290 / 353
第三章 第五節 神として
4 怒られる理由
しおりを挟む
シャンタルの私室にトーヤを呼んだのは14日目の午後をかなり過ぎた頃であった。
シャンタルが昨日の昼からろくに食べておらず空腹であったので、食事係に早めに食事を持って来てもらうように頼もうとミーヤが寝室から出てくると、すでに食事係が食卓の上に数人分の食事を並べているところであった。
「あの、これは……」
「キリエ様が3人分の食事を並べるように、とのことです」
「キリエ様が……」
食事係が下がるとシャンタルとトーヤを食卓へと呼ぶ。
「おお、こりゃすげえな、見たことないご馳走だ。おまえ、いっつもこんなの食ってるのかよ」
トーヤが口笛を吹きながら言う。
「お行儀が悪いですよ」
「また怒られた」
そういう2人をシャンタルが不思議そうに見て言う。
「トーヤは怒られたのにどうしてうれしそうなの?」
「え?」
「シャンタルはトーヤに怒られて怖かった。トーヤはミーヤに怒られて怖くないの?」
「いや、そりゃこええよ~この人怒るとめちゃくちゃこええんだよ~」
「まあ!」
シャンタルは不思議であった。そう言いながらトーヤは全く怖そうな様子がない。
「怖そうに見えない……」
「そうか?怖がってるんだがな」
そう言って笑う。やっぱり怖そうではない。
「変なの……」
ぼそっとそう言うのにトーヤが笑い、ミーヤも一緒になって笑う。
「まあまあ、そんなこといいじゃねえか、ほれ食おうぜ。一緒に飯食ってもっと仲良くなるんだろ」
「一緒にご飯を食べると仲良くなるの?」
またシャンタルが聞く、
「そりゃ楽しく食えりゃな」
「食うって食べるってことでいいんでしょ?」
「ほらまた、悪い言葉を使わないでくださいな。シャンタルもお覚えにならなくていいんですよ」
「ほらな、また怒られた。こうしていっつも怒られてるんだ」
そう言いながらやっぱりうれしそうだ。
「トーヤはミーヤに怒られるのが好きなの?」
「へ?」
「だって怒られたらうれしそうだし」
「えっとな……」
返事に困る。
「好きなの?」
「いや、な……」
ちょっと考えて、
「うん、怒られるのは好きだな」
そう答える。
ミーヤが驚いてトーヤの顔を見る。
「この人な、すぐ怒るんだよ」
「まあ!」
「な、また怒った」
そう言って笑う。
「だけどな、なんで怒るかってとな、誰かを思ってるからなんだよな」
「誰かを思う?」
「そうだ」
「思ったら怒るの?」
「怒るにも色々あるんだよ。単に自分が腹立って怒るってのもあるが、ミーヤのは大抵その人を心配して怒るから、だから怒られるのは嫌いじゃない」
そう言われてミーヤが困ったような顔をする。なんだか少し赤くなってる気がするとシャンタルは思った。
「心配したら怒るの?」
「そりゃそうだろ」
「どうして?」
「どうしてってなあ」
またトーヤが考える。
「例えば俺が崖から飛び降りた時な、フェイが泣いたんだよ」
「うん」
「あの時はフェイにも怒られた」
「フェイにも?」
「うん。びっくりしたってな」
「びっくりして怒るの?」
「そうだな、俺が崖から落ちてケガしたか死んだかしたらどうしようって心配してな、それで心配させたことに怒ったんだよ」
「心配して怒る?」
「次々聞くよなあ、おまえ」
そう言って笑う。
「フェイが俺を大事だと思ってくれてたからだ。思ってくれてたから心配かけたって怒ってくれたんだよ。だからこういう怒られるはうれしい好きな怒られるだ」
「うれしい好きな怒られる……」
シャンタルにはまだよく分からないようだ。
「おまえだって誰かに怒られたことあんだろうがよ」
「ううん、なかった、トーヤだけ」
「ないのかよ!いくら神様だからって回りは甘いやつばっかだったんだな」
「みんなシャンタルを思ってなかったからかも……」
「んあ?」
トーヤが妙な返事をした。
「怒るのは腹が立つか思うからなんでしょ?みんなはシャンタルに腹が立たなかったかも知れないけど思ってもいなかったの……」
「おまえ、何言ってんだよ」
「思ってなかったの、大事じゃなかったの、だからマユリアはシャンタルを沈めるの、死ぬようにするの……」
「おまえ……」
トーヤがミーヤを見る。ミーヤが悲しそうに目を閉じて顔を横に振った。
「うーん、それはどうかなあ」
トーヤがそう言うとシャンタルはキッとトーヤを睨んで言う。
「だって、シャンタルが好きだったらやめるでしょ、そんな怖いこと」
「そりゃまあ、そうだな」
「だからマユリアもラーラ様もシャンタルを思ってないの」
「それはないと思うがなあ」
「どうして?」
「思ってないなら俺に頼まねえだろうが」
「え?」
「おまえのこと、どうとも思ってなくて大事じゃねえならな、俺のことなんて助けなくていいじゃねえか」
「えっ?」
「俺はな、おまえの託宣がなくてマユリアが生きてる人間がいるって言ってなかったら、多分あのまま海岸に打ち上げられたまま死んでたと思う」
「そうなの?」
「うん、間違いなくな」
「私もそう思います。見つかった時のトーヤはとても生きているとは思えないような状態でした」
「な?そんな俺を生きてるって探して見つけて助けてくれたのは誰のためだ?」
「え?」
言われてシャンタルが驚く。
