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第三章 第四節 死と恐怖

 5 三度目の共鳴

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「その『何か』がトーヤでございます」

 ミーヤが言う。

「その『何か』がトーヤ?」
「はい、そうです」
「共鳴とは?」
「何かは私どもには分かりません。ですが、そうしてシャンタルがトーヤをご覧になったことでトーヤが全身から力を奪われたようになって倒れました。それは共鳴のためだそうです」
「分かりません」

 またさらさらと首を横に振る。

「確かにわたくしはバルコニーから『何か』を見ました。そう、何回か見に行ったことがあります。思い出しました」
「はい、数回ご覧になられていらっしゃいます、あの!」
 
 ミーヤが勇気を出して聞く。

「見て、どう思われましたか?」
「特に何も」
「何も?」
「ええ、何も」
「何も……」

 意味が分からない。

「ご覧になったことは思い出されたのですよね」
「ええ、思い出しました、そのようなことがありました」
「なぜご覧になりたかったのですか?」
「それは……」

 シャンタルが考える。

「分かりません」

 また首を振る。

「ただ、今までに感じたことのない気配を感じて、それで見たいと思ったことしか」

 シャンタルも「何か」を感じたことは間違いがない、やはり2人の間には何かのつながりがあるのだ。それは分かった、だがそれが何なのかまでは分からない。

「その時に起こったのが最初の共鳴のようです」
「最初の?」

 シャンタルがその単語に反応する。

「最初ということは、その後も同じようなことがあったということですか?」
「はい、そのようです」

 ミーヤがそう答えたのにキリエが続ける。

「つい先日もございました。ミーヤは二度目、私は三度目の時にトーヤから何があったか聞きました」
「その時もわたくしが見に行ったのですか?」
「いえ、二度目も三度目も最初の時とは違います。三度とも全部状況じょうきょうが違いました」
「では何があったか聞かせてくれますか?」
「はい」

 そう言ってから2人で顔を見合わせる。どのように話せばいいのか。

 二度目の共鳴はあの夢だ、冷たい水の中に沈む夢。ある意味これから実際にシャンタルの身に起こることとも言える。
 三度目の共鳴はトーヤの中に入ろうとしてはじき飛ばされ時だ。どちらもシャンタルにとって心地ここちよい状況とは言えないだろう。

「では、順序は前後いたしますが私が聞いた話から」

 キリエがそう言い出した。確かに順番は逆になるが、シャンタルも意識がなかったであろう夢のことよりも、少なくとも自分の意思でおこなったのであろうことの方が話をしやすいように思ったからだ。

「これは私とミーヤもシャンタルのご様子を実際に目にいたしましたし、ご理解いただきやすいかも知れませんので」
「ではそちらから」
「はい……」

 キリエがミーヤと目を見合わせ、うなずくと話を始める。

「今、マユリアとラーラ様はここにはいらっしゃいません。それはシャンタルがご自分の目で見て耳で聞いてお話をなされるように、とご自分たちを切り離していらっしゃるからです」
「お二人は今どこに?」

 シャンタルが今一番知りたいのは自分のこれからよりそれなのかも知れない。この先に待ち受ける運命の残酷ざんこくさを知ることのないシャンタルにするとお二人がいないことの方が深刻な問題のようだ。

「それはまた後ほど、いまは共鳴の話をまずお聞きください」
「分かりました」

 そう答えると小さな主はその小さな体でソファの上に座り直す。

「お二人がお離れになり、シャンタルは一時的に外を見ることも聞くこともできなくなられました。それで他にご自分がお入りになって外を見ることのできる体はないかと探しているうちにトーヤを見つけられたようです」
「トーヤを?」

 シャンタルが両眉りょうまゆを寄せる。理解できないという顔だ。

「はい。それまでに二度共鳴を起こしているトーヤになら入れるとお思いになられたのかも知れませんね」

 シャンタルは答えずキリエをじっと見る。

「まだ朝早い刻限こくげんでシャンタルはお休みになられていると思っていました。そうすると突然大きな声で叫ばれたのです」
「わたくしがですか?」
「はい」
「私もそばにおりました」

 2人で実際のことだと伝える。

「どうなさったのかと御手おてを取りましたらとてもおびえてキリエの手をしっかりとお握りになられました。何が起こったのかはその時には分かりませんでしたが、あとでトーヤの部屋に行くとトーヤがぐったりとソファに倒れ込んでいて、シャンタルに何かあったのではないかと聞いてきました」
「怯えて……」
 
 シャンタルが不思議そうにする。

「何に怯えたのでしょう」
「はい、それが……」

 キリエが思い切るように伝える。

「トーヤの体に入りそこから外を見て聞いてと思っていらっしゃったようなのですが、トーヤが弾き飛ばしたのです」
「弾き飛ばす?」

 意味が分からぬように首を傾げる。

「はい。トーヤがそう申しておりました。そしてそれがシャンタルではないかと推測したようです」
「信じられない……」

 自分がそんな見知らぬ人間の中に入り外を見ようとしたこと、そしてそれが叶わなかったこと、どちらも信じられない。

「トーヤからそのことを聞き、初めてシャンタルがお叫びになった意味が分かりました」
「信じられない……」

 シャンタルがもう一度口にした。
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