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第三章 第五節 神として

 4 怒られる理由

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 シャンタルの私室にトーヤを呼んだのは14日目の午後をかなり過ぎた頃であった。

 シャンタルが昨日の昼からろくに食べておらず空腹であったので、食事係に早めに食事を持って来てもらうように頼もうとミーヤが寝室から出てくると、すでに食事係が食卓の上に数人分の食事を並べているところであった。

「あの、これは……」
「キリエ様が3人分の食事を並べるように、とのことです」
「キリエ様が……」

 食事係が下がるとシャンタルとトーヤを食卓へと呼ぶ。

「おお、こりゃすげえな、見たことないご馳走だ。おまえ、いっつもこんなの食ってるのかよ」

 トーヤが口笛を吹きながら言う。

「お行儀が悪いですよ」
「また怒られた」

 そういう2人をシャンタルが不思議そうに見て言う。

「トーヤは怒られたのにどうしてうれしそうなの?」
「え?」
「シャンタルはトーヤに怒られて怖かった。トーヤはミーヤに怒られて怖くないの?」
「いや、そりゃこええよ~この人怒るとめちゃくちゃこええんだよ~」
「まあ!」

 シャンタルは不思議であった。そう言いながらトーヤは全く怖そうな様子がない。

「怖そうに見えない……」
「そうか?怖がってるんだがな」

 そう言って笑う。やっぱり怖そうではない。

「変なの……」

 ぼそっとそう言うのにトーヤが笑い、ミーヤも一緒になって笑う。

「まあまあ、そんなこといいじゃねえか、ほれ食おうぜ。一緒に飯食ってもっと仲良くなるんだろ」
「一緒にご飯を食べると仲良くなるの?」

 またシャンタルが聞く、

「そりゃ楽しく食えりゃな」
「食うって食べるってことでいいんでしょ?」
「ほらまた、悪い言葉を使わないでくださいな。シャンタルもお覚えにならなくていいんですよ」
「ほらな、また怒られた。こうしていっつも怒られてるんだ」

 そう言いながらやっぱりうれしそうだ。

「トーヤはミーヤに怒られるのが好きなの?」
「へ?」
「だって怒られたらうれしそうだし」
「えっとな……」

 返事に困る。

「好きなの?」
「いや、な……」

 ちょっと考えて、

「うん、怒られるのは好きだな」

 そう答える。
 ミーヤが驚いてトーヤの顔を見る。

「この人な、すぐ怒るんだよ」
「まあ!」
「な、また怒った」

 そう言って笑う。

「だけどな、なんで怒るかってとな、誰かを思ってるからなんだよな」
「誰かを思う?」
「そうだ」
「思ったら怒るの?」
「怒るにも色々あるんだよ。単に自分が腹立って怒るってのもあるが、ミーヤのは大抵その人を心配して怒るから、だから怒られるのは嫌いじゃない」

 そう言われてミーヤが困ったような顔をする。なんだか少し赤くなってる気がするとシャンタルは思った。

「心配したら怒るの?」
「そりゃそうだろ」
「どうして?」
「どうしてってなあ」

 またトーヤが考える。

「例えば俺が崖から飛び降りた時な、フェイが泣いたんだよ」
「うん」
「あの時はフェイにも怒られた」
「フェイにも?」
「うん。びっくりしたってな」
「びっくりして怒るの?」
「そうだな、俺が崖から落ちてケガしたか死んだかしたらどうしようって心配してな、それで心配させたことに怒ったんだよ」
「心配して怒る?」
「次々聞くよなあ、おまえ」

 そう言って笑う。

「フェイが俺を大事だと思ってくれてたからだ。思ってくれてたから心配かけたって怒ってくれたんだよ。だからこういう怒られるはうれしい好きな怒られるだ」
「うれしい好きな怒られる……」
 
 シャンタルにはまだよく分からないようだ。 

「おまえだって誰かに怒られたことあんだろうがよ」
「ううん、なかった、トーヤだけ」
「ないのかよ!いくら神様だからって回りは甘いやつばっかだったんだな」
「みんなシャンタルを思ってなかったからかも……」
「んあ?」

 トーヤが妙な返事をした。

「怒るのは腹が立つか思うからなんでしょ?みんなはシャンタルに腹が立たなかったかも知れないけど思ってもいなかったの……」
「おまえ、何言ってんだよ」
「思ってなかったの、大事じゃなかったの、だからマユリアはシャンタルを沈めるの、死ぬようにするの……」
「おまえ……」

 トーヤがミーヤを見る。ミーヤが悲しそうに目を閉じて顔を横に振った。

「うーん、それはどうかなあ」

 トーヤがそう言うとシャンタルはキッとトーヤを睨んで言う。

「だって、シャンタルが好きだったらやめるでしょ、そんな怖いこと」
「そりゃまあ、そうだな」
「だからマユリアもラーラ様もシャンタルを思ってないの」
「それはないと思うがなあ」
「どうして?」
「思ってないなら俺に頼まねえだろうが」
「え?」
「おまえのこと、どうとも思ってなくて大事じゃねえならな、俺のことなんて助けなくていいじゃねえか」
「えっ?」
「俺はな、おまえの託宣がなくてマユリアが生きてる人間がいるって言ってなかったら、多分あのまま海岸に打ち上げられたまま死んでたと思う」
「そうなの?」
「うん、間違いなくな」
「私もそう思います。見つかった時のトーヤはとても生きているとは思えないような状態でした」
「な?そんな俺を生きてるって探して見つけて助けてくれたのは誰のためだ?」
「え?」

 言われてシャンタルが驚く。
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