シャンタルが昨日の昼からろくに食べておらず空腹であったので、食事係に早めに食事を持って来てもらうように頼もうとミーヤが寝室から出てくると、すでに食事係が食卓の上に数人分の食事を並べているところであった。
「あの、これは……」
「キリエ様が3人分の食事を並べるように、とのことです」
「キリエ様が……」
食事係が下がるとシャンタルとトーヤを食卓へと呼ぶ。
「おお、こりゃすげえな、見たことないご馳走だ。おまえ、いっつもこんなの食ってるのかよ」
トーヤが口笛を吹きながら言う。
「お行儀が悪いですよ」
「また怒られた」
そういう2人をシャンタルが不思議そうに見て言う。
「トーヤは怒られたのにどうしてうれしそうなの?」
「え?」
「シャンタルはトーヤに怒られて怖かった。トーヤはミーヤに怒られて怖くないの?」
「いや、そりゃこええよ~この人怒るとめちゃくちゃこええんだよ~」
「まあ!」
シャンタルは不思議であった。そう言いながらトーヤは全く怖そうな様子がない。
「怖そうに見えない……」
「そうか?怖がってるんだがな」
そう言って笑う。やっぱり怖そうではない。
「変なの……」
ぼそっとそう言うのにトーヤが笑い、ミーヤも一緒になって笑う。
「まあまあ、そんなこといいじゃねえか、ほれ食おうぜ。一緒に飯食ってもっと仲良くなるんだろ」
「一緒にご飯を食べると仲良くなるの?」
またシャンタルが聞く、
「そりゃ楽しく食えりゃな」
「食うって食べるってことでいいんでしょ?」
「ほらまた、悪い言葉を使わないでくださいな。シャンタルもお覚えにならなくていいんですよ」
「ほらな、また怒られた。こうしていっつも怒られてるんだ」
そう言いながらやっぱりうれしそうだ。
「トーヤはミーヤに怒られるのが好きなの?」
「へ?」
「だって怒られたらうれしそうだし」
「えっとな……」
返事に困る。
「好きなの?」
「いや、な……」
ちょっと考えて、
「うん、怒られるのは好きだな」
そう答える。
ミーヤが驚いてトーヤの顔を見る。
「この人な、すぐ怒るんだよ」
「まあ!」
「な、また怒った」
そう言って笑う。
「だけどな、なんで怒るかってとな、誰かを思ってるからなんだよな」
「誰かを思う?」
「そうだ」
「思ったら怒るの?」
「怒るにも色々あるんだよ。単に自分が腹立って怒るってのもあるが、ミーヤのは大抵その人を心配して怒るから、だから怒られるのは嫌いじゃない」
そう言われてミーヤが困ったような顔をする。なんだか少し赤くなってる気がするとシャンタルは思った。
「心配したら怒るの?」
「そりゃそうだろ」
「どうして?」
「どうしてってなあ」
またトーヤが考える。
「例えば俺が崖から飛び降りた時な、フェイが泣いたんだよ」
「うん」
「あの時はフェイにも怒られた」
「フェイにも?」
「うん。びっくりしたってな」
「びっくりして怒るの?」
「そうだな、俺が崖から落ちてケガしたか死んだかしたらどうしようって心配してな、それで心配させたことに怒ったんだよ」
「心配して怒る?」
「次々聞くよなあ、おまえ」
そう言って笑う。
「フェイが俺を大事だと思ってくれてたからだ。思ってくれてたから心配かけたって怒ってくれたんだよ。だからこういう怒られるはうれしい好きな怒られるだ」
「うれしい好きな怒られる……」
シャンタルにはまだよく分からないようだ。
「おまえだって誰かに怒られたことあんだろうがよ」
「ううん、なかった、トーヤだけ」
「ないのかよ!いくら神様だからって回りは甘いやつばっかだったんだな」
「みんなシャンタルを思ってなかったからかも……」
「んあ?」
トーヤが妙な返事をした。
「怒るのは腹が立つか思うからなんでしょ?みんなはシャンタルに腹が立たなかったかも知れないけど思ってもいなかったの……」
「おまえ、何言ってんだよ」
「思ってなかったの、大事じゃなかったの、だからマユリアはシャンタルを沈めるの、死ぬようにするの……」
「おまえ……」
トーヤがミーヤを見る。ミーヤが悲しそうに目を閉じて顔を横に振った。
「うーん、それはどうかなあ」
トーヤがそう言うとシャンタルはキッとトーヤを睨んで言う。
「だって、シャンタルが好きだったらやめるでしょ、そんな怖いこと」
「そりゃまあ、そうだな」
「だからマユリアもラーラ様もシャンタルを思ってないの」
「それはないと思うがなあ」
「どうして?」
「思ってないなら俺に頼まねえだろうが」
「え?」
「おまえのこと、どうとも思ってなくて大事じゃねえならな、俺のことなんて助けなくていいじゃねえか」
「えっ?」
「俺はな、おまえの託宣がなくてマユリアが生きてる人間がいるって言ってなかったら、多分あのまま海岸に打ち上げられたまま死んでたと思う」
「そうなの?」
「うん、間違いなくな」
「私もそう思います。見つかった時のトーヤはとても生きているとは思えないような状態でした」
「な?そんな俺を生きてるって探して見つけて助けてくれたのは誰のためだ?」
「え?」
言われてシャンタルが驚く。
0
お気に入りに追加
55
あなたにおすすめの小説
悲恋を気取った侯爵夫人の末路
三木谷夜宵
ファンタジー
侯爵夫人のプリシアは、貴族令嬢と騎士の悲恋を描いた有名なロマンス小説のモデルとして持て囃されていた。
順風満帆だった彼女の人生は、ある日突然に終わりを告げる。
