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第三章 第五節 神として
2 友の友
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「本当に小さな子を泣かせるのが得意ですね」
からかうようにミーヤがそう言い、
「いや、ねえだろう! そんなことしたことねえだろ!」
トーヤが慌てたように反論する。
「そうですか? フェイも何回も泣かされてましたけど?」
「いや、あれはだな……」
反論できない。
「フェイが、崖から飛び降りた時は本当にびっくりしたって」
「え?」
自分にしがみついて泣いていたシャンタルの言葉にトーヤが驚く。
「シャンタルはフェイとお友達になったんです。フェイがシャンタルにトーヤを信じてほしいって言ってくれたんです」
「フェイって……」
そう言って首からシャンタルを引き離して顔を見る。
「かっこよくなりたいの?」
「え!?」
「かっこよくなりたいってため息ついてたってフェイが」
「ええっ!?」
どうなってるんだと言いたげな顔でミーヤを振り向くとくすくすと笑っている。
「言いそうですよね」
「いや、いや、あのな」
「フェイにそう言ったんですか?」
「いや、あの言ったってかな、あの……」
確かに言った。だがそれはフェイの前だけだ。あの時、周囲には誰もいなかった。聞いていた者は誰もいなかった。では誰が聞いていたと言うのだろう?
「フェイか……」
「フェイです」
ミーヤがトーヤを見てにこやかに笑う。
「そうか、フェイがそんなこと言ったのか、あいつ、おしゃべりだな」
「フェイとお友達になったの」
シャンタルが手のひらをそっと開いて見せる。青い小鳥が黒い瞳をくるくると光らせて乗っている。
「そうか、友達になったか……」
トーヤが青い小鳥をそっと撫でる。うれしそうに小鳥が笑ったようにシャンタルには見えた。
「はい、ミーヤ」
そう言ってそっとミーヤに「お友達」を返す。
ミーヤもそっと撫でてから、また大事に包み直して上着の隠しに直した。
「そうか、そういやあったよな、そういうのも」
「何がですか?」
「いや、仲良くなる方法だよ」
「仲良くなる方法?」
「そうだよ」
前に「お茶会」を始める時に「どうやって仲良くなればいいのか」を話したことを思い出した。
「そういえば、あまりいい方法がなかったんですよね」
「だけどな、今もう一つ浮かんだんだよ。ダチのダチはダチだ、なあ」
そう言ってシャンタルの頭をまたガシガシと撫でる。
銀色の髪がぐしゃぐしゃになった。
「髪が乱れてしまうではありませんか」
そう言ってミーヤが顔を顰める。
「いいじゃねえか、なあダチだもんな」
「ダチって?」
「お友達をトーヤ風に言った言い方です。でも覚えなくて構いませんよ」
急いでミーヤがそう説明する。
「トーヤ風……『むなくそわるい』と一緒?」
「おい!」
「ええ、そうです」
ミーヤがくすくす笑う。
トーヤは久しぶりに見るミーヤの笑顔にうれしくなった。
「本当に一段落したんだな……」
「はい」
「そんじゃまあ、後はどうするかまた話をしなくちゃな」
「ダチのダチって?」
まだ気になるようでシャンタルが聞く。
「ええと、シャンタルはフェイとお友達になってくださいましたよね? そしてフェイがトーヤを信じてほしいと言ってくれてシャンタルは信じてくれました。フェイはシャンタルのお友達で、そしてトーヤはフェイのお友達です。だからトーヤはシャンタルの友達の友達ということです」
「うーん……」
分かったような分からないような顔をする。
「まあいいじゃねえかよ。今はもうおまえは俺のダチだ」
「ダチってやめてください」
「相変わらずお固いよな」
そう言ってうれしそうに笑ってトーヤが続ける。
「そんじゃおまえは俺の友達だ、これでいいか?」
「はい、それでしたら」
「お友達?」
「そうだ」
トーヤが立ち上がり「よっ」と声をかけながらシャンタルを抱き上げた。
「フェイはこうやって俺になついて俺の友達になったんだとよ。だからおまえもこうして俺の友達になりゃそんでいいだろ?」
「トーヤとお友達……」
なんとなく不満そうな顔をする。
「なんだ、嫌か?」
「嫌じゃないけど……」
なんだか違うという顔をする。
「シャンタルのお友達はフェイだけだと思う」
「はっきり言うなあ」
そう言って満面の笑みを浮かべるトーヤに怒っていないようだとシャンタルが思う。
「そんじゃなんだろうな、うん、じゃあ仲間だ、それでいいか?」
「仲間?」
「そうだ。これからおまえは俺と一蓮托生の旅に出ることになるらしい。長い付き合いになりそうだしな。だから友達じゃなくて仲間だ」
「仲間……」
困ったような顔をしてミーヤを見る。
「そうですね。呼び方はなんでもいいのではないでしょうか」
「そうだな、呼び方なんでどうでもいい。まあなんでもいいんだよ。これから仲良くなろうぜ、な」
そう満面の笑みで抱き上げたままのシャンタルに言う。
シャンタルはじっと見ていたがいきなり、
くうう~
空腹でお腹が鳴った。
「今の何!?」
初めての経験にシャンタルは戸惑った顔をし、トーヤとミーヤが顔を見合わせて笑う。
「生きてる印だ。腹減ってるんだな、おまえ。そういやまだあった、仲良くなる方法。一緒に飯を食うんだ、なんか持ってきてもらおうぜ」
「ええ、そうですね、食事係の方も喜ばれると思います」
からかうようにミーヤがそう言い、
「いや、ねえだろう! そんなことしたことねえだろ!」
トーヤが慌てたように反論する。
「そうですか? フェイも何回も泣かされてましたけど?」
「いや、あれはだな……」
反論できない。
「フェイが、崖から飛び降りた時は本当にびっくりしたって」
「え?」
自分にしがみついて泣いていたシャンタルの言葉にトーヤが驚く。
「シャンタルはフェイとお友達になったんです。フェイがシャンタルにトーヤを信じてほしいって言ってくれたんです」
「フェイって……」
そう言って首からシャンタルを引き離して顔を見る。
「かっこよくなりたいの?」
「え!?」
「かっこよくなりたいってため息ついてたってフェイが」
「ええっ!?」
どうなってるんだと言いたげな顔でミーヤを振り向くとくすくすと笑っている。
「言いそうですよね」
「いや、いや、あのな」
「フェイにそう言ったんですか?」
「いや、あの言ったってかな、あの……」
確かに言った。だがそれはフェイの前だけだ。あの時、周囲には誰もいなかった。聞いていた者は誰もいなかった。では誰が聞いていたと言うのだろう?
