居ない。」
もう私は何も言えなくなる。
しかも、あの祖母を思い出すだけで何も考えられない。
そこで桂さんは目を開けた。
また複雑な顔で…
「春香、祖母は今。
笑って安心すらして居ない。
春香を心配してるのだよ?
幸福を願う祖母は『春香が一人な事』を。
悲しむだけだろう?
そして春香は…
それだけ信じた優しい祖母を思うならば。
一人を選ばず…
『幸福』を探すべき、だろう?
その幸福の為、強く頑張るべき事。」
私は僅かにしか言えなかった。
「幸福を?
探す?
そんな事は…」
全てが判らなくなって私は目を閉じた。
でも何も浮かばない。
**************************
私は動揺するだけでもある。
そんな…
私が!?
あの優しい祖母が?
悲しむ事を!?
でも一人では…
幸福?
私の、そんなん考えすら…
目を閉じたまま私は考えながら言う。
「私の?
幸福…
そんなん…
知らねぇ?
判んねぇ?
でも、あの…
お婆ちゃんが悲しむ?
なら…
何も今まで?
それすら違う?」
もう私は判らない事で頭を抱える。
その時、抱き締められる感覚がした。
そして記憶すら蘇る。
「うぁぁ!?
触れんな!?
やだ、もう…
嫌だぁ!!!
痛いの。
誰か…
もう出して!!
やぁ…」
「春香、私だ!!
大丈夫だ!!
落ち着きなさい。」
桂さんの声に気付いて私は目を開けた。
でも顔は見えない。
もう思い出すばかりだった。
その場からも必死に逃げようと動く。
「やっ…
あっ、もう…
助けて!?
痛い、恐い!!
どうして!?
お父さん、どうして?
うぁあぁ!!
やだぁ!!
お母さん、助けて、違う?
何で!?
私だけ違うの?
ごめんなさい!!
止めて!?
兄さんも、何で?
私だけ、どうして!?」
もう目の前すら私には何も見えなくなる。
判らなくても思い出す。
「嫌だ、もう出して!!
許して!?
暗い、恐い、寒い。
何も言ってないの!!
私は、何も!?
うぁあ、やだよ!!
暗いの!!
痛い、出して!!
許して、もう…
ごめんなさい。
あぅ、やぁ…
やだよ、誰か…
でも嘘は…
お願いだから、やめ…
また、やだ!!
ごめ…
泣かないから。
言わないから。
違うよ、私じゃな…」
「春香、落ち着くのだ!!
思い出す必要すらない。
私は傷付けない!!
私は痛くしない!!
私は閉じ込めない!!
私は全てをしない!!」
その大きな声が桂さんな事に私は気付く。
動くのを全て止めた。
でも震えだけは止まらない。
でも更に桂さんが力強く、抱き締めたまま…
「今の春香は…
私が守る!!
私が助ける!!
私が必ず救い出す!!
だから、もう…
思い出すなぁ!!」
桂さんの大きな声に私は、また目を閉じた。
何も言えないまま息だけを。
どうにか整えるが、もう…
「春香…
どれだけ、ずっと…
苦しかったのだ。
こんなにも…
春香は何も悪くない!!
私は春香が痛い事すら一切、しない!!
今の春香は、ここに居る。
そして私が守る、助ける。
だから今を。
春香は思い出す事もない!!
今の春香は自由。
だが、こんな事を。
絶対に私は許せん!!
更に傷付けさせん!!」
桂さんの大きな声を聞いて僅かに私も言う。
「誰か…
もう…」
桂さんの腕が緩まるって顔が見えた。
少しだけ笑うと私に言ってくる。
「春香?
私が助ける。
思い出す事すら、ないのだよ。
もう痛くない。」
そのまま桂さんは大きな手で優しく私の涙すら拭ってくる。
「桂さんは…
何で…
もう判らない。」
桂さんを私は見ながら視界が歪む。
頭すらクラクラして力も入らなくなる。
すぐ桂さんが支える様子には気付いたが。
「春香、安心して良い。
そのまま休んで大丈夫だよ。
落ち着きなさい?
もう痛い事すら、何もないから…」
その声を最後に私は意識が途切れた。
**************************
ふと気付いて私は目だけで見渡す。
見た事もない天井、部屋すら知らない場所だった。
それにボンヤリとして動かなかった。
でも話し声だけ聞こえた。
「坂本君。
現状、私の知った事の全てを言ったのみ。
こんな事は私すら、もう…
完全に怒りが湧くばかりでもある。
だが、春香を休める為…
一旦あの場からは近い寺田屋へ来た次第。
既に藩邸へも文を出して居るが。
そして私は春香に関しては特にだ。
一切、諦めん!!」
「桂さん…
もう、そがな事は聞いちゅうだけで充分。
判ったのもあるがや。
痛々しゅうて耐えられん。
そがな女子を放って置けんぜよ。
同じ事を思うき。
今の桂さんも判るき余計にちや。
ワシも考えるだけで辛いだけやきな。
やけんど、今も判っちゅう筈。
けんど春香さんを。
どうするつもりで居るがよ?