悲恋のヒロインを気取っていた彼女が犯した過ちとは──?
カクヨムにも公開してます。
王太子さま、側室さまがご懐妊です
家紋武範
恋愛
王太子の第二夫人が子どもを宿した。
愛する彼女を妃としたい王太子。
本妻である第一夫人は政略結婚の醜女。
そして国を奪い女王として君臨するとの噂もある。
あやしき第一夫人をどうにかして廃したいのであった。
無能なので辞めさせていただきます!
サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。
マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。
えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって?
残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、
無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって?
はいはいわかりました。
辞めますよ。
退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。
自分無能なんで、なんにもわかりませんから。
カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。
【完結】父が再婚。義母には連れ子がいて一つ下の妹になるそうですが……ちょうだい癖のある義妹に寮生活は無理なのでは?
つくも茄子
ファンタジー
父が再婚をしました。お相手は男爵夫人。
平民の我が家でいいのですか?
疑問に思うものの、よくよく聞けば、相手も再婚で、娘が一人いるとのこと。
義妹はそれは美しい少女でした。義母に似たのでしょう。父も実娘をそっちのけで義妹にメロメロです。ですが、この新しい義妹には悪癖があるようで、人の物を欲しがるのです。「お義姉様、ちょうだい!」が口癖。あまりに煩いので快く渡しています。何故かって?もうすぐ、学園での寮生活に入るからです。少しの間だけ我慢すれば済むこと。
学園では煩い家族がいない分、のびのびと過ごせていたのですが、義妹が入学してきました。
必ずしも入学しなければならない、というわけではありません。
勉強嫌いの義妹。
この学園は成績順だということを知らないのでは?思った通り、最下位クラスにいってしまった義妹。
両親に駄々をこねているようです。
私のところにも手紙を送ってくるのですから、相当です。
しかも、寮やクラスで揉め事を起こしては顰蹙を買っています。入学早々に学園中の女子を敵にまわしたのです!やりたい放題の義妹に、とうとう、ある処置を施され・・・。
なろう、カクヨム、にも公開中。
幼馴染み達が寝取られたが,別にどうでもいい。
みっちゃん
ファンタジー
私達は勇者様と結婚するわ!
そう言われたのが1年後に再会した幼馴染みと義姉と義妹だった。
「.....そうか,じゃあ婚約破棄は俺から両親達にいってくるよ。」
そう言って俺は彼女達と別れた。
しかし彼女達は知らない自分達が魅了にかかっていることを、主人公がそれに気づいていることも,そして,最初っから主人公は自分達をあまり好いていないことも。
愛していました。待っていました。でもさようなら。
彩柚月
ファンタジー
魔の森を挟んだ先の大きい街に出稼ぎに行った夫。待てども待てども帰らない夫を探しに妻は魔の森に脚を踏み入れた。
やっと辿り着いた先で見たあなたは、幸せそうでした。
【完結】私だけが知らない
綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。
優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。
やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。
記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位
2023/12/19……番外編完結
2023/12/11……本編完結(番外編、12/12)
2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位
2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」
2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位
2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位
2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位
2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位
2023/08/14……連載開始
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる