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第三章 第六節 旅立ちの準備
15 友情の証
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「そうか、よかったな」
「リル……」
ミーヤがまた違う意味で涙を浮かべる。
「リルさん、本当に喜んでくれてな、俺もうれしかった」
「本当にうれしいです。なんでしょうね、私はダルさんを嫌いになったわけではないのに、今でも心のどこかでそれが私ならよかったのに、そう思っているというのに本心から幸せです、涙が出そう」
そう言いながらホロリと涙が流れたので、ダルはアミには渡し損ねたハンカチを渡した。
「ありがとうございます」
そう言って受け取って涙を拭きながら、
「そう言えばあの時のハンカチも返さず終いのままになってますね」
「あ、そうだったっけ?いや、別に返さなくていいよ。そんなきれいなハンカチでなくて悪いけど」
「じゃあ、友情の証にいただきますね。これは……うん、このまま返します」
そう言って笑いながら今使ったハンカチを返してくる。
「さっき思わずダルさんって呼んでしまったけど、それでいいですよね。だってお友達ですもの」
「うん、様付けよりずっといい、俺もその方がいい」
「じゃあダルさん、ご結婚なさってもこれからもお友達でいてください、それぐらいはいいでしょう?」
「もちろんだよ!」
そう言って2人は手を握り合った。
「なるほど、それでダル様からダルさんになったってわけか」
「そうなんだよ」
ダルが晴れ晴れとした顔で言う。
「やっぱりリルもいい子だよな、惜しいよな」
言ってしまってから咄嗟にミーヤを見るが普通に笑顔なのでホッとする。
「まあ、だからな、そういうことだから、キノスから向こうまでは一緒に船で行こう」
トーヤはゆっくりと頭を下げた。
自分がシャンタルのことでふてくされたように過ごしていた間、この友人は、親友はそれだけのことをしていてくれたのだ。シャンタルが助かる、自分が助けると信じて。
ダルにはどれだけ感謝してもしきれない、そう言う代わりに、
「しかしじゃあ結婚式には出れねえなあ、それが残念だ」
そう言ってごまかす。
「まあ、それはしゃあねえや、本当は出てほしかったけどな」
さすがにダルの結婚式に出てからこの国を出るというのは難しい。その間シャンタルはじゃあどうするんだ、という話になる。一刻も早くこの国から出た方がいい。
「でももうカースには行く時間ねえよなあ」
今ではもう自分の故郷のようになったカースに思いを馳せ、トーヤがこれだけはさびしそうにつぶやく。
「そうだな、シャンタルを引き上げた後で寄るってわけにもいかねえしな。まあトーヤは月虹兵のお役目でちょっと遠出してるからって言っとく。じいちゃんたちはさびしがるだろうが」
「じいさんたちに俺が戻るまで絶対元気でいろって言っといてくれ」
「大丈夫だ、じいちゃんもばあちゃんもまだまだ元気だからな」
「まったくだな」
「そういやダルの兄貴さんたちは?弟に先越されるようなことになっても構わねえのか?」
「いや、それがな」
ダルが苦笑しながら言う。
海から戻ってきた男たちは話を聞いて驚いたものの、みんな祝福してくれた。
「ってことだからね、できるだけ早くもう一緒にしちまおうと思うんだけど、ダルはなんか宮のお役目があるらしくて、それが落ち着いてからってことにしたんだよ」
「いやあ、そうか、息子が結婚か……」
ダルの父のサディが感慨深そうに何度もそう言って頷いていた。
「ところでだね、あんたら」
ナスタがギロっとダルの兄2人を向き直る。
「あんたらはどうなんだい?そういういい話の一つや二つないのかね。全然聞いたことがないから親としてはそっちはそっちで心配なんだけどね?」
そう詰め寄られて兄2人は、
「いやあ、そんなんに順番なんてのはないだろう」
「そうだよ、相手が見つかった順でいいだろ」
そう言うのに、
「だから、その相手に心当たりがないのかいって聞いてるんだよ。え?」
そう言われて、
「いや、そりゃまあいい子がいりゃいいけど、俺はなんてのか……」
「……なあ」
兄2人がニヤッと顔を見合わせる。
「まあ、もうちっと遊びたいってか、なんてか」
そこまで言ってナスタに思いっきり頭を張り倒された。
「まあ、そんなわけでな、兄ちゃんたち、かあちゃんにぶっとばされながら祝ってくれたよ」
「なんだよそりゃ」
トーヤが腹を抱えて笑い、ミーヤがちょっと困ったような顔をした。
「それにしても、こんなギリギリじゃなくもうちょい早く教えてくれてもよかったようなもんじゃねえか?このところ暇してたんだし。そしたら結婚祝いの一つでも買えただろうによ」
「ええ、本当に」
「う、うん……それな……」
ダルがもじもじしながら白状する。
「リルさんには勢いですぐに言えたんだけど、変に間が空いちまったし、その、言いづらくなったってか、どうにも、その恥ずかしくてな……」
いかにもダルらしい理由だ。
「そんでさっきアロさんからの使いが来て、それを伝えに行こうってなって、それで、まだ言ってないって言ったらリルさんにこっぴどく怒られた」
「さすがダルだ……」
トーヤがしょうがねえな、という顔になる。