「フェイか……」
「フェイです」
ミーヤがトーヤを見てにこやかに笑う。
「そうか、フェイがそんなこと言ったのか、あいつ、おしゃべりだな」
「フェイとお友達になったの」
シャンタルが手のひらをそっと開いて見せる。青い小鳥が黒い瞳をくるくると光らせて乗っている。
「そうか、友達になったか……」
トーヤが青い小鳥をそっと撫でる。うれしそうに小鳥が笑ったようにシャンタルには見えた。
「はい、ミーヤ」
そう言ってそっとミーヤに「お友達」を返す。
ミーヤもそっと撫でてから、また大事に包み直して上着の隠しに直した。
「そうか、そういやあったよな、そういうのも」
「何がですか?」
「いや、仲良くなる方法だよ」
「仲良くなる方法?」
「そうだよ」
前に「お茶会」を始める時に「どうやって仲良くなればいいのか」を話したことを思い出した。
「そういえば、あまりいい方法がなかったんですよね」
「だけどな、今もう一つ浮かんだんだよ。ダチのダチはダチだ、なあ」
そう言ってシャンタルの頭をまたガシガシと撫でる。
銀色の髪がぐしゃぐしゃになった。
「髪が乱れてしまうではありませんか」
そう言ってミーヤが顔を顰める。
「いいじゃねえか、なあダチだもんな」
「ダチって?」
「お友達をトーヤ風に言った言い方です。でも覚えなくて構いませんよ」
急いでミーヤがそう説明する。
「トーヤ風……『むなくそわるい』と一緒?」
「おい!」
「ええ、そうです」
ミーヤがくすくす笑う。
トーヤは久しぶりに見るミーヤの笑顔にうれしくなった。
「本当に一段落したんだな……」
「はい」
「そんじゃまあ、後はどうするかまた話をしなくちゃな」
「ダチのダチって?」
まだ気になるようでシャンタルが聞く。
「ええと、シャンタルはフェイとお友達になってくださいましたよね? そしてフェイがトーヤを信じてほしいと言ってくれてシャンタルは信じてくれました。フェイはシャンタルのお友達で、そしてトーヤはフェイのお友達です。だからトーヤはシャンタルの友達の友達ということです」
「うーん……」
分かったような分からないような顔をする。
「まあいいじゃねえかよ。今はもうおまえは俺のダチだ」
「ダチってやめてください」
「相変わらずお固いよな」
そう言ってうれしそうに笑ってトーヤが続ける。
「そんじゃおまえは俺の友達だ、これでいいか?」
「はい、それでしたら」
「お友達?」
「そうだ」
トーヤが立ち上がり「よっ」と声をかけながらシャンタルを抱き上げた。
「フェイはこうやって俺になついて俺の友達になったんだとよ。だからおまえもこうして俺の友達になりゃそんでいいだろ?」
「トーヤとお友達……」
なんとなく不満そうな顔をする。
「なんだ、嫌か?」
「嫌じゃないけど……」
なんだか違うという顔をする。
「シャンタルのお友達はフェイだけだと思う」
「はっきり言うなあ」
そう言って満面の笑みを浮かべるトーヤに怒っていないようだとシャンタルが思う。
「そんじゃなんだろうな、うん、じゃあ仲間だ、それでいいか?」
「仲間?」
「そうだ。これからおまえは俺と一蓮托生の旅に出ることになるらしい。長い付き合いになりそうだしな。だから友達じゃなくて仲間だ」
「仲間……」
困ったような顔をしてミーヤを見る。
「そうですね。呼び方はなんでもいいのではないでしょうか」
「そうだな、呼び方なんでどうでもいい。まあなんでもいいんだよ。これから仲良くなろうぜ、な」
そう満面の笑みで抱き上げたままのシャンタルに言う。
シャンタルはじっと見ていたがいきなり、
くうう~
空腹でお腹が鳴った。
「今の何!?」
初めての経験にシャンタルは戸惑った顔をし、トーヤとミーヤが顔を見合わせて笑う。
「生きてる印だ。腹減ってるんだな、おまえ。そういやまだあった、仲良くなる方法。一緒に飯を食うんだ、なんか持ってきてもらおうぜ」
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