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第二章:それぞれが想う気持ち

魔の森で感傷する気持ち

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目が見えるようになってから…

私は初めて『魔の森』をしっかりと見た。
それはとても深く綺麗な緑でもあった。

こんな綺麗な森の中に、綺麗な建物が一つあるだけなのも。
少し不思議でもあるけれど…
どれも溶け込んでいた。

「へぇ。
何だか、静かなんだねぇ?」

「美雪。
俺が居ない時は出歩くなよ?
知らないだろうが、ここは『魔の森』だ。
だが、『俺が居れば』近付いて来ないだけだからな。」

私は少し気付いて、夜光の方を向いて聞いた。

「近付いて、来ない?」

夜光を見ると、何事もない様子で言った。

「あぁ、魔族はな。
低俗な魔物は論外だが。
この辺りにいるのは中級ぐらいからではあるか。
所詮、魔族は『力関係』が絶対だ。
『仲間意識』すら一切ない。
俺を恐れて、近付いて来ないだけだ。」

「それで、夜光は『一人』なの?
ずっと?」

「まぁ、そうなるな。
こちらが何もしなくても関係ないな。
向こうが逃げるだけだ。」

「夜光が強いのは、判るけど…」

私は夜光の頬に手を伸ばして触れる。

「危ない事は…
私には、夜光が居れば…」

(これは、『心配する顔』か?
俺より強い魔族すらいないのに、また、『初めて』だな…)

夜光は少し笑って言う。

「心配はないぞ。
それに『全部から守る』とも言ったろ?
俺は『弱くない』からな。
だから、『美雪も』守れる。」

(こんな心配するような顔は…
美雪には、させたくないな。)

だからすぐに続けて夜光は言った。

「今日は森の『最深部』に行こうか。
人間も来なくて、もっと『綺麗』だぞ?
やっと目が見えるようになったんた。
なら、見たらきっと気にいる。」

「うん!」

そのまま美雪を簡単に抱えて飛行した。
それだけで、美雪は笑う。

「うわぁ、空、飛んじゃうとか、凄いなぁ!!
私もできたらなぁ!!」

その景色すらも『綺麗』だった。
かなり空も青く、森が綺麗に広がっているのだから。

人間が来ないから『危険』と聞いたけれど。
私は少し思うのだった。

逆に『人間は来ない方が良い』と。

**************************

そして連れて来られた森の『最深部』を見た。
いつも夜光が居た場所らしい。

そこもまた、『初めて』だった。
例えようもないぐらいに『綺麗な場所』だった。

薄暗いようだけれど、隙間からの光が差し込みが光の筋となり。
大きな湧水が溜まり、澄んだ水が泉のように広がっていた。

深い緑に包まれているような中に、高い樹木がたくさんある。
水が流れる音だけが響いていた。

『本当』に初めて見る程、『美しい景色』だった。

「わぁ!!」

私はこんな綺麗なところに来たのが『初めて』だったのもある。
夜光が少し笑うのも見た。

「気に入ったか?」

「うん!!
凄く、綺麗だなぁ!!」

私は景色を眺めながら。
澄んだ水を触りながら。
本当に綺麗だと、嬉しくなる。

でも、そんな時だった。

私は少し、考えてしまう。

ここが『魔の森』…
そして『人が入れない』かぁ。

「なるほどなぁ。」

私は少し、感傷に浸る。
眺めながら、そして澄んだ水を触りながら…

(美雪?
少し、いつもと違うか?)

そんな些細な様子に、夜光は気付いた。

「どうかしたか?
何か、あったか?」

夜光が声をかけてきたけど…
私は、少し『複雑な気持ち』には、なってた。

でも、首を振る。

「ううん。
凄くね、綺麗なんだ…
本当に、こんなにも。
ただ…
私が、『人間の私』が、言って良いのかなぁって。」

(人間の?)

夜光は疑問をそのまま言った。

「私が言っても?」

私は夜光の方を少し見る。
少し不思議そうな目をしていた。

そうだよね。
きっと…

**************************

何も言わない美雪に少し不思議には思った。
だからこそ、夜光は言った。

「別に誰もいないのだから。
言えば良いだろう?」

夜光は、ただ不思議に思う。

(今までと違う?
美雪の顔が…
これは何だ?)

私は夜光の方を見ずに、やはり『景色』を。
『綺麗な景色』を眺めながら言った。

「うん…
『この世界』では、『魔物や魔族』が居るのを。
これはレーシェルさんや、夜光もだけど。
『人間の私が言う』と…
変かも知れないなと。
でも、こんな『綺麗な景色』を見ていると思うんだ。
『魔物や魔族が居た方が良いんじゃないか』って…」

(魔物や魔族が、居た方が良い?)

「それは、つまり?」

私はどうしても、この景色の方に目がいく。

「うん…
私の世界は、平和だけど。
まぁ、私の国では、戦争もないんだけど。
『他の国はしている』し。
たくさんの『問題もある』んだよ…」

夜光は考えながらも美雪を見る。

(世界が平和だと言ってるのにか?
なぜだ?)

「たくさんの、問題があると?」

「そう…
『私の世界』は、様々な『文明が発達した』けれど…
こんな綺麗な『自然』は、あまりないんだ。
『理由』は簡単なの。
人間が多過ぎてるから。
だから『自然』を、また様々な物を使うのに…
『環境を破壊してる』ような事なのに…
それでも、他の代わりも、出来てないからね…
『こういう景色』を、見られるのは…
『保護された場所』ぐらいかなぁ。
それすらも、『僅か』なんだ…」

「人が増え過ぎたとは、どのくらいだ?」

「全世界なら『約70億ぐらい』だったかな。
『私の国』ですら、小さいのに、『1億』は超えている。」

その数に夜光は驚きを隠せない。

(何!?
そんなに、人間が!?)

この世界でも大きな帝国でさえ数千万人。
だからこそ、夜光も、それは信じられない数だった。

夜光はどうにか、動揺しながらも言った。

「なぜ…
普通は、そんな、増えないだろう?」

「だから、『文明の為に』と。
『自然』を様々な物を使うんだよ。
生活は、確かに『皆が豊かにもなる』けれど。
昔よりもずっと。
更に良くも、技術は発達し続けてるんだけど…」

私はどうしても、この『綺麗な景色』を見てしまう。
そして、さっき飛んだ時に見た景色もだった。

「特に私の国は小さいし、今は『戦争もない』よ。
でも、『他の国では良くある』みたいだし。
歴史でも勉強で習うんだけど。
実際には見たことはないからね。
皆があまり、『気にしてない』んだ…」

私は夜光を見ずに…
ただ『綺麗な自然』を眺めたままだった。

「さっきみたいに『魔力』で飛べなくても…
機械は、たくさんある。
それで一気に数百人、誰でも飛んで。
毎日のように、他の国には行けるけれど…
その機械を動かす燃料。
その材料は、常に削り続けているのも。
事実なんだよ。
『問題にもなる』けれど…
でも、殆どの皆が、『危機感なんてない』んだ…
便利な世界を、誰もが手放せない。
だから結局、『何も解決しない』んだ…」

夜光は、美雪の言葉を。
聞きながらも、見ても居た。

(美雪は、泣いてないが…
だが、その瞳が揺れている…)

夜光は若干それには判る。
だから言葉を探した。

「人間が、それだけ増えるのは…
つまり、『外敵が居ない』からと?」

私は少し笑う。

「違うよ?
『人間はとても弱い』から。
だから、武器を、防具を、様々な物が作られた。
それすらずっと、『続けただけ』だと思う。
だから『強い動物』にも、勝てるだけ。
『一人で何もない』なら、すぐに『負ける』のに。
でも、だからこそ知恵を、知識を使うんだ。
それを発達させて、作り続けて、それを使えば…
もう『簡単に勝てるだけ』の事。
きっと、信じられないかもしれないけれど…
大きな爆弾でも使えば、それこそ。
一瞬で、何千人。
いや、何万人。
場合によっては、国すらも『一つの爆発』で消せる…
けれど、その材料は、『世界の燃料だから』ね。
良い事とは、思えないし、違うと思うけれど…
人間は弱いのに、結局は、それすらも。
ただ『勝ち続けた世界』なだけなんだ…」

私は夜光の方をようやく向いて言う。

「だからね。
『この世界が成り立つ』のは、人間だけじゃない。
『魔族が居るから』じゃないかな?」

夜光は動揺する。

(人間から、魔族を肯定するとは。
世界が違うから、その視点か?
確かに人間だけしか居ないと、そうなるのか?)