「まあな、そこがダルのいいところだ。アミちゃんも分かってるらしいし、こうして言ってくれたんだからまあいいよ」
そう言ってあはははは、と笑う。
「リル……」
ミーヤがまた違う意味で涙を浮かべる。
「リルさん、本当に喜んでくれてな、俺もうれしかった」
「本当にうれしいです。なんでしょうね、私はダルさんを嫌いになったわけではないのに、今でも心のどこかでそれが私ならよかったのに、そう思っているというのに本心から幸せです、涙が出そう」
そう言いながらホロリと涙が流れたので、ダルはアミには渡し損ねたハンカチを渡した。
「ありがとうございます」
そう言って受け取って涙を拭きながら、
「そう言えばあの時のハンカチも返さず終いのままになってますね」
「あ、そうだったっけ?いや、別に返さなくていいよ。そんなきれいなハンカチでなくて悪いけど」
「じゃあ、友情の証にいただきますね。これは……うん、このまま返します」
そう言って笑いながら今使ったハンカチを返してくる。
「さっき思わずダルさんって呼んでしまったけど、それでいいですよね。だってお友達ですもの」
「うん、様付けよりずっといい、俺もその方がいい」
「じゃあダルさん、ご結婚なさってもこれからもお友達でいてください、それぐらいはいいでしょう?」
「もちろんだよ!」
そう言って2人は手を握り合った。
「なるほど、それでダル様からダルさんになったってわけか」
「そうなんだよ」
ダルが晴れ晴れとした顔で言う。
「やっぱりリルもいい子だよな、惜しいよな」
言ってしまってから咄嗟にミーヤを見るが普通に笑顔なのでホッとする。
「まあ、だからな、そういうことだから、キノスから向こうまでは一緒に船で行こう」
トーヤはゆっくりと頭を下げた。
自分がシャンタルのことでふてくされたように過ごしていた間、この友人は、親友はそれだけのことをしていてくれたのだ。シャンタルが助かる、自分が助けると信じて。
ダルにはどれだけ感謝してもしきれない、そう言う代わりに、
「しかしじゃあ結婚式には出れねえなあ、それが残念だ」
そう言ってごまかす。
「まあ、それはしゃあねえや、本当は出てほしかったけどな」
さすがにダルの結婚式に出てからこの国を出るというのは難しい。その間シャンタルはじゃあどうするんだ、という話になる。一刻も早くこの国から出た方がいい。
「でももうカースには行く時間ねえよなあ」
今ではもう自分の故郷のようになったカースに思いを馳せ、トーヤがこれだけはさびしそうにつぶやく。
「そうだな、シャンタルを引き上げた後で寄るってわけにもいかねえしな。まあトーヤは月虹兵のお役目でちょっと遠出してるからって言っとく。じいちゃんたちはさびしがるだろうが」
「じいさんたちに俺が戻るまで絶対元気でいろって言っといてくれ」
「大丈夫だ、じいちゃんもばあちゃんもまだまだ元気だからな」
「まったくだな」
「そういやダルの兄貴さんたちは?弟に先越されるようなことになっても構わねえのか?」
「いや、それがな」
ダルが苦笑しながら言う。
海から戻ってきた男たちは話を聞いて驚いたものの、みんな祝福してくれた。
「ってことだからね、できるだけ早くもう一緒にしちまおうと思うんだけど、ダルはなんか宮のお役目があるらしくて、それが落ち着いてからってことにしたんだよ」
「いやあ、そうか、息子が結婚か……」
ダルの父のサディが感慨深そうに何度もそう言って頷いていた。
「ところでだね、あんたら」
ナスタがギロっとダルの兄2人を向き直る。
「あんたらはどうなんだい?そういういい話の一つや二つないのかね。全然聞いたことがないから親としてはそっちはそっちで心配なんだけどね?」
そう詰め寄られて兄2人は、
「いやあ、そんなんに順番なんてのはないだろう」
「そうだよ、相手が見つかった順でいいだろ」
そう言うのに、
「だから、その相手に心当たりがないのかいって聞いてるんだよ。え?」
そう言われて、
「いや、そりゃまあいい子がいりゃいいけど、俺はなんてのか……」
「……なあ」
兄2人がニヤッと顔を見合わせる。
「まあ、もうちっと遊びたいってか、なんてか」
そこまで言ってナスタに思いっきり頭を張り倒された。
「まあ、そんなわけでな、兄ちゃんたち、かあちゃんにぶっとばされながら祝ってくれたよ」
「なんだよそりゃ」
トーヤが腹を抱えて笑い、ミーヤがちょっと困ったような顔をした。
「それにしても、こんなギリギリじゃなくもうちょい早く教えてくれてもよかったようなもんじゃねえか?このところ暇してたんだし。そしたら結婚祝いの一つでも買えただろうによ」
「ええ、本当に」
「う、うん……それな……」
ダルがもじもじしながら白状する。
「リルさんには勢いですぐに言えたんだけど、変に間が空いちまったし、その、言いづらくなったってか、どうにも、その恥ずかしくてな……」
いかにもダルらしい理由だ。
「そんでさっきアロさんからの使いが来て、それを伝えに行こうってなって、それで、まだ言ってないって言ったらリルさんにこっぴどく怒られた」
「さすがダルだ……」
トーヤがしょうがねえな、という顔になる。
「まあな、そこがダルのいいところだ。アミちゃんも分かってるらしいし、こうして言ってくれたんだからまあいいよ」
そう言ってあはははは、と笑う。
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