一応、教えてくれんか?
下手に動いたら危ないのは…
春香さんやろう?」
この声は…
んん?
桂さんと坂本さんかぁ?
それに私の事っぽいが。
「簡単な事だよ、坂本君。
同盟の件も、そのままで良い。
私も含めて晋作も判って、ここに居る。
だが、今後。
私は常に春香も一緒でとするのみ。
現状では春香から離れる方が危険だろう?
もし新撰組や幕府に捕まった場合。
完全に最悪な事になるのみ。
そして春香も歴史の内容に詳しくない。
ならば全く問題ない。」
「な、何を言い!?
桂さん!?
それをげにやるつもりなのかや?
春香さんも危険やろう?
幕府側に捕まる方が危険やけんど。
もう、そがな事は判らんぜよ!?」
「その場には必ず私が側に居る。
だからこそ春香に危険など、全くない!!
そんな事より幕府側に、だろう!!
まだ存在すら知られてないが。
もし見つかれば、どうなるか…
坂本君すら判る筈!?」
「そりゃ、そうじゃが…
桂さん、ちっくと落ち着いてくれんか?
ワシもだけんど勝手に決められんぜよ。
春香さんの事もやろう?
やったら春香さんにも聞かんといかんよ。」
「すまない、坂本君。
私らしくない事も…」
そこで私は身体を起こした。
声がした方の襖をすぐ動いて一気に開けた。
私は桂さんと坂本さん。
声は聞こえなかったが武市さんも居た。
もう一人知らない男性も居たが。
その場、全員が驚いた顔をしたのも見た。
「春香、起きて…」
言ってきた桂さんを私は睨んだ。
「おい、桂さん。
何を、どう…
勝手に決めてんだぁ?
ふざけてんじゃねぇぞ!!」
すぐ桂さんも慌てながら…
「違う、春香!?
話はする予定も…
それに、もし幕府側になど…」
「んな事は判ってんだぁ!!」
桂さんの声を遮って私は怒鳴った。
それから溜息を出して冷静にと言う。
「もう歴史が大嫌いな私でもかぁ?
内容まで詳しく言わねぇが。
土佐の坂本龍馬だぁ?
長州の高杉晋作だぁ?
そして桂小五郎…
だったらかぁ?
薩摩なら大久保利通!!
更に西郷隆盛だろうがぁ!!」
全員が驚いた顔のまま私を見た。
僅かに思い出しながら言う。
「やっぱ、こうなるよなぁ…
だから私も最初に、だぞ?
すぐ居なくなる事を。
言ったのにかぁ?
桂さんだけじゃねぇ。
坂本さんまで止めてきた。」
そこで坂本さんも慌てながら…
「春香さん。
ちっくと待ってくれんか?
桂さん達とも、まだ相談しちゅうき。
落ち着いて…」
「黙れぇ!!」
そんな坂本さんの言葉も私は大きく遮る。
視線のみ四人を確認してから淡々と言った。
「先に言った筈。
私は完全な異物だって事を。
この場すら居るべきじゃねぇ…
本来、居たら駄目って意味を。
全く判んねぇのか。」
そこで完全に私は判断した。
だからこそ淡々と四人に言う。
「もう決めた。
この場からも去る。
止めるぐれぇなら殺せ。
もし私が幕府側に捕まっても。
全く問題ねぇ。
私は何も言わねぇから。
この場、全員は私の存在。
忘れれば良いだけ…」
言ってから、すぐ私も動く時。
「待ってくれ、春香!?
まさか…」
桂さんの声も聞こえるだけでもない。
明らかに気配で私も判った。
武市さんも含め同時に四人も動いた事。
冷静に私は判断して僅かに避けながら…
部屋に置きっ放しの短刀を持って抜いた。
すぐ首元に当てて言う。
「誰も動くな。
確かに実力じゃ勝てねぇし?
場合によって常に捕まる可能性もある。
今までも、そうだな?
桂さんにすら当たり前だが。
勝てねぇ…
だったら捕まる前にだ。」
全員の動きは止まったのも見たが。
桂さんだけが私にと叫んだ。
「春香ぁ!?
それだけは駄目だと…
私は言ってるだろう!!
今度は己の命まで!!」
私も桂さんを僅かに思い出しながら…
少し笑って言う。
「悪りぃな、桂さん。
いっつも桂さんは優しいからなぁ…
私みてぇなのまで世話させた!!
もう全部、忘れてくれ。」
そして私は素早く動いた。
「待て、春香!!
私は忘れる筈がない!!」
桂さんの声を無視して私は宿らしい場所から出た。
既に夜だったが、明かりが少ないのもある。
それでも私は気配のみを。
更に人の居ない方向を。
常に選びながら、どうにか誰にも捕まる事なく…
私は初めて本当に一人で江戸時代を。
詳しくなくても考えながら動き出した。
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