それでも私はまた、やっぱり景色の方を向いて見る。

「私は実際に見た。
『この景色』も、『さっきの空』も、『初めて』見た…
私の世界には、私の国には、『ない』から。
あんな綺麗な空が多いのも…
結局、『あの青い空すらも汚した』のも、人間だから。
けれどそれでも…
皆がそこまで、気にしていないんだ…」

だが、夜光は気付く。

「それは、でも…
美雪のせいではないだろ?
そんな顔をするな…」

夜光は、やっぱり優しいなぁ。

「ありがとう!
私は森に来て。
夜光に会えたのは。
私はとても『幸運』なのかもしれないね!!」

そのまま、私は夜光にと抱き付いた。

(俺に会えた事を、『幸運』と笑うのか。
だが、美雪に会えた事。
それが俺にも『幸運』だと思えてしまうな…)

「俺もだ。
美雪に会えたのは、同じ気分だな。」

私はその言葉が嬉しかった。
後は泉の周りの花や自然を楽しんだ。

**************************

美雪が笑いながら…
本当に嬉しそうに泉の水や花に触れる姿を。
夜光は見ていた。

それはどんな些細なものにも感動するように…
嬉しそうにする美雪の姿でもあった。

(あの顔は、『悲しい』のだろうか?
けれど、また『違う感じ』もする…
美雪の世界は、複雑なのかもしれないな。
さっきの、あの話。
美雪は『勝ち続けただけ』だと言った。
そして『人間の多さ』には、確かに驚いたな…
こちらの世界で、その人数など、比較にならん。
確かに『美雪の国』は。
戦争をしてなかったと言ったが。
けれど、『他の国ではしている』と。
そしてきっと、『魔法がない』からだろう。
その代わりに使ったもの、『作った』と言った言葉。
それの作る結果、『自然が削られた』か…
そして気になるのが、もう一つ。
ただのこの空だ。
『空を綺麗』だと言った事だ。
『あの青い空すらも汚した』と…
美雪…
あんな顔で、言うのか?
これはあくまで予測だが…
不便がなければ、確かに人間は誰も手放さないだろう。
だから、それを『判っていて』も。
美雪が『言った言葉に繋がる』だろうな。
『皆がそこまで、気にしていない』か…
でもそれだけの人間が居れば…
『美雪』がどう思っても…
いや、これは『一人に限らない』か。
それだけの人間の数、その中でだ。
多少居ても『変えられない』のだろう。
それをきっと、美雪自身が、判って居ても。
変えられない『理由』か…)

美雪の言葉で、確かに魔族の存在を。
人間から肯定された事にも夜光も驚くのはあった。

けれど夜光が想像しても。
それは今度は『この世界側』が判らない事でもある。
だが、思う事は一つだけはあった。

(あんな顔は、して欲しくは、ないな…
泣く訳でもなく、悲しい事もあるのだろうが…
少し、寂しいような顔だろうか…
だが、それなら『この世界』に居るし。
俺が守れば、『あんな顔はさせずに済む』だろう。)

「美雪、そろそろ家に戻ろうか。
いつでも、ここには来れるのだから。」

そう言うと、美雪はまた笑いながら言う。

「うん!
また来よう!
夜光も一緒に居れば、私は凄く嬉しいな!」

「勿論だ。
俺も美雪の側に居る。
だから、いつでも来れる。
好きな時にまた来よう。」

「うん!!」

そう言ってから美雪の側に行き、抱き上げる。

(もう、あんな顔もさせない。
その為にも、俺は『美雪を全て』から。
『守って居たい』のだから。)

「美雪は、優しいな。」

そう言ってから、また飛行する。

「わぁ!綺麗だなぁ!
そして高いなぁ!
私も飛べたらなぁ!!」

そう言って笑う美雪を、俺は思うだけだった。

(美雪の方が、俺からしたら。
綺麗に思うがな…)

そして外から家に戻り、普段と同じように話すのだった。
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