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第三章 第七節 神の死
16 旅支度
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「トーヤ!」
ダルはシャンタルがもう大丈夫だと判断し、トーヤの方へと取って返す。
「あ! ルギ、シャンタルを先に洞窟へ! 濡れた服を着替えさせないと、今度は肺炎になるかも知れない」
「分かった」
言われてルギがダルの指示通り、シャンタルの体を抱えて洞窟へと急いだ。
「トーヤ、トーヤ、大丈夫か!」
「あ、ああ、俺は、そんなに水を飲んで、ねえからな……ただ、息を吐き切っちまって、それで、苦しいだけだ……」
「トーヤも早く体を拭かなきゃ!」
そう言って、まだ肩で息をするトーヤの体を支え、洞窟へと連れていく。
洞窟内では、意識を取り戻したシャンタルが激しく泣きじゃくりながら、服を脱がせようとしているルギを拒否していた。
「いやー!」
そう泣かれてルギが困り果てている。
その様子を見て、ふらふらになっているくせに、トーヤが小気味好さそうに笑った。
「よう、隊長、難儀してるじゃねえか」
そう言って笑いながらシャンタルに近づくが、トーヤを見てもいやいやをする。
「シャンタル、ちょっと失礼しますね」
ダルがそう言って肩に手をかけると、うわあんと泣きながらダルに抱きついた。
「なんだ、そっちも嫌がられてるじゃないか」
ルギがまた皮肉そうに顔を歪めて笑い、トーヤがムッとした顔をした。
「シャンタル、このままでは風邪をひきます。着替えましょう」
ダルにそう言われ、やっとうんと頷いた。
水に濡れるのは分かっていたので、タオルもたくさん持ってきている。
荷物の中からシャンタルの着替え(男の子用)とタオルを引き出し、服を脱がせる。
下着まで全部脱がせてしっかりと体を拭いてやっていると、横からひょいっとトーヤがのぞきこみ、
「…………本当だったな」
そうつぶやき、
「…………うむ」
ルギもそう答えた。
「も、もう、2人ともあっちにいってあげててよ!!」
シャンタル本人は知らぬ顔をしているのに、ダルの方がなんだか気恥ずかしくなってしまい、2人からシャンタルを隠す。
ミーヤが見たと言っていたが、自分の目で確かめるまで、本当にシャンタルが男の子だとは確信が持てなかった。それほど美少女にしか見えない。
「ほら、トーヤもさっさと体吹けよ。ルギもシャンタルを抱えて濡れてるから、ほら」
2人にバサッとタオルを投げると、手際よくシャンタルを着替えさせ、見た目は男の子の服装になった。
「うーむ、こうしてもまだ目立つな」
「しょうがないよ、髪が乾いてからカツラを被っていただいたら、少しは違う風に見えるんじゃないかな」
ダルは自分も体を拭きながら答える。
「トーヤも着替えたら? 拭いただけじゃ風邪ひくぞ」
「ダルもな」
持ってきた荷物の中から自分たちの服を出し、水気を拭った後で着替えてこざっぱりとする。
「ああ、よかった……」
そこまでして、やっとダルがホッとしたようにそう言った。
「本当にな」
「うむ」
トーヤとルギもやっと人心地ついたように答える。
「それより、棺桶の始末だ」
「そうだな、で、どうする?」
「沈めるしかないだろうな」
そう言って、ダルにシャンタルを見ていてもらい、トーヤとルギの2人で棺を沈めにいく。
「これを見ろ」
ルギに言われて革ベルトの切り口を見る。
「これは……」
何かに引きちぎられた革ベルト、人の力でできることではない。
「何があった」
「ああ、戻ってダルも一緒にな。シャンタルからも話を聞く必要があるし」
「分かった」
ちぎれてしまった革ベルトははずし、重し代わりに棺の中に入れる。
持ち手に引っ掛けていた鈎やロープも中に入れ、トーヤが自分につないでいたロープでしっかりと本体と蓋を縛りつける。
「これで、水の底の方が満足してくれりゃいいんだがな……」
「なんだと?」
「後でな」
そう言って、2人で棺を中央に向かって押し出す。
キリエがそうした時と同じように、静かに中央あたりまで進むと、足元から段々と沈み、やがて姿が見えなくなった。
「しかし、沈めるのはもったいないぐらいの逸品だったなあ」
「何を言っている」
「いや、あの象嵌とかよ、本当、もったいね~な~売ったらなんぼほどになったかな~」
ルギが軽蔑するような目をトーヤに向けると、
「行くぞ」
そう言って、とっとと先に洞窟に戻ってしまう。
「へっ、相変わらず融通が利かないやつだぜ」
トーヤもすっかりいつもの様子で、一つ肩を竦めながら洞窟へと戻った。
ダルがまだタオルでシャンタルの髪を拭きながら、
「大丈夫ですか? 苦しくないですか?」
そう聞き、
「うん、大丈夫、ありがとう」
シャンタルもしっかりとそう答えているのを見て安心する。
「さて、何があったのか教えてもらおうか。俺は宮に報告せねばならん」
「分かってるよ」
めんどくさそうにトーヤが答える。
「ロープを鈎に引っ掛けて合図したとこまでは分かるだろ? そこまでは順調だったんだよ。そしたらな、いきなりなんかブツリと鈍い音がして、シャンタルがするすると下に落ちていったんだ」
「それがあれか」
「ああ、多分な」
あの引きちぎられた革ベルトの話だ。
「なんであんなことに……誰がちぎったんだよ」
ダルも気味悪そうに言う。
「多分、だが」
トーヤが一つ呼吸を整えてから言う。
「水底の御方だろうな」
ダルはシャンタルがもう大丈夫だと判断し、トーヤの方へと取って返す。
「あ! ルギ、シャンタルを先に洞窟へ! 濡れた服を着替えさせないと、今度は肺炎になるかも知れない」
「分かった」
言われてルギがダルの指示通り、シャンタルの体を抱えて洞窟へと急いだ。
「トーヤ、トーヤ、大丈夫か!」
「あ、ああ、俺は、そんなに水を飲んで、ねえからな……ただ、息を吐き切っちまって、それで、苦しいだけだ……」
「トーヤも早く体を拭かなきゃ!」
そう言って、まだ肩で息をするトーヤの体を支え、洞窟へと連れていく。
洞窟内では、意識を取り戻したシャンタルが激しく泣きじゃくりながら、服を脱がせようとしているルギを拒否していた。
「いやー!」
そう泣かれてルギが困り果てている。
その様子を見て、ふらふらになっているくせに、トーヤが小気味好さそうに笑った。
「よう、隊長、難儀してるじゃねえか」
そう言って笑いながらシャンタルに近づくが、トーヤを見てもいやいやをする。
「シャンタル、ちょっと失礼しますね」
ダルがそう言って肩に手をかけると、うわあんと泣きながらダルに抱きついた。
「なんだ、そっちも嫌がられてるじゃないか」
ルギがまた皮肉そうに顔を歪めて笑い、トーヤがムッとした顔をした。
「シャンタル、このままでは風邪をひきます。着替えましょう」
ダルにそう言われ、やっとうんと頷いた。
水に濡れるのは分かっていたので、タオルもたくさん持ってきている。
荷物の中からシャンタルの着替え(男の子用)とタオルを引き出し、服を脱がせる。
下着まで全部脱がせてしっかりと体を拭いてやっていると、横からひょいっとトーヤがのぞきこみ、
「…………本当だったな」
そうつぶやき、
「…………うむ」
ルギもそう答えた。
「も、もう、2人ともあっちにいってあげててよ!!」
シャンタル本人は知らぬ顔をしているのに、ダルの方がなんだか気恥ずかしくなってしまい、2人からシャンタルを隠す。
ミーヤが見たと言っていたが、自分の目で確かめるまで、本当にシャンタルが男の子だとは確信が持てなかった。それほど美少女にしか見えない。
「ほら、トーヤもさっさと体吹けよ。ルギもシャンタルを抱えて濡れてるから、ほら」
2人にバサッとタオルを投げると、手際よくシャンタルを着替えさせ、見た目は男の子の服装になった。
「うーむ、こうしてもまだ目立つな」
「しょうがないよ、髪が乾いてからカツラを被っていただいたら、少しは違う風に見えるんじゃないかな」
ダルは自分も体を拭きながら答える。
「トーヤも着替えたら? 拭いただけじゃ風邪ひくぞ」
「ダルもな」
持ってきた荷物の中から自分たちの服を出し、水気を拭った後で着替えてこざっぱりとする。
「ああ、よかった……」
そこまでして、やっとダルがホッとしたようにそう言った。
「本当にな」
「うむ」
トーヤとルギもやっと人心地ついたように答える。
「それより、棺桶の始末だ」
「そうだな、で、どうする?」
「沈めるしかないだろうな」
そう言って、ダルにシャンタルを見ていてもらい、トーヤとルギの2人で棺を沈めにいく。
「これを見ろ」
ルギに言われて革ベルトの切り口を見る。
「これは……」
何かに引きちぎられた革ベルト、人の力でできることではない。
「何があった」
「ああ、戻ってダルも一緒にな。シャンタルからも話を聞く必要があるし」
「分かった」
ちぎれてしまった革ベルトははずし、重し代わりに棺の中に入れる。
持ち手に引っ掛けていた鈎やロープも中に入れ、トーヤが自分につないでいたロープでしっかりと本体と蓋を縛りつける。
「これで、水の底の方が満足してくれりゃいいんだがな……」
「なんだと?」
「後でな」
そう言って、2人で棺を中央に向かって押し出す。
キリエがそうした時と同じように、静かに中央あたりまで進むと、足元から段々と沈み、やがて姿が見えなくなった。
「しかし、沈めるのはもったいないぐらいの逸品だったなあ」
「何を言っている」
「いや、あの象嵌とかよ、本当、もったいね~な~売ったらなんぼほどになったかな~」
ルギが軽蔑するような目をトーヤに向けると、
「行くぞ」
そう言って、とっとと先に洞窟に戻ってしまう。
「へっ、相変わらず融通が利かないやつだぜ」
トーヤもすっかりいつもの様子で、一つ肩を竦めながら洞窟へと戻った。
ダルがまだタオルでシャンタルの髪を拭きながら、
「大丈夫ですか? 苦しくないですか?」
そう聞き、
「うん、大丈夫、ありがとう」
シャンタルもしっかりとそう答えているのを見て安心する。
「さて、何があったのか教えてもらおうか。俺は宮に報告せねばならん」
「分かってるよ」
めんどくさそうにトーヤが答える。
「ロープを鈎に引っ掛けて合図したとこまでは分かるだろ? そこまでは順調だったんだよ。そしたらな、いきなりなんかブツリと鈍い音がして、シャンタルがするすると下に落ちていったんだ」
「それがあれか」
「ああ、多分な」
あの引きちぎられた革ベルトの話だ。
「なんであんなことに……誰がちぎったんだよ」
ダルも気味悪そうに言う。
「多分、だが」
トーヤが一つ呼吸を整えてから言う。
「水底の御方だろうな